【テレビ出演】日曜夜のニュース番組「BS-TBS週刊報道Life」でエルサレム問題について

事後になってしまいますが、本日(2017年12月10日)夜9時−のBS-TBSの「週刊報道LIFE」に出演し、トランプ大統領のエルサレム首都承認について、またエルサレム問題の構造について解説しました。

この番組は元フォーサイト編集長の堤晋輔さんがレギュラー・コメンテーター出ているご縁から、同じ曜日の同時刻に同趣旨で放映されていた「週刊BS-TBS報道部」の時代から、大きな事件があった時に出演しています。

2015年1月20日に問題化した「イスラーム国」によるシリア日本人人質殺害事件については、奇しくも2月1日未明に事件の悲惨な結末が明らかになった日に(この日も日曜日でした)に、あらかじめ出演が予定されていたため、十分にスタッフとやり取りをして地図やフリップなどの準備をした上で、かつ速報性のある報道を行うことができました。

人質事件が終わった直後に、以前から予定していたチュニジア調査に行ったところ、帰ってきてから間もなくチュニスのバルドー博物館でのテロが起きたため2015年3月22日に出演、さらにパリの同時多発テロ事件に際して2015年11月15日にも出演しておりました。

エルサレム問題については、トランプのエルサレム首都承認宣言・演説に合わせて『フォーサイト』にまとめて分析を書いていました。

池内恵「トランプがエルサレムを首都承認した後に何が起こるか」『フォーサイト』(中東 危機の震源を読む 94)2017年12月6日
池内恵「トランプは演説でエルサレムと『東エルサレム』を分離できるか」『フォーサイト』(中東通信)2017年12月7日 00:45
池内恵「米国はイスラエルにトランプ演説への反応を抑制するように水面下で要請」『フォーサイト』(中東通信)2017年12月8日 01:20
池内恵「トランプのエルサレム首都承認の宣言文と演説テキストの違い」『フォーサイト』(中東通信)2017年12月8日 01:30
池内恵「トランプはエルサレム首都承認と大使館移転の意志表明した直後に大使館移転繰り延べ命令に署名」『フォーサイト』2017年12月8日 01:53
2017年12月8日 01:53
池内恵「エルサレム問題は何が『問題』なのか」『フォーサイト』(中東の部屋)2017年12月8日

番組スタッフもこれらを読み込んだ上で、地図や写真を加えて付加価値をつけてくれました。

テルアビブの米大使館を即座に移すことが可能であるはずのエルサレムの二つの総領事館の位置や、1989年のレーガン政権末期に、すなわちキリスト教福音派(エヴァンジェリカルズ)の影響が最も強かった政権の最後に、西エルサレムに大使館の候補地を事実上取得する賃貸契約を行なっている点を指摘するなど、テレビ番組としては極端に専門的な内容になりましたが、分かりやすかったというご指摘もあちこちでいただいています。

なお、番組ウェブサイト(http://www.bs-tbs.co.jp/syukanhoudou/life/)に事前に掲載された番組内容は下記の通りでした。

12月10日OA内容
トランプ大統領「エルサレムを首都」の衝撃
アメリカのトランプ大統領が中東エルサレムをイスラエルの首都と認定した。各国が反発を強めるなど、波紋が広がっている。
なぜ今、トランプ大統領は決断したのか。混迷の度が深まる今後の中東情勢は?その歴史的背景から、世界情勢に与える影響まで、専門家と読み解く。
ゲスト:池内恵(東京大学先端科学技術研究センター准教授)

【刊行】『アステイオン』30周年記念選集(全4刊+総目次)

そういえばこちらが刊行されていました。

山崎正和・田所昌幸(監修)『アステイオン創刊30周年ベスト論文選 1986-2016 冷戦後の世界と平成』(全4刊+総目次)CCCコミュニケーション, 2017年11月17日刊行

軽快なフランス装で重厚になりすぎず、しかし雑誌『アステイオン』に冷戦末期からポスト冷戦期の長い期間に移りゆく国際社会と文化に向き合った数々の論稿の粋を集めた、歴史が詰まった箱です。

