【寄稿】『週刊エコノミスト』の読書日記では『「憲法改正」の比較政治学』を

『週刊エコノミスト』の読書日記欄に寄稿していました。もう23回目になるんですね。

池内恵「改憲をめぐる憲法学者と政治学者の『一騎打ち』」『週刊エコノミスト』2016年8月2日号(7月25日発売)、59頁

取り上げたのは駒村圭吾・待鳥聡史編『「憲法改正」の比較政治学』(弘文堂、2016年)でした。

「しかし昨夏の安保法制国会可決の際にピークを迎えた「護憲」論には不可解なところが多くあった。護憲派を自認する側が、東大法学部を序列の頂点とする権威主義や、内閣法制局長官に代表される法制官僚による特権的な解釈権を主張して、自らの政治的立場を正当化したのである。これは到底自由主義と呼べるものではなく、偏差値信仰に依拠した擬似封建的な身分制度に基づく特権官僚支配を擁護する立場とすら言っていい」

・・・なんて書いていました。

この現象をイラン・イスラーム革命後のシーア派法学者が保持する三権に超越する権を参照して考えてみました。神の法とその神秘的・超自然的・無謬の解釈能力を持つイマームとその代行者たる法学者という頑強な信仰・理念の体系があり、それが広く庶民に支持されているイランの場合に比して、日本の場合はこのような憲法学者の立場はどのような根拠に基づいているのか。

フェイスブックでは今回の連載寄稿について、二度ほどフォローアップを書いてあります。

告知が遅れてしまったので雑誌は書店にはもう置いておらず、またいつも通りKindleなど電子版には掲載されていないので、アマゾンの在庫へのリンクを貼っておきます。

『中東協力センターニュース』への寄稿リスト(2012〜2016年)

『中東協力センターニュース』への連載寄稿は、「『アラブの春』後の中東政治」との通しタイトルで、2012年から14年にかけて8回にわたって続け、その後雑誌の月刊化・ウェブ化に合わせて2015年4月にリニューアルし「中東 混沌の中の秩序」としてから、今回が6回目です。連載と言っても毎回別のテーマについて分析しています。リニューアルを機に連載間隔を3号に一回、つまり四半期に一回と決めて、必死に守っています。

月刊誌時代の『フォーサイト』の連載「中東 危機の震源を読む」では月一回、決められた日を締め切りとする定時・定点観測を行っていましたが、『フォーサイト』がウェブ化してからは連載をアーカイブ的蓄積として活用しつつ、新たに「中東の部屋」そして「池内恵の中東通信」を設け、事態に即応した臨機応変の、半日単位での即時性を追求しています。

その反対に『ブリタニカ年鑑』では一年に一度というのんびりした間隔での、世界のイスラーム教をめぐる動向に限定した、定時・定点観測を行うことになっています。

『中東協力センターニュース』の連載寄稿はこの中間ぐらいで、四半期に一度、その時点での中東やイスラーム世界に関する重要な課題を選んでまとめてみることで、頭をリセットするために使っています。これを重ねていくと、論文や単行書へとつながっていきます。

ツイッター(@chutoislam)では分単位の隙間時間にニュースをリツイートすることに限定し(時々遊びがあります)、フェイスブック(https://www.facebook.com/satoshi.ikeuchi)では、ソーシャル・リーディングの過程で刺激さえて思いついたあらゆることを試しに書いてみる、という具合でしょうか。そこから何かにつながることもありますし、何にもつながらないこともあります(たいていは直接的には何にもつながらない)。フェイスブックからアゴラへの転載を一部許可しているのも、偶然何かにつながればいいかな、という軽い気持ちからです。

それらの複数のメディアへのアクセスをこのブログで一括して行うポータルとしての機能を高めたいところです。

『中東協力センター』への寄稿がかなり溜まったので、この間の中東の変化を振り返る意味も込めて、リストにしてリンクを貼っておきます。何回かは、刊行された時にブログで告知をするのを怠っていました。そもそも2013年まではブログも存在しなかったわけですし。全て無料でダウンロードできます。また中東協力センターのウェブサイトのJCCMEライブラリーには他の論稿も一覧になっており、ダウンロードできます。

