【寄稿】安全保障貿易情報センターの『CISTECジャーナル』にトランプ時代の中東について

寄稿しました。

一般財団法人安全保障貿易情報センターの『CISTECジャーナル』3月号に、トランプ時代の中東国際秩序について、大まかな見取り図を記してみました。

池内恵「トランプ政権と中東秩序の再編」『CISTECジャーナル』2018年3月号・通巻174号, 111-116頁

ウェブからも読めますが、会員企業のみ、と思われます。

私の論考はともかく、輸出規制に引っかかりそうな品目と相手国との貿易をされている方は、ぜひ入会をご検討ください(ここでは冗談ですが、真面目な話でもあります)。

安全保障貿易情報センターは、3月17日に研究大会に招聘いただいた、日本安全保障貿易学会の事務局になっており、この『CISTECジャーナル』への寄稿も、学会発表の論文の事前草稿のようなつもりで起稿しました。こういった機会に刺激を受けて、少しずつ考えを深めていきます。

3月17日の研究大会では、第1セッションの「日本の安全保障貿易管理の30年」も聴講させていただいたのですが、安全保障貿易管理について政治・制度・学術研究の三つの方面から、発端と発展の経緯を、その道の大家が振り返ってくださる、門外漢にとって非常に蒙を啓かされるものでした。自分の専門分野の成果を持ち寄り、代わりにこういった別の分野の深い専門知識を持った方々から知見を分けてもらえるこのような機会に、学問をやっていてよかったと思います。

【寄稿】ウィルソン・センターのアラムナイ・ページにコメントが掲載

2009年に研究員として滞在したワシントンDC のウッドロー・ウィルソン国際学術センター(Woodrow Wilson International Center for Scholars)が最近立ち上げた、元研究員の同窓会ネットワーク(Alumni Network)の ブログ(Alumni Spotlight)に、コメントが掲載されていました。

“Satoshi Ikeuchi: Impact of the Islamic State and Global Jihadism,” Alumni Spotlight, October 23, 2017. 

2009年後半にウッドロー・ウィルソン・センターに所属して、支給される滞在費(月額を日本円にすると、これまで給料としてもらったことがないような結構な額なのですが)の大部分を費やして、ど真ん中、議会図書館と最高裁判所の裏に陣取り、ワシントンの政策決定の動き方、政策のアイデア競争を支えるシンクタンクとその背後の党派や資金源などをつぶさに観察する機会がありました。

ウィルソン・センターは50周年。大学ともシンクタンクとも違う、米国の政治と学術をつなぐ、類似したもののない独特の制度として定着しています。

2009年の滞在時の経験は、2011年初頭に勃発した「アラブの春」、その後の民主化の試みやムスリム同胞団の台頭、そして「イスラーム国」の出現などに際して、中東の現地の動きだけでなく、米国の反応をよりいっそう仔細に見極めなければならなくなった時に、大いに役に立ちました。「米国の中東・イスラーム政策」が、私のその後の継続的な研究テーマにもなっています。ある程度ながくやっていると、私があるテーマに取り組んで何かをするというよりは、テーマの方が私のことを助けてくれるような、そんな気になることがあります。

2007年だったでしょうか、私を米国に呼びたいとおっしゃる方、お世話してくださる方がいて、いろいろ工夫していただいたことで、ニューヨークとワシントンDCをかなりゆったり回って見聞を深め、ワシントンDCではジョンズ・ホプキンスのSAISに短期間ですが籍を置いたことにしてもらって調査して発表したり、大使館から、DCの学生たちまでの、さまざまな人たちに会うこともできました。