私も編集委員の一人として、30年間のバックナンバーを通しで読み、収録作品の選定に幾分かの貢献をしました。あくまでも幾分か、という程度ですが・・・

この雑誌はサントリー文化財団の全面的なバックアップによって編集されています。財団が行ってきた事業、すなわちサントリー学芸賞や研究助成やフェローシップなどを通じ形作られた研究者への多様なネットワーキングから自在に情報を汲み出し、サントリー学芸賞の審査委員やサントリー文化財団の理事などとして深く関わってきた先生方の培うネットワークを辿って、国内・国外から執筆者・論文を集めてきてくれます。

私のようなヒラの編集委員は安心して編集会議に参加し、せめて議論を活発に盛り上げる、という程度の役割に留まります。むしろcontributing editorとして積極的に論文・エッセーを寄稿することが期待されているようです。これについても上の世代の先生方が次々に論文や連載や対談の企画を提案して来るので、それほど出動する機会は多くはないのですが。

サントリー文化財団に蓄積された文化資本に、阪急コミュニケーションズ(現在はCCCコミュニケーションズの一部)のプロフェッショナルな編集者の手が加わって、確実に質の高い製品となって読者の手に届きます。それで毎号の価格はほんの形だけの1000円という・・・

しかしこの30周年論選は、全4巻+別冊(総目次)のセット売りのみでバラ売りなし。本当に少部数しか刷っていないため、価格は高くなりますが、意外に、さほど宣伝しなくともすでに注文が来始めているというので、手元に置いておきたい方はお早めにどうぞ。まあ、売れてしまったらそう簡単には増刷しないのではないですかねえ・・・

私も一本論稿を収録していただいた(第Ⅰ巻の政治・経済(国際編)に)のと、編集委員として別冊(総目次)にエッセーを寄せています。

池内恵「『ポスト冷戦期』を見届けた後」『アステイオン創刊30周年 ベスト論文選1986−2016 冷戦後の世界と平成 総目次』2017年11月17日, 112-116頁

池内恵「『アラブの春』がもたらしたもの」『アステイオン創刊30周年 ベスト論文選1986−2016 冷戦後の世界と平成 第Ⅰ巻 政治・経済(国際編)』2017年11月17日,  767-782頁

実はこの別冊に収録されているエッセーは、他の編集委員のものはすでにアステイオン84号の「特別企画」に掲載されているものの再録なのですが、私もその号で書くはずだったものが、特集の責任編集のために疲れ果て、他の仕事も多く、アステイオンの30年のバックナンバーを全部読んで論を立てるという大作業を完遂することができず、一人だけ掲載を見送りました。ですので、今回がオリジナル原稿ということになります。

この別冊には、編集委員の苅部直先生の、『アステイオン』の創刊者で「名誉永世編集委員」と言ってもいいであろう山崎正和先生との対談も収録されています。

そして、恐竜のようなかつての知識人たちの若い頃の写真が多く収録されており、当時の闊達な議論を彷彿とさせる、貴重な読書体験です。

1986年の高坂正堯の論稿に始まる第Ⅰ巻政治・経済(国際編)の最後に近いところに「アラブの春」の最初の1年に関する論稿を載せることができて光栄でした。

そして本巻の締めくくりには、私が責任編集の労を取らせていただいた特集「帝国の崩壊と呪縛」(第84号・2016年春号)から、池田明史先生と岡本隆司先生の論稿が収められています。少し歴史に何かを残せたような気がしています。

【寄稿】『外交』で中東情勢をめぐる座談会

座談会の記録が刊行されました。

外務省が発行する『外交』(かつての『外交フォーラム』が民主党政権時代にリストラされたものの後継誌です。現在は三度都市出版の企画・発売に戻っています)に掲載されました。

池内恵・今井宏平・田中浩一郎・岡浩「『ポストISIL」に潜む新たな混迷」『外交』Vol. 46, 2017年11月30日発行, 「外交」編集委員会(編集), 外務省(発行), 都市出版株式会社(企画・発売), 116-129頁