「『アラブの春』後の中東政治」
第1回「池内恵「エジプトの大統領選挙と「管理された民主化」『中東協力センターニュース』2012年6/7月号、41-47頁
第2回「政軍関係の再編が新体制移行への難関──エジプト・イエメン・リビア」『中東協力センターニュース』2012年10/11月号、44-50頁
第3回「『政治的ツナミ』を越えて─湾岸産油国の対応とその帰結─」『中東協力センターニュース』2013年4/5月号、60-67頁
第4回「アラブの君主制はなぜ持続してきたのか」『中東協力センターニュース』2013年6/7月号、53-58頁
第5回「エジプト暫定政権のネオ・ナセル主義」『中東協力センターニュース』2013年10/11月号、61-68頁
第6回「エジプトとチュニジア──何が立憲プロセスの成否を分けたのか」『中東協力センターニュース』2014年2/3月号、74-79頁
第7回「急転するイラク情勢において留意すべき12のポイント」『中東協力センターニュース』2014年6/7月号、67−75頁
第8回「中東新秩序の萌芽はどこにあるのか 『アラブの春』が一巡した後に」『中東協力センターニュース』2014年10/11月号、46−51頁

「中東 混沌の中の秩序」
第1回「中東情勢を読み解く7つのベクトル」『中東協力センターニュース』2015年4月号、8−16頁
第2回「4つの内戦の構図と波及の方向」『中東協力センターニュース』2015年7月号、12−19頁
第3回「ロシアの軍事介入による『シリアをめぐる闘争』の激化」『中東協力センターニュース』2015年10月号、10−17頁
第4回「サウジ・イラン関係の緊張 背景と見通し」『中東協力センターニュース』2015年1月号、14−25頁
第5回「エジプト・サウジのティラン海峡二島『返還』合意―紅海沿岸地域の安全保障体制に向けて―」『中東協力センターニュース』2016年4月号、9−20頁
第6回「ラマダーン月のテロ続発の思想・戦術的背景」『中東協力センターニュース』2016年7月号、14−22頁

【寄稿】ラマダーン月のテロについて、宗教的背景と論点整理を『中東協力センターニュース』に

2週間ほどブログの更新を休んでおりました。ドイツから南仏にかけて、じっくり考えながら動いておりましたので、ネットの繋がりも悪く、時間もなく。地図シリーズ、毎日更新していたのが途絶えてしまいましたが、そのうち再開します。まずは論文を優先ですね。

その間に出版されていた成果を順次アップしていきます。まずはこの一本。

池内恵「ラマダーン月のテロ続発の思想・戦術的背景」(連載「中東 混沌の中の秩序」第6回)『中東協力センターニュース』2016年7月号、14−22頁

ダイレクトリンクはこちら

イスラーム教の断食月であるラマダーン月は、今年は7月5日に終わりましたが、この時期にテロへの扇動がなされ、実際にテロが相次ぎました。日本での一般的な印象や言説として、「敬虔さが増す断食月になぜテロをやるのか」という議論がありますが、異なる宗教規範の元では、断食が課されているということと異教徒・背教者との戦闘行為への熱が一部で高まることとは矛盾しない場合があります。事件に関する基礎的事実関係を整理しつつ、そのあたりの議論の混乱の解消を試みたもので、ぜひ読んでみてください。

ラマダーン月の終わりとともにテロの連鎖が終わるのではなく、むしろラマダーン月のテロ続発に触発されたのか、7月後半には特にドイツやフランスでテロが続きました。私の西欧滞在中にローン・ウルフ型のテロが西欧でピークに達した感がありました。

【寄稿】『週刊エコノミスト』の読書日記でサイクス=ピコ協定周辺の歴史書を

昨日発売の『週刊エコノミスト』の読書日記欄、当番が回ってきておりました。


『週刊エコノミスト』2016年 5月24日号(5月16日発売)

読書日記の締め切りが連休前で、ちょうど近刊『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』の最終段階の編集・執筆と重なって修羅場だったので、これに関する歴史書を挙げました。どれを選んだかは、雑誌を手に取ってご覧ください。(毎回のことですが、この連載は電子版には掲載されていません)

池内恵「100年前の密約 中東混乱の源を探る」『週刊エコノミスト』2016年 5月24日号(5月16日発売)、61頁

1916年の英・仏のサイクス=ピコ協定はロシアも同意していたのだが、1917年のロシア革命でボルシェビキ政権が誕生し、プロパガンダ戦の中で旧政権の外交文書を続々ばらしてしまった。そこに含まれていたことでサイクス=ピコ協定が悪名高い文書になった、といった小ネタを紹介。といってもこれは現代のウィキリークスとかパナマ文書と同様の話で、やはり100年たってもう一度時代の変わり目が来ているのかなと。

