【寄稿】【無料公開】『外交』3/4月号に中東の国際秩序について

外交専門誌『外交』の3/4月号が刊行されました。

今回は中東特集で、そこにインタビューに基づく論稿を寄稿しました。

今回は新型コロナ禍で図書館や大学など、この雑誌が置かれる場所の多くが閉鎖されているため、編集部が思い切って全論文のインターネット公開に踏み切りました。「外交web」に掲載されており、無料で閲覧、ダウンロードできます。

池内恵「エスカレーションから一転 『奇妙な安定』へ」『外交』Vol.60, pp. 24-31.

年初のイラクでのイランの革命防衛隊スレイマーニー司令官の米軍による暗殺を機に高まった緊張を背景にした中東特集ですが、その後コロナ問題が浮上し、それについても緊急に冒頭でいくつもの論稿が掲載されており、即応性も高いものになっています。

ぜひこの機会にご一読ください。

『新しい地政学』が刊行されました

東洋経済新報社から、北岡伸一・細谷雄一編『新しい地政学』が刊行されました。

単行本はこちらから

Kindle版はこちらから

この本の第8章として、下記の論文を寄稿しています。

池内恵「『非国家主体』の台頭と『地域大国』––––中東と地政学」北岡伸一・細谷雄一編『新しい地政学』東洋経済新報社, 2020年3月12日, 343−363頁

この論文では、中東という地域概念と地政学との不可分の繋がりを概観しました。古典的な地政学論者であるアルフレッド・セイヤー・マハンが用いることで「中東」という語が広まり定着したといった、中東専門業界ではよく知られていながら、その外では、国際政治学の業界でもそれほど知られていない事実を指摘し、「チョークポイント」といった地政学上の基本概念によって規定される中東・イスラーム世界の国際政治上の重要性を論じました。

『新しい地政学』は、サントリー文化財団が2015年から、北岡伸一国際協力機構理事長を代表に開催してきた調査研究活動「新しい地政学の時代における国際秩序を考える研究会」の成果です。

サントリー文化財団の、文化・学術事業に理解の深い、経験の厚い役職員の皆様からは、ほとんど総出でこの研究会に多大なご支援を頂き、途中にはウラジオストックでの国際会議も行って、今回の成果刊行に漕ぎ着けることができました。まことに感慨深いものがあります。

【寄稿】『アステイオン』91号の特集「可能性としての未来––100年後の日本」に

サントリー文化財団・アステイオン編集委員会が編集する『アステイオン』第91号の総力特集「可能性としての未来––100年後の日本」にエッセーを寄稿しました。

池内恵「100年後に記された『長い21世紀』の歴史」『アステイオン』第91号(2019年12月12日刊行)

【寄稿】Voice6月号の「総力特集」に寄稿 中東地域秩序の再編について

PHP研究所が発行する雑誌『Voice』6月号の特集「新しい国際秩序と令和の日本」に、長めの論考を寄稿しました。最近取り組んでいる、中東の地域国際秩序再編についての分析の成果の一部です。

池内恵「繰り返す「アラブの春」と新しい中東の秩序」『Voice』2019年6月号(5月10日発売), 68-75頁

目次のうち、私の寄稿している「総力特集」の部分を拡大すると、このような具合です。

「総力特集」とあるのは大げさではなく、なにしろ田中明彦先生、中西寛先生という、いずれも「座れば座長」「口を開けば基調講演」「書けば巻頭」という押しも押されぬ特大巨頭が並んで本格的な論考を寄せていますので、研究会などで先生方と会うと「Voiceに書いていたね!まだ池内君のところまで読み進めていないけど」と本当に言われたりします。

実際に雑誌を手に取っていただくと分かりますが、今回の総力特集及び他の特集を含む全体構成は、雑誌の記事・特集というだけでなく、PHP研究所の研究部門「PHP総研」が行ってきたプロジェクトの副産物的な性質があります

直接的には、PHP総研の「新世界秩序」研究会での調査研究の成果が、出版部門の「総力特集」の企画に取り入れられているようです。この研究会の提言は、下記の報告書として昨年10月に発表されています。

