ジョナサン・リテルの『ホムスのノートブック』

シリア内戦や「イスラーム国」、ジハード主義の運動についていい記事をよく載せている『ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス』のブログをたまに見ているが、ジョナサン・リテルの『ホムスのノートブック(Carnets de Homs)』が英訳されることを知った。

英語版の序文が転載されている。

Jonathan Littell, “What Happened in Homs,” The New York Review of Books, March 18, 2015.

フランス語版は2012年に出ている。

Jonathan Littell, Carnets de Homs, Gallimard, 2012.

Littel Carnet de Homs

2012年の1月から2月に反アサドの反政府抗議行動の中心都市ホムスに入ったリテルのルポである。ホムスは長期間包囲され、執拗な砲撃を受けた上で陥落した。シリア内戦の酷薄さを代表する象徴的な街だ。

リテルは作家なので、政治分析は全く期待していないのだが、西欧の、特にフランスのインテリの頭の中にシリアなどレバント地域はどのように映っているのか、シリア内戦や「アラブの春」がどのような想像を掻き立てているのか、うっかり、あからさまに示しているのではないかと思ってフランス語のこの本には注目していたが、じっくり読むというような余裕がなかった。英語になってくれるとさっさと読めていい。

ジョナサン・リテルといえば、ナチス親衛隊将校の視点で描いた『慈しみの女神たち 上』(上下、集英社、2011年3月)が翻訳された時にずいぶん話題になった。原題はLes Bienveillantes、英訳はThe Kindly Ones。この本でゴンクール賞受賞。

『慈しみの女神たち』はフランス育ちのアメリカ人がホロコーストをやる側の視点で書くというところが倒錯的で、多分いろいろなものに取り憑かれた人なのだろうけど(フランスの文筆家その他の言い草一般に言えることですか・・・・偏見ですみません。好感を示しているつもりなのですが)。

この人が抑圧のシリアの蜂起と包囲下の都市にわざわざ出向いて、自由への希望と欠乏と暴力と死を描く。自分の妄想のみを見てくるのだとしても、フランス文化として面白い。(ついでに、ジル・ケペルの『中東戦記 ポスト9.11時代への政治的ガイド』の面白さも、フランス文化としての面白さという側面があります。わかる人にだけわかる本なので、あまり宣伝していませんが・・・)

イエメン情勢を読み解く

イエメンの問題についてここのところ詳細に紹介しているけれども、それはローカルな興味からだけでなく、サウジの動揺と湾岸産油国全体の動揺につながりかねないがゆえに日本にとって重要性を持つからだ。

ワシントン・ポスト紙は、サウジの対イエメン空爆は3月26日の開始以来2週間で、見たところはかばかしい成果を上げておらず、人道問題や、過激派の活動する権力の空白が広がっていると、早速警鐘を乱打。

“Yemen conflict’s risk for Saudis: ‘Their Vietnam’,” The Washington Post, April 9, 2015.

「イエメンはサウジにとってのヴェトナムとなるか?」というのはアメリカ人向けに最も分かりやすいフレーズなのだろうが、まさにこれこそがイエメン情勢が注目される所以だ。

この地図でも示されるように、3月26日のサウジ主導のイエメン空爆開始後も、フーシー派の勢力範囲はむしろ広がっています。
イエメン情勢サウジ空爆2週間
【出典】 “Yemen’s Despair on Full Display in ‘Ruined’ City,” The New York Times, April 10, 2015.

イエメンの紛争の諸勢力についてのPBSの解説で主要な登場人物とそれらの間の関係を理解しましょう。

“Who’s Who in the Fight for Yemen,” Frontline, PBS, April 6, 2015.

サウジの軍事介入開始直後に、International Crisis Groupの情勢分析レポートが出ている。仕事早いな。

“Yemen at War,” Middle East Breifing No. 45, International Crisis Group, 27 Mar 2015.

中東が荒れるとニューヨーク・タイムズが必ず頑張って詳細な地図をウェブに上げてくる。いい編集者・グラフィックデザイナーがいるんですな。これは他紙の追随を許さない。唯一、英エコノミストが、もっとシンプルな「ここだけ知っていればいい」という要点をついた地図を出してくるので、併せて見ておくと整理される。

SARAH ALMUKHTAR, JOE BURGESS, K.K. REBECCA LAI, SERGIO PEÇANHA and JEREMY WHITE, “Mapping Chaos in Yemen,” The New York Times (←順次アップデートされていく)

イエメンを巡って、サウジとイランの地域大国間の覇権競争が激化するのではないのか、というところが関心の的です。

“Tensions Between Iran and Saudi Arabia Deepen Over Conflict in Yemen,” The New York Times, April 9, 2015.

イランは効果的にスンナ派連合の外縁(非アラブのパキスタンとトルコ)を切り崩し。

トルコは3月26日の空爆開始の際に、サウジが明示的にあげた有志連合国の中には名前が入っていませんでしたが、エルドアン大統領が支持を表明しており、軍を派遣するのではないかと見られている。

“Turkey, Egypt join military operation against Houthis in Yemen.” DW, March 26, 2015.