その後、2009年の夏いっぱいを、これまたどなたかが推薦してくださったようで、米国のアスペン研究所(The Aspen Institute)の年に一度の大きなイベントであるAspen Ideas FestivalSocrates Program Seminarに、若い学者・実務家の卵が推薦されて来るAspen Ideas Festival Scholarとして招待していただいて(今どういうプログラムになっているか知りませんが、当時は、ビジネスクラスのチケットが送られてきて、ホテルも会場の一番いいところに用意されていて、高額の参加費は全額免除、義務は、スカラーのリストプロフィールがプログラムに記載され、名札に小さくスカラーと書かれて、会場の好きなところをウロウロしていていろいろなセッションを傍聴して積極的に発言し、議論をふっかけて来る参加者がいたら相手する、という感じのものだったので、最高に恵まれていましたね)、政治家・官僚・学者・ジャーナリストが非公式に意見をすり合わせるための場の設定について、体感したことも、ウィルソン・センターでの調査に先立つ、目を開かせる体験であり、アメリカでの公的な議論の仕方に馴染むための、絶好のイントロダクションとなりました。

ウィルソン・センターやアスペン研究所やSAISなどへの訪問・在籍の機会は、ほとんど(あるいは全く)会ったこともない方々の推薦や尽力があって実現してきたものでした。「池内は中東だけではなく米国もやるといい」という、かなり多くの人たちの後押し、導きがあって、米国の最良の部分に触れられたことは、私の研究にいろいろな形で影響を及ぼしています。

それらの経験を栄養として成果を出し、世の中一般に向けて発表することが、どこかで私の仕事に目を留めてくださって、機会を与えようと取り計らってくださった方々への恩返しと考えています。

【寄稿】東大出版会の『UP』3月号に、「シーア派とスンニ派」および宗派主義の政治について

寄稿しました。

池内恵「中東の紛争は『シーア派とスンニ派の対立』なのか? 宗派主義という課題」『UP』第47巻第3号・通巻545号、東京大学出版会、2018年3月、40−46頁

「中東問題はシーア派とスンニ派の宗派対立である」と、よく言われますが、それは本当なのか。どの部分で本当で、どの部分では本当ではないのか。イラク戦争後のイラク新体制をめぐる紛争と、「アラブの春」後の中東諸国の混乱で、「シーア派とスンニ派の対立」「宗派対立」といった言葉は人口に膾炙するようになりましたが、実態はどうなのか。より適切な分析概念は何なのか。考察しました。

これは次に出る私の本の主題でもあります。

また、この論考は、「文献案内」として、大学の授業などで中東の近年の政治について考えていく際の、副読本のように用いることができるように工夫してあります。「アラブの春」後の政治変動をめぐる文献を、(1)大規模デモによる社会からの異議申し立ての原因や効果、(2)統治する側に回ったイスラーム主義勢力、(3)政軍関係、(4)国際的介入、などに分類して紹介した上で、近年の動向として、(5)宗派主義論の研究が多く現れていることを示してあります。中東について、最新の研究動向を追いながら現実を見ていくようなタイプの授業の、副読本、文献案内となるように考えて書いた論考です。

大学が変化していく中で、必ずしも各教員が自分の専門分野そのものだけを教えるのではなく、変化するニーズに応えて授業をしていくという傾向がある中で、中東現代政治を、大学の教養課程で、今では容易に手に入る英語文献に取り組みながら、勉強していけるための道しるべとして書いてみました。

【学会報告】3月17日に日本安全保障貿易学会で中東秩序の再編について

学会報告の予定の通知です。同志社大学で行われる、日本安全保障貿易学会25回研究大会で、トランプ時代の中東地域の構造変容について大きな見取り図を出してみたいと思います。

池内恵「トランプ政権と中東秩序の再編」日本安全保障貿易学会・第25回研究大会・第2セッション「中東情勢及び中東に対する輸出管理」2018年3月17日(同志社大学室町キャンパス)【プログラム

これが今年度の学会報告としては最後になりそうです。

2017年度は各学会の共通論題パネル(「シンポジウム」等の呼び名がそれぞれ違いますが)での報告の依頼が、集中的に舞い込みました【学会報告の一覧はこちら(日本語のもののみ)】。ほとんど毎週末のようにどこかの学会で報告していたような時期もありました。これまでの研究をまとめる良い機会と考え、お引き受けして精一杯務めさせていただきましたが、報告が終わると今度は学会誌への論文投稿が待っており、そこで苦労しているのが現在です。出口が見えつつありますが・・・

