【今日の一枚】(1)中東「一人一国」構想

昨日は新コーナー「いただいた本」の第1回でしたが、今日は「地図で見る中東情勢」のカテゴリーを復活させてみましょう(高坂正堯『世界地図の中で考える』(新潮選書)も再刊されましたし)。

PCで右下にあるカテゴリーから「地図で見る中東情勢」をクリックしてみていただけるとわかると思いますが、以前は結構本格的に、地図をコピーしてきて解説していました。

もっといろいろ解説してみたいテーマはあるのですが、これはかなり時間がかかるので、現状では当分以前のような規模ではできません。

これだけ労力をかけるなら、本にした方がいいのでは、という気もします。

しかし本来は、インターネット上で回ってきた面白い記事の面白い地図を一枚貼って記事にリンクして「こんな地図あるよ」「記事読んだら面白かったよ」と伝えたいだけだったんですね。このブログの開設の発想そのものが。

それがいざ書くとなると、不特定多数に読まれるものだから詳細に解説しないといけない、地図も複数揃えて誤解のないように完備させないといけない、と考えるうちに、本格的なものになってしまいました。

しかし初心に帰って、これからは、特にブログに通知する連絡事項がないときなどに、ほいっと気楽に一枚地図を貼り付けてみようかな、と思います。

解説もほとんどしませんので、自分で調べてみてください。

今日の地図はこれ。

中東一人一国構想Onion
“Everyone In Middle East Given Own Country In 317,000,000-State Solution,” The Onion, July 17, 2014.

私はこれを「中東一人一国構想」と呼んでいます。

これは日本で言うと『虚構新聞』みたいな、元祖冗談新聞のThe Onionに以前に載っていたもので、『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)
を読まれた方には意味がピンとくるのではないかと思います。

本当はこの地図は、サイクス=ピコ協定とか、最近の中東分割案のいろいろな地図とかと合わせて紹介しようと思っていたのですが、そんなことをやっている時間もないし、サイクス=ピコ協定関連は本にしてしまったし、ということで、「一枚の地図」で紹介。この地図の意味するところを、ご自由に調べていってみてください。

【テレビ出演】本日の「NHKクローズアップ現代」でグローバル・ジハードの拡散について

本日3月16日午後7時30分からNHKクローズアップ現代「テロ“拡散”時代 世界はどう向き合うか」に出演し、グローバル・ジハードの拡散と拡大のメカニズムについて解説します。(再放送は日付変わって17日の午前1時3分〜)

番組予告はここから

クローズアップ現代

番組予告ではテロの「標的」がソフトターゲットになっていることを強調しているようですが、私自身の解説は、テロの「主体」の側が拡散し分散型・自発的呼応型になっていること、さらにそれがイラクやシリアなどで領域支配を「拡大」することによって、聖域・拠点を得て、拡散にもさらに強度を増したハイブリッド型になっているといった基本ラインを説明しようと思っています。

また、クローズアップ現代のリニューアルも近づいている間近ですので、2001年の9・11事件以来の世界の変動についても振り返ってみたいですね。長かったような、短かったような。

【発表】『PHPグローバル・リスク分析』2016年版

『2016年版 PHPグローバル・リスク分析』が、本日午後、発表されました。

PHPグローバル・リスク分析2016年版

私も末席で参加させていただき、普段あまり顔をあわせる機会がない様々な業界の皆様の、談論風発に大いに触発され、ほんのわずかですが貢献もいたしました。

「グローバル・リスク分析」プロジェクトは2012年から始まって今回が5回目。私は2013年版から参加させてもらっています。

今年はこれまでと少し趣向を変え、10のリスクについて、箇条書きスタイルで一枚にまとめ、単刀直入な見やすさを重視しています。オーバービューを地図に埋め込んだり、各専門家が一致できる10のリスク以外にも「ブラックスワン」の出現の兆候となるノイズあるいはシグナルに耳を澄ますための「Buzzwords」といった新コーナーを設置。これまでは各リスク項目について、それをリスクとみなす文脈やインプリケーションをかなり詳細に書き込んできたのですが、読む側も書く側もマンネリ化してくるといけないので、ここらで新機軸です。