岡浩・外務省中東アフリカ局長(前トルコ大使・アラビア語研修でサウジアラビアに二度の勤務経験のある方です)と、イラン分析の田中浩一郎さん(最近慶應義塾大学SFCに拠点を移されました)、年初に中公新書からトルコ現代史を刊行された今井宏平さんと、ご一緒しました。サウジアラビアやレバノンの動向など、対談で将来の見通しとして話していたことが、編集作業の間にも現実化して、未来形を現在形・過去形に直していく作業で校了寸前まで気が抜けませんでした。

局長室の場所を提供していただき、我ら研究者が喋りまくるのを静かに頷いて聞いていらした中東アフリカ局長が印象的でした。いや、いい加減疲れますよね、この中東情勢の展開の早さと破天荒さ。

【寄稿】『アステイオン』に自由主義とイスラームの関係について

かなり力の入った書評を寄稿しました。

池内恵「イスラームという『例外』が示す世俗主義とリベラリズムの限界」『アステイオン』第87号, 2017年11月25日, 177-185頁

書評の対象としたのは、Shadi Hamid, Islamic Exceptionalism, St. Martin”s Press, 2016です。

私は『アステイオン』の編集委員でもあるのですが(contributing editorみたいな感じですかね)、今回の特集も力が入ったもので、かつ他に類を見ないものと思います。張競先生の責任編集で、グローバル文学としての華人文学を、独自の人脈から幅広く寄稿を得て、堂々の刊行です。

これはサントリー文化財団の支援がないとできませんね。

【寄稿】『文藝春秋オピニオン』の2018年版に「イスラーム国」後の中東について

寄稿しました。大変忙しくて、ちょっとお知らせが遅れてしまいました。

池内恵「『イスラーム国』後の中東で表面化する競合と対立」『文藝春秋オピニオン 2018年の論点100』2018年1月1日(発行), 文藝春秋, 38-41頁

奥付の発行期日は来年1月1日となっていますが、2017年11月9日発売です。

例年寄稿している『文藝春秋オピニオン』の2018年度版ですが、今年は「2018年の10大テーマ」の6番目になりました。

面倒ですが一応確認しておきますと、思い出せる限り2013年版から寄稿しているのですが、私の担当するテーマの順位は36→48→70→6→7→そして今年は6に戻っております。別に番号が重要度を示すわけではないのですが、文藝春秋編集部がどのように中東・イスラーム問題を位置づけているかは、日本の世論のある部分の推移を示しているとは言えるでしょう。

「イスラーム国」が2014年6月のモースル占拠で国際政治の中心的課題に躍り出た後の2015年版(2014年11月発売)では「70位」と、なんともはんなりとした対応をしていたのですが、2015年1月20日の脅迫ビデオ公開に始まる日本人人質殺害事件の政治問題化と、奇しくも同日に文藝春秋から刊行された『イスラーム国の衝撃』によって、この問題の位置づけが一気に(少なくとも文藝春秋内部では)上がり、2016年版では一気に6位に躍り出、同程度の認識が3年間続いたようです。来年はどうなるのでしょうか。「イスラーム国」はタイトルに入らないでしょうが、中東問題が大問題であり続けることは変わらないと思います。

「10大テーマ」となると、『文藝春秋』の読者に馴染みのある対象と書き手が並ぶので、よくまだ「イスラーム国」と中東をこの位置に選んでくれたものです。新聞やテレビでは「イスラーム国」のモースルとラッカが陥落する話は分かりやすいように見えるのか、そこだけは報じられます。クルドやトルコやサウジやシリア・アサド政権やロシアや米・トランプ政権などの動きが複雑に絡んだその後の中東情勢は、複雑すぎて記者が記述することが不可能なのかもしれません。

目次を見ますと、書き手のラインナップが、テーマ以上に、濃い。。。

私の前が石破茂先生、その前は宮家邦彦さん、わたいの後ろが冨山和彦氏で、その後ろに佐藤優・櫻井よしこ・藤原正彦と続くという、こってりしたラインナップです。私はこの中の置かれると非常に線の細いあっさりした書き手と見えるのではないでしょうか。

何かと評判の三浦瑠麗さんも、論点15「『政治家の不倫』問題の本質はどこにある」と、近年ライフワークとして掴んだ(かに見える)「女性と権力」に真っ向から取り組んでいます。