トルコのエルドアン大統領の判断については、その苦衷が推測された。
Aaron Stein, “Turkey’s Yemen Dilemma: Why Ankara Joined the Saudi Campaign Against the Houthis,” Foreign Affairs, April 8, 2015.

サウジ側につく判断への批判もトルコ国内からすぐに出た。要するにエルドアンの開発独裁を支える湾岸のスポンサーの意向に逆らえないんだろ、という話。

Fehim Taştekin, “Turkey’s misguided Yemen move,” Al-Monitor, March 31, 2015.

エルドアンは4月7日のイラン訪問で、バランスを取ろうとした。経済問題ではイランと合意しつつ、イエメン問題にはエルドアンは触れない。しかしイランのロウハーニー大統領はイエメン問題に触れまくる。

“Iran and Turkey back political solution to Yemen crisis: Iranian president tells his visiting Turkish counterpart,” Aljazeera English, 08 Apr 2015 05:40 GMT.

そこでアラビーヤの報道ではタイトルで、エルドアンはイランでいろいろ合意したけれども、イラン側ではなくサウジ側についているという姿勢を変えていない、と強調しているのですね。しかしこれはかなり苦しい。

“Turkey, Iran agree on trade but steer clear of Yemen disagreements,” Al-Arbiya News, April 7, 2015.

同様に、パキスタンも、3月26日の空爆開始の際にサウジが有志連合の中の唯一の非アラブの国として名前を挙げたけれども、態度ははっきりしていない。そこでサウジはパキスタンに明示的に軍事的な貢献を求めた。パキスタンの外相の議会への説明では、いつ、どのようにとは明かされていないが、サウジの要請があったことを認めた。

“Saudis Ask Pakistan to Join the Fight in Yemen,” The New York Times, April 6, 2015.

しかしイランの外交攻勢はここでも優勢。4月8日にザリーフ外相がパキスタンに飛んで、パキスタンに、サウジとイランの仲介役を果たせるよと甘い囁き。

“Iran foreign minister: Pakistan, Iran must work together on Yemen,” Reuters, April 8, 2015.

翌日、ザリーフはパキスタンの参謀総長とも会談。

“Iran minister meets Pakistan military chief amid Yemen dilemma” Reuters, April 9, 2015.

4月10日、パキスタンの国会は全会一致で中立を決議。あちゃー、ですね。サウジにとっては。パキスタンにもナショナリズムがありますから、サウジに使用人のように、傭兵のように使われるのは認めがたいわけです。といっても現実に傭兵のようなことをしているわけですが。

“Pakistan Votes to Stay Out of Yemen Conflict,” The New York Times, April 10, 2015,

“Pakistani Lawmakers Pass Resolution Urging Neutrality in Yemen Conflict,” The New York Times, April 10, 2015.

これに対して、UAEの外務担当相が、パキスタンに「高い代償を払うことになるぞ」と警告する発言が報じられています。

“UAE condemns Pakistan’s vote on Yemen” Khaleej Times, 11 April 2015.

「本当の同盟国」か「メディアと声明の中だけの同盟国」かはっきりせよ、だそうです。
“The Arabian Gulf is in a dangerous confrontation, its strategic security is on the edge, and the moment of truth distinguishes between the real ally and the ally of media and statements,” Minister of State for Foreign Affairs Dr Anwar Mohammed Gargash tweeted after a unanimous resolution passed by a special session of Pakistan’s parliament.

「高い代償を払うことになるぞ」だそうです。パキスタンで反発を招きそうですね。ただでさえ、膨大な出稼ぎ労働者がこき使われていい感情を抱いていないのですから。
Gargash said Pakistan is required to show a clear stand in favour of its strategic relations with the six-nation Arab Gulf cooperation Council, as contradictory and ambiguous views on this serious matter will have a heavy price to pay.

「トルコとパキスタンにとっては、イランの方が重要なんだな。俺たちの金は必要としているが」(趣旨)。
Tehran seems to be more important to Islamabad and Ankara than the Gulf countries, Gargash added. “Though our economic and investment assets are inevitable, political support is missing at critical moments,” Gargash said.

“The vague and contradictory stands of Pakistan and Turkey are an absolute proof that Arab security — from Libya to Yemen — is the responsibility of none but Arab countries, and the crisis is a real test for neighbouring countries.”

引用の最後の部分のように、「本当に大変な時には誰も助けてくれない、自分の身は自分で守るしかない」という、遅まきながらの自覚につながっているようで、この記事にくっついている関連記事では、サウジの最高ムフティーのアール・シャイフ師の「国民皆兵にすべきだ」という発言が伝えられています。イエメンの紛争が早期に集結すれば、一時的なごたごたとして忘れられるでしょうが、なんだかそうなる雰囲気ではありません。

税金すらほとんど払わず、むしろ政府が国民に石油収入からふんだんに配分するということで、権利の制限もやむなしとして出来上がっている湾岸産油国の秩序です。ここに国民皆兵などを導入すれば、秩序が根本から崩れます。何か非常に大きな変化の兆しを目の当たりにしているのかもしれません。

なお、パキスタンの『ドーン』紙が同じ発言を報じる際には、パキスタンのシャリーフ首相とトルコのエルドアン大統領が電話会談をしていることも報じられています。サウジ・GCCからイエメンへの軍事介入を迫られ、対イラン対決姿勢を迫られて困っている両国の協議、というところが面白いところです。

“UAE minister warns Pakistan of ‘heavy price for ambiguous stand’ on Yemen,” Dawn, 11 April 2015.