PHP総合研究所のウェブサイトから、10の項目だけここに書き写しておきます。【全文はここをクリックするとPDFでダウンロードできます

年明けには、イアン・ブレマー氏のやっているユーラシア・グループの「世界の10大リスク」も発表されることでしょう。対照させてみてください。

また、こういった定時観測は、過去のものから順に読んでいくと面白いです。PHP総研のウェブサイトで2012年版から全て見られます。昨年のものについてこちらから

◆グローバル・リスク2016
リスク1. 中国経済悪化と国際商品市況低迷に挟撃されるアジア中進諸国
リスク2. 止まらない中国の海洋進出が招く緊張の増大と拡大
リスク3. 深まる中国依存と主体思想の狭間で揺れ動く北朝鮮
リスク4. テロと移民問題がもたらすEUの亀裂と反統合の動き
リスク5. グローバル化するISILおよびその模倣テロ
リスク6. 加速するサウジアラビアの国内不安定化と原油市場の混乱
リスク7. 地域覇権をめざし有志連合内で「問題児化」するトルコ
リスク8. 選挙イヤーが宙づりにする米国の対外指導力
リスク9. 金融主導グローバル化の終焉で幕が開く、大企業たたきと「P2P 金融」時代
リスク10. 加速するM2M/IoTが引き金を引くサイバー脅威の現実化

【コメント】『産経新聞』(11月17日)へのコメント「過剰反応こそテロの狙い」

今日の産経新聞朝刊に掲載されたコメントがウェブにも掲載されています。

「『過剰反応こそテロの狙い』池内恵・東京大学准教授」『産経新聞』2015年11月17日朝刊

テロをめぐって今、「拡大」と「拡散」が起きている。中東では政治的な無秩序状態がいくつも生じ、「イスラム国」をはじめ、ジハード(聖戦)勢力が領域支配を拡大している。そして、そこを拠点にして世界に発信されるイデオロギーに感化され、テロを起こす人々が拡散していくメカニズムができてしまった。

自発的なテロに加わる人物の戦闘能力も上がっている。勧誘されるわけではなく、勝手に中東に赴き、実戦の中で学ぶ者が増えている。中東地域はその軍事訓練の場を提供している。(国際社会は)この混乱を治めなければならない。

ただ、軍事的に対処したり、政治的に追い詰めたりすると、短期的には、ジハード勢力が、自らを圧迫してくる勢力の社会を狙ってテロを起こす方向にいく。テロは基本的には防げないし、特に個人や小組織が自発的に行う分散型のテロは、摘発や予測が難しい。

こうした全体構造を理解し、テロが起きても騒ぎすぎないのが最も重要な対応だろう。動揺して過剰に反応し、各国の社会に不満を持つ勢力がテロを利用すれば、社会的な対立が生じていく。それがテロの効果であり、狙いであるからだ。

日本もテロの対象となり得るが、歴史的に欧米のキリスト教徒、ユダヤ教徒を敵だと認識しているジハード勢力にとって、優先順位は低い。しかし、欧米を中心としたサミットやオリンピックが開かれる際は、一時的に日本も危険になると考えた方がよい。(談)

【テレビ出演】「クローズアップ現代」(11月16日)での発言がNHKウェブサイトに

昨日出演した「NHKクローズアップ現代」の内容が、活字と静止画像でNHKのウェブサイトに掲載されました。

「NHKクローズアップ現代 No. 3733 緊急報告 パリ“同時テロ”の衝撃」2015年11月16日

私の発言も、詳細に確認してはいませんが、スタジオで生で発言した通りに文字起こしされているはずです。一部、「領域支配」と言ったはずが「領地支配」に変換されていたりします。そう聞こえるのかもしれませんが、そうは意図して発言していません。若干精度の荒い記録とお考えください。

いずれにせよ、このような文字起こしを公開し残しておくことは、信頼性のある報道番組であろうとするならば必須の条件と言っていいと思います。

発言時間は国やキャスターとのやりとりを含めて8分程度しかありませんので、事前の打ち合わせではもっと多くの論点を入れようと準備しましたが、実際にやってみると入らない部分もありました。

ただ、組織原理や戦略目標が変わったのではなく、従来のグローバル・ジハードの各地の分散型・自発的テロの多くの種類を組み合わせ、「冷酷さ」と手際良さにおいて「進化」したという論点はじっくり議論できたように思います。