従来よくあった、オヤジの「権力と女性」問題ではなく、働く女性論にも一般化させたん女性政治家論により「女性と権力」という問題を浮き立たせた新機軸の発掘で、他の追随を許さない地位を確保しています。来年は私よりも前に載っているでしょうね。それも良きかな。

さて私の方は地味にしかし分析と見通しの提示として実質のある内容を心がけまして、「イスラーム国」が領域支配を縮小していく中で、今後の中東情勢について展望したものです。中東国際政治が変動する中で、最も重要なのはサウジの内政であり、そこにイスラエルを絡めて米トランプ政権を抱き込もうとする動きが出る、それと北朝鮮危機とがリンクされれば・・・といったスペキュレーションを含む本稿は10月前半に書いていたのですが、それが部分的に現実化していくので、10月25日の最終校了直前に細かく修正しました。

【掲載】時事通信にラッカの「イスラーム国」拠点陥落についてコメント

時事通信にコメントを寄せました。シリアのラッカの「イスラーム国」拠点を、米国に支援されたSDF(シリア民主軍)の部隊が制圧したというニュースへのコメントです。地方紙各紙に掲載されていくと思われますが、時事通信のウェブサイトでも公開されています。

「◇シリアでも「クルド問題」起きる」時事通信(2017/10/18-21:22)

ラッカの陥落はそれなりに重要な画期ですが、現在のシリア情勢・中東情勢の焦点は別のところにある、といったことをお話ししました。

そもそも「ラッカはイスラーム国の首都」という通説は根拠が不確かです。「イスラーム国」の理念からは、2014年7月にカリフ位を宣言し、金曜礼拝で演説を行ったモースルが、カリフ政体の首都でしょう。

全世界を覆うカリフ制政体を構成する「州(wilaya; 英語で言うstate)の一つとしてシリアがあり、シリアの州都(’asima; capital)であったのがラッカということでしょう。連邦制とstate capitalという観念が理解される英語圏ではある程度容易に理解できることが、日本ではうまく理解できず言葉にもできないようです。

しかし「ラッカは首都」という翻訳上の誤解に基づき、「首都だから重要」と論じていくのは、循環論法でしょう。そういう報道には(いまさらですが)釘を刺しておきました。とはいえ、メディアの報じ方に注文をつけると「面倒くさい人」ということになり、コメントが載らなくなる傾向があります(世代が代わるとまた依頼してくるようになるので、そのことはあまり気にしていません)。

現状では「イスラーム国」が「州」を称していた領域での「州都」は、ラッカ陥落で全て失われた、という意味づけです。

【講演要録】「イスラーム国」が形作る「まだら状の秩序」について

一昨日の毎日メトロポリタンアカデミーでの講演について、昨日の『毎日新聞』に記事が掲載されていました。

「毎日メトロポリタンアカデミー『まだら状の拡大』 池内氏がISの「今」解説 /東京」『毎日新聞』2017年9月21日

以下記事の本文を記録しておきます。

第297回毎日メトロポリタンアカデミー(毎日新聞社主催)が20日、豊島区のホテルメトロポリタンであり、イスラム政治思想・中東研究で知られる池内恵(さとし)東京大学准教授が「イスラム国(IS)はどこへ行った」と題して講演した。

池内氏は「イスラム教徒17億人すべてがISではない」としながらも「イスラム教は元来平和的な宗教ではあるが、法として現実には軍事や政治に深い関わりがある」と解説した。さらにISの出現と領域支配の変遷について地図を用いて分析。組織的には弱体化が見られるが、今後、インターネットなどによる感化を通じて自発的に名乗り出るISの誕生について指摘し、世界各地に「まだら状の拡大」ともいえる状況が出現していると述べた。【吉岡杏奈】

書評の経済効果?2015年5月の『エコノミスト』書評の対象作品が再刊

今朝こんな記事が舞い込んできました。

《霞が関官僚が読む本》新たな世界システムの中で日本は何をすべきか 冷戦後の「世界情勢」を知る指南書(2017/9/14)

