【いただいた本】女王陛下のブルーリボン

「いただいた本」。どれにいたしましょうか。

この本を再び手に取ってみました。


『女王陛下のブルーリボン―ガーター勲章とイギリス外交』(NTT出版、2004年)

君塚先生とは、人を介して知り合ってから、本を出すと送っていただき、また私も及ばずながらお送りするようになりました。おそらくこれが最初にいただいた本ではないかと思いますが、しかし最初に出された学術書の『イギリス二大政党制への道―後継首相の決定と「長老政治家」』(有斐閣、1998年)まで持っているのは、おかしい。これはたしか、知り合った時に、遡って最初の本から寄贈してくださったのではなかったか(2002年の増刷版が手元にあります)。そういう方です。昔の学者が、きちんとした手紙を添えて、封緘印まで押して、長い時間をかけて作った著作物を、丁寧にやり取りしていた、学術書は本屋で買うよりも、図書館で読むよりも、直接寄贈しあう関係の中で読まれ、広まっていった、そんな時代の空気を今の時代に維持していらっしゃる稀有な先生です。

明らかに私の読む速度を超えて本を書いていらっしゃっております。

『物語イギリスの歴史』(中公新書、上下巻)のように手に入りやすく一般向けにも読みやすく書かれている通史もあり、『近代ヨーロッパ国際政治史』(有斐閣)のように西洋史の教科書として書かれたものもあり、新しい読者のためにも最近のご著作を挙げようかと思ったのですが、やはり記念すべき、最初にいただいた本書を挙げさせていただきました。君塚先生のご著作の全体像についてはこちらから。

ま、君塚先生といえば、何と言ってもやはりこれですから。

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The Guardian

「これ」なんて言っては不敬罪で磔・打ち首にされそうですが。馬で八つ裂きかなむしろ。中世のこの人たちやることがとにかく野蛮。

君塚先生が確立された「英王室もの」の中でも他の追随を許さない「勲章もの」の記念すべき第一作となった名著、今でも大切にしております。

【いただいた本】高坂正堯と戦後日本

ブログの新企画で、「いただきもの」シリーズをやるよ、と予告してしまったので第1回。緊張するな。自意識過剰。

いろいろ考えたんですが、最近いただいたということもあるし、またいろいろ考えるとこれかな。

五百旗頭真・中西寛(編)『高坂正堯と戦後日本』中央公論新社、2016年5月

これいい本ですね。大変いい本です。

この本の元になった研究会を後援(というか主催)したサントリー文化財団からいただきましたが、とにかくいい本です。手元に置いておいて損はない本だと思いますよ。

学問のあり方と、学者の人生、戦後史の中に位置づけられた学説史や、出版文化について、今考えるるべきことが、高坂をめぐる文章という形で、書かれている。懐古趣味の本ではありませんし、サントリー文化財団は、縁が深い人のことだから後援しているのではなくて、本当に今書いて出す意味があるテーマだから全力で支援しているのだな、ということが分かります。高坂を全力で語る論者たちが、手を抜いていません。抜けないのですね。

『アステイオン』の30周年特集と合わせて読むといいとも思います。この特集だけで、戦後思想史をめぐる一冊の本を読んだような体験をしました。『アステイオン』の特集の方には、私は本来は依頼されていて書くはずだったのだけれども書かなかった(書けなかった)。書かなくてよかったと思います。私が書けば、不必要なものになりました。

どうもありがとうございました。

【新カテゴリー】寄贈していただいた本に現れる、日本の学問と言論の状況

突然に新コーナーです。

このブログは開設当初は中東のニュース解説をかなり詳細に行ったり、人質事件などの際には日本の大手メディアやソーシャル・メディアに流れる情報を整除し、適切な指針を示すクリアリング・ハウス的な役割を持たせるなど、臨機応変に性質を変えてきました(当初は手軽なFC2ブログを使っていましたが、2015年の半ばから、少し投資して、ikeuchisatoshi.comを設けました)。

最近は、本や論文・寄稿の記録や、講演・テレビ出演に関する事前の告知が多くなっています。『イスラーム国の衝撃』以来、単行本を出すと「サポートページ」を開設して関連情報を一元的に集約することも慣例になっています。