何がこの「冷酷さ」をもたらしたかは、今後検討しなければなりませんが、渡航してイラクやシリアでの戦闘に関わったり、あるいはそこからもたらされる残酷な情報に触れることで、麻痺してしまったのかもしれません。

【寄稿】『毎日新聞』にパリ同時多発テロ事件に関して(11月15日)

『毎日新聞』の昨日(11月15日)の朝刊に寄稿しました。

現地時間13日深夜に起きたパリ同時多発テロ事件についての、新聞に載る最初のコメントの一つだったのと、この日出た各種の有識者のコメントで、イスラーム教の規範そのものへの言及やジハード主義によるテロの正当化についてはほとんど触れられていなかったことから、メディア関係者が解説を求めてコンタクトを取ってくることが多くありました。

ここに本文テキストを掲載しておいます。毎日新聞のウェブ版に掲載されています。

池内恵「個人が連携、『聖戦』拡散」『毎日新聞』朝刊、2015年11月15日

自爆を多用する手法や同時に多くの場所で作戦を実行する能力から、過激派組織「イスラム国」(IS)などグローバルなジハード(聖戦)のイデオロギーに感化された集団によるものである可能性が高い。ジハードはイスラム教への挑戦者を制圧する戦いとして尊ばれる理念である。イスラム教徒の全員が行っているわけではないが、否定することの難しい重要な教義だ。
ジハードを掲げる勢力はイスラム教の支配に挑戦する「西洋」を敵と捉えるが、政教分離を明確にするフランスは、宗教への挑戦のシンボルと認識されやすい。
また、フランスにはアラブ系のイスラム教徒が多いうえ、シリアやイラクへの空爆にも参加している。彼らが過激化する可能性があり、そのためフランスが標的になりやすくなる。
米軍がISへの攻勢を強める中で、現地に義勇兵として行くよりも、欧米社会を攻撃して対抗する方が有効と考える者が出てきてもおかしくない。今回の犯行は少なくとも六つの場所でほぼ同時に行われており、作戦能力の高まりが危惧される。
グローバル・ジハードの広がりには二つのメカニズムがある。地理的な拡大と理念への感化による拡散だ。イラクやシリアでは、ISなどが中央政府と特定の地域や宗派コミュニティーとの関係悪化につけ込む形で組織的に領域支配を拡大した。
しかし、領域支配ができない西欧諸国や比較的安定した中東諸国では、イデオロギーに感化された個人や小集団によるテロを拡散させて、社会に恐怖を与え、存在感を示そうとする。
地理的な拡大がうまくいかなくなると、理念を拡散させて広く支援者を募り状況を打開しようとするため、イラクやシリアの組織が軍事的に劣勢に立たされると、欧米などでテロによる支援の動きが出てきやすい。拡大と拡散をいわば振り子のように繰り返しながら広がっていく。
信仰心に基づいて個人が自発的に参加することが基本であるため、ISに共鳴する者たちは臨機応変にネットワークを作って作戦を実行する。組織的なつながりを事前に捉え、取り締まるのは難しい。
中東やアフリカから西欧への難民・移民が急増しているが、その中にISへの同調者などがテロを起こすことを目的に紛れ込んでいる可能性がある。もしそのような人物が犯人に含まれていた場合、西欧の難民・移民政策に決定的な影響を及ぼすかもしれない。

【テレビ出演】BS-TBS「週刊報道LIFE」でパリの同時多発テロ事件を解説

本日夜9時から、BS-TBSの日曜夜の報道番組「週刊報道LIFE」(9:00~9:54生放送)に出演する予定です。

BS-TBS週刊報道LIFE

テーマはパリの同時多発テロ事件とその影響について。

ウェブ上の番組案内ではこのように記されています。

「パリ同時多発テロを緊急特集。
120人以上が犠牲となった、これまでにない大規模なテロ。
イスラム過激派との関連は、そして今後の展開は…
気鋭のイスラム研究者、池内恵・東大准教授が
最新情報を交えてスタジオ生解説。」

急遽予定していた番組内容を差し替えてパリのテロ事件を特集するということですので、いろいろ考えたのですが、出先から戻って出演することにしました。

本当は、この週末は大きな文章仕事の山場だったのですが。しかしテロですでに邪魔されているので、もうこうなったら今しか調べられないことを調べて考えます。

テレビ出演は労力がかかって研究の進展には必ずしも助けにならないこともあるので、それほど頻繁には行っておりませんが、この番組の前身の「週刊BS-TBS報道部」には2月1日と3月22日に出演して、「イスラーム国」による人質殺害と、チュニジアのバルドー博物館のテロについて、それぞれ解説しました。