与えられた共通論題のテーマに沿わせて私の関心事項や懸案の課題についてまとめて発表したのですが、メディアの変化がイスラーム法の解釈の制度に及ぼす影響について(宗教法学会)、イスラーム思想とリベラリズムの関係をめぐるもの(政治思想学会、日本社会思想史学会、日本ピューリタニズム学会)といった、少しずつ重なり合ったテーマに取り組むことになりました。これらをそれぞれの学会誌の性質に合わせて論文として構成し直しております。これらが、全体として、私の研究を前に進めるものとなればいいのですが。

これ以外に、日本国際政治学会や戦略研究学会では自ら応募して、ジハードの国際政治や中東の戦略環境の変化について報告しました。これらも近く学会誌などに論文として投稿する予定です。

(年度末までにアンカラのシンポジウムで英語での報告の予定がありますが、これらを総合したような内容になりそうです)。

【寄稿】『季刊アラブ』に、アラブ政治の「啓蒙専制君主」へのトレンドについて

日本アラブ協会が発行する『季刊アラブ』の新年号の巻頭に寄稿しました。特集「2018 中東情勢を読む」の一部です。

池内恵「『啓蒙専制君主』の時代に『イスラーム国』消滅後の中東」『季刊アラブ』2018年冬号, No. 162, 2−4頁

エジプトのスィースィー大統領やサウジアラビアのムハンマド皇太子が、独裁的な統治手法を用いるのと同時に、宗教面での自由化や改革を唱導する趨勢について、それがアラブ世界の政治社会と規範理念の根本的な変化をもたらすのか否か、検討するための歴史・思想的枠組みについて考えてみました。この問題は引き続き要検討、といったところです。アラブ諸国の現実を見る際に一つの検討要素として欠かせないところと思います。

【寄稿】トランプ大統領のエルサレム首都認定宣言について

寄稿しました。

池内恵「米トランプ大統領のエルサレム首都認定宣言」『中東協力センターニュース』2018年1月号, 1−7頁

2017年12月6日のトランプ大統領によるエルサレム首都認定宣言のテキストを、それ以前の米大統領の仲介姿勢と比較して、どこが変わってどこが変わっていないか、まとめておきました。その後の展開についてはまた別の論考で分析していきます。

『PHPグローバル・リスク分析』の英語概要

昨年末に発表した『2018年版PHPグローバル・リスク分析』ですが、各種専門家の間で大変好評だったのですが、「これは英語版も出した方が良い」というご要望がこれまでになく強く寄せられました。これもご時世でしょうか。

元来がこの企画は、英語圏でいくつもこういった年頭のリスク分析・予測が行われているのに対して、「日本にとっての」リスクという観点から独自に日本社会に向けて発信するという趣向なので、英語版は発信していませんでした。

しかし日本からはこのように見えているということを発信しておくことにも意味はあるかと思います。PHP総研が追加の投資を行なって、概要の英語版を作成し、ウェブサイトで公開してくれました。英語版の監修も参加した分析者たちが行なっています。

英語版のダウンロードはこちらから

【寄稿】今年も『PHPグローバル・リスク分析』に参加

本日発表されました。

『2018年版PHPグローバル・リスク分析』

これに執筆者として参加しました。

この分析レポートは合議によって作成されているため、どの部分を誰が特に執筆分担したかは公開されておらず、またどの部分にも実際複数の人の手が入っています。所属先との関係で名前を出せない人も含めて多くの専門家が参加しています。