この記事では、私が2年以上前に書いたコラムに触れて、次のように書いてくださっています。

【池内氏の薦める本は歯ごたえがあるが、読んで絶対に損にはならない。2015年5月19日号の週刊エコノミストの「読書日記」で紹介された2冊は、「国際社会論 アナーキカルソサエティ」(へドリー・ブル著 岩波書店 2000年)と、「新しい中世 相互依存深まる世界システム」(田中明彦著 日経ビジネス人文庫 2003年)であった。

国際政治学を誕生させた、E.H.カーの流れをくむ「イギリス学派」のブルの本は、この「読書日記」の後、2016年5月に、岩波書店などが取り組む10出版社共同復刊事業の「書物復権」で第九刷が出た。そして、なんと、「新しい中世」が講談社学術文庫の8月の新刊「新しい中世 相互依存の世界システム」として再び世に出された。】

言及されているのは、当ブログでも刊行時に紹介した

池内恵「混沌の国際社会に秩序を見出す古典」『週刊エコノミスト』2015年5月19日号(5月11日発売)、55頁

ですね。

2015年5月に旧著2冊の書評を載せた際は、いずれも絶版・品切れで、古本屋で高い値段が付いてしまいました。

それからちょうど1年後にブルの『国際社会論 アナーキカル・ソサエティ』が「書物復権」で蘇ったところまでは把握しておりましたが、2年余り経って今度は、田中明彦『新しい中世』が再文庫化されたとは。迂闊にも気づいていませんでした。ご指摘・ご紹介ありがとうございます。

このブログで毎回詳細に補足していたように、『週刊エコノミスト』の「読書日記」連載では意図して新刊を避け、旧著・名著を手がかりに最新の話題・問題に取り組む試みをしていました。

新刊を取り上げて当座の宣伝・売り上げに貢献するという「出版業界の(今やあまりうまく回っていない)歯車」となるのではなく、名著を掘り起こして需要を生み出す、というのが私が設定した連載の趣旨でした。

『新しい中世』が講談社学術文庫で再刊されるということであれば、経済的には「新刊」が出たのにほぼ等しい。連載が経済的効果を産んだのかもしれませんね(Kindle版も出ている)。

あとはイブン・ハルドゥーン『歴史序説』の増刷ですね〜岩波さん首を長くして待っていますよ。この基礎文献が品切れだと授業で使いにくいので困っています。

増刷しないで絶版状態で版権に対応する出版の義務を放棄したとみなされるなら、別の会社が手を出すかも?

【今日の一枚】(34)過去1年の「イスラーム国」支配領域の縮減

久しぶりに「地図で見る中東情勢」のカテゴリーに項目を加えてみましょう。

【中東情勢の分析については、2014年から15年にかけては、このブログでかなり詳細に行っていましたが、『フォーサイト』「池内恵の中東通信」欄にいわばスピンオフしていきましたので、日々の分析に関心がある方はぜひそちらをご覧になってください。このブログでは地図や名著迷著からの抜き書きなどを中心に随時話題を提供していきます】

(PCでは)画面右側の「カテゴリー」のところの「地図で見る中東情勢」をクリックすると、これまでの地図を紹介した記事の一覧が表示されます。

ちょうど一年前の2016年9月のエントリでは、シリアとイラクでの「イスラーム国」および各勢力の支配領域を、トルコがアレッポ北方へ侵攻した時点の地図で示しておきました。

ここ一年間、シリアやイラクのニュースでは「イスラーム国から○○を奪還」という形式のものが多かったですね。必ずしも「『イスラーム国』の領域支配がどれだけ縮まるか」はシリア情勢やイラク情勢の中で常に最も重要なものとは言いきれないのですが、国際的にこの側面が特に注目されるのが現実ということは確かです。もちろん重要ではあります。

イラクでは「モースルを奪還」、シリアでは「ラッカを奪還」というニュースが連日のように伝えられてきましたね。長期間にわたって「もうすぐ奪還します」というニュースが流れ続けるということは、かなり手こずってきたということでもあります。

一年前の地図を見ると、モースルとラッカを含む領域が「イスラーム国」の支配領域として塗られていますね。

最新の地図を見てみましょう。

出典:“Islamic State and the crisis in Iraq and Syria in maps,” BBC, 1 September 2017.