2月1日の出演については、このブログには出演情報が記されていないが、当時おそらくフェイスブックでは出演告知をしていたのかな。人質事件の情報分析であまりに忙しかったものですから。2月1日にBS-TBSで話した内容の一つがこれ。脅迫ビデオを見れば、「軍事か非軍事か」などということを「イスラーム国」側は問題にしていないことが明瞭だ、という話

この番組とのご縁は、『フォーサイト』(新潮社)がウェブになる前の月刊誌だった時代に連載「中東 危機の震源を読む」を設けてもらってお世話になった、堤信輔元編集長がコメンテーターになっているため。今回、堤さんも本来は出演予定ではなかった回ですが、急遽出てきてくださるそうです。

イスラーム世界では金曜日に物事が動きやすいのですが、日本では「土・日は堅苦しいニュースは見たくない」という一般聴衆の感情を慮って(なのか)、軒並みニュース番組は休みます。そのため、金曜日に起こったイスラーム世界の出来事についての土・日の報道が要領を得ず、月曜日にはもうニュースの旬としての時期が過ぎているので報じられない、ということを繰り返しています。24時間ニュース局ができれば問題は解決するのですが、需要がないのでしょうね。いつまでたっても日本のBBC は現れません。特に土・日は地上波ではニュース番組がほとんどなく、テレビを情報源としている人たちにとっては情報が途絶します。それに新聞休刊日が重なったりすると、要するにテレビ局も新聞も記者が休んで当直の人しかいない状態になるので、あらゆる意味で情報の流通が悪くなります。ワーク・ライフ・バランスは大切ですが、メディアの人ぐらいは土日に働いてもいいんじゃないの?と思いますが。ニュースは365日24時間全力で追いかけて発信する体制を作り、平日に交代で休めばいいじゃないですか。

その中で日曜日にまともにニュースを扱おうとする番組企画があると、ちょっと無理してでも出演してみようかな、という気になったりします。

【日めくり地図】アフガニスタンのターリバーンと「イスラーム国」による攻撃箇所

ターリバーンのクンドゥズ制圧を受けて、10月1日にアフガニスタンの地図を載せておいたのですが、アフガニスタン国軍による奪還作戦を支援した米軍のクンドゥズ空爆が、「国境なき医師団」の病院を誤爆したということで、大きな問題になっています。

今日はもう一枚アフガニスタンの地図を掲げておきましょう。

ターリバーンの攻勢激化
出典:“Afghan conflict: US investigates Kunduz hospital bombing,” BBC, 4 October 2015.

米軍の撤退を受けて、各地でターリバーンが復活し攻勢に出ています。また、ターリバーンの中で、これまで生きているとされていた最高指導者オマル師の裁可を受けて進められていた(ように見せられていた)アフガニスタン政府との和平交渉が不透明になり、分裂の様相を呈しているようです。つまり、ターリバーンをターリバーンも統制できない。そして、ターリバーンの一部、あるいはそれになびいていた勢力が近年に国際的知名度や維新を高めた「イスラーム国」に呼応してそれを名乗って攻勢に出る動きも出ています。

アフガニスタン政府軍はクンドゥズ中心部からはターリバーン勢力を放逐したとみられますが、周辺部に戦闘は拡散しているようです。

1970年代に始まった内戦以来のアフガニスタンの混乱は、収まりそうにありません。

なお、クンドゥズの誤爆は、アフガニスタン情勢にとどまらない意味があります。

アメリカとしては、ロシアのシリア介入で、名目としている「イスラーム国」を狙っていない、一般人を殺傷している、と批判を高めようとしたところにこれですから、即刻オバマ大統領が徹底的な検証を約束する事態になりました。

もちろんロシアとシリア・アサド政権の方は、テンプレートで「殺した相手は全部テロリスト」「誤爆は欧米メディアのでっち上げ」と言い続ければいいので、調査や検証が行われることもありません。「アメリカではホワイトハウスの前でアメリカ大統領の悪口を言えるが、ロシアでは赤の広場でアメリカ大統領の悪口を言える」という冷戦時代のジョークが復活している様子です。

