逃避の書

本書いております。おかげでこのブログにはなかなか帰ってこれません。

最近はニュース解説は『フォーサイト』の「中東通信」でやっております。

英語のままでよければこの画面にも埋め込まれているツイッター@chutoislamでリツイートする記事をご覧ください。

しかし重要な仕事をすればするほど、逃避が捗るね。この夏ずっと、自分に課した幾つかの本を書き続けているのだが、この間に逃避した時間と労力ときたら。それだけで本が一冊書けそうだ。いや、逃避しながらも頭はしっかり原稿の方に残って、バックグラウンドで作業しているんだけどね。

今も、すぐに原稿に戻らねばならない(というか疲れて眠くて微熱あるorz)。

今月に入ってから幾つか出た刊行物の紹介もままならぬのですが、連載していて落とせない書評原稿を先ほど一瞬で書きましたんで、二週間ぐらいしたら出ますが、書評が出る前に、取り上げた本だけ紹介しておきます。ちょっと前に出た本ですが、まだ売っています。アマゾンでは1冊しか残ってないぞ。


ポール・トーディ『イエメンで鮭釣りを』(白水社)

これは英国の、大人のお伽話。

この本のテーマは「逃避」だと思う。そう思う理由を、書評原稿で書きましたので、二週間後に読んでみてください。出たらまたここで通知します。

2011年に映画にもなっています。日本では2012年暮れに公開(邦題は『砂漠でサーモン・フィッシング』)。ユアン・マグレガー主演。よく覚えていないが、日本ではあまりヒットしなかったと思う。英国的含意が伝わりにくいのだと思う。話が分かれば、楽しめます。


『砂漠でサーモン・フィッシング (Blu-ray)』

映画もいいんですけど、本では、映画には絶対にできない部分、つまり「文体」と「形式」で読ませている。この本は全編、業務メールとか首相のテレビ・インタビューの文字起こしとか、やたらと辛辣な英国新聞の記事とか、生真面目な釣り専門誌の記事とか、傍受されたアル=カーイダ構成員のメールとか、主人公の日記とか、いろいろな「文書」で成り立っている。それぞれの形式の文書のいかにもありそうな文体と形式をうまく真似して書いている、というところで楽しませる。

業務でメールや報告書を書いたことがある人には、いっそう楽しめると思います。

それなので、英語の電子メールの書き方(のパロディ)とかを知るために、原書で読んでもいいだろう。


Paul Torday, Salmon Fishing in the Yemen, 2007.

業務メールを書くのは苦痛でも、業務メールの形式で嘘話とか書くのは捗ったりする。そんなお遊びの延長で書かれたような、そんな小説。英国でベストセラーになりました。

文体・形式に凝った嘘話、という意味では、BBCの大ヒット・コメディ『イエス・プライム・ミニスター』などともテイストが似ている。

書籍版は単なるノベライズではなく、議事録とか行政文書の形式で楽しませる。冗談は細部に宿る。

いずれもおすすめ。

逃避してしまった。