とはいえ私が特に関与していそうなところは10のうち二つぐらいでしょうかね。

今年取り上げた10のリスク源は、こんな感じになっております。

報告書PDFへの直接リンク

Global Risks 2018
1.「支持者ファースト」のトランプ大統領が溶解させるリベラル国際秩序
2.中国が主導する新たな国際秩序形成の本格化
3.全世界で顕在化するロシアの多極化攻勢
4.米朝中露四カ国協議成立により核クラブ入りする北朝鮮
5.サウジの「暴走」が引き金を引く中東秩序の再編
6.欧州分断の波がBREXITから大陸へ
7.米国の関与後退でラ米に伸びる中国「一帯一路」構想
8.高まる脅威に追いつけない産業分野におけるサイバー防衛地盤沈下
9.離散IS戦闘員のプランナー化とドローン活用でバージョンアップするテロ脅威
10.「EVシフト」のインパクトが書き換える自動車産業地図

また、これらの10のリスクに関する分析に加え、その前に世界地図を俯瞰したリスクの地勢図やオーバービューがあり、リスクに関わる話題にふれたコラムも取り混ぜられています。例えば流行りのフィンテックについても。

そのためレポートの全体構成は次のようになっています。

<目次>
はじめに
リスク俯瞰世界地図
グローバル・オーバービュー
グローバル・リスク2018
【コラム】「慢心」の中で、米国市場に蓄積される「買われ過ぎリスク」
【コラム】FinTechによる「闇の中央銀行」の出現

2013年以来、毎年秋から年末にかけてこのプロジェクトに参加させてもらって勉強しております。年々日程の厳しさが増しますね。

過去のものについては次のエントリからどうぞ。【2014年版】【2015年版】【2016年版】【2017年版

【テレビ出演】12月22日、今年最後の「国際政治チャンネル(仮)」に出演

たまには事前にブログで告知しておきましょう。

12月22日(金)夜8時から、ニコニコ生放送の「国際政治チャンネル(仮)」に出演します。この番組の最初の回に出演したメンバーのうち細谷さんと私が、そして今回またも有力な国際政治学者をゲストに獲得することができました。アメリカ政治・思想研究の中山俊宏さんです。

こうなるともう、トランプ政権の劇的な疲れる1年を振り返り、最近のエルサレム首都承認問題についても熱く語るしかないのでしょうか。

この番組はなんの契約もなくただ慣例で一定の間隔で呼んでいただいているというフレキシブルな形式ですので、ゲストに来ていただくとそのまま準レギュラー扱いとなります(おそらく)。

今気づいたのですが、#15となっているように、このチャンネルを開設してから15回目ということのようです。それ以前にあったモーリー・ロバートソンのチャンネルを、モーリーの「卒業」以後もプロダクション会社が引き継ぎチャンネル名を改めて新たに発足し、篠田英朗先生や細谷先生などと共に私にも定期的に声をかけていただいて、続行しているものですが、早くも15回というか、まだ15回というか・・・もうずっと長くやっているような印象がありますが、今年の5月が最初だったんですね。

このチャンネルの2017年最後の放送です。以下が番組ウェブサイトの事前の番組紹介です。

国際政治チャンネル(仮)#15
「国際政治学者が振り返る2017年」
出演者:中山俊宏, 池内恵, 細谷雄一
*今回は慶應義塾大学総合政策学部教授の中山俊宏先生をお迎えしての鼎談回。
*いろいろあった2017年を振り返りながら、2018年の展望について語り合います。
*さらに細谷先生から「”番組タイトル問題”も番組中に解決してはいかがでしょうか…」とのこと。果たして!?

【ラジオ出演】ニッポン放送「ザ・ボイス」で、エルサレム問題と東京五輪のテロ対策について話しました

事後になってしまいましたが、ラジオ出演を記録しておきます。

12月13日に、ニッポン放送の「ザ・ボイス」という番組に出演しました。

この日のコメンテーターが、以前に番組に呼んでいただいて有益に議論をした異才モーリー・ロバートソンであるということと、テーマが当初は「イスラーム国」のイラク・シリアでの崩壊後のテロの拡散の可能性と、2020年東京五輪に向けて国際テロリズムの日本への波及の可能性について分析する、ということでしたので、かなり以前にお引き受けして、それなりに準備もしておき、仕事を中座して出演いたしました。