【提言報告書】自由主義的国際秩序の危機と再生―秩序再編期の羅針盤を求めて

また、もう一つの特集「統治機構改革2.0」の方は、PHP総研の「統治機構改革」研究会の知見を踏まえているようです。こちらは今年3月に報告書を出しています。

【提言報告書】統治機構改革1.5&2.0―次の時代に向けた加速と挑戦―

そして、「総力特集」の中に寄稿している私と、ロシア政治分析の畔蒜さんは、「PHPグローバル・リスク分析」に例年参加して、年末に翌年のリスク予測を発表してきています。

今回の「総力特集」は「新世界秩序」研究会が扱った大枠の問題と、グローバル・リスク分析でやっている地の這うような観察・分析とを組み合わせたような形になっています。

PHPグローバル・リスク分析の最新版はこれです。

「グローバル・リスク分析」2019年版

ブログでも毎年、報告書が出るたびに、取り上げてきました。【2019年版についてはここから

今読み直してみると、「白人優越主義によるテロ」の危険性の指摘や、米イラン関係の緊張で、謎の破壊工作事件が頻発するといった可能性について、それなりに的確に指摘しえていたと思います。

今回の『Voice』の特集への寄稿は、編集段階からある程度ご相談を受け、シンクタンクの成果を一般雑誌に反映させ、政策をめぐる論壇の形成を目指していく、という趣旨に賛同してのものです。

この機会にぜひ、雑誌を手に取りつつ、こういった背後にある調査プロジェクトの報告書にも目を通しながら読んでいただけると嬉しいです。

【寄稿】2019年版『PHPグローバル・リスク分析』に参加

今年も発表されました。

2019年版『PHPグローバル・リスク分析』2018年12月19日

毎年、暮れになると、翌年に注意すべき10のリスクを選んで発表するPHP総研のグローバル・リスク分析ですが、これに2014年版(つまり2013年暮れに発表)以来毎年関わらせていただいています。

といっても毎年他の参加者にひたすら引っ張ってもらうのですが(参加者一覧が表紙にありますが、所属先の関係で名前を出せない方もいます)。

議論の結果、今回はこの10のリスクが選定されました。

Global Risks 2019

1.米中間で全面化するハイテク覇権競争

2.大規模スポーツイベントへのサイバー攻撃とネット経由のIS浸透

3.米中対立激化で高まる偶発的な軍事衝突リスク

4.複合要因が作用し景気後退に転落する米国経済

5.自国第一主義が誘発する欧州統合「終わりの始まり」

6.大国間競争時代に勢力伸長を狙うロシア

7.焦る中国の「手のひら返し」がもたらす機会と脅威

8.増幅する朝鮮半島統一・中立化幻想と米韓同盟危機

9.米国の対イラン圧力政策が引き起こす中東不安定化

10.米中覇権「再規定」の最前線になるラテンアメリカ

詳細はリンク先からPDFで全文を(無料で)ダウンロードしてお読みください。PDFダウンロードへの直接リンクもここに貼っておきます

以前は中東やイスラーム世界に関わるリスクが議論の中で4つぐらいは出て来て、この分野ばかり突出しないように一つ減らしたり複数を合算したりして、3つか2.5個程度に収めるのに苦労したものですが、今回は1あるいは1.5個ぐらいですね。中東にリスクがなくなったわけではないのですが、リスクがリスクとして織り込まれ予想されて、「もう慣れた」というような状態でしょうか。おかげで執筆義務が減って楽に。

とはいえ、どのリスク項目を誰が書いたかは明記していないのが、このレポートの形式です。

番外のコラムで明らかに私が書いたな、と分かるようなものも収録されていますが。。。来年一年間で問題化されるかどうかは分からないが、長期的にはリスクとしてありそうなものについて、書いてみました。