これはBBCのものです。9月1日付けの、「イスラーム国」関連の地図をまとめた記事ですが、公開後も地図が追加・アップデートされていくようで、この地図は9月4日現在とされています。

この地図を若干ズームした地図が例えば下記の記事にも掲載されています。

“Iraqi Kurds ‘prepared to draw own borders’, Barzani warns Baghdad,” BBC, 11 September 2017.

このタイトルからもわかるように、現在の関心は「『イスラーム国』が領域を失うかどうか」ではなく、「誰が『イスラーム国』からどこの領域を奪うか」に関心が集まっています。イラクでは「イスラーム国」掃討作戦をイラク政府軍とそれに従うシーア派民兵と、北部のクルド人自治区の民兵ペシュメルガが競って行ってきましたが、クルド人勢力は例えばシンジャールなどの「イスラーム国」から奪還した領域を含めたクルド人独立国家の設立を目指しています。

同様に、シリアでも東部のラッカは、米国が支援するクルド人勢力PYD-YPGを中心としたシリア民主軍(SDF)がほぼ全域を制圧し、南東部のデリゾールの制圧では、SDFとアサド政権軍が競っています。どちらかが制圧するかで、その後の再建される国家のあり方が大きく変わってくるからです。

次のアル=ジャジーラの地図では、「イスラーム国」支配領域は黒で塗りつぶされています。

出典:“MAPPED: The battle against ISIL,” al-Jazeera, September 5, 2017.

「イスラーム国」は広い領域を統治することはできなくなっても、都市でゲリラ活動を行ったり、立て篭ったりすることは続けているので、contested cityという項目が建てられています。いちおう制圧が終わったとされているラッカなどですね。

おまけ:

Reuters はGraphicsのコーナーで、今年2月から8月にかけての半年で、シリアでアサド政権軍やクルド人勢力や「イスラーム国」などの支配地域がどう変化してきたかを、スライドショーのようにして示してくれます。追いかけるのが面倒ですが・・・

“Battle for control in Syria,” Reuters.

【資料】ある外交官の「アラブ外交」観 1980年から1994年にかけて

8月24日に、まずツイッター「中東ニュース速報」で簡易に メモがわりに連投ツイートして次にフェイスブックで体裁を整えてまとめておいた、一風変わった本の読書メモが、かなり読まれているようなので、外交史・日本中東関係史上のかつて支配的だった、今ももしかすると色々な形で残っているかもしれない「通奏低音」を伝えるために、ここに掲載しておきたい。

* * *

研究室の本を整理していて、あまり手元に置いておきたくないがメモしておかないとどこかに行ってしまい取り出せなくなり、思い出せなくなりそうな、なんとも始末に困る本の要所をメモしたので、ここに貼っておく。

日本外交の中で「アラブ問題」「中東問題」の占める位置は近年大きく変わったようにも見えるが、より広い社会の中での位置づけという意味では、結局はさほど変わっていないようにも見える。
これについて外交官(志望学生)の主観という面の一時点での記録を、資料として留めておきたい。
毎年一人は割り当てられる、キャリア外交官のアラビア語研修について、特に米国一辺倒の時代には、複雑な思いを抱えていた場合があったようである。
端的な例が、1980年に入省し、後に民主党代議士となった末松義規氏の著作『ボクが外交官を棄てた理由』(KKベストセラーズ、1994年)に示されている。

「理由」はおそらく「ワケ」と読ませるんであろう、いかにもいかにもな昭和の語法である。

かつて日本での「アラブ問題」「中東問題」の扱われ方がどのようなものであったか、端的に示されている部分を、ほんの一部、抜き出してみよう。【 】内が原文より。

末松代議士にとっては「黒歴史」感ある記述が満載の本だが、あくまでも歴史資料として扱っているのでご容赦願いたい(なお惻隠の情から、辞めると告げた時の上司の発言を著者が聞き取って記したとされる部分や、家族の反応については、転記していない)。