日本の某公共放送局もホームページでうっかり「米ソ」の対立を報じてしまったそうですが、世界的に、冷戦時代を知っている論者たちが昔を思い出して小躍りするような状況が生まれています。

ただ、実際にロシアがかつてのソ連のような超大国としての力があるのかは、エコノミストやフィナンシャル・タイムズといった欧米の有力メディアでは疑問符が付されることが多いです。私はこれを「プーチン栄えて国滅ぶ」テーゼと呼んでいますが、それが一体どういう論拠での議論なのか、どの程度妥当なのか、そのあたりを考えていくことが、ロシアそのものの「台頭」や、その中東への影響について検討していく手がかりとなると思います。私自身もまだ結論は出せていませんが。

ただ、冷戦時代の初期の雰囲気はもしかしてこのようなものだったのかな?などとも思います。

【地図で読む】「アサド朝シリア」を支えるロシア軍基地

今日の地図。

アサド領とロシア軍事支援

“Russia’s move into Syria upends U.S. plans,” Washington Post, September 26, 2015.

記事そのものは、意訳・抜粋すると、「ロシアのアサド政権軍事支援の増強で、米国のシリア反体制派支援は完膚なきまでに終了」といった感じの記事です。

最近いろいろ報道されている、ロシアがシリア西部地中海沿岸地区のラタキア付近やタルトゥースに築いている軍事拠点が概観されています。それによって守ろうとするアサド政権の実効支配領域も。

「アサド政権とは戦わない反体制派を募集して訓練する」という米国の政策があまりに意味不明なので、米国の対シリア政策が失敗することは最初からわかっているのだが、問題はロシアが解決策を提示しているのかということ。

ロシアが自ら泥沼に入って犠牲を多大に出すまでに支援しない限り、アサド政権がシリアの全土の掌握を回復できるかというとこれが心もとないので(だから政権支持層まで難民になって出て行っている)、現実に起こりそうなのは、アサド政権が堅固に掌握した首都中心部や宗派コミュニティの故地ラタキアと両者をつなぐ地域を死守し、分裂が固定化すること。「アサド派シリア」というか世襲王朝化しているので「アサド朝シリア」みたいのができて、それを支えるのが域外大国のロシアという構図になるのでしょうか。

暫定クルド自治区とか、反体制派各種がトルコと米国に庇護されて「自由シリア」の離れ小島に立てこもり、イラク・シリア国境エリアにカリフ制「イスラーム国」が居座るという構図。(そこまではこの記事には書かれていません。地図を見ていろいろ考えましょう)

【地図で読む】国境フェンスのグローバル化

グローバル化が進展すると人の動きが活発になるが、同時に人の動きを妨げるフェンスの設置や、国境管理の復活も生じてくるという話、前回からの続き。

国境フェンスや分離壁・壁の設置は、ヨーロッパの各種境界に現れるだけではない。Economistが、世界規模でまとめてくれている。

防御フェンスの地政学

 

出典:“More neighbours make more fences,” The Economist, 15 September 2015.

赤がすでに完成したか建設中のフェンスや分離壁。緑が計画段階。

フェンス等の設置理由は様々で、朝鮮半島の南北のような、冷戦時代から続いている分断国家の緩衝地帯もある。南北キプロスもよく見ると描いてありますね。

グローバル化への対応として出てきたのが、経済移民の制限のための国境管理の一環としての物理的な障壁となる有刺鉄線やフェンス。米国とメキシコの国境が代表的。米国は移民国家だが無尽蔵には受け入れられない。不法移民と取締当局のいたちごっこの中で、フェンスや防護壁が作られては破られる。

そして最近の、難民そしてテロの阻止のための防御壁やフェンス。堀みたいのもある。

これが中東に多くできてきている。Economistの記事はより詳細な地図も提供してくれている。

Economist border_3

今年3月のチュニジアのテロの後には、リビアとの国境への分離壁建設が着手された。エジプトはガザとの間に分離壁を建設中。同様にサウジアラビアもイエメンとの間にフェンスを築いてしまおうとしている。

シリアとイラクはもう壁で囲って外に漏れ出さないようにして放置しようとでも言うのか。

「分離壁」と言えば、最も悪名高いのがイスラエルがヨルダン川西岸やガザを囲んで建設した壁でしたが、あまり問題視されないようになりましたね。世界中で常態化したからか。