Turkey’s President Recep Tayyip Erdogan telephoned Prime Minister Nawaz Sharif to discuss the crisis situation in Middle East and agreed that both the countries would accelerate efforts to resolve the deteriorating situation through peaceful means, said a statement issued by PM House on Saturday.

During the conversation that lasted for about 45 minutes, both the leaders stressed that Houthis didn’t have any right to overthrow a legitimate government in Yemen and affirmed that any violation of the territorial integrity of Saudi Arabia would evoke a strong reaction from both the countries.

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さて、これらはほとんどすべて欧米の主要メディアだったり、アル=ジャジーラやアル=モニターのような中東と関係の深い英語メディアなのだが、中東の現地語のメディアはどうなの?と知りたい人もいるだろう。

まず、事実関係について、基本的な政治的争点や論点について、現地メディアと英語メディアであまり違いはありません。

ただしアラビア語メディアは党派性が強いので、客観性で英語メディアに劣ります。アラビア語メディアの多くには、サウジ資本の影響力が及んでいるのと、今回はカタールがサウジに追随しているので、両者で有力メディアの多くを支配しており、議論に多様性が乏しくなっています。

分かりやすくサウジ資本の衛星放送アラビーヤの英語版のホームページの一例を挙げておきますが、イランとヒズブッラーがイエメンのフーシー派を訓練してイエメンを壊そうとしているんだ、と断定しています。

“Iran and Hezbollah trained Houthis to ‘harm Yemenis’,” Al-Arabiya News, 7 April 2015.

このような真偽の定かではない記事が、一応「政府系」ではないはずの民間資本のアラビーヤの画面とホームページには溢れています。

現地語の新聞を各国読み比べると時々面白い情報が推測されるのは、もっと微妙な社会的な部分、サウジの軍に傭兵やコントラクターとして入っているエジプト人やパキスタン人(さらにはイエメン人)などの動向ですね。政府間の関係とは別に、経済の論理で動いている個人と社会の関係。そのような情報は深いところで将来を見通すために有効な情報になりえます。

イエメン情勢の「最悪の最悪の」シナリオは

サファー・アハマドのイエメンについてのドキュメンタリーについて昨日紹介したけれども、これを4月7日に放送した米公共放送局PBSは、イエメン情勢についての基礎情報や最新の分析を次々と放送したりウェブに上げている。

元FBI捜査員で、9・11事件以前にイエメンでのアル=カーイダの活動を追いかけていたアリー・ソウファーンのコメント。ソウファーン・グループは、アル=カーイダとその関連組織や、「イスラーム国」への義勇兵の渡航や帰還兵の問題についての、国際的なメディアの主要な情報源の一つです。

“Yemen is Becoming an Extremist’s Dream. Was it Predictable?,” Frontline, PBS, April 7, 2015.

ユーチューブではここ

コメンテーターとはどういうことをどういう風に言うべきか、ということを勉強させられます。

例えば、本来はイエメン内部の権力闘争なのだが、各勢力がサウジを筆頭に外部の地域大国を引き込む。そうするとその後は地域大国間の代理戦争になり、地域大国間で解決するしかなくなるという問題について。

Every entity in places like Yemen or in places like Syria or places like Iraq reports to a regional power. Unfortunately, [Yemen] became a proxy war. There were local wars, local conflicts. Regional powers used them and injected sectarianism in them a little bit and made it regional and sectarian conflicts.

そして宗派紛争化させられるともう止められなくなる、という話。統治や改革について語れなくなり、内戦の経済要因や部族要因や政治要因について語れなくなり、宗教と宗派問題の話ばかりになり、人々は内戦の真の原因を忘れてしまう。

The moment you inject sectarianism to it, you have a similar situation to what we have in Syria or similar situation to what we have in Iraq … So the moment that sectarianism becomes a problem, then you’re not talking about governments; you’re not talking about political reform; you’re not talking about economic factors or tribal factors or political factors that led to the problem at hand. You start talking about issues that have to do with religion and sectarianism, and people are really blinded to the real reasons that they started this war in the first place.

