【寄稿】『ブリタニカ国際年鑑】2016年版の「イスラム教」の項目を

今年も『ブリタニカ国際年鑑』の「イスラム教」の項目を執筆しました。

池内恵「イスラム教」『ブリタニカ国際年鑑』2016年版、2016年4月、204−205頁

2014年度2015年度に続いての執筆です。昨年は「定点観測」としての意義をブログで書いてみました。

今年は「イスラム教」をめぐる三つのトピックスとして、今年は「『イスラム国』による日本人人質殺害事件」という日本に直接関係し政治問題化した事件、「グローバル・ジハードの理念に呼応したテロの拡散」という国際的現象、そして「イスラム教とテロとの関係」についての米国などでの論争という思想的課題を選定して解説しました。

『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』の特注帯

新潮選書『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(5月27日刊行予定)の特注帯ができてきました。ギリシアへ流入する難民をあしらったものを編集部が選定したようです。

新潮選書サイクスピコ協定特別帯

選書はシリーズを通してデザインが同じですから(だから低コストで工期を短縮して本を出せるのですが)、表紙で変化を出しにくい。そこで、大きめの帯を付けて、写真などをあしらうことで、書店でハードカバーの単行本と同様の存在感を示そうとするのです。単行本の良さと、選書シリーズの棚に置かれる良さの両方を「いいとこ取り」しようとする手法ですね。

新潮選書で同時期に配本されるものについている帯は通常はこのようなものになるようです。

新潮選書「サイクスピコ協定」表紙

皆様の近所の書店ではどちらが置かれることになるでしょうか。

【寄稿】『アステイオン』第84号の特集「帝国の崩壊と呪縛」を編集

編集委員を務めております『アステイオン』第84号が本日刊行されます。Kindleもあります。

『アステイオン』はサントリー文化財団が編集する学芸雑誌で、現在は年二回刊行。私は学生時代から読んでいました。今回は30周年記念号でもあり、各編集委員が30年分を読み直して、これまでの論文の歴史的意義を掘り起こすという企画があります(しかし、私だけは、下記特集の編集に専念させていただいて、30年読み返し論考は辞退させていただきました…残念)。

今回は私は特集の責任編集の番が回ってきましたので、特集の構成と、「巻頭言」の執筆を担当しています。


『アステイオン』第84号(2016年)

今回の特集は「帝国の崩壊と呪縛」と題してありましてなんだかおどろおどろしいですが、分野や地域を異にする素晴らしい書き手の皆様にご寄稿いただきました。無理な注文を聞いていただいて深く感謝しております。

「帝国論」はすでに研究がかなり深まった分野ですが、この企画は帝国そのものよりもその「崩壊」「崩壊後の影響」に重点を置こうというものです。

近代の国際システムをつくる主体であった西欧の帝国と、その外縁あるいは外部・仮想敵であったロシアやオスマン帝国、そしてそこから離れたところにいた東アジアの諸王朝や、さらに近代の後半に西欧国際秩序に参入して遅れて帝国化した日本などでは、帝国そのもののなりたちも、帝国の崩壊の仕方も異なっています。現在の政治問題の多くが、それぞれの帝国の「壊れ方」にかなり依存しているのではないか、という関心から、今回の特集企画を考えています。これに関連して学会のパネルを企画したりなど、少しずつ発展させて行く予定です。(『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)もその一環と言えます。どうせやるなら賑やかにぶち上げてから進みましょう、ということで)

『アステイオン』第84号の「巻頭言」をここに貼り付けておきます。

【2016年は、1916年に合意されたサイクス=ピコ協定から100年の節目にあたる。おりしもサイクス=ピコ協定を基礎にして引かれた中東の国境線と国家の溶解が進み、中東の地域秩序が揺らいでいる。
揺らぎは一時的・過渡期的なものなのだろうか。あるいはあってはならない異常事態なのだろうか。
むしろ、われわれは近代の歴史を帝国の崩壊、それも繰り返し起こる崩壊として見てみることで、視界が開けるのではないか。