そう思っていたら、ちょうどこの号の特集はパナマ文書だった

【寄稿】先週発売の『週刊エコノミスト』に読書日記が

ここのところしばらく、極力インターネットから遠ざかって論文を書いていました。

ここのところ頭を悩ませてきた難題は、インターネットの影響による個々人の態度の変化が、実際に各国の個別の文脈でどのように社会運動や政治変動につながるか(つながらないか)、というものでした。逆接的ですが、オンラインの影響について徹底的に考えるには、どこかでオフラインに引きこもる必要があるようです。オンラインでの情報収集や発信はもちろん重要なのですが。引きこもって論文を書く際にも、データベースからダウンロードした大量の論文を参照しているのですが、ここでさらにその先を調べようとネットに繋がってしまうと、気が散るんですよね。

そして、研究テーマそのものに関しても、オンラインでの「盛り上がり」がオフラインでの現実にどう反映されるかは、かなり複雑な、各国によって異なる条件・文脈が関係しているようです。そのことをオフラインの状態でずっと考えていました。ややこしいパズルを解いています。しかしこのあたりが地域研究と政治学を思想史と絡めながらやっていることで見つかる面白いところです。

そうこうしているうちに、気がつけば、先日事前にちらっとお知らせしていた、『週刊エコノミスト』でやっている読書日記の連載第14回が出ていました。


エコノミスト 2015年 9/8 号 [雑誌]

しまったもう次の号が今日あたりに出てしまっている。私の連載ページは、週刊エコノミストの電子版(Kindle等)には載っていないので、現物が手に入らなくなるとそれっきりです。

アマゾンなら現物が買えそうです。今回は逃避効果なのか、楽しく勢いよく書けたので、忙しい方の暇つぶしにぜひ。

池内恵「中東から逃避するための大人の夢物語」『週刊エコノミスト』2015年9月8日号(8月31日発売)、57頁

先日のエントリ(「逃避の書」)でも書きましたが、取り上げたのはこの本です。


イエメンで鮭釣りを (エクス・リブリス)

・・・アマゾンでは新品がなくなっている。多分一時的に在庫が切れただけだと思うんですけれど・・・白水社の在庫を調べている時間がない。たぶんあります。ご関心のある向きは紀伊国屋書店や丸善・ジュンク堂などで検索してみると良いのでは。

読書日記の一部を引用すると、

「しかし問題はすでに末端部局の判断を超えていた。中東問題で成果を出し、メディアの注目を集めたい首相が、外務大臣も差し置いて、この案に飛びついた。「イエメンで鮭釣りを」が国家的プロジェクトに膨らんで、その実現が、キャリア・ウーマンの妻にも馬鹿にされているしょぼくれた中年窓際学者の肩にかかってしまったのだ。どうする?行く手には、立ちはだかる難題だけでなく、婚約者がイランで消息を絶った傷心の美女も現れて・・・」

・・・と映画配給会社の宣伝部員がチラシ用にやっつけで書いたような文体を意図して使っています。意図しなくてもそうなってしまったのかもしれません。なにしろ忙しいもんで。

逃避の書

本書いております。おかげでこのブログにはなかなか帰ってこれません。

最近はニュース解説は『フォーサイト』の「中東通信」でやっております。

英語のままでよければこの画面にも埋め込まれているツイッター@chutoislamでリツイートする記事をご覧ください。

しかし重要な仕事をすればするほど、逃避が捗るね。この夏ずっと、自分に課した幾つかの本を書き続けているのだが、この間に逃避した時間と労力ときたら。それだけで本が一冊書けそうだ。いや、逃避しながらも頭はしっかり原稿の方に残って、バックグラウンドで作業しているんだけどね。

今も、すぐに原稿に戻らねばならない(というか疲れて眠くて微熱あるorz)。

今月に入ってから幾つか出た刊行物の紹介もままならぬのですが、連載していて落とせない書評原稿を先ほど一瞬で書きましたんで、二週間ぐらいしたら出ますが、書評が出る前に、取り上げた本だけ紹介しておきます。ちょっと前に出た本ですが、まだ売っています。アマゾンでは1冊しか残ってないぞ。


ポール・トーディ『イエメンで鮭釣りを』(白水社)