昨年版はここから。このページからさらに以前の年の分析の紹介にリンクされていて、遡ることができます。

【論文】『社会思想史研究』に冷戦後国際秩序に関する思想史と中東について

論文が刊行されました。

池内恵「冷戦後の社会思想史における「アラブ世界のイスラーム教」という問題」『社会思想史研究』No. 42, 藤原書店, 2018年9月, 9-19頁

昨年、学会の基調講演的なものを多く行ったため、今年度はそれらを論文にして学会誌に掲載していく作業を延々と続けています。

先ほど別のエントリにも記しましたが、時間がなくてブログを書けない時も、主要論文は固定ページの「論文」欄に厳選して掲載しています。

【講演記録】日本記者クラブで中東の宗派主義について

日本記者クラブで講演を行いました。

「著者と語る『【中東大混迷を解く】シーア派とスンニ派』池内恵・東京大学先端科学技術研究センター准教授」日本記者クラブ9階会見場, 2018年08月21日

講演の概要(担当記者によるまとめ)が日本記者クラブのウェブサイトに掲載されています。

【寄稿】新潮選書のフェアのパンフレットにエッセーを

5月25日に、新潮選書『シーア派とスンニ派』が発売されます。都内の早いところでは23日から書店に置かれるそうです。

ちょうど「新潮選書ベストセレクション2018」のフェアが各地の書店で開催されていまして、前作『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』もベストセレクションのリストに入っております。

これに合わせて、書店に配布される新潮選書のパンフレットにエッセーを寄稿しました。担当編集者によるインタビューの形です。このパンフレットは新潮社のPR誌『波』の6月号にも挟み込まれると思います。

池内恵「やわらかい頭で中東を知りたい人に」『新潮選書ベストセレクション2018』2018年5月(1−4頁)。

編集者とのQ&Aのスタイルで、この本の意図や、「中東ブックレット」のシリーズとしての目標、また中東情勢分析の基本ツールや、SNSによる情報収拾や読者とのコミュニケーションなどについて、かなり長く語っています(実際には編集者と書面でやりとりしましたが。本そのものを書くので忙しくて時間がなかったものですから)。『フォーサイト』での連載以来、私の担当をしてくださっていて、日々のFacebookやTwitterでの活動などもウォッチしておられる編集者ですので、的確な設問で、隙間時間にあっという間に、語るようにかけました。

なおこの新潮選書のパンフレットは、挟み込まれる『波』本体と比べてもなかなか質が高いものです。新潮選書の今月の新刊、牧野邦昭『経済学者たちの日米開戦 秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く』については、猪木武徳先生と筒井清忠先生がエッセーを寄せています(猪木武徳「『ゆがめられた通説』に挑む」、筒井清忠「エリートは『暗愚』だったか」)。

この著者の前作も読んだことがあります(こちらは中公叢書)。こちらも「秋丸機関」をめぐるものです。

「秋丸機関」の戦時経済分析については一部でよく知られていますが、「正しい分析をした経済学者」「都合の悪いものだったから軍部が焼却した」という勧善懲悪的な構図で論じられがちです。

しかし猪木先生と筒井先生のエッセーをも読むと、牧野先生の新刊は、その通説を問い直して、開戦に踏み切った判断の作られ方について新たな説を打ち出したものであるようで、大いに楽しみです。

***

ちょうど2年前の2016年5月に『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』を出版した時も、ベストセレクションのパンフレットに書かせてもらいました。また、昨年9月には新潮選書の創立50周年を記念して『波』に選書について寄稿しています。

『シーア派とスンニ派』で、「中東ブックレット」がシリーズ化されたことになります。このフォーマットを使って、選書という媒体を用いた出版と情報発信の可能性を追求してみたいと思います。

【論文】『政治思想研究』に米国のイスラーム認識・言説の変化について

政治思想学会の学会誌『政治思想研究』に論文が掲載されました。

池内恵「米国オバマ政権末期におけるイスラーム認識の新潮流──「イスラーム国」の衝撃を受けて」政治思想学会編『政治思想研究』第18号(2018年5月)71−106頁