われわれは近代の歴史を、なんらかの「発展」として捉えがちだ。主権国家や国民や、自由や民主主義や人権といった、近代の発展の目的に向かって、個人が、人間集団が、社会が、国家が、国際社会が、それぞれに発展していくものとして歴史を見出していく。そこに障害がある問題が現れれば、取り除き、先に進めばいい。そのように考えてきた。
しかしここに考え直してみる余地がある。近代史はむしろ、前近代から引き継いできたものの絶えざる崩壊と見る方がいいのではないか。崩壊の後に打ち立てたと思った何ものかも、さほど時を置かずしてまた崩壊する。そして崩壊のたびに、近代国家ではなく、その前の帝国の残骸が現れる。帝国は繰り返し崩壊することで近代にその残影を晒し続ける。帝国の呪縛にわれわれは今も囚われている。

われわれが直面し、乗り越えようとしている様々な問題は、領土問題であったり、国境問題であったり、あるいは民族問題であったり、宗派問題であったりする。それらを、帝国の崩壊という共通の文脈の上に置き直してみることで、それぞれの異なる問題の背後に隠れていた、なんらかの共通の構図が浮き彫りになるかもしれない。そして、解決のためにあまりに多くの障害があると思われている問題にも、共通の理解が不可能であるかのように見えている問題にも、様々な帝国の崩壊と、それぞれの崩壊のさせ方から発生した問題としてとらえ直すことで、議論の共通の土台や、突破口が、見いだせるかもしれない。】

 

アステイオン84号

「サイクス=ピコ協定から百年」は日本で「ニュース」になりうるのか

5月16日(月)のNHKBS1「国際報道2016」の特集「サイクス=ピコ協定締結から100年」(特集がほぼそのままウェブサイトの「特集ダイジェスト」コーナーで活字になっています)で、サイクス=ピコ協定をどう適切に理解して、中東の現在の理解につなげていくか、について解説しました。

国際報道2016特集コメント

その冒頭では、近刊の新潮選書『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』の表紙が映し出されました。

国際報道2016新潮選書写真
(「本を映し出したテレビ画面を撮影した写真」という若干珍しい構図)

公共放送NHKとしては珍しいことなのではないかと思います。

関西方面の放送局の政治社会バラエティ番組では(旧「たかじん」系をはじめとして)何かとゲストが最近出した本、はたまた司会者までが最近出した本を、やおら懐から取り出して宣伝するのがお約束になっていますが、NHKではあまりそういうことは目にしません。また、今回も、あくまでも本の宣伝ではなく「このテーマで本が出る」ことがあたかも「ニュース」の一部であるかのような形式での言及でした。「新潮社」と言った企業名への言及もありませんでした。

何でこのようなことになったのか、打ち合わせなどから私が推測したところを書いてみます。

まず、「池内がゴリ押しして近刊の広告をさせた」ということは全くありません。私としては、印刷・製本中でまだ見本も手元に来ていない段階ですので、番組中に本が紹介されることなど想像もしておりませんでした。打ち合わせで何回もやり取りをして番組構成・議論内容が固まった後で、先方から「本を番組で映させて欲しい」との依頼があって、慌てて表紙と造本見本を手配しました。表紙カバーは出来上がっていますが、本体は印刷中のものを抜いてくるわけにはいかず、本の型と厚みだけを示した白紙のものです。当日、担当の編集者Tさんが届けに来てくれました。

ましてや「池内が番組の特集自体を企画して放送させた」などということはありえません。私の本は、ある遠大な意図があって、願わくばシリーズ化しようと考えている企画の第一弾として、ちょうどサイクス=ピコ協定から百周年が来る月ということもあるし、ということでこのテーマに設定しました。

NHKの方でも、当然ですが中東に関与したことがある記者やディレクターはサイクス=ピコ協定というネタがいわば「鉄板」であることは理解しており、百周年の当日が放送日なのだから特集をやりたいという案は以前からあったようです。しかし、「歴史」なのであまり動く映像がない。また、海外放送局からニュースを抜粋してきて編集するというNHKBS1の得意のやり方も、「百周年」となると、当日のBBCとかアル・ジャジーラとかが何を報じるかは事前に分からないから、特集として事前に準備できない。外国の放送局が大々的に報じた後なら、それらをザッピングして報じるという手が使えるのですが、今回はやりにくいのです。

