サウジの石油価格下落放置の究極の狙いは「需要の維持」とする説

石油価格が低下傾向に入ってから10ヶ月ほど。米国のシェールオイルの生産の落ち込みが始まり、今年1月にはブレント指標で50ドル/1バレルを割り込んだが、サウジのイエメン介入が地政学リスクの認識を高めたせいなのか、4月14日には58ドルまで上がっている

しかし、昨年後半以来の石油価格低下を、サウジが止めようとしなかったこと、特に、OPECでの価格引き上げ策を積極的に拒否して下落を加速させたことについては、透明性のないサウジの意思決定メカニズムも絡んで、盛大な憶測を呼んできた。

例えば、

(1)市場コモディティ化や非OPEC産油国の増大から下落を止める能力がない以上、シェアの確保を優先して価格低下は見逃している、という経済学的説明。

まあこれはそうでしょう。もっと攻撃的な意図を推測すると、

(2)米国のシェール・オイル潰し。

という、まあありそうな政治的な経営戦略の推測、

さらには検証のしようのない、

(3)実は裏で米国と結託して原油価格低下を推進しウクライナ問題で対立するロシア・プーチンを追い詰める策謀を行っている。

という話も飛び交い、さらに、その動機は

(4)老舗産油国のプライド(?)

等々といろいろな説明もなされていた。

しかし非常にわかりやすい、筋のとおった説明の記事が出た。

上記の戦略・戦術・策謀がないとは言えないが、もっと長期的に、需要の維持こそが大局的にサウジの国益となるのであって、そのためには石油価格は安くないといけないという判断がある、という説である。石油価格が高止まりしていると、代替エネルギーの開発が進んでしまうことは確かだ。

Peter Waldman, “Saudi Arabia’s Plan to Extend the Age of Oil,” Bloomberg, April 13, 2015.

Supply was only half the calculus, though. While the new Saudi stance was being trumpeted as a war on shale, Naimi’s not-so-invisible hand pushing prices lower also addressed an even deeper Saudi fear: flagging long-term demand.

ここでナイーミ石油相を大きく取り上げています。叩き上げで石油産業と市場の生き字引のようなナイーミ石油相に、深い叡智と先を見通す目が備わっているとみなすこの記事自体が、サウジの安定性を宣伝するサウジの広報戦略の一環である可能性はありますが、確かにサウジの指導部にはこの方面では非常に深い知見が蓄積されているでしょう。

「石器時代は石が枯渇したから終わったわけではない」というのはサウジのヤマニー元石油大臣の有名な台詞ですが、供給が問題なのではなく、需要がなくなることこそが恐怖、というのが、枯渇を考えなくていいほどの埋蔵量を誇るサウジの、他の産油国より一歩先を行った視点と言えるでしょう。

こういった記事が出ることも織り込んでいるのか、サウジ政府は、他の輸出国が協力しないなら生産調整しないよ、という価格低下構わずの姿勢を維持し、さらに「シェールも代替資源も歓迎してるよ」と余裕の構え

石油超大国としてこういうところはさすがに深いですが、アキレス腱は社会内部の過激な宗教勢力とか、寄せ集め地上軍の信頼性とかなのであろう。