これは英国の、大人のお伽話。

この本のテーマは「逃避」だと思う。そう思う理由を、書評原稿で書きましたので、二週間後に読んでみてください。出たらまたここで通知します。

2011年に映画にもなっています。日本では2012年暮れに公開(邦題は『砂漠でサーモン・フィッシング』)。ユアン・マグレガー主演。よく覚えていないが、日本ではあまりヒットしなかったと思う。英国的含意が伝わりにくいのだと思う。話が分かれば、楽しめます。


『砂漠でサーモン・フィッシング (Blu-ray)』

映画もいいんですけど、本では、映画には絶対にできない部分、つまり「文体」と「形式」で読ませている。この本は全編、業務メールとか首相のテレビ・インタビューの文字起こしとか、やたらと辛辣な英国新聞の記事とか、生真面目な釣り専門誌の記事とか、傍受されたアル=カーイダ構成員のメールとか、主人公の日記とか、いろいろな「文書」で成り立っている。それぞれの形式の文書のいかにもありそうな文体と形式をうまく真似して書いている、というところで楽しませる。

業務でメールや報告書を書いたことがある人には、いっそう楽しめると思います。

それなので、英語の電子メールの書き方(のパロディ)とかを知るために、原書で読んでもいいだろう。


Paul Torday, Salmon Fishing in the Yemen, 2007.

業務メールを書くのは苦痛でも、業務メールの形式で嘘話とか書くのは捗ったりする。そんなお遊びの延長で書かれたような、そんな小説。英国でベストセラーになりました。

文体・形式に凝った嘘話、という意味では、BBCの大ヒット・コメディ『イエス・プライム・ミニスター』などともテイストが似ている。

書籍版は単なるノベライズではなく、議事録とか行政文書の形式で楽しませる。冗談は細部に宿る。

いずれもおすすめ。

逃避してしまった。

『フォーサイト』で「中東通信」を開始しました

新潮社の『フォーサイト』(ウェブ版)で、中東のニュースや、中東やイスラーム世界をめぐる論評などをリツイートして日本語で短く解説を加える「池内恵の中東通信」を始めました。

こんな感じのツイッター的な窓が『フォーサイト』の画面に表示されるようになりました。

中東通信

まだ開設したばかりですので無料ですが、そのうち有料購読者のみが読めるようになります。

『フォーサイト』の「中東通信」の窓には、常時最新3つの記事の冒頭が表示されます。クリックすると簡易ブログ風の画面に移り、記事の全体がそれまでの記事と一緒に、読めます

連載「中東 危機の震源を読む」も、「中東の部屋」も、続けますが、それらの枠でまとまった論考や分析を寄稿する時間的余裕がない時にも、「中東通信」の枠で、ニュースの転送と要約・解説ぐらいはできるかもしれません。

実はトップページだけでなく、他の記事を読んでいても画面右横に固定で「中東通信」の窓が表示されるので、私の記事が目当てでない読者にも、どこまで読んでも私のこの窓と私の顔写真がついてくる仕様になっておりまして、不愉快な方は、ご容赦ください。

新幹線の車両の端にあるフラッシュニュースの電光掲示板や、ブログなどに設定されているツイッターの表示画面のようにして、リアルタイムで情報が頻繁に更新されるようにすると、月刊誌ぐらいのペースでの記事が載ることが多い『フォーサイト』に、「動き」が出るような気がいたします。

私が手動でやるので、私が稼働していて手が空いている時しか更新されません。ニュースのチェックは毎日行っていることなので、備忘録的にやってみようかと思います。ツイッターやフェイスブックだと、備忘録のつもりで発信しても、後から検索するのが大変で結局備忘録にならないなどといった結果に終わりがちです。

どのツールも一長一短ですね。今回の「中東通信」は、最大限私に使いやすいように設計してくれていますが、それでもツイッターやフェイスブックに比べたら手間がかかります。

なお、この「中東・イスラーム学の風姿花伝」でも画面の右横に(PCで見ている場合は)ツイッター@chutoislamのツイートがリアルタイム表示されていますが、『フォーサイト』で始めたのは、これの日本語版とお考えください。

@chutoislamでは基本的に全く解説を加えておりません。外国語の記事をそのままリツイートするだけです。そのため、私にとっては、電車に乗っている時などに手軽にでき、速報性や頻度を高められますが、これだと英語やアラビア語を読めない人にはアクセスがしにくくなります。

それで、少し手間をかけて、日本語でツイッター的な体裁で、中東記事の要約と解説を行う実験を、『フォーサイト』で始めてみようと考えた次第です。より手間がかかるので、さすがにこれは有料にしないといけません。