最悪の場合どうなるのですか?という質問が常にあるが、これに対しては、

One of the things about the Middle East, especially recently, there is always a worst case scenario and a worst worst case scenario. Unfortunately, today the [situation in] Yemen is in its worst case scenario, but I am not convinced that this is the worst …

だって。

中東については、特に最近は、最悪のシナリオと、最悪の最悪のシナリオが常にあるのだが、残念だが、現在のイエメンが最悪のシナリオだと(もっと悪いシナリオがない)とは言い切れない・・・という趣旨でしょうか。

「成り行きに注目」と言うにしても、センスの良い言い方というものはあるのですね。

イエメンのドキュメンタリーの行方

おはようございます。本日も論文準備のため出勤です。寒いです。平日は大学事務やら、いろいろな依頼に応えたり断ったり引き受けると事務作業とか面会して打ち合わせとかこないだの講演の文字起こしを直せとかものすごい大量の雑務が積もっているのでほとんど仕事にならない。皆さん、何が重要なことか、ちょっと考えてください。

それはともかく、先日、イエメン問題についていいドキュメンタリーがある、という紹介をしたところ、

「イエメン情勢を現場から解読するドキュメンタリー」(2015/03/31)

「もう見られなくなっています」という声が読者からちらほら。

サファー・アハマドのThe Rise of the Houthisですね。

時間がなくてコメント欄にはほとんど反応できない(大部分スパム&思い込みコメントだしねえ・・・「コメントの墓標」)が、このドキュメンタリーについては私ももう一度見たかったので、残念で、何度かBBCのページを見直して、どこかに映像がないか検索してみた。記事の中の映像画面は、まず「表示できません」のようなものに代わり、ついで予告編のような2分程度の短いものに差し替えられてしまった。確かに、かなり価値の高いコンテンツだからねえ・・・NHKBS1の「BS世界のドキュメンタリー」で放送権を買って見せてくれるのを待つしかないかな、と思っていた。

そうこうしているうちに、米公共放送PBSも、看板番組のFrontlineでサファー・アハマドのドキュメンタリーの放送を盛んに宣伝し始めた。BBC/Frontlineの共同制作と謳うようになってきた。4月7日に、おそらくBBC放送のとほぼ同じものを、PBSで大々的に放送したようだ。“The Fight for Yemen,” Frontline, PBS, April 7, 2015.

しかしPBSのホームページでドキュメンタリーの本編を見ようとしても、「権利の関係であなたの地域では見られません」といった画面が出る。BBCの方は、たぶん、PBSが放送する関係で、全編無料公開を引っ込めたのだろうと想像する。

PBSはサファー本人の見解を詳細に聞いたインタビュー“On the Ground in Yemen: Six Questions with Safa Al Ahmad,” Frontline, PBS, April 7, 2015Youtubeではここ】の方は現在全世界向けに公開している。これも傾聴に値する。異論はあると思うけれども。例えば、現地の権力闘争に、深い利害関係と影響力があるサウジが介入しているだけで、イランの介入は具体的ではなく、宗派紛争でもない、という議論には、立場によっては異論があるだろう。しかし欧米とアラブ世界の知識層にまたがるグローバルな市民社会の主流の「啓蒙された」議論はサファーのものに近いだろう。現在のイエメンについて、現地の実態に触れながら、一定の距離をとって議論する際の基本的な論点や立場が示されているのではないかな。

ジャーナリストとかコメンテーターっているのは、こういう水準のものなの。そういう人は日本には、ほとんど全く、いません。それはつまり、市民社会の質が低いということなのです。取材によって現象の中から支配的な論理を抽象化できないジャーナリストは、ジャーナリストではありません。「俺は誰々に直接インタビューしたことがあるんだ」といった自慢話はいらん。そこで何をあなたが見出したか、それを的確に言葉と映像で伝えられるか否かが、ジャーナリストの評価基準である。この評価基準そのものをわかっていないで番組を作る人たちは、ジャーナリストではない。

もちろんデマに踊り踊らされるコメンテーターとかも、いりません。もっと能力がある人を探してくるのがテレビ局の義務ですし、能力のない人は能力のある人に追い落とされることが、競争社会の必要なメカニズムです。

こういうことを書くと、最近は「政府の息のかかった文化人から圧力がかかった」とか言い出す人がいるんだよな、ジャーナリストを称する人たちの中に。「声が大きい一部の学者」とかね。そんなことを、政府の権力で電波を割り当ててもらったテレビ局の、何千万人に向けて発信される画面で特権的に言える立場に立っている人たちが、「声が大きい」人の全くの個人のブログでの発言に「圧力」を感じる、感じてそれを(これをまた特権的に確保したメディアの場とか、業界人のしょうもない会話の中で)クレームするというのは、言論人が内面化して備えるべき基本的な前提を身につけていないということを意味します。近代社会の言論人として成立する以前の、子供の議論。しかしこれが多いんだな。

言論とは、「弱者」の立場になりすまして他人を黙らせる競争をするものではありません。なお、「弱者」の立場に立てば相手が仕方がなく黙る、という手法が通用するのは、弱者を尊重するという規範が何はともあれ通用しているからです。

その規範を実質上の強者が乱用し始めれば、本当の弱者の権利は消滅します。権利というものは、市民社会が質を保つことを一つの重要な条件として守られているのです。気をつけましょう。

さて、サファーのイエメン情勢のドキュメンタリーについては、イエメンでも非常に注目されたようで、BBCでインターネット上で公開された時は現地でもかなり視聴されたようである。

探してみると、ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックスのブログでは3月30日に、このドキュメンタリーに関するプレビューが掲載され、的確な批評・紹介がなされていた。これもなかなか興味深いコラムだ。