実際には12月6日のトランプ大統領のエルサレム首都承認演説についての議論が中心になりましたが、これはこれで最近かなり多くの論考を『フォーサイト』に出しておいたので、これをたたき台に有益に現状の観察を話すことができました。【YouTubeはこちら

事前のウェブサイトでの情報を記録しておきます。

ニッポン放送「ザ・ボイス そこまで言うか!」
2017年12月13日(水)午後4時−4時30分頃
コメンテーター:モーリー・ロバートソン(ジャーナリスト)
ゲスト:池内恵(東京大学先端科学技術研究センター准教授)
ISIL崩壊後の中東情勢、2020年東京オリンピックのテロリスクを分析!

番組の司会役の飯田アナウンサーのブログツイッターはこちら。

【テレビ出演】日曜夜のニュース番組「BS-TBS週刊報道Life」でエルサレム問題について

事後になってしまいますが、本日(2017年12月10日)夜9時−のBS-TBSの「週刊報道LIFE」に出演し、トランプ大統領のエルサレム首都承認について、またエルサレム問題の構造について解説しました。

この番組は元フォーサイト編集長の堤晋輔さんがレギュラー・コメンテーター出ているご縁から、同じ曜日の同時刻に同趣旨で放映されていた「週刊BS-TBS報道部」の時代から、大きな事件があった時に出演しています。

2015年1月20日に問題化した「イスラーム国」によるシリア日本人人質殺害事件については、奇しくも2月1日未明に事件の悲惨な結末が明らかになった日に(この日も日曜日でした)に、あらかじめ出演が予定されていたため、十分にスタッフとやり取りをして地図やフリップなどの準備をした上で、かつ速報性のある報道を行うことができました。

人質事件が終わった直後に、以前から予定していたチュニジア調査に行ったところ、帰ってきてから間もなくチュニスのバルドー博物館でのテロが起きたため2015年3月22日に出演、さらにパリの同時多発テロ事件に際して2015年11月15日にも出演しておりました。

エルサレム問題については、トランプのエルサレム首都承認宣言・演説に合わせて『フォーサイト』にまとめて分析を書いていました。

池内恵「トランプがエルサレムを首都承認した後に何が起こるか」『フォーサイト』(中東 危機の震源を読む 94)2017年12月6日
池内恵「トランプは演説でエルサレムと『東エルサレム』を分離できるか」『フォーサイト』(中東通信)2017年12月7日 00:45
池内恵「米国はイスラエルにトランプ演説への反応を抑制するように水面下で要請」『フォーサイト』(中東通信)2017年12月8日 01:20
池内恵「トランプのエルサレム首都承認の宣言文と演説テキストの違い」『フォーサイト』(中東通信)2017年12月8日 01:30
池内恵「トランプはエルサレム首都承認と大使館移転の意志表明した直後に大使館移転繰り延べ命令に署名」『フォーサイト』2017年12月8日 01:53
2017年12月8日 01:53
池内恵「エルサレム問題は何が『問題』なのか」『フォーサイト』(中東の部屋)2017年12月8日

番組スタッフもこれらを読み込んだ上で、地図や写真を加えて付加価値をつけてくれました。

テルアビブの米大使館を即座に移すことが可能であるはずのエルサレムの二つの総領事館の位置や、1989年のレーガン政権末期に、すなわちキリスト教福音派(エヴァンジェリカルズ)の影響が最も強かった政権の最後に、西エルサレムに大使館の候補地を事実上取得する賃貸契約を行なっている点を指摘するなど、テレビ番組としては極端に専門的な内容になりましたが、分かりやすかったというご指摘もあちこちでいただいています。