一つ一つのフェンス・防御壁の事例を、国名とキーワードで検索してみると面白いですよ。いろいろな形態があり、有刺鉄線から壁まで、土塁や堀みたいなものまであり、古代や中世の築城技術とハイテクを組み合わせたような、近未来的かつミレニアム先祖返り的な世界が、末端では生じてきている。

【寄稿】プーチンの国連総会演説はシリア問題を解決に向かわせるか

本日9月28日にニューヨークの国連総会で行われるロシアのプーチン大統領の一般討論演説は、最近のシリア・アサド政権への軍事支援増強を背景に、シリア政策で欧米に同意を迫る、ついでにウクライナなど他の問題でも屈服させようとする、なかなか気合の入ったものになりそうなので、『フォーサイト』の「中東の部屋」に、事前にコメンタリーを書いてみました。実際にどうなるかはいろいろ報道されるでしょうから新聞・テレビ等でどうぞ。

池内恵「国連総会の焦点はプーチンのシリア政策」『フォーサイト』《中東の部屋》2015年9月28日

【地図で読む】グローバル化すると壁が増える逆説

「日めくり古典」は少しお休みしてまた再開するとして、「地図」を、もっと連載化したいところ。

難民問題についてはいくつか取り上げてきたのだが【】【】、その続き。

シリア難民(を偽装するその他の国からの難民・移民も含めて)の殺到に対して、EUの外縁に位置する東欧・中欧諸国がフェンス構築を進める。例えばこの地図。

シリア移民と防護フェンス構築

出典:“Closing the Back Door to Europe,” The New York Times, September 18, 2015.

ブルガリアからギリシアの東の国境では、EU外のトルコとの間にフェンスを設置。そしてハンガリーはルーマニアやセルビアとの間に設置を検討。この記事では一つ一つの事例について詳細な地図と簡単な経緯を記してくれています。

ハンガリーの動きは批判されていますが、ヨーロッパの「防人」の役割を負わされているのに、と不満でありましょう。

EU内に一旦入れば、人間の移動は原則自由なはずだが、問題が生じれば国境管理が最強化される。シェンゲン協定の原則とその運用が今問題の焦点となっている。

シェンゲン協定はEUの理念を現実化する重要な制度だが、協定国はEU加盟国と完全には重なっていないので若干ややこしく、また、一時的に停止あるいは離脱して国境管理を強化する権限も各国にはある。そのあたりも含めてこの地図は解説してくれている。

(1)EU加盟してシェンゲン協定に参加(←これが標準)

(2)EU非加盟だがシェンゲン協定には参加(ノルウェー、スイス、アイスランド)

(3)EU加盟だがシェンゲン協定には不参加(英国、ブルガリア、ルーマニア、クロアチア)

と3種類の組み合わせがあり、それぞれのカテゴリーの境界に、場合によってはEU内にも、「フェンス」あるいはそれに近い国境管理強化地点が出来てくる。

シェンゲン協定とフェンス

出典:“Map: The walls Europe is building to keep people out,” Washington Post, August 28, 2015.

一番有名なものは、シェンゲン協定に参加していない英国とフランスの間。英国の方が仕事が多くすでに移民している親族などもいるので多くの中東・アフリカ系難民・移民が行きたがる。両国はドーバー海峡で隔てられているのでそう簡単に越境できないが、ユーロトンネルのフランス側まで来てそこで滞留し、 あわよくばトンネルを通るトラックにしがみついて英国入りしようとする。フランス側のカレーに一大「移民村」が出現して緊張が高まっている(地図の4です)。

一旦ギリシアなどEU圏内に入った後、難民受け入れ条件や雇用などが良いドイツなどを目指して再び移動して、バルカンの非EU圏を通って、再びEU圏に入ろうとする箇所にもフェンスが出来かけている。それが例えばハンガリーとセルビアの間(地図の5)。

ところでこの地図を見ていると、ウクライナはロシアとの間に新たな「鉄のカーテン」を引こうとしているのか(6)。

フェンスの先駆例はやはり、モロッコのスペイン飛び地のセウタとメリリャなんですね。2005年にはもう出来ている(1)。セウタとメリリャの高いフェンスを乗り越えるアフリカ系移民と警官隊の攻防戦はもはや風物詩と化している。