Robert F. Worth, “Yemen: The Houthi Enigma”

PBSは上にあげた「サファーへの6問6答」以外に、ニュース番組Newshourでもドキュメンタリーの一部の映像を紹介し、サファーにインタビューしている。こちらはトランスクリプトも付いている。NHKBS1のワールドニュース・アメリカでも多分やっていたのではないかと思う。

BBCでもドキュメンタリーのメイキング的なことをサファーが寄稿している。

こういった関連記事、周辺情報、反響・批評などを読んで、あとはNHKBSで放送してくれるのを待つしかないのか・・・と思っていたところ、、、

今朝BBCの記事をもう一度見てみたところ、いつの間にか末尾にTo watch the full Documentary click here の一文が付け加えられており(多分数日前はなかった)、hereのところをクリックするとこのユーチューブ画面に飛んで、全編見られるようになっていました。めでたし。
https://www.youtube.com/watch?v=Y7HQRyJDTPo

書評まとめ(3)『イスラーム国の衝撃』

次の本の詰めが難航して長考に入り、ウェブからしばらく離れて文献読み込みにはまり込んだりしていまして、「ほぼ日」化宣言していたブログ更新も滞っていますが、いくつか『イスラーム国の衝撃』に大きめの書評が出るようになってきたので、紹介します。

(1)『毎日新聞』2015年3月29日、《今週の本棚》「『聖戦』の広がりと変容」(評者 本村凌二(推薦)・岡真里・橋爪大三郎)

『毎日新聞』の書評は、まず推薦者が紹介した上で別の二人が加わって座談するという新趣向です。

(2)『週刊エコノミスト』2015年4月14日号(4月6日発売)、《読書日記》「『イスラム国』を読み解く気鋭学者の”正気”」(評者 渡辺京二)

『週刊エコノミスト』は私も5週に一回寄稿している読書日記欄なので、今回は載っていないと思いつつ開いてみて驚きました。サプライズ書評。

表紙もあげておきましょう。

週刊エコノミスト2015年4月14日号

『イスラーム国の衝撃』は、論壇の既存の議論の枠組み、予想の構図を覆すような形での反響を多くもたらし初めているような気がします。論壇が「立ち位置」ではなく中身で議論するようになる方向づけを出来たなら幸甚です。

ジル・ケペル『中東戦記』を、市場からなくなる前にどうぞ

このブログで紹介しようと思いつつ、自著(翻訳ですが)なので後回しにしてきたこの本。


ジル・ケペル著(池内恵訳注・解説)『中東戦記 ポスト9.11時代への政治的ガイド』(講談社選書メチエ、2011年)

どうやら在庫僅少らしい。もし重版されないと、手に入らなくなりますので、お求めの場合はお早めに。最近売れているので店頭では品薄になって、出版社の在庫もほとんどないらしい。

アマゾンの在庫は切れているようだし、ジュンク堂を検索してみると、見事にほぼ全ての店舗で在庫僅少の△になっている

この本は、編集者との会話の中で、私が提案して私が訳して、詳細な訳注をつけて出したもの。

副題の「政治的ガイドブック」というのは私がつけたもので、原著のフランス語版に、英訳版でついた論考も加えて、さらに訳注を全ページの下に詳細につけて、どこにもない決定版にした。

9・11以後の時代のイスラーム世界の基調となるトレンドを、皮膚感覚でとらえた「フィールド記録文学」とも言える名著です。哲学と社会科学と文学が連続しており、知識人が社会的発言をすることが原則という、アメリカとは異なるフランスからでこそ生まれる作品でしょう。実証性がない!とアメリカの学会では怒られそうですが。

著者はイスラーム主義過激派の研究の先駆者のジル・ケペル。フランスのパリ政治学院の先生です。1981年にエジプトでジハード団がサダト大統領暗殺事件を起こしたその時にまさにエジプトでイスラーム主義過激派の研究をまとめようとしていた。

その後、フランスの郊外問題としてのイスラーム主義の台頭を先駆的に問題視した。世界的なジハードの広がりにも早くから注目して大著を現していた。典型的なヴィジョナリーです。

そのまま訳すと、中東の社会に触れたことのない日本の読者にはわからない部分が多いかと思って、訳注それ自体を、中東の政治・社会・文化のガイドブックのつもりで詳細に書いておきました。あと、文中の地図はすべて私が講談社の編集者を泣かせながら作ったものです。

この本の価値は時間が経っても変わらないと思うけど、今時の出版社がちょっとずつしか売れない本を持ちこたえられるかわからないから、市場からなくなる前にどうぞ。

外務省の海外安全情報の読み方ーーリスクを測る・基礎編(付録:ケニア・ガリッサの危険度)

シリアで人質に取られ殺害された二人の日本人の事件に際しては、「危険な地域になぜいった」「危険な地域に入ろうとする人を止める方法はないのか」といった問題が浮上しましたが、3月18日のチュニジア・チュニスのテロでは、比較的安全とされている地域に世界中の観光客と一緒にツアーで行ったら銃撃されて殺害された、という事態でしたので、「どこへ行ったら安全なのか」「どうやって危険を察知したらいいのか」という問題に関心が及び始めています。

