シリアで人質に取られ殺害された二人の日本人の事件に際しては、「危険な地域になぜいった」「危険な地域に入ろうとする人を止める方法はないのか」といった問題が浮上しましたが、3月18日のチュニジア・チュニスのテロでは、比較的安全とされている地域に世界中の観光客と一緒にツアーで行ったら銃撃されて殺害された、という事態でしたので、「どこへ行ったら安全なのか」「どうやって危険を察知したらいいのか」という問題に関心が及び始めています。
個人の観光客のレベルでも、海外でのリスクをどう測り、身を守るかが、グローバル・ジハードをはじめとしたテロの拡散により、大きな課題となっています。
今日は基礎的な情報源として、外務省が発信している、安全(危険)情報の読み方を、記しておきます。完全・十分とは言えないですし、これだけでリスクをなくすことができるわけではないですが、これを見ておくことは、最低限必要な情報を入手するための手がかりとなります。
この記事のアップロードに合わせて「リスク」のカテゴリを新設しました。今後、私の目に付いたリスク情報を発信したり、リスク情報を個人や組織が読み解く手がかりや関連書籍などについて掲載する予定です。
【この項目は本来、4月3日朝に自動アップロードするために事前に書いて設定してありました。当初は北アフリカの事例を素材にしていましたが、4月2日にケニア東部ガリッサで、シャバーブとみられる組織が大学を襲撃し死傷者が多く出ているため、ケニアの事例を加えました】
まず「外務省海外安全ホームページ」のトップページを見てみましょう。
http://www.anzen.mofa.go.jp/
「中東」や「アフリカ(北部)」といった地域ごとに分かれています。
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地図をクリックして、「アフリカ(北部)の地域渡航情報」を表示してみましょう。
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcareahazardinfo.asp?id=14
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例えば、3月18日のバルドー博物館のテロがあった「チュニジア」をクリックしてみましょう。
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo.asp?id=113#ad-image-0
そうすると、このような地図が出てきます。
この地図をクリックすると、拡大した地図が別ウィンドウで立ち上がり、各県・地域の危険度を詳細に見ることができます。
使い方のポイントを記しておきましょう。
1.基本は各国別に表示されている
→県や地域による危険度の違い・グラデーションに注意しよう。
国によっては、非常に細やかに、危険度が高い地帯とそうでもない地帯を塗り分けてくれていることがあります。かなり正確で、根拠があるものです。
→ただし、国境を越えた、複数の国にまたがる脅威の所在が見えにくいきらいがある。
注意すべきなのは、基本は国ごとに危険度が指定されているため、グローバル・ジハードのように国を超えて組織や人が離合集散する脅威については、見えにくいことです。
ある程度広範囲に見る方法はあります。例えば、世界地図→「中東」あるいは「アフリカ(北側)」などの地域単位の地図に進んだところで、地図の中の「危険度表示」をクリックしてみましょう。そうすると、すべての国の危険度が色分けされるので、相対的にどのあたりが危険か、感覚的にある程度わかってきます。
また、各国の地図を表示させた最初の地図の下にある、「広域地図表示」のボタンをクリックしてみましょう。再びチュニジアの地図を見ると、下にありますね。
下のボタンをクリックする。
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そこでは隣国のリビアやアルジェリアの国境付近が表示されます。拡大したり動かしたりできます。そこで「周辺国危険度情報」のボタンをクリックしましょう。
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そうすると、このように、国境の向こう側の隣国の危険度も表示されます。そうすると国境のこちら側に波及してくる事態も、ある程度推測できます。
しかしそれでも、基本は国ごとに色分けしてあるので、限界があります。
例えば、モロッコは全面が黄色の第1段階「十分注意してください」です。しかし隣国のアルジェリアとの国境を越えると、ちょっと赤っぽい第2段階の「渡航の是非を検討してください」になります(アルジェリア南部では第3段階の「渡航の延期をお勧めします」になります)。
私はこのモロッコの危険情報が間違っていると言いたいのではないのですが、素人考えでも、国境のこちら側は一体が安全で、国境を越えると突然一面に危険になる、ということがあるのか、疑問が出てきます。
もちろん、原則的には国ごとに分けるべきでしょう。ある場所の危険度は、その国の中央政府がどれだけ国土の隅々まで管理しているか否かにかかっていることが多いですから、中央政府が安定している国は、隅々まで安定していると考えられます。隣国の中央政府が不安定・弱体化していれば、ほんの数キロ離れた国境の向こう側では突然危険度が高くなる、ということもありえます。
しかし、中央政府が安定している国でも、隣国が極めて不安定だと、国境付近や、地理的な要因から中央政府の管轄が及びにくい地域において、部分的に治安が悪化する可能性があります。均質に一つの国の中が安全だとか危険だとか言うことができない状況が生まれてきています。
外務省の海外安全情報でも、可能な限り一国内の危険度にもグラデーションをつけている場合があります。県単位で、あるいは地域単位で塗り分けている場合があります。アルジェリアの北部と南部、さらに国境地帯での、危険度の違いなどです。