そして何よりも、日本の視聴者がこのテーマを重要であると受け止めるかどうかが分からない。世界史の教科書には載っているけれども、多くの人は忘れてしまっているだろう。また、それが百周年だからといって、例えばその日に無効になるとかそういった変化はないわけだし、セレモニーなどが行われるわけでもない。新資料が発掘されたわけでもない。これが特集に値するニュースなのだ、ということを視聴者に、そしてそのような視聴者の反応を気にする局内を説得することが、意外に困難であったと思われます。

政治学的には「官僚制意思決定モデル」みたいなものを想定すると分かりやすい。

テレビ番組というものはものすごい沢山の人間が関わって作っています。現場にいる人だけでもすごい数です。それだけでなく「ある番組であるテーマで特集をやって何を伝える」ことを決定して実行して、さらにそれを評価して次に繋げるまでには、現場にいない人も含めて、非常に多くの人が関与し、何層にもわたる組織的意思決定過程を介します。

おそらく「サイクス=ピコ協定締結百周年」という特集テーマは、局内の、番組の関係者の一部で温められていたけれども、本当にこの日の特集にしていいかどうか組織的意思決定の材料の決定打を欠いていたのではないでしょうか。そこに「池内の本が(というよりも正確には「このテーマで本が」)出る」という「事実」が判明したことで、前に進んだ、少なくとも進むきっかけを私の本が与えたのではないか、と私は想像します。それもあって、冒頭でなぜか私の本が「ニュース」のように紹介されたのでしょう。「耳慣れない話題かもしれないけれど、この話題について一冊本が書かれるぐらいのテーマなんですよ」ということを示すためにですね。

私としては、このような動きは望むところでもあります。というのは、そもそも、この本を出版する意図、あるいはこの本を第一弾とする新潮選書の「中東ブックレット」(と私が勝手に名付けている)シリーズを発足させる意図の一つは、メディア向けに、中東に関する話題のテーマについて、知っておくべきこと、筋の通った論理、適切な論点を、若干込み入っていて今時の分かりやすい入門書では省かれるかより分かりやすくまとめられてしまうところまで立ち入りつつ、薄めの一冊にまとめておく、というものであったからです。

要するに、ある問題が話題になった時に、個別に一から説明している時間がとても取れないので、話題になりそうなテーマについてはあらかじめブックレット程度の規模で一冊まとめておいて「これを読んでください」と言えるようにしておきたかったのです。

そうしたら早速そういう需要があった、というかむしろ、本を出したことでそのような需要の創出に多少力を貸したことになったような雰囲気でした。

ただし英語圏では、この話題は鉄板ネタであって、5月16日に多くの特集番組や記事が公開されています。

また、昨年あたりからこの話題については本屋に平積みになる本が何冊も出ていますし、そもそも2014年6月の「イスラーム国」の台頭以来、幾度となく「サイクス=ピコ協定」と結びつけた議論・論争が、いろいろな立場から提起されています。

そういった記事をまたこの欄で紹介していくことにしましょう。

【寄稿】『週刊エコノミスト』の読書日記でサイクス=ピコ協定周辺の歴史書を

昨日発売の『週刊エコノミスト』の読書日記欄、当番が回ってきておりました。


『週刊エコノミスト』2016年 5月24日号(5月16日発売)

読書日記の締め切りが連休前で、ちょうど近刊『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』の最終段階の編集・執筆と重なって修羅場だったので、これに関する歴史書を挙げました。どれを選んだかは、雑誌を手に取ってご覧ください。(毎回のことですが、この連載は電子版には掲載されていません)

池内恵「100年前の密約 中東混乱の源を探る」『週刊エコノミスト』2016年 5月24日号(5月16日発売)、61頁

1916年の英・仏のサイクス=ピコ協定はロシアも同意していたのだが、1917年のロシア革命でボルシェビキ政権が誕生し、プロパガンダ戦の中で旧政権の外交文書を続々ばらしてしまった。そこに含まれていたことでサイクス=ピコ協定が悪名高い文書になった、といった小ネタを紹介。といってもこれは現代のウィキリークスとかパナマ文書と同様の話で、やはり100年たってもう一度時代の変わり目が来ているのかなと。