個人の観光客のレベルでも、海外でのリスクをどう測り、身を守るかが、グローバル・ジハードをはじめとしたテロの拡散により、大きな課題となっています。

今日は基礎的な情報源として、外務省が発信している、安全(危険)情報の読み方を、記しておきます。完全・十分とは言えないですし、これだけでリスクをなくすことができるわけではないですが、これを見ておくことは、最低限必要な情報を入手するための手がかりとなります。

この記事のアップロードに合わせて「リスク」のカテゴリを新設しました。今後、私の目に付いたリスク情報を発信したり、リスク情報を個人や組織が読み解く手がかりや関連書籍などについて掲載する予定です。

【この項目は本来、4月3日朝に自動アップロードするために事前に書いて設定してありました。当初は北アフリカの事例を素材にしていましたが、4月2日にケニア東部ガリッサでシャバーブとみられる組織が大学を襲撃し死傷者が多く出ているため、ケニアの事例を加えました】

まず「外務省海外安全ホームページ」のトップページを見てみましょう。

http://www.anzen.mofa.go.jp/

「中東」や「アフリカ(北部)」といった地域ごとに分かれています。


地図をクリックして、「アフリカ(北部)の地域渡航情報」を表示してみましょう。

http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcareahazardinfo.asp?id=14


例えば、3月18日のバルドー博物館のテロがあった「チュニジア」をクリックしてみましょう。 

http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo.asp?id=113#ad-image-0

そうすると、このような地図が出てきます。

チュニジア危険情報地図(小・広域地図ボタン付き)

この地図をクリックすると、拡大した地図が別ウィンドウで立ち上がり、各県・地域の危険度を詳細に見ることができます。

使い方のポイントを記しておきましょう。

1.基本は各国別に表示されている

→県や地域による危険度の違い・グラデーションに注意しよう。

国によっては、非常に細やかに、危険度が高い地帯とそうでもない地帯を塗り分けてくれていることがあります。かなり正確で、根拠があるものです。

→ただし、国境を越えた、複数の国にまたがる脅威の所在が見えにくいきらいがある。

注意すべきなのは、基本は国ごとに危険度が指定されているため、グローバル・ジハードのように国を超えて組織や人が離合集散する脅威については、見えにくいことです。

ある程度広範囲に見る方法はあります。例えば、世界地図→「中東」あるいは「アフリカ(北側)」などの地域単位の地図に進んだところで、地図の中の「危険度表示」をクリックしてみましょう。そうすると、すべての国の危険度が色分けされるので、相対的にどのあたりが危険か、感覚的にある程度わかってきます。

また、各国の地図を表示させた最初の地図の下にある、「広域地図表示」のボタンをクリックしてみましょう。再びチュニジアの地図を見ると、下にありますね。

チュニジア危険情報地図(小・広域地図ボタン付き)

下のボタンをクリックする。

そこでは隣国のリビアやアルジェリアの国境付近が表示されます。拡大したり動かしたりできます。そこで「周辺国危険度情報」のボタンをクリックしましょう。

そうすると、このように、国境の向こう側の隣国の危険度も表示されます。そうすると国境のこちら側に波及してくる事態も、ある程度推測できます。

チュニジア広域危険情報

しかしそれでも、基本は国ごとに色分けしてあるので、限界があります。

例えば、モロッコは全面が黄色の第1段階「十分注意してください」です。しかし隣国のアルジェリアとの国境を越えると、ちょっと赤っぽい第2段階の「渡航の是非を検討してください」になります(アルジェリア南部では第3段階の「渡航の延期をお勧めします」になります)。

モロッコ広域危険情報

私はこのモロッコの危険情報が間違っていると言いたいのではないのですが、素人考えでも、国境のこちら側は一体が安全で、国境を越えると突然一面に危険になる、ということがあるのか、疑問が出てきます。

もちろん、原則的には国ごとに分けるべきでしょう。ある場所の危険度は、その国の中央政府がどれだけ国土の隅々まで管理しているか否かにかかっていることが多いですから、中央政府が安定している国は、隅々まで安定していると考えられます。隣国の中央政府が不安定・弱体化していれば、ほんの数キロ離れた国境の向こう側では突然危険度が高くなる、ということもありえます。

しかし、中央政府が安定している国でも、隣国が極めて不安定だと、国境付近や、地理的な要因から中央政府の管轄が及びにくい地域において、部分的に治安が悪化する可能性があります。均質に一つの国の中が安全だとか危険だとか言うことができない状況が生まれてきています。

外務省の海外安全情報でも、可能な限り一国内の危険度にもグラデーションをつけている場合があります。県単位で、あるいは地域単位で塗り分けている場合があります。アルジェリアの北部と南部、さらに国境地帯での、危険度の違いなどです。

チュニジアはもっとも細やかに危険度に差をつけていて、これはかなり精度が高いといえます。ただし、3月18日の事件が首都チュニスで起こったということを除けば。チュニスは事件が起こるまで、危険度1の「十分注意してください」でした。これが事件後に危険度2に引き上げられました。