なお、番組ウェブサイト(http://www.bs-tbs.co.jp/syukanhoudou/life/)に事前に掲載された番組内容は下記の通りでした。

12月10日OA内容
トランプ大統領「エルサレムを首都」の衝撃
アメリカのトランプ大統領が中東エルサレムをイスラエルの首都と認定した。各国が反発を強めるなど、波紋が広がっている。
なぜ今、トランプ大統領は決断したのか。混迷の度が深まる今後の中東情勢は?その歴史的背景から、世界情勢に与える影響まで、専門家と読み解く。
ゲスト:池内恵(東京大学先端科学技術研究センター准教授)

【刊行】『アステイオン』30周年記念選集(全4刊+総目次)

そういえばこちらが刊行されていました。

山崎正和・田所昌幸(監修)『アステイオン創刊30周年ベスト論文選 1986-2016 冷戦後の世界と平成』(全4刊+総目次)CCCコミュニケーション, 2017年11月17日刊行

軽快なフランス装で重厚になりすぎず、しかし雑誌『アステイオン』に冷戦末期からポスト冷戦期の長い期間に移りゆく国際社会と文化に向き合った数々の論稿の粋を集めた、歴史が詰まった箱です。

私も編集委員の一人として、30年間のバックナンバーを通しで読み、収録作品の選定に幾分かの貢献をしました。あくまでも幾分か、という程度ですが・・・

この雑誌はサントリー文化財団の全面的なバックアップによって編集されています。財団が行ってきた事業、すなわちサントリー学芸賞や研究助成やフェローシップなどを通じ形作られた研究者への多様なネットワーキングから自在に情報を汲み出し、サントリー学芸賞の審査委員やサントリー文化財団の理事などとして深く関わってきた先生方の培うネットワークを辿って、国内・国外から執筆者・論文を集めてきてくれます。

私のようなヒラの編集委員は安心して編集会議に参加し、せめて議論を活発に盛り上げる、という程度の役割に留まります。むしろcontributing editorとして積極的に論文・エッセーを寄稿することが期待されているようです。これについても上の世代の先生方が次々に論文や連載や対談の企画を提案して来るので、それほど出動する機会は多くはないのですが。

サントリー文化財団に蓄積された文化資本に、阪急コミュニケーションズ(現在はCCCコミュニケーションズの一部)のプロフェッショナルな編集者の手が加わって、確実に質の高い製品となって読者の手に届きます。それで毎号の価格はほんの形だけの1000円という・・・

しかしこの30周年論選は、全4巻+別冊(総目次)のセット売りのみでバラ売りなし。本当に少部数しか刷っていないため、価格は高くなりますが、意外に、さほど宣伝しなくともすでに注文が来始めているというので、手元に置いておきたい方はお早めにどうぞ。まあ、売れてしまったらそう簡単には増刷しないのではないですかねえ・・・

私も一本論稿を収録していただいた(第Ⅰ巻の政治・経済(国際編)に)のと、編集委員として別冊(総目次)にエッセーを寄せています。

池内恵「『ポスト冷戦期』を見届けた後」『アステイオン創刊30周年 ベスト論文選1986−2016 冷戦後の世界と平成 総目次』2017年11月17日, 112-116頁

池内恵「『アラブの春』がもたらしたもの」『アステイオン創刊30周年 ベスト論文選1986−2016 冷戦後の世界と平成 第Ⅰ巻 政治・経済(国際編)』2017年11月17日,  767-782頁

実はこの別冊に収録されているエッセーは、他の編集委員のものはすでにアステイオン84号の「特別企画」に掲載されているものの再録なのですが、私もその号で書くはずだったものが、特集の責任編集のために疲れ果て、他の仕事も多く、アステイオンの30年のバックナンバーを全部読んで論を立てるという大作業を完遂することができず、一人だけ掲載を見送りました。ですので、今回がオリジナル原稿ということになります。