目次はここから

【アマゾン『政治思想における「保守」の再検討 (政治思想研究第18号)』

【寄稿】東大出版会の『UP』3月号に、「シーア派とスンニ派」および宗派主義の政治について

寄稿しました。

池内恵「中東の紛争は『シーア派とスンニ派の対立』なのか? 宗派主義という課題」『UP』第47巻第3号・通巻545号、東京大学出版会、2018年3月、40−46頁

「中東問題はシーア派とスンニ派の宗派対立である」と、よく言われますが、それは本当なのか。どの部分で本当で、どの部分では本当ではないのか。イラク戦争後のイラク新体制をめぐる紛争と、「アラブの春」後の中東諸国の混乱で、「シーア派とスンニ派の対立」「宗派対立」といった言葉は人口に膾炙するようになりましたが、実態はどうなのか。より適切な分析概念は何なのか。考察しました。

これは次に出る私の本の主題でもあります。

また、この論考は、「文献案内」として、大学の授業などで中東の近年の政治について考えていく際の、副読本のように用いることができるように工夫してあります。「アラブの春」後の政治変動をめぐる文献を、(1)大規模デモによる社会からの異議申し立ての原因や効果、(2)統治する側に回ったイスラーム主義勢力、(3)政軍関係、(4)国際的介入、などに分類して紹介した上で、近年の動向として、(5)宗派主義論の研究が多く現れていることを示してあります。中東について、最新の研究動向を追いながら現実を見ていくようなタイプの授業の、副読本、文献案内となるように考えて書いた論考です。

大学が変化していく中で、必ずしも各教員が自分の専門分野そのものだけを教えるのではなく、変化するニーズに応えて授業をしていくという傾向がある中で、中東現代政治を、大学の教養課程で、今では容易に手に入る英語文献に取り組みながら、勉強していけるための道しるべとして書いてみました。

【寄稿】今年も『PHPグローバル・リスク分析』に参加

本日発表されました。

『2018年版PHPグローバル・リスク分析』

これに執筆者として参加しました。

この分析レポートは合議によって作成されているため、どの部分を誰が特に執筆分担したかは公開されておらず、またどの部分にも実際複数の人の手が入っています。所属先との関係で名前を出せない人も含めて多くの専門家が参加しています。

とはいえ私が特に関与していそうなところは10のうち二つぐらいでしょうかね。

今年取り上げた10のリスク源は、こんな感じになっております。

報告書PDFへの直接リンク

Global Risks 2018
1.「支持者ファースト」のトランプ大統領が溶解させるリベラル国際秩序
2.中国が主導する新たな国際秩序形成の本格化
3.全世界で顕在化するロシアの多極化攻勢
4.米朝中露四カ国協議成立により核クラブ入りする北朝鮮
5.サウジの「暴走」が引き金を引く中東秩序の再編
6.欧州分断の波がBREXITから大陸へ
7.米国の関与後退でラ米に伸びる中国「一帯一路」構想
8.高まる脅威に追いつけない産業分野におけるサイバー防衛地盤沈下
9.離散IS戦闘員のプランナー化とドローン活用でバージョンアップするテロ脅威
10.「EVシフト」のインパクトが書き換える自動車産業地図

また、これらの10のリスクに関する分析に加え、その前に世界地図を俯瞰したリスクの地勢図やオーバービューがあり、リスクに関わる話題にふれたコラムも取り混ぜられています。例えば流行りのフィンテックについても。

そのためレポートの全体構成は次のようになっています。

<目次>
はじめに
リスク俯瞰世界地図
グローバル・オーバービュー
グローバル・リスク2018
【コラム】「慢心」の中で、米国市場に蓄積される「買われ過ぎリスク」
【コラム】FinTechによる「闇の中央銀行」の出現

2013年以来、毎年秋から年末にかけてこのプロジェクトに参加させてもらって勉強しております。年々日程の厳しさが増しますね。

過去のものについては次のエントリからどうぞ。【2014年版】【2015年版】【2016年版】【2017年版

【刊行】『アステイオン』30周年記念選集(全4刊+総目次)

そういえばこちらが刊行されていました。

山崎正和・田所昌幸(監修)『アステイオン創刊30周年ベスト論文選 1986-2016 冷戦後の世界と平成』(全4刊+総目次)CCCコミュニケーション, 2017年11月17日刊行