セウタ・メリリャ防護壁

こういう「突端」には早くに問題が現実化していることがあるので、やはり世界の端っこに行って見てくることは重要だな。

しかしグローバル化すると人の動きが自由になるはずだったのですが、そして確実に自由にはなっているのですが、同時にこのようなフェンスとか壁を各地に設けなければならなくもなるのですね。グローバル化の逆説。

続く。

【日めくり古典】・・・そして崩壊、そして


『モーゲンソー 国際政治(中)――権力と平和』(岩波文庫)

ヨーロッパ古典外交の最盛期には、ヨーロッパの国際政治に参加する各国の間には、知的・道義的コンセンサスがあった。それを前提として勢力均衡は機能した。しかし、そのような前提が失われれば、勢力均衡は機能しなくなる。

「あらゆる帝国主義に固有に内在する、力への無限の欲求を抑制し、その欲求が政治的現実となるのを阻止したのは、まさにこのようなコンセンサスである。」(許世楷翻訳分担、原彬久監訳、中巻、128頁)

「このようなコンセンサスがもはや存在しないとか、あるいは、弱体化してしまったとか、さらには、もはや自信がもてないとかという場合には、バランス・オブ・パワーは国際的な安定と国家の独立のためにその機能を遂行することができなくなるのである。」(同頁)

モーゲンソーが『国際政治』を著したのは、まさにこのようなコンセンサスが存在しない・弱体化してしまった・もはや自信が持てない、という認識のもとにおいてであった。

しかし国際社会に法や道理が失われたわけではない。それらは存在する。しかし国際社会の成員に、それらについてのコンセンサスが自明ではなくなった。コンセンサスなき状況では、法や道義を掲げることによって、かえって各国は戦争に突き進みかねない。第二次世界大戦直後の時代において、いかにしてバランス・オブ・パワーを実現するか。それが『国際政治』の執筆によって突き止めようとする最終的な目的として、現れてきます。

現在は、第二次世界大戦後の秩序が続いていながら、中国の台頭や、冷戦後のロシアの復活(のように見える動き)などによって、さらにもう一度、「コンセンサスが自明でなくなった」時代であるとも言えます。そのように時代が一巡すると、一つ前の時代に、似たような状況に直面して書かれた本が、理解しやすくなる、現代の状況を読み解き先を見通すためのヒントが得られやすくなる、そのようなこともあるのではないか、と思うのです。

【日めくり古典】ヨーロッパ古典外交の成熟と・・・

まだこの本ですよ。


『モーゲンソー 国際政治(中)――権力と平和』(岩波文庫)

道義的コンセンサスがあるがゆえに、西欧の国家間の政治的争いが「控えめで節度があった」時期の例として、モーゲンソーは具体的に「一六四八年からナポレオン戦争に至るまで」と「一八一五年から一九一四年に至るまで」を挙げています(126頁)。

これは「ヨーロッパ古典外交」の形成期と成熟期ですね。

ヨーロッパ古典外交の華やかなりし時代には、「バランス・オブ・パワーは、単にその原因であるのみならず、それを具体化するための技術であるとともに、その比喩的かつ象徴的表現でもあるということである。バランス・オブ・パワーが、相反する諸力の力学的な相互作用をつうじて諸国家の権力への欲求を拘束する前に、まずは、競争している諸国家が、彼らの努力の共通枠組みとしてバランス・オブ・パワーのシステムを受け入れることによってみずからを拘束しなければならなかった。」(許世楷翻訳分担、原彬久監訳、中巻、126頁)

モーゲンソーに触発されて、日本で著された、古典外交についての古典的な著作が、これです。


高坂正堯『古典外交の成熟と崩壊I 』(中公クラシックス)

【日めくり古典】勢力均衡を可能にする条件とは

依然としてこの本ですが。


『モーゲンソー 国際政治(中)――権力と平和』(岩波文庫)

ここまでに、モーゲンソーが勢力均衡を評価する部分を見てきました。そうすると、意外にも、モーゲンソーは勢力均衡の限界を説いていたことがわかります。

それでは、モーゲンソーは勢力均衡否定論者だったかというと、もちろんそうではありません。前回までに引用してきた部分は、勢力均衡を求めることで、かえって戦争に至ってしまった場面を特に扱っている部分であって、ヨーロッパ国際政治史において、かなり長い期間、勢力均