【語学選定はまだ大学在学中の一月ごろに行われた。霞ヶ関に合格者が集められた。当日、採用が決まったひとりひとりに、研修で何語を習得するかが言い渡される。【中略】希望はアラビア語だなどという者はひとりもいなかったと思う。】
(末松義規『ボクが外交官を棄てた理由』38頁)

【僕の前の同期がアラビア語に決まったときは、内心、皆、しめたと思ったはずだ。その場にいた全員からワーッと拍手が沸き起こったからだ。不幸なやつがこれでひとり減ったというわけだ。ホッとしたところで僕の順番。てっきり中国語をやるようにと言われるとタカを括っていたのだが、面接官の言葉に一瞬、青ざめた。「キミもアラビア語をやってくれ」
ショックに、しばらく黙り込んでしまった。「はい、わかりました」とはとてもじゃないが言えなかった。「しばらく考えさせてください」、と言うのがやっと。】
(末松義規『ボクが外交官を棄てた理由』39頁)

【かなりの時間、それでも僕は頑強に抵抗した。
最後に、「私は、ああいうわけの分からない国の人とはつき合えません。私自身、気が弱いんです。もし、どうしてもとおっしゃるなら、自分の進退も含めて考え直させていただきます。」】
(末松義規『ボクが外交官を棄てた理由』39頁)

・・・回顧録といっても選挙に出る時の自己紹介を兼ねた選挙本なので、正確を期して書いたかどうかは怪しい。「有権者にウケる」というところが主眼であったのかもしれない。しかしこの当時アラブ関連に従事することを蔑むような発言を大っぴらにすることが「ウケる」と思われていたことは示すだろう。
私見では、9・11事件とイラク戦争を経て、日本の外交官にとっての「中東」の意味は変わったのではないかと思う。日本外交の主軸が今もって日米外交であることに変わりはないものの、米側は対テロ戦争と中東問題にかかりっきりで、日本もそれにある程度は関与させられるので、対米外交に従事するには中東が分かっていないと話にならないだろう。
今なら「お前アラビア語研修ね」と言われたら、大変だあと思いつつも「よし!」と思う新人外交官も多いだろうし、アラビア語研修だったので重要な任務を多く課されてラッキーだったな、と思っている人もいるのではないか。こういう変化は外交文書には残らないが、外交史家は記録しておいて欲しい。

【講演】9月20日に毎日メトロポリタンアカデミーで講演

9月20日に、第297回毎日メトロポリタンアカデミーで講演します

毎日新聞社の主催。毎日出版文化賞を2015年にいただいたご縁で講演を設定してくださったようです。

演題は「イスラム国(IS)はどこへ行った」

会員だけでなく一般からも申し込めば聴講できるようです。6000円と通常より高いですが・・・(場所代とランチ代だと思います)。

詳細と申し込みはこちらから(以下に基本事項を貼っておきます)

◇日 時 :平成29年9月20日(水)11:30~13:00頃(講演終了後、ランチ)
◇講 師 :池内 恵さん(東京大学准教授)
◇会 場 :ホテルメトロポリタン3階「カシオペア」(豊島区西池袋1-6-1)
■ JR池袋駅メトロポリタン口より徒歩1分
■ 池袋駅西口より徒歩3分
詳しいアクセスはこちら http://www.metropolitan.jp/access/
◇参加費 : 6,000円(ランチ代含む)
◇応募締切:9月14日(木)

◇主 催 : 毎日新聞社
◇共 催 : 東京商工会議所豊島支部
◇後 援 : 東日本旅客鉄道株式会社
◇協 賛 : ホテルメトロポリタン

【寄稿】新潮選書50周年企画に短文を寄せました

新潮社の『波』に寄稿しました。

「[新潮選書50周年特別企画]選書著者が答える『私にとって選書とは何か?』」に短文を寄せています。

今年は新潮選書創刊から50周年。これを記念して『波』で特集を設定して、そこにこれまでの執筆者が短文を寄せています。

猪木武徳先生(『自由の思想史 市場とデモクラシーは擁護できるか』)や、苅部直先生(『「維新革命」への道 「文明」を求めた十九世紀日本』)など。

椎名誠さん、池澤夏樹さん、片山杜秀さんなども短文を寄せています。

私も『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』の書き手として、この本を第一弾に新潮選書のフォーマットを利用して立ち上げていこうとしている「中東ブックレット」シリーズのマニュフェストのようなものを書きました。