そう思っていたら、ちょうどこの号の特集はパナマ文書だった

【寄稿】小泉悠『軍事大国ロシア』への書評を『アゴラ』に

一昨日にフェイスブックでささっと書いた書評が、昨日『アゴラ』に転載されていた。

池内恵「軍事大国ロシア」『アゴラ』2016年5月15日

一昨日に東大の五月祭の講演を覗きに行った小泉悠さんの『軍事大国ロシア』(作品社、2016年)の書評です。これはあくまでも走り書きの感想ですので、今後もっと本格的な書評があちこちから出るといいですね。

小泉さんには5月19日発売の『アステイオン』の特集に論文を依頼して書いてもらっており、また秋の某学会でも私の企画担当のパネルにコメントをお願いしていますが、中東を見るためにも必須のロシアの安全保障政策・ドクトリンについて、また軍の編成や組織、軍需産業についても、バランスよくまとまった、非常に役に立つ本だと思います。

『アゴラ』には私のフェイスブックの記事から選んで転載する許可を出しています。私が選ぶわけではないで、どれが転載されるか事前に分からない。そのため「瓶詰通信」と秘かに呼んでいる。瓶に手紙を詰めてどんぶらこと海に流すと、偶然どこかに流れ着いて誰かに拾われてどこかに届く(かも)、というやつです。今回はけっこう届いたのでは。

【サポートページ開設】『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』のカテゴリーを設定しました

『イスラーム国の衝撃』『増補新版イスラーム世界の論じ方』について「サポートページ」を称するカテゴリーを設けてありますが、今月27日に刊行予定の『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』についてもカテゴリーを設けました。右下(PCの場合)のカテゴリー欄の『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』のところをクリックすると、この本に関係するブログのエントリーが表示されます。

まずは表紙写真をどうぞ。

新潮選書「サイクスピコ協定」表紙

本を書いている最中の顛末を含めた刊行以前の記事に遡ってカテゴリー化していくと、メイキングのようになりますね。

刊行直後のイベント情報や、この本に関する講演やテレビ出演、関連書の紹介、続刊の企画など、いろいろこのカテゴリーで掲載していこうかと思います。

【サポートページ開設】『増補新版イスラーム世界の論じ方』 まず目次を公開

2008年に出て、翌年にサントリー学芸賞(思想・歴史部門)をいただいた『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社)は、増刷が出て売り切れて入手困難になっていましたが、5月9日に、8本の論考とあとがきを加え、さらに索引も付けて『増補新版イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2016年)として再刊されました。総ページ536頁となりましたが、値段は旧版の2600円(本体価格)で変わりません。


『増補新版 イスラーム世界の論じ方』

『イスラーム国の衝撃』(文藝春秋)に続き、「風姿花伝」ブログにサポートページを開設して見ます。このページの右下(PCで閲覧している場合)のカテゴリー欄の『増補新版イスラーム世界の論じ方』をクリックすると、ブログの記事のうちこの本に関連づけられている記事が検索されて出てきます。

まず、目次を公開しておきましょう。第IV部とあとがき、年表の2008-2016年度分と索引が、新たに加わった部分です。第I部から第III部は、ページ数を含めて旧版と変わりません。表記を新版で統一したところがあります。

イスラーム思想史を律法主義と霊性主義の潮流に分けることで、両者を混同させた議論を避ける。イスラーム教とその統治体制が行った異教徒統治・支配の理念と実態を認識して、現代の国際社会の中での「共存」の適切な道筋を探る。日本では井筒俊彦に代表される「日本仏教的宗教観に引き付けた」理解が、独自の宗教思想としては重要であるものの、対象の認識を阻害してきたことを認識する。エマニュエル・トッドやアーヤーン・ヒルシ・アリーのような、フランスや米国の現代のイスラーム論の極端な振れ幅と、その思想的・政治社会的淵源を探る。

旧版の刊行後の国際社会の中で生じた諸事象によって、旧版に含まれていたテーマを、より広範に自由に展開する機会を得て、ここに完成版が出来上がりました。また、旧版以前に刊行されていた律法主義と霊性主義に関する総論を所収できたことも感慨深いです。