軽快なフランス装で重厚になりすぎず、しかし雑誌『アステイオン』に冷戦末期からポスト冷戦期の長い期間に移りゆく国際社会と文化に向き合った数々の論稿の粋を集めた、歴史が詰まった箱です。

私も編集委員の一人として、30年間のバックナンバーを通しで読み、収録作品の選定に幾分かの貢献をしました。あくまでも幾分か、という程度ですが・・・

この雑誌はサントリー文化財団の全面的なバックアップによって編集されています。財団が行ってきた事業、すなわちサントリー学芸賞や研究助成やフェローシップなどを通じ形作られた研究者への多様なネットワーキングから自在に情報を汲み出し、サントリー学芸賞の審査委員やサントリー文化財団の理事などとして深く関わってきた先生方の培うネットワークを辿って、国内・国外から執筆者・論文を集めてきてくれます。

私のようなヒラの編集委員は安心して編集会議に参加し、せめて議論を活発に盛り上げる、という程度の役割に留まります。むしろcontributing editorとして積極的に論文・エッセーを寄稿することが期待されているようです。これについても上の世代の先生方が次々に論文や連載や対談の企画を提案して来るので、それほど出動する機会は多くはないのですが。

サントリー文化財団に蓄積された文化資本に、阪急コミュニケーションズ(現在はCCCコミュニケーションズの一部)のプロフェッショナルな編集者の手が加わって、確実に質の高い製品となって読者の手に届きます。それで毎号の価格はほんの形だけの1000円という・・・

しかしこの30周年論選は、全4巻+別冊(総目次)のセット売りのみでバラ売りなし。本当に少部数しか刷っていないため、価格は高くなりますが、意外に、さほど宣伝しなくともすでに注文が来始めているというので、手元に置いておきたい方はお早めにどうぞ。まあ、売れてしまったらそう簡単には増刷しないのではないですかねえ・・・

私も一本論稿を収録していただいた(第Ⅰ巻の政治・経済(国際編)に)のと、編集委員として別冊(総目次)にエッセーを寄せています。

池内恵「『ポスト冷戦期』を見届けた後」『アステイオン創刊30周年 ベスト論文選1986−2016 冷戦後の世界と平成 総目次』2017年11月17日, 112-116頁

池内恵「『アラブの春』がもたらしたもの」『アステイオン創刊30周年 ベスト論文選1986−2016 冷戦後の世界と平成 第Ⅰ巻 政治・経済(国際編)』2017年11月17日,  767-782頁

実はこの別冊に収録されているエッセーは、他の編集委員のものはすでにアステイオン84号の「特別企画」に掲載されているものの再録なのですが、私もその号で書くはずだったものが、特集の責任編集のために疲れ果て、他の仕事も多く、アステイオンの30年のバックナンバーを全部読んで論を立てるという大作業を完遂することができず、一人だけ掲載を見送りました。ですので、今回がオリジナル原稿ということになります。

この別冊には、編集委員の苅部直先生の、『アステイオン』の創刊者で「名誉永世編集委員」と言ってもいいであろう山崎正和先生との対談も収録されています。

そして、恐竜のようなかつての知識人たちの若い頃の写真が多く収録されており、当時の闊達な議論を彷彿とさせる、貴重な読書体験です。

1986年の高坂正堯の論稿に始まる第Ⅰ巻政治・経済(国際編)の最後に近いところに「アラブの春」の最初の1年に関する論稿を載せることができて光栄でした。

そして本巻の締めくくりには、私が責任編集の労を取らせていただいた特集「帝国の崩壊と呪縛」(第84号・2016年春号)から、池田明史先生と岡本隆司先生の論稿が収められています。少し歴史に何かを残せたような気がしています。

【寄稿】『外交』で中東情勢をめぐる座談会

座談会の記録が刊行されました。

外務省が発行する『外交』(かつての『外交フォーラム』が民主党政権時代にリストラされたものの後継誌です。現在は三度都市出版の企画・発売に戻っています)に掲載されました。