ブログやSNSで情報を伝えることができる時代に、選書というフォーマットはどのように役に立てるか、がテーマです。

そういえば昨年の6月も、新潮選書のフェアに文章を寄せていました。あれもかなり力が入った特集でした。

池内恵「SNS時代こそ選書の出番」『波』2017年9月号(第51巻第9号・通巻第573号), 82頁

【寄稿】『中東協力センターニュース』7月号にシリア内戦の競合する停戦枠組みについて

忙しさに紛れて、少し通知が遅れてしまいましたが、シリア内戦への停戦調停に関する分析を『中東協力センターニュース』に寄稿しています。

この論考をほぼ書き終えてから7月半ばにヨルダンのアンマンに出張に行き、国際会議に参加していたのですが、ちょうどその頃、ヨルダンでの交渉からシリア南部での部分停戦の合意が米・露・ヨルダンの間でまとまったので、関連する情報も集めることができました。

池内恵「シリア分割への道? 競合する停戦枠組み」『中東協力センターニュース』2017年7月号, 8-14頁【クリックするとPDFで論文が開きます

【テレビ出演】BSジャパン「日経プラス10」に出演(7月5日夜10時から)

明日のBSジャパン「日経プラス10」(2017年7月5日夜10時〜)に出演予定です。

「トークplus」というコーナーで「世界に拡散したテロの脅威はどうなるのか?」をテーマに、イラク・モースルの拠点陥落以後の「イスラーム国」の行方や、中東情勢全般について、日頃の研究に基づいて、お話しするつもりです。

【訂正 打ち合わせの結果、グローバル・ジハードの拡散のメカニズムと、近年の東南アジアへの飛び火について突っ込んで考えてみることになりそうです】

【談話】今朝の日経新聞に中東情勢をめぐって

今朝の日経新聞に談話が掲載されました。

「混迷深まる中東 どこへ サウジ、イスラエル接近も 東京大学准教授 池内恵氏」『日本経済新聞』2017年7月4日朝刊

聞き手は日本経済新聞編集委員の松尾博文さんでした。エネルギーや中東が専門で、現地特派員・支局長も経験した方で、以前から知り合いで私も普段から記事を読んでいることもあり、大変話が弾みました。紙幅の都合から、サウジとイスラエルの接近という、話をした中で一番際どいところを中心にして掲載されましたが、このインタビューを機会に中東情勢全体の現状と見通しについてまとめる機会になりましたので、有益でした。

全く偶然なのですが、明日の夜10時から、日経の系列テレビ局BSジャパンの「日経プラス10」に出演して、「イスラーム国」のイラクでの支配領域の陥落後の中東情勢について話をすることになりましたので、そちらで時間をとって話してみたいと思います。

【寄稿】『国際開発ジャーナル』7月号に中東諸国・国際秩序の変動について全体像を

国際開発・国際協力の専門誌である『国際開発ジャーナル』に寄稿しました。「変わる世界秩序」とのタイトルを付されたリレー・エッセーの第2回。

池内恵「中東と動揺する世界––––アラブの春とイスラム国の行方」『国際開発ジャーナル』No. 728, 2017年7月号, 20-23頁

ここのところ講演を依頼されれば喋るようなことを、標準的な講義録のつもりで、各要素を短めに詰め込んで見ました。ここの要素について一本ずつ論考が書けそうです。

本号にはこの他に、アジア経済研究所のアフリカ研究者で現在ジェトロ理事(『国際開発ジャーナル』の論説委員でもある)の平野克己さんの論考「援助政策がめざすべきものは」や、東大副学長やJICA理事長を歴任し、今年4月から政策研究大学院大学(GRIPS)の学長に就任した田中明彦先生へのインタビューなどが掲載されています。

また、今号の特集は「ダッカの教訓を忘れない」というもので、中東研究者の保坂修司さんによる地域専門家の養成の必要性を訴える論考や、コントロールリスク社などの担当者の発言も載っています。