この別冊には、編集委員の苅部直先生の、『アステイオン』の創刊者で「名誉永世編集委員」と言ってもいいであろう山崎正和先生との対談も収録されています。

そして、恐竜のようなかつての知識人たちの若い頃の写真が多く収録されており、当時の闊達な議論を彷彿とさせる、貴重な読書体験です。

1986年の高坂正堯の論稿に始まる第Ⅰ巻政治・経済(国際編)の最後に近いところに「アラブの春」の最初の1年に関する論稿を載せることができて光栄でした。

そして本巻の締めくくりには、私が責任編集の労を取らせていただいた特集「帝国の崩壊と呪縛」(第84号・2016年春号)から、池田明史先生と岡本隆司先生の論稿が収められています。少し歴史に何かを残せたような気がしています。

【寄稿】『外交』で中東情勢をめぐる座談会

座談会の記録が刊行されました。

外務省が発行する『外交』(かつての『外交フォーラム』が民主党政権時代にリストラされたものの後継誌です。現在は三度都市出版の企画・発売に戻っています)に掲載されました。

池内恵・今井宏平・田中浩一郎・岡浩「『ポストISIL」に潜む新たな混迷」『外交』Vol. 46, 2017年11月30日発行, 「外交」編集委員会(編集), 外務省(発行), 都市出版株式会社(企画・発売), 116-129頁

岡浩・外務省中東アフリカ局長(前トルコ大使・アラビア語研修でサウジアラビアに二度の勤務経験のある方です)と、イラン分析の田中浩一郎さん(最近慶應義塾大学SFCに拠点を移されました)、年初に中公新書からトルコ現代史を刊行された今井宏平さんと、ご一緒しました。サウジアラビアやレバノンの動向など、対談で将来の見通しとして話していたことが、編集作業の間にも現実化して、未来形を現在形・過去形に直していく作業で校了寸前まで気が抜けませんでした。

局長室の場所を提供していただき、我ら研究者が喋りまくるのを静かに頷いて聞いていらした中東アフリカ局長が印象的でした。いや、いい加減疲れますよね、この中東情勢の展開の早さと破天荒さ。

【寄稿】『アステイオン』に自由主義とイスラームの関係について

かなり力の入った書評を寄稿しました。

池内恵「イスラームという『例外』が示す世俗主義とリベラリズムの限界」『アステイオン』第87号, 2017年11月25日, 177-185頁

書評の対象としたのは、Shadi Hamid, Islamic Exceptionalism, St. Martin”s Press, 2016です。

私は『アステイオン』の編集委員でもあるのですが(contributing editorみたいな感じですかね)、今回の特集も力が入ったもので、かつ他に類を見ないものと思います。張競先生の責任編集で、グローバル文学としての華人文学を、独自の人脈から幅広く寄稿を得て、堂々の刊行です。

これはサントリー文化財団の支援がないとできませんね。

【寄稿】『文藝春秋オピニオン』の2018年版に「イスラーム国」後の中東について

寄稿しました。大変忙しくて、ちょっとお知らせが遅れてしまいました。

池内恵「『イスラーム国』後の中東で表面化する競合と対立」『文藝春秋オピニオン 2018年の論点100』2018年1月1日(発行), 文藝春秋, 38-41頁

奥付の発行期日は来年1月1日となっていますが、2017年11月9日発売です。

例年寄稿している『文藝春秋オピニオン』の2018年度版ですが、今年は「2018年の10大テーマ」の6番目になりました。

面倒ですが一応確認しておきますと、思い出せる限り2013年版から寄稿しているのですが、私の担当するテーマの順位は36→48→70→6→7→そして今年は6に戻っております。別に番号が重要度を示すわけではないのですが、文藝春秋編集部がどのように中東・イスラーム問題を位置づけているかは、日本の世論のある部分の推移を示しているとは言えるでしょう。

「イスラーム国」が2014年6月のモースル占拠で国際政治の中心的課題に躍り出た後の2015年版(2014年11月発売)では「70位」と、なんともはんなりとした対応をしていたのですが、2015年1月20日の脅迫ビデオ公開に始まる日本人人質殺害事件の政治問題化と、奇しくも同日に文藝春秋から刊行された『イスラーム国の衝撃』によって、この問題の位置づけが一気に(少なくとも文藝春秋内部では)上がり、2016年版では一気に6位に躍り出、同程度の認識が3年間続いたようです。来年はどうなるのでしょうか。「イスラーム国」はタイトルに入らないでしょうが、中東問題が大問題であり続けることは変わらないと思います。