目次 『増補新版イスラーム世界の論じ方』

第I部 構造
第1章 メディアの射程
アラブが見たヒロシマ/アラブ・メディアは中東政治を変えるか/ムスリム統合への決意と原則
第2章 思想の円環
約束の地と堕落した女――アラブ知識人の見たアメリカ/イスラーム的宗教政治の構造

第II部 視座
第3章 人質にされたもの
人質事件の背景と構図/謎めいたメッセージ/メディアが世論に敗北した日/人質惨殺が問う日本の対外観
第4章 予定調和を超えて
インターネットと外交世論/イスラーム教と紛争/国際テロのメカニズム/「異文化理解」に欠けているもの/「他者への寛容」だけでは解決しない/「九・一一」の意味を再確認する/摩擦と対立の直視を/行政の悪習に踏み込めるか/メディアの「弱み」/政策論はどこに/「拝外」と「排外」の間/周縁の文学

第III部 時間
第5章 夜明けを待ちながら
民生向上を通して人心安定を/移行期イラクの枠組みと危機/イラク暫定政権の課題/治安回復が評価の鍵/再選ブッシュ大統領の責務
第6章 自由のゆくえ
中東の「失われた一〇年」/中東論が映し出す日本の言説空間/「差異への権利」のジレンマ/イスラーム教という知的課題/ジハードのメカニズム/構造変化の一年/フランスの暴動と差異の社会/マイナー脱却はなされるか/シャロン重篤で躓いた日本外交/ムハンマド風刺画騒動が問う原則の問題/自由のアポリア/ロレンス再訪/世俗化なき世界/史料の力/拉致とミサイルという共通項/カイロの定点観測/ローマ法王の「歴史認識」/「渡ってきた人」へのノーベル賞
第7章 散らばったパズル
「ローマの休日」と少子化日本/「石油中毒」脱せるか/「ムハンマド」言葉狩りの愚/「宵っ張り」アラブ系移民の仕事/「舶来」の概念を借りて/レバノンの泥沼/アラブ混迷の理由/エジプトの「鹿鳴館時代」/フセイン処刑とイラク近代史/フランス大統領選挙の隠れた争点/首相訪米で語るべきこと/「お上」頼みの正義の危うさ/中東民主化構想の苦い成果/「オリーブの枝」落とさぬ成果を/日米関係の躓きの石/近代化抜きの未来空間/コーラン翻訳の困難/エジプトはうるさい/レバノン的解決/揺らぐトルコの政教分離/ジハード論の広がり/遠のくミンダナオ和平/ひとつの時代の終わり

第IV部 対話
第8章 乱反射する鏡像
イスラーム教の律法主義と霊性主義――真の「対話」のために
エルサレム「神殿の丘」の宗教と権力
フランス・オブセッション――日本人は『文明の接近』から何を読みとるべきか
イスラームとの私的な闘争――新・西洋中心主義
第9章 われわれにとって「イスラーム」とは何か
井筒俊彦の主要著作に見る日本的イスラーム理解
言語的現象としての宗教
自由をめぐる二つの公準
「イスラーム国」の二つの顔

あとがき
地図
年表
索引

【講演予定】(4)新潮社「la kagu(ラカグ)」でブックトークを

一般向け講演の通知その4。

5月30日(月)に新潮社でブックトークを行います。5月27日に刊行予定の『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』について。

表紙ができていました。

新潮選書「サイクスピコ協定」表紙
『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書、2016年5月27日刊行予定)

新潮社が社屋の隣の旧倉庫を改装してla kagu(ラカグ)というモールを作ったのですね。その2階のイベントスペースsokoで、連日のようにブックトークが行われています

日時:2016年5月30日19:00~
場所:la kagu(ラカグ)2F レクチャースペースsoko
東京都新宿区矢来町67
テーマ:「中東問題の“難所”『サイクス=ピコ協定』の正しい理解のために」
料金:2000円(ホームページからチケットを申し込めます)

ここでのイベントは評判がよく、結構早くチケットが売り切れてしまうそうです。

先日は八重洲ブックセンターで『コーランの読み方』についてのトークをしましたが、日本でもブックトークが行われる場所が増えてきたのはいいことですね(英語圏ではBook Launchと呼ぶようで、私もワシントンDCやロンドンに立ち寄った時に、書店やシンクタンクなどのウェブサイトをチェックして、時間が合ったら覗いています)。