さて、4月2日に、ケニア東部のガリッサで、大学に武装集団が押し入って銃を乱射し、多くの死傷者を出す事件が発生しました

この機会に、ケニアの安全(危険)情報を見てみましょう。ケニアのページを見ると、「危険情報」のところに目立つように文書がリンクされており、クリックすると地図付きで文書が表示されます。地図を拡大して、「周辺国危険情報」もクリックしてみると、このようになります。

ケニア広域危険情報

危険情報を読みますと、東部のソマリアとの国境地帯、ダダーブ難民キャンプ、そしてガリッサに、最高レベルの赤色で塗られる、「退避勧告」が出されていることが分かります。地図にも明確にこれが示されています。

●ソマリアとの国境地帯、北東地域ダダーブ難民キャンプ周辺地域及び北東地域ガリッサ郡ガリッサ
 :「退避を勧告します。渡航を延期してください。」(継続)

また、国境地帯を含む各県には、上から二番目の「渡航の延期をお勧めします」の危険情報が出されています。

●北東地域ワジア郡、ガリッサ郡(ダダーブ難民キャンプ周辺地域及びガリッサを除く)及び沿岸地域ラム郡(ソマリアとの国境地帯を除く)
 :「渡航の延期をお勧めします。」(継続)

このように、海外に行くときは、旅程表に含まれる国とその地域にどの程度の危険情報が発せられているか、確認しておくといいでしょう。

2.広域情報を読んでみよう

→必ずしも高いレベルの危険情報が出ていない国でも、地域を横断して突発的に危険が及びうることが予想されている場合は、「広域情報」が提供されていることがあります。

各国のページに、地図には描かれてはいませんが文章で、国を横断して生じてくる可能性のある脅威・危険の所在について特記してあります。例えば、モロッコは全土が黄色の第1段階とされていますが、「広域情報」と「スポット情報」で、潜在的・突発的な脅威の存在が特記されています。ここを読んでおくと、一国ごとの危険度の塗り分けを越えた、流動的な危険の所在が見えてきます。

●【広域情報】 2015年03月19日
ISILから帰還した戦闘員によるテロの潜在的脅威に関する注意喚起

◆【スポット情報】 2015年02月03日
モロッコ:テロの脅威に関する注意喚起

→ただしこういった情報は、予備知識がないと何のことかわからないかもしれません。

読み取り方がわからない時、分かる人に聞いてみましょう。大使館・総領事館に聞いてみると、意外に親切に教えてくれる(かもしれない)。

本当はリスク情報をより細やかにして、渡航者が観光客であるか、ビジネスで行くのかなども考慮した上で情報を発信する企業などが育つといいのですが。

3.しばしば事後になってしまうが:渡航情報(危険情報) を読んでみよう

大事件が起きた時などは、渡航情報が特に発せられて、ホームページの上の方の目立つところに載っています。今なら、3月18日のチュニスのテロを受けて、チュニスの危険度が引き上げられたことが、外務省の安全情報のホームページに特に告知されています。

事件の後では遅いではないか、という考え方もあるが、そもそも秘密組織の行動を予測することは困難です。当事者たちが意図を隠すからです。一つ大きな事件が起きた後は便乗犯も出てきますし取り締まりも厳しくなりますから、衝突が連鎖したり反作用が生じたりする。特に注意が必要です。

チュニジアについての渡航情報(危険情報)の発出 (2015年3月19日)

4.大前提として:首都の重要施設、ランドマークはいかなる国でもテロの潜在的対象

→これは外務省としてはおそらく一番書きにくいことだと思うのですが、首都は常に高い確率でテロのターゲットになります。
しかし外務省では安全情報で首都の危険度を上げることは、おそらく躊躇しているでしょう。

首都は通常主要な空港があり、経済活動の多くが行われるため、首都を危険と認定すると多くの交流が途絶えてしまいかねないという事情があります。観光客はどこに行くにしてもまず首都を通ることが一般的です。それが一番便利だからです。相手国政府は首都の危険性を認定されることを非常に嫌いますので、外交関係上も、首都の危険度を引き上げるのは勇気がいります。

また首都は規模が大きいため、テロなどが生じても実際に遭遇する確率は低いとはいえます(ただし、小さい国であらゆるものが首都のある地域に集まっている場合などは、首都で何か事件に巻き込まれる可能性がある)。

実際、チュニジアも首都チュニスの危険度は一番下の「十分注意」に止められていました。それが3月18日のバルドー博物館でのテロを受けて下から2段階目に引き上げられたのです。

ケニアの例でも、見にくいですが、地図を拡大すると、首都ナイロビは現在のチュニス同様、下から2番目(上から3番目)の、「渡航の是非を検討してください」になっています。2013年9月21日にナイロビのショッピング・モール「ウェストゲート」が襲撃された事件があったことなどから、引き上げられているのでしょう。

→そもそも観光客はテロの対象になりやすいということは、厳しい現実ですが、知っておいたほうがいいでしょう。観光名所やランドマークで事件を起こすと国際的な注目が集まるため、テロ実行者にとって効果が大きくなります。海外からの観光客はほぼ必ず丸腰ですから、反撃してくる可能性のない、いわゆる「ソフトターゲット」です。