「10大テーマ」となると、『文藝春秋』の読者に馴染みのある対象と書き手が並ぶので、よくまだ「イスラーム国」と中東をこの位置に選んでくれたものです。新聞やテレビでは「イスラーム国」のモースルとラッカが陥落する話は分かりやすいように見えるのか、そこだけは報じられます。クルドやトルコやサウジやシリア・アサド政権やロシアや米・トランプ政権などの動きが複雑に絡んだその後の中東情勢は、複雑すぎて記者が記述することが不可能なのかもしれません。

目次を見ますと、書き手のラインナップが、テーマ以上に、濃い。。。

私の前が石破茂先生、その前は宮家邦彦さん、わたいの後ろが冨山和彦氏で、その後ろに佐藤優・櫻井よしこ・藤原正彦と続くという、こってりしたラインナップです。私はこの中の置かれると非常に線の細いあっさりした書き手と見えるのではないでしょうか。

何かと評判の三浦瑠麗さんも、論点15「『政治家の不倫』問題の本質はどこにある」と、近年ライフワークとして掴んだ(かに見える)「女性と権力」に真っ向から取り組んでいます。

従来よくあった、オヤジの「権力と女性」問題ではなく、働く女性論にも一般化させたん女性政治家論により「女性と権力」という問題を浮き立たせた新機軸の発掘で、他の追随を許さない地位を確保しています。来年は私よりも前に載っているでしょうね。それも良きかな。

さて私の方は地味にしかし分析と見通しの提示として実質のある内容を心がけまして、「イスラーム国」が領域支配を縮小していく中で、今後の中東情勢について展望したものです。中東国際政治が変動する中で、最も重要なのはサウジの内政であり、そこにイスラエルを絡めて米トランプ政権を抱き込もうとする動きが出る、それと北朝鮮危機とがリンクされれば・・・といったスペキュレーションを含む本稿は10月前半に書いていたのですが、それが部分的に現実化していくので、10月25日の最終校了直前に細かく修正しました。

【掲載】時事通信にラッカの「イスラーム国」拠点陥落についてコメント

時事通信にコメントを寄せました。シリアのラッカの「イスラーム国」拠点を、米国に支援されたSDF(シリア民主軍)の部隊が制圧したというニュースへのコメントです。地方紙各紙に掲載されていくと思われますが、時事通信のウェブサイトでも公開されています。

「◇シリアでも「クルド問題」起きる」時事通信(2017/10/18-21:22)

ラッカの陥落はそれなりに重要な画期ですが、現在のシリア情勢・中東情勢の焦点は別のところにある、といったことをお話ししました。

そもそも「ラッカはイスラーム国の首都」という通説は根拠が不確かです。「イスラーム国」の理念からは、2014年7月にカリフ位を宣言し、金曜礼拝で演説を行ったモースルが、カリフ政体の首都でしょう。

全世界を覆うカリフ制政体を構成する「州(wilaya; 英語で言うstate)の一つとしてシリアがあり、シリアの州都(’asima; capital)であったのがラッカということでしょう。連邦制とstate capitalという観念が理解される英語圏ではある程度容易に理解できることが、日本ではうまく理解できず言葉にもできないようです。

しかし「ラッカは首都」という翻訳上の誤解に基づき、「首都だから重要」と論じていくのは、循環論法でしょう。そういう報道には(いまさらですが)釘を刺しておきました。とはいえ、メディアの報じ方に注文をつけると「面倒くさい人」ということになり、コメントが載らなくなる傾向があります(世代が代わるとまた依頼してくるようになるので、そのことはあまり気にしていません)。

現状では「イスラーム国」が「州」を称していた領域での「州都」は、ラッカ陥落で全て失われた、という意味づけです。