【講演予定】(3)先端研のオープン・キャンパス(6月4日)

一般公開の講演予定その3。

6月3日・4日に先端研・生産研のオープン・キャンパス「東大駒場リサーチキャンパス公開2016」が行われますが、2日目にその一環として公開講演を行います。

日時:6月4日(土)13:00~14:40
場所:東京大学先端科学技術研究センター 3号館南棟1階ENEOSホール
演題:「中東国際政治の動揺とグローバル・ジハード」(前日の高校生向け講演とは内容を変えようと思っています。こちらは国際政治と思想史について)

この講演は録画されて東大TV(http://todai.tv/)で後日に公開される予定です。

【テレビ出演】NHKBS1「国際報道2016」でサイクス=ピコ協定から百年の節目に

自分が出す本で書いたことでもあるんですが、5月16日で、1916年のサイクス=ピコ協定から100年の節目になるんですね。

この日、5月16日(月)の夜10時から、NHKBS1「国際報道2016」に出演して、サイクス=ピコ協定が現代に持つ意味について解説することになりました。

NHKBS1サイクスピコ協定100年特集

特集の概要(NHKが作ったもの)は次のようになっています。

「サイクス・ピコ協定」締結から100年
第1次大戦によってオスマントルコ帝国が解体したあと、イギリスとフランスがその広大な領域を分割する根拠となった密約「サイクス・ピコ協定」。その締結からこの日、100年の節目を迎える。ヨーロッパ列強による一方的な分割は、いまもイスラム過激派組織などの反発の根柢に横たわっているといわれる。いっこうに理解の溝が埋まらない欧米と中東地域。混乱の淵源となった「サイクス・ピコ協定」から読み解いていく。
出演:池内恵(東京大学准教授)

本は予約ができるようになっていました。5月25日ごろには出回る予定です。一つずつ成果を出していきます。

『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)

【講演予定】(2)駒場で「高校生のための金曜特別講座」に(6月3日)

一般公開の講演の予定その2。

6月3日に、駒場の東大教養学部で、「高校生のための金曜特別講座」の2016年度前期プログラムの第4回を受け持ちます。

日時:6月3日17時30分~
場所:東京大学教養学部18号館ホール
演題:「中東政治の変動とグローバル・ジハードの行方」(高校生向けを考えて、世界史と政治経済・倫理に関わるものにしようと思っています)

「高校生のための」と銘打っていますが、誰でも聞きに来て良いそうです。遠隔の高校にインターネットで配信されたりするようです。いろんなことをやっているんですね。

依頼されるまで、私はこの講座の存在を全く知らなかったのですが、これまでの回から抜粋して何冊も本が出ているようです

これとか。

これとか。

これも。

「熱血編」と「情熱編」もあるそうです。

【講演予定】(1)SMU/慶應シンポジウム(6月11日)で日米関係と国際テロリズムについて

公開の講演やシンポジウムでの登壇の予定をいくつか。

その1。日米関係と安全保障に関するシンポジウムで、グローバル・テロリズムについて、イスラーム思想・運動組織論の観点から報告します。

サザン・メソジスト大学(SMU)のTower Centerと慶應義塾大学グローバル・セキュリティ研究所が共催する「日米関係とアジア太平洋の安全保障」に関するシンポジウムが、6月10日(金)と11日(土)に慶應義塾大学三田キャンパスで開催されますが、この二日目のパネル3「安全保障の新しい課題と日米同盟」のパネリストの一人としての登壇です。

シンポジウム全体のお知らせへのリンクと、出席するパネルの他の報告者と報告タイトル、コメンテーターを記しておきます。

参加は無料で、特に資格は必要ありませんが、ウェブサイトから英語で登録が必要です。

大学のシンポジウムですので若干硬めの議論になりますが、米国側に対しては単刀直入にかつ面白く話さないといけません。

英語でやるか日本語でやるかはまだ決めていません。米国からの参加者には直接英語で話した方が通じやすいでしょうが、聴衆の多くは日本人なので、日本語の方がいいかもしれません。かなり優秀な同時通訳がつくと思います。