池内恵・今井宏平・田中浩一郎・岡浩「『ポストISIL」に潜む新たな混迷」『外交』Vol. 46, 2017年11月30日発行, 「外交」編集委員会(編集), 外務省(発行), 都市出版株式会社(企画・発売), 116-129頁

岡浩・外務省中東アフリカ局長(前トルコ大使・アラビア語研修でサウジアラビアに二度の勤務経験のある方です)と、イラン分析の田中浩一郎さん(最近慶應義塾大学SFCに拠点を移されました)、年初に中公新書からトルコ現代史を刊行された今井宏平さんと、ご一緒しました。サウジアラビアやレバノンの動向など、対談で将来の見通しとして話していたことが、編集作業の間にも現実化して、未来形を現在形・過去形に直していく作業で校了寸前まで気が抜けませんでした。

局長室の場所を提供していただき、我ら研究者が喋りまくるのを静かに頷いて聞いていらした中東アフリカ局長が印象的でした。いや、いい加減疲れますよね、この中東情勢の展開の早さと破天荒さ。

【寄稿】『アステイオン』に自由主義とイスラームの関係について

かなり力の入った書評を寄稿しました。

池内恵「イスラームという『例外』が示す世俗主義とリベラリズムの限界」『アステイオン』第87号, 2017年11月25日, 177-185頁

書評の対象としたのは、Shadi Hamid, Islamic Exceptionalism, St. Martin”s Press, 2016です。

私は『アステイオン』の編集委員でもあるのですが(contributing editorみたいな感じですかね)、今回の特集も力が入ったもので、かつ他に類を見ないものと思います。張競先生の責任編集で、グローバル文学としての華人文学を、独自の人脈から幅広く寄稿を得て、堂々の刊行です。

これはサントリー文化財団の支援がないとできませんね。

【寄稿】『文藝春秋オピニオン』の2018年版に「イスラーム国」後の中東について

寄稿しました。大変忙しくて、ちょっとお知らせが遅れてしまいました。

池内恵「『イスラーム国』後の中東で表面化する競合と対立」『文藝春秋オピニオン 2018年の論点100』2018年1月1日(発行), 文藝春秋, 38-41頁

奥付の発行期日は来年1月1日となっていますが、2017年11月9日発売です。

例年寄稿している『文藝春秋オピニオン』の2018年度版ですが、今年は「2018年の10大テーマ」の6番目になりました。

面倒ですが一応確認しておきますと、思い出せる限り2013年版から寄稿しているのですが、私の担当するテーマの順位は36→48→70→6→7→そして今年は6に戻っております。別に番号が重要度を示すわけではないのですが、文藝春秋編集部がどのように中東・イスラーム問題を位置づけているかは、日本の世論のある部分の推移を示しているとは言えるでしょう。

「イスラーム国」が2014年6月のモースル占拠で国際政治の中心的課題に躍り出た後の2015年版(2014年11月発売)では「70位」と、なんともはんなりとした対応をしていたのですが、2015年1月20日の脅迫ビデオ公開に始まる日本人人質殺害事件の政治問題化と、奇しくも同日に文藝春秋から刊行された『イスラーム国の衝撃』によって、この問題の位置づけが一気に(少なくとも文藝春秋内部では)上がり、2016年版では一気に6位に躍り出、同程度の認識が3年間続いたようです。来年はどうなるのでしょうか。「イスラーム国」はタイトルに入らないでしょうが、中東問題が大問題であり続けることは変わらないと思います。

「10大テーマ」となると、『文藝春秋』の読者に馴染みのある対象と書き手が並ぶので、よくまだ「イスラーム国」と中東をこの位置に選んでくれたものです。新聞やテレビでは「イスラーム国」のモースルとラッカが陥落する話は分かりやすいように見えるのか、そこだけは報じられます。クルドやトルコやサウジやシリア・アサド政権やロシアや米・トランプ政権などの動きが複雑に絡んだその後の中東情勢は、複雑すぎて記者が記述することが不可能なのかもしれません。