無料期間のうちにお試しになって、有用ならご購読を。

【寄稿】『週刊エコノミスト』の読書日記、ついでに資源安で商社は、重信房子の出身校など

本日発売です。

池内恵「世間が関心を持つと本質は見えなくなる」『週刊エコノミスト』2015年6月23日号(第93巻第25号・通巻4402号、6月15日発売)、57頁

『週刊エコノミスト』の読書日記連載も12回目になりました。先日このブログでお伝えしましたように、今回は開沼博さんの『はじめての福島学』(イースト・プレス、2015年)併せて著者の最初の本『「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか』(青土社、2011年)

なお今回も電子版には収録されていません。


『エコノミスト』2015年 6/23 号

今回の特集は「商社の下克上」だそうで。

資源価格の低下は中東の産油国にも影響を与えるけれども、日本の商社にも影響を与えるのですね。

私はあんまり熱心に読んでないが「名門高校の校風と人脈」という連載があって、それなりに歴史のある高校の有名な卒業生を列挙しているのだが、今回は「都立第一商業」。

重信房子がここの卒業生だそうだ。

紹介文によれば「日本では犯罪者だが、アラブ世界では英雄視されている」という。間違いではないが、これは多分に日本側に流布している言説で、あちらのパレスチナ・ゲリラ筋の間で日本と関わりがある人が義理で「重信房子」の名前を言及するかもしれないが、一般的には誰も知らない。そもそもパレスチナのゲリラの非主流派の組織や人物のことを、アラブ世界の人々の大多数は忘れている。

東西冷戦が激しかった頃の日本と欧米の言説空間の中で「重信房子」幻想が生まれただけで、あまりアラブ世界の現実政治にも社会にも関係がなかった。日本との接点がなさすぎるので微かな接点ということで重信房子は取り上げられるけれども、基本は日本側の幻想・神話であると思った方がいい。

ただ、最近暇つぶしに(暇じゃないが逃避で)、「重信房子」幻想が炸裂している1970年代〜80年代前半の娯楽小説を1円とか100円とかで買ってきて読んでいるのでそのうちご紹介したい。〜くだらなくて脳みそが溶けそうになります〜

ちなみに『週刊エコノミスト』の記事では重信房子は辛淑玉と並べられていた。

【寄稿】『週刊エコノミスト』の読書日記(11)は「新しい中世」を読む2冊


『週刊エコノミスト』の読書日記第11回は、田中明彦『新しい「中世」―21世紀の世界システム』(日本経済新聞社、1996年)、そしてヘドリー・ブル『国際社会論―アナーキカル・ソサイエティ』(岩波書店、2000年)を取り上げました。読みどころの引用なども。

池内恵「混沌の国際社会に秩序を見出す古典」『週刊エコノミスト』2015年5月19日号(5月11日発売)、55頁

今回も、電子書籍版には掲載されていません。紙版があるうちにお買い求めください。

この書評連載の全体の趣旨については、以前に長〜く書いたことがあるので、ご参照ください。

「『週刊エコノミスト』の読書日記は、いったい何のために書いているのか、について」(2014/10/01)

この二つの古典的名作が、いずれも絶版になっている点をフェイスブックで問題提起したところ【田中明彦】【ヘドリー・ブル】、アマゾンでは瞬時に中古が売れ払ってしまい、高額なものが出品されるようになりました・・・

中古市場の形成を促した、あるいは再刊・ロングテール市場の必要性を問題提起したとお考えください。数百円で買えた方々はラッキーということで。多少線を引いてあろうが、手元に置いて読めるだけで今や絶大な効用ですよ。先日紹介したイブン・ハルドゥーン『歴史序説』だって、手元に置いていつでも読めるか読めないかで、人生の豊かさは違うだろう。中東を見るときにものの見方が全く変わってくるだろう。

『歴史序説』はそのうち少部数増刷するかもしれないが、それまでの間の時間は大きい。

『週刊エコノミスト』の読書日記(10)不寛容への寛容はあるのかーーキムリッカ『多文化時代の市民権』を読み直す

『週刊エコノミスト』の読書日記の第10回が出ました。

すでに3月30日(月)に発売されています。今回も、電子版には掲載されておりません。

池内恵「不寛容への寛容はありうるか」『週刊エコノミスト』2015年4月7日号(3月30日発売)