チュニジアはもっとも細やかに危険度に差をつけていて、これはかなり精度が高いといえます。ただし、3月18日の事件が首都チュニスで起こったということを除けば。チュニスは事件が起こるまで、危険度1の「十分注意してください」でした。これが事件後に危険度2に引き上げられました。
さて、4月2日に、ケニア東部のガリッサで、大学に武装集団が押し入って銃を乱射し、多くの死傷者を出す事件が発生しました。
この機会に、ケニアの安全(危険)情報を見てみましょう。ケニアのページを見ると、「危険情報」のところに目立つように文書がリンクされており、クリックすると地図付きで文書が表示されます。地図を拡大して、「周辺国危険情報」もクリックしてみると、このようになります。
危険情報を読みますと、東部のソマリアとの国境地帯、ダダーブ難民キャンプ、そしてガリッサに、最高レベルの赤色で塗られる、「退避勧告」が出されていることが分かります。地図にも明確にこれが示されています。
●ソマリアとの国境地帯、北東地域ダダーブ難民キャンプ周辺地域及び北東地域ガリッサ郡ガリッサ
:「退避を勧告します。渡航を延期してください。」(継続)
また、国境地帯を含む各県には、上から二番目の「渡航の延期をお勧めします」の危険情報が出されています。
●北東地域ワジア郡、ガリッサ郡(ダダーブ難民キャンプ周辺地域及びガリッサを除く)及び沿岸地域ラム郡(ソマリアとの国境地帯を除く)
:「渡航の延期をお勧めします。」(継続)
このように、海外に行くときは、旅程表に含まれる国とその地域にどの程度の危険情報が発せられているか、確認しておくといいでしょう。
2.広域情報を読んでみよう
→必ずしも高いレベルの危険情報が出ていない国でも、地域を横断して突発的に危険が及びうることが予想されている場合は、「広域情報」が提供されていることがあります。
各国のページに、地図には描かれてはいませんが文章で、国を横断して生じてくる可能性のある脅威・危険の所在について特記してあります。例えば、モロッコは全土が黄色の第1段階とされていますが、「広域情報」と「スポット情報」で、潜在的・突発的な脅威の存在が特記されています。ここを読んでおくと、一国ごとの危険度の塗り分けを越えた、流動的な危険の所在が見えてきます。
●【広域情報】 2015年03月19日
ISILから帰還した戦闘員によるテロの潜在的脅威に関する注意喚起
◆【スポット情報】 2015年02月03日
モロッコ:テロの脅威に関する注意喚起
→ただしこういった情報は、予備知識がないと何のことかわからないかもしれません。
読み取り方がわからない時、分かる人に聞いてみましょう。大使館・総領事館に聞いてみると、意外に親切に教えてくれる(かもしれない)。
本当はリスク情報をより細やかにして、渡航者が観光客であるか、ビジネスで行くのかなども考慮した上で情報を発信する企業などが育つといいのですが。
3.しばしば事後になってしまうが:渡航情報(危険情報) を読んでみよう
大事件が起きた時などは、渡航情報が特に発せられて、ホームページの上の方の目立つところに載っています。今なら、3月18日のチュニスのテロを受けて、チュニスの危険度が引き上げられたことが、外務省の安全情報のホームページに特に告知されています。
事件の後では遅いではないか、という考え方もあるが、そもそも秘密組織の行動を予測することは困難です。当事者たちが意図を隠すからです。一つ大きな事件が起きた後は便乗犯も出てきますし取り締まりも厳しくなりますから、衝突が連鎖したり反作用が生じたりする。特に注意が必要です。
チュニジアについての渡航情報(危険情報)の発出 (2015年3月19日)
4.大前提として:首都の重要施設、ランドマークはいかなる国でもテロの潜在的対象
→これは外務省としてはおそらく一番書きにくいことだと思うのですが、首都は常に高い確率でテロのターゲットになります。
しかし外務省では安全情報で首都の危険度を上げることは、おそらく躊躇しているでしょう。
首都は通常主要な空港があり、経済活動の多くが行われるため、首都を危険と認定すると多くの交流が途絶えてしまいかねないという事情があります。観光客はどこに行くにしてもまず首都を通ることが一般的です。それが一番便利だからです。相手国政府は首都の危険性を認定されることを非常に嫌いますので、外交関係上も、首都の危険度を引き上げるのは勇気がいります。
また首都は規模が大きいため、テロなどが生じても実際に遭遇する確率は低いとはいえます(ただし、小さい国であらゆるものが首都のある地域に集まっている場合などは、首都で何か事件に巻き込まれる可能性がある)。
実際、チュニジアも首都チュニスの危険度は一番下の「十分注意」に止められていました。それが3月18日のバルドー博物館でのテロを受けて下から2段階目に引き上げられたのです。
ケニアの例でも、見にくいですが、地図を拡大すると、首都ナイロビは現在のチュニス同様、下から2番目(上から3番目)の、「渡航の是非を検討してください」になっています。2013年9月21日にナイロビのショッピング・モール「ウェストゲート」が襲撃された事件があったことなどから、引き上げられているのでしょう。
→そもそも観光客はテロの対象になりやすいということは、厳しい現実ですが、知っておいたほうがいいでしょう。観光名所やランドマークで事件を起こすと国際的な注目が集まるため、テロ実行者にとって効果が大きくなります。海外からの観光客はほぼ必ず丸腰ですから、反撃してくる可能性のない、いわゆる「ソフトターゲット」です。
また、観光客を狙うことで経済的な打撃を与えることによる政治的な効果を目論む勢力が活動を活発化させている国・地域の場合、現地の一般人よりも観光客の方が身に危険が及ぶ可能性が高い場合があります。
これを言ってしまうと、そもそも観光客だからこそ危ないということになってしまいます。観光名所やランドマークに行くからこそ観光になるのであって、それを避けるということになるとなんのために観光に行っているかわからなくなる。この問題には解決策がありません。そもそもそのような不自由を生じさせることがテロの目的なのですから。
(まあ私個人は町の食堂で現地の人と喋りながら新聞を読んでいるだけで観光になる人間なので、一番リスクが低いのですが・・・)。