書評の経済効果?2015年5月の『エコノミスト』書評の対象作品が再刊

今朝こんな記事が舞い込んできました。

《霞が関官僚が読む本》新たな世界システムの中で日本は何をすべきか 冷戦後の「世界情勢」を知る指南書(2017/9/14)

この記事では、私が2年以上前に書いたコラムに触れて、次のように書いてくださっています。

【池内氏の薦める本は歯ごたえがあるが、読んで絶対に損にはならない。2015年5月19日号の週刊エコノミストの「読書日記」で紹介された2冊は、「国際社会論 アナーキカルソサエティ」(へドリー・ブル著 岩波書店 2000年)と、「新しい中世 相互依存深まる世界システム」(田中明彦著 日経ビジネス人文庫 2003年)であった。

国際政治学を誕生させた、E.H.カーの流れをくむ「イギリス学派」のブルの本は、この「読書日記」の後、2016年5月に、岩波書店などが取り組む10出版社共同復刊事業の「書物復権」で第九刷が出た。そして、なんと、「新しい中世」が講談社学術文庫の8月の新刊「新しい中世 相互依存の世界システム」として再び世に出された。】

言及されているのは、当ブログでも刊行時に紹介した

池内恵「混沌の国際社会に秩序を見出す古典」『週刊エコノミスト』2015年5月19日号(5月11日発売)、55頁

ですね。

2015年5月に旧著2冊の書評を載せた際は、いずれも絶版・品切れで、古本屋で高い値段が付いてしまいました。

それからちょうど1年後にブルの『国際社会論 アナーキカル・ソサエティ』が「書物復権」で蘇ったところまでは把握しておりましたが、2年余り経って今度は、田中明彦『新しい中世』が再文庫化されたとは。迂闊にも気づいていませんでした。ご指摘・ご紹介ありがとうございます。

このブログで毎回詳細に補足していたように、『週刊エコノミスト』の「読書日記」連載では意図して新刊を避け、旧著・名著を手がかりに最新の話題・問題に取り組む試みをしていました。

新刊を取り上げて当座の宣伝・売り上げに貢献するという「出版業界の(今やあまりうまく回っていない)歯車」となるのではなく、名著を掘り起こして需要を生み出す、というのが私が設定した連載の趣旨でした。

『新しい中世』が講談社学術文庫で再刊されるということであれば、経済的には「新刊」が出たのにほぼ等しい。連載が経済的効果を産んだのかもしれませんね(Kindle版も出ている)。

あとはイブン・ハルドゥーン『歴史序説』の増刷ですね〜岩波さん首を長くして待っていますよ。この基礎文献が品切れだと授業で使いにくいので困っています。

増刷しないで絶版状態で版権に対応する出版の義務を放棄したとみなされるなら、別の会社が手を出すかも?