Sun & Star Symposium in Japan | U.S.-Japan Relations and Security in the Asia-Pacific: Challenges and Hopes
「日米関係とアジア太平洋の安全保障 課題と展望」

SMU慶應シンポ

3:45 – 5:15 p.m.
Panel III: New Security Issues and the U.S.-Japan Alliance
第3部:安全保障の新しい課題と日米同盟

Cyber Security and the New U.S.-Japan Defense Guidelines
サイバー・セキュリティと「新日米防衛ガイドライン」
Motohiro Tsuchiya, Keio University, Japan
土屋大洋(慶應義塾大学)

Security Measures against Jihadist Terrorism
ジハード主義テロに向き合う安全保障
Satoshi Ikeuchi, University of Tokyo, Japan
池内恵(東京大学)

Food Security after the 3.11 East Japan Earthquake
東日本大震災後の「食」の安全保障
Nicolas Sternsdorff-Cisterna, Assistant Professor of Anthropology, SMU
ニコラス・スターンズドーフ・シスターナ(サザンメソジスト大学)

Discussant: James Hollifield, Director of the Tower Center, SMU
討論者:ジェームズ・ホリフィールド(サザンメソジスト大学)

【寄稿】時事通信のe-World Premiumにインタビューが掲載 「イスラーム国」の分散傾向について

寄稿しました。

池内恵(インタビュー)「分散化して生き延びるIS 世界にジハードが広がる恐れも」e-World Premium, Vol. 28 (2016年5月号), 時事通信社、2016年05月10日

e-World vol28_2016_05

インタビューですが、大幅に私が手を入れています。とはいっても、聞かれなければ答えないようなテーマに議論が及んでいますので、インタビューならではの内容が含まれているかもしれません。4月の前半ごろまでに、イラクとシリアで「イスラーム国」が衰退・消滅か?という雰囲気がメディア上では出てきたので、そこで急遽特集が組まれたようですが、私をはじめ、中東を見ている人間は「そんなこともないんじゃない?」と答えていますね。少なくとも今特集で寄稿・話を聞かれた人たちは。

目次を見てみるといずれも興味深そうですね。特集のところだけ抜き出しておきます。

【特集I・IS壊滅への隘路・中東編】
【Interview】分散化して生き延びるIS 世界にジハードが広がる恐れも|池内 恵・東京大学先端科学技術研究センター准教授
「サテライト・モスク」、テロ戦士の揺りかごに 遅れる仮想空間のIS対策、人権・表現の自由が壁|池滝 和秀・在中東ジャーナリスト
IS縮小も拠点モスル制圧になお難題 治安・統治確保、避難民対応など|吉岡 明子・日本エネルギー経済研究所中東研究センター主任研究員
「シリア撤退」に潜むプーチンの戦略 和平の主導権確保は成功したか|小泉 悠・未来工学研究所客員研究員

【特集II・IS壊滅への隘路・欧州アジア編】
欧州2都のテロはシリアISによる指令 移民街仲間と戦場の戦友によるジハードグループ、その実態を剥ぐ|黒井 文太郎・ジャーナリスト
ブリュッセル、パリ両テロを生んだ背景 帰還戦闘員の脅威とIS対策の今後|国末 憲人・朝日新聞社論説委員
刑務所に巣食うインドネシアの過激派 アジアでIS思想流入によるテロの衝撃|竹田 いさみ・獨協大学教授

時事通信のe-Worldを読むには、電子版の月刊誌としてパッケージで買うか時事通信社のオンラインの記事情報サイトJanetを契約購読して記事にアクセスするかの二つの方法があるようです。

e-Worldには以前にたまに寄稿したことがありますが、ご依頼を受けてもお引き受けできないことが多いですね。話題になっているテーマを話題になった時に取り上げるのがジャーナリズムでしょうが、そうすると依頼が集中してしまいお引き受けできなくなるのです。今回はインタビューでしたのでなんとかなりましたが(これも移動を拘束して時間をとるので、あまりお引き受けしていません)、隙間の時間でかろうじてこなしました。

写真を見るとやはり襟がはみ出ている。

この直前まで職場の教員・大学院生向けセミナーでしゃべっていた覚えがありますが、もう格好を気にしていられる状況ではないですね。