これらだけでもかなり頻繁に更新しているのですが、コンテンツがひたすら「私」に関するものばかりになるのも、若干息が詰まるような気がしないでもありません。

中東ニュース解説については『フォーサイト』の「池内恵の中東通信」を開設して、いわばブログで試験的に行ったものを商業媒体へスピンオフしてみる試みにつなげました。ソーシャル・メディア向けの多面的な情報発信ではすっかりFacebookのアカウントが中東情報伝達のメディアとして定着したので、このブログではあまり行う必要がなく、ブログは私自身の仕事に関するデータベースとしての機能を主に担うようになってきています。

なお、英語圏を見てみますと、研究者個人が自分の仕事の公式発表・情報集約のためのブログを開設しておくことは、若手・中堅世代では標準となりかけています。

しかし私が本や論文で苦しんでいるときは更新が滞るので、時々大きく更新の間が空く。

そんな時に、毎日ほんの少しの時間と労力で、文章もほとんど付さずにアップできるものはないか?と考えているのですが、ここのところ考えているのは、これまでに「いただいた本」を一つずつ挙げていく、というものです。

ありがたいことに、研究を進めていく過程で、いろいろな研究会・勉強会や学会パネルに呼んでいただいてきました。それらのつながりで出会った同世代の優秀な研究者が、次々に本を出されますが、そんな時に、学閥・学派などのつながりはなく、新聞の書評欄などに恒常的に場所を確保しているわけではない私などにも、献本を送ってくださることがあります。

もらったからうれしいというだけでなあく、こんなに優れた本を出す人たちと、研究会で肩を並べ、必要があるとメールなどのやり取りもし、何か企画・機会があると思い出して呼んでいただいたり、こちらがお誘いして快くお引き受けしていただけたりすることが心底うれしい。そしてそれぞれの方々が本を出された時に、送っていただけると、何よりも変えがたい喜びとなります。私はあまり人づきあいがないので、よく知っていると思っている先生方も、考えてみると何かでご一緒して以来、その後は本のやり取りが主であって、顔を合わせた回数は本の数回、ということが多いのです。

そういう先生方は、私のことを高く評価しているから本を送ってくれるのではなくて、私から以前に献本されたから自分が本を出す時には義理固く献本し返してくれている、というだけではないかと思われますが、ですが、そうやって送っていただいた本を改めて取り出して並べてみると、壮観です。

私は最近、いくつかの本を書いて、そしてすぐにまた重要ないくつかの本を書いていかないといけないという正念場に立たされており、その準備のためにも研究室を大幅に整理しています。物理的に環境を整えることで、頭も整理して、これからの研究と執筆の余地を作らないといけない。

そんな時に、直接自分の研究とは関係がない、しかし領域を超えた様々な研究会や学会でご一緒させていただいている先生方が送ってくださった重厚な著作が研究室のあちこちで見つかります。それらを手に取ることで、やる気が出てきますし、また目指すべき高い水準を思い知らされます。

それらの戴いた本の多くは、私が直接論文や本で引用するものではないので、整理してどこかにまとめて並べておいて、将来時間ができたときに、あるいは一回り大きな視野でものを見る時期に至った時に、再び手に取って読み直してみたいのですが、そのためにも、このあたりで、ひとまず戴いた本の総体を情報として整理してみたいという気になってきました。

そんなこんなで、時々ぽろっと、順不同で、「いただいた本」の表紙写真などがブログに掲載されるかもしれません。これは「書評」ではありません。それらの本について、私は評価する能力がないからです。単に、いいな、と思ったら紹介するだけです。

何しろこれまでに戴いた本の数は膨大で、先端研で与えられてきた潤沢なスペースに構築した広い研究室のあちこちから発掘されますので、ブログのコンテンツとして尽きることはありません・・・

いただいた本を並べてみると、現在の日本の学術の世界の特定の分野での活発な発展の所在とか、言論空間の刷新・活性化の方向性などが、見えてくるのではないかと思います。あくまでも私が接点があって本をいただいた場合に限るので、なんら包括性はないのですが、しかしかなり多くの、優れた研究者の方々にお会いして、仕事をして、本を送っていただいていますので、それをこつこつとデータにして集積して全体を見渡してみると、近年の日本の学術の世界や専門書出版の世界は、なかなか捨てたものではないと再認識させられるのではないかと思います。

第一回はいつ、どの本にしましょう・・・ありすぎて選べない。

この企画は皆さんが忘れたころに始まります。