また、観光客を狙うことで経済的な打撃を与えることによる政治的な効果を目論む勢力が活動を活発化させている国・地域の場合、現地の一般人よりも観光客の方が身に危険が及ぶ可能性が高い場合があります。

これを言ってしまうと、そもそも観光客だからこそ危ないということになってしまいます。観光名所やランドマークに行くからこそ観光になるのであって、それを避けるということになるとなんのために観光に行っているかわからなくなる。この問題には解決策がありません。そもそもそのような不自由を生じさせることがテロの目的なのですから。

(まあ私個人は町の食堂で現地の人と喋りながら新聞を読んでいるだけで観光になる人間なので、一番リスクが低いのですが・・・)。

『週刊エコノミスト』の読書日記(10)不寛容への寛容はあるのかーーキムリッカ『多文化時代の市民権』を読み直す

『週刊エコノミスト』の読書日記の第10回が出ました。

すでに3月30日(月)に発売されています。今回も、電子版には掲載されておりません。

池内恵「不寛容への寛容はありうるか」『週刊エコノミスト』2015年4月7日号(3月30日発売)

取り上げたのは、ウィル・キムリッカ『多文化時代の市民権―マイノリティの権利と自由主義』(角田猛之・山崎康仕・石山 文彦訳、晃洋書房、1998年)です。

自由主義的な社会の中で少数派や移民の固有の文化・価値規範を尊重するためには、同時に、自由主義社会として、受け入れ可能な「異文化」の規範の限界はどこにあるかも示しておかなければならない。「不寛容への寛容」は自由主義社会を掘り崩し、寛容そのものを不可能にする。キムリッカの本を紐解けば、きちんとその部分を書いてある。

誰がどう考えても行き着く結論をとことん考え抜いておくことが政治哲学。

1990年代の英米圏の政治哲学が、いわゆる「フランス現代思想」と大きく異なるのは、言葉遊びではなく、実際に国際社会に生じる問題をどう調整するかという、実践的な問題に取り組んだこと。それは良くも悪くも英米圏が「米による単極支配」の中心に位置し、国際社会に生じてくる問題を最先端で認識し、取り組む主体としての意識を持っていたからだろう。

そのことは、フランスの「現代思想家」の、少なくともそれまで知識人の間の流行の先端にいた人たちが、国力の低下とともに(あるいはマルクス主義の失墜とともに)、世界を主導する責任感を失っていった(要するにスネちゃった)ことと対照的だ。フランスの知識人は普遍主義を掲げながら、反米なら非リベラルな思想も造反有理で歓迎、という方向にしばしば流れてしまう。世界に普遍的に出てくるアンチ・グローバリズムの尻馬に乗ってそこで指導性を発揮しようとするという意味での「普遍性」にしばしば堕している。英米が支える「欧米」の優位な地位にはただ乗りしながら、「反米」で第三世界にもウケようとするところがなんとも嫌な感じである。まあそういうところがイスラーム主義過激派などからも見透かされて、今やアメリカ以上に敵にされてしまっているわけだが・・・

(↑ ちゃんとした思想家もいるんだろうが、日本で紹介されたり振りかざされたりする「フランス現代思想家」はえらく頼りない人達ばっかりだぞ。もっと頼れる人たちをどんどん紹介してください)

キムリッカの次作の『土着語の政治: ナショナリズム・多文化主義・シティズンシップ』(岡崎晴輝・施光恒・竹島博之監訳・栗田佳泰・森敦嗣・白川俊介訳、法政大学出版局、2012年)も検討した。

しかし、カナダの事例が基礎になるので話が高度すぎるので、他の国について考えるときにはあまり参考にならない。カナダの場合、欧米系の複数の文化・言語集団が土着(先住民の問題をよそにおけば)の多数派と少数派として存在している上に、さらに新たに多様な民族・宗教的背景の移民を受け入れている。欧米系のホスト社会の中の多数派と少数派の間の関係をめぐる問題を検討した上で、多数派と少数派の両方のナショナリズムの存立しうる余地を検討した上で、新たな移民のナショナリズムをどうするか、といったカナダなどに固有の複雑な話になっているので、汎用性は『多文化時代の市民権』の方が高いと判断して、昔の本を書評しました。

【年度が変わっても連載は継続のようです。11回目以降もご期待ください】

イエメン・奇跡の風景

まったくブログに何か書く時間的余裕がありませんので、最近フェイスブック等でもよくお知らせしているイエメンについて。

政治情勢さえああでなければ、イエメンは非常に美しいところなんですよね。よそでは見られない絶景の宝庫。それも自然・風土に人間が長い年月をかけて手を加えてできた、究極の文明の遺産。アラブ人の精神的な故地とも言えます。

そんなイエメンの風景写真を、例えばこのようなウェブサイトからどうぞ。

Colin Daileda, The breathtaking beauty of Yemen, a war-torn land, Mashable.

The Secret Cities of Yemen
, Kuriositas