取り上げたのは、ウィル・キムリッカ『多文化時代の市民権―マイノリティの権利と自由主義』(角田猛之・山崎康仕・石山 文彦訳、晃洋書房、1998年)です。

自由主義的な社会の中で少数派や移民の固有の文化・価値規範を尊重するためには、同時に、自由主義社会として、受け入れ可能な「異文化」の規範の限界はどこにあるかも示しておかなければならない。「不寛容への寛容」は自由主義社会を掘り崩し、寛容そのものを不可能にする。キムリッカの本を紐解けば、きちんとその部分を書いてある。

誰がどう考えても行き着く結論をとことん考え抜いておくことが政治哲学。

1990年代の英米圏の政治哲学が、いわゆる「フランス現代思想」と大きく異なるのは、言葉遊びではなく、実際に国際社会に生じる問題をどう調整するかという、実践的な問題に取り組んだこと。それは良くも悪くも英米圏が「米による単極支配」の中心に位置し、国際社会に生じてくる問題を最先端で認識し、取り組む主体としての意識を持っていたからだろう。

そのことは、フランスの「現代思想家」の、少なくともそれまで知識人の間の流行の先端にいた人たちが、国力の低下とともに(あるいはマルクス主義の失墜とともに)、世界を主導する責任感を失っていった(要するにスネちゃった)ことと対照的だ。フランスの知識人は普遍主義を掲げながら、反米なら非リベラルな思想も造反有理で歓迎、という方向にしばしば流れてしまう。世界に普遍的に出てくるアンチ・グローバリズムの尻馬に乗ってそこで指導性を発揮しようとするという意味での「普遍性」にしばしば堕している。英米が支える「欧米」の優位な地位にはただ乗りしながら、「反米」で第三世界にもウケようとするところがなんとも嫌な感じである。まあそういうところがイスラーム主義過激派などからも見透かされて、今やアメリカ以上に敵にされてしまっているわけだが・・・

(↑ ちゃんとした思想家もいるんだろうが、日本で紹介されたり振りかざされたりする「フランス現代思想家」はえらく頼りない人達ばっかりだぞ。もっと頼れる人たちをどんどん紹介してください)

キムリッカの次作の『土着語の政治: ナショナリズム・多文化主義・シティズンシップ』(岡崎晴輝・施光恒・竹島博之監訳・栗田佳泰・森敦嗣・白川俊介訳、法政大学出版局、2012年)も検討した。

しかし、カナダの事例が基礎になるので話が高度すぎるので、他の国について考えるときにはあまり参考にならない。カナダの場合、欧米系の複数の文化・言語集団が土着(先住民の問題をよそにおけば)の多数派と少数派として存在している上に、さらに新たに多様な民族・宗教的背景の移民を受け入れている。欧米系のホスト社会の中の多数派と少数派の間の関係をめぐる問題を検討した上で、多数派と少数派の両方のナショナリズムの存立しうる余地を検討した上で、新たな移民のナショナリズムをどうするか、といったカナダなどに固有の複雑な話になっているので、汎用性は『多文化時代の市民権』の方が高いと判断して、昔の本を書評しました。

【年度が変わっても連載は継続のようです。11回目以降もご期待ください】

『週刊エコノミスト』の読書日記(9)は政教分離の思想史

今年の1月以来、リアルタイムの情報発信にはフェイスブック(https://www.facebook.com/satoshi.ikeuchi)を多用していますが、このブログも今後も引き続き活用していきたいと思います。中東に関する記事の断片的な紹介などはフェイスブックの方に回し、ブログでは従来からの情報のストック・データベース構築の場としての意味を一層強めたいと考えています。

次の本の完成のために限界まで執筆作業をしており、なかなかブログにまで手が回りませんが、一旦緩急あれば、公的な発言の定式版はやはりこのブログに掲載することになりそうです。

さて今回はこのブログの基本モードの「最近の寄稿」の記録。

ちょっと連絡が遅れましたが、5号に1回のペースで連載中の『週刊エコノミスト』の「読書日記」も、もう9回目になりました。(連載の立ち上がりから5回目までをまとめた項目はこちら「新書」についてぼやいた回はこちら前回の待鳥聡史『首相政治の制度分析』についてはこちら

『週刊エコノミスト』2015年3月3日号(2月23日発売)表紙

池内恵「日本で理解されない政教分離の思想」『週刊エコノミスト』2015年3月3日号(2月23日発売)、75頁

今回も電子版・Kindle等では読めません。

バックナンバーがなくなって中古になると値が上がりますのでご注意。