目次を見ますと、書き手のラインナップが、テーマ以上に、濃い。。。

私の前が石破茂先生、その前は宮家邦彦さん、わたいの後ろが冨山和彦氏で、その後ろに佐藤優・櫻井よしこ・藤原正彦と続くという、こってりしたラインナップです。私はこの中の置かれると非常に線の細いあっさりした書き手と見えるのではないでしょうか。

何かと評判の三浦瑠麗さんも、論点15「『政治家の不倫』問題の本質はどこにある」と、近年ライフワークとして掴んだ(かに見える)「女性と権力」に真っ向から取り組んでいます。

従来よくあった、オヤジの「権力と女性」問題ではなく、働く女性論にも一般化させたん女性政治家論により「女性と権力」という問題を浮き立たせた新機軸の発掘で、他の追随を許さない地位を確保しています。来年は私よりも前に載っているでしょうね。それも良きかな。

さて私の方は地味にしかし分析と見通しの提示として実質のある内容を心がけまして、「イスラーム国」が領域支配を縮小していく中で、今後の中東情勢について展望したものです。中東国際政治が変動する中で、最も重要なのはサウジの内政であり、そこにイスラエルを絡めて米トランプ政権を抱き込もうとする動きが出る、それと北朝鮮危機とがリンクされれば・・・といったスペキュレーションを含む本稿は10月前半に書いていたのですが、それが部分的に現実化していくので、10月25日の最終校了直前に細かく修正しました。

書評の経済効果?2015年5月の『エコノミスト』書評の対象作品が再刊

今朝こんな記事が舞い込んできました。

《霞が関官僚が読む本》新たな世界システムの中で日本は何をすべきか 冷戦後の「世界情勢」を知る指南書(2017/9/14)

この記事では、私が2年以上前に書いたコラムに触れて、次のように書いてくださっています。

【池内氏の薦める本は歯ごたえがあるが、読んで絶対に損にはならない。2015年5月19日号の週刊エコノミストの「読書日記」で紹介された2冊は、「国際社会論 アナーキカルソサエティ」(へドリー・ブル著 岩波書店 2000年)と、「新しい中世 相互依存深まる世界システム」(田中明彦著 日経ビジネス人文庫 2003年)であった。

国際政治学を誕生させた、E.H.カーの流れをくむ「イギリス学派」のブルの本は、この「読書日記」の後、2016年5月に、岩波書店などが取り組む10出版社共同復刊事業の「書物復権」で第九刷が出た。そして、なんと、「新しい中世」が講談社学術文庫の8月の新刊「新しい中世 相互依存の世界システム」として再び世に出された。】

言及されているのは、当ブログでも刊行時に紹介した

池内恵「混沌の国際社会に秩序を見出す古典」『週刊エコノミスト』2015年5月19日号(5月11日発売)、55頁

ですね。

2015年5月に旧著2冊の書評を載せた際は、いずれも絶版・品切れで、古本屋で高い値段が付いてしまいました。

それからちょうど1年後にブルの『国際社会論 アナーキカル・ソサエティ』が「書物復権」で蘇ったところまでは把握しておりましたが、2年余り経って今度は、田中明彦『新しい中世』が再文庫化されたとは。迂闊にも気づいていませんでした。ご指摘・ご紹介ありがとうございます。

このブログで毎回詳細に補足していたように、『週刊エコノミスト』の「読書日記」連載では意図して新刊を避け、旧著・名著を手がかりに最新の話題・問題に取り組む試みをしていました。

新刊を取り上げて当座の宣伝・売り上げに貢献するという「出版業界の(今やあまりうまく回っていない)歯車」となるのではなく、名著を掘り起こして需要を生み出す、というのが私が設定した連載の趣旨でした。

『新しい中世』が講談社学術文庫で再刊されるということであれば、経済的には「新刊」が出たのにほぼ等しい。連載が経済的効果を産んだのかもしれませんね(Kindle版も出ている)。

あとはイブン・ハルドゥーン『歴史序説』の増刷ですね〜岩波さん首を長くして待っていますよ。この基礎文献が品切れだと授業で使いにくいので困っています。

増刷しないで絶版状態で版権に対応する出版の義務を放棄したとみなされるなら、別の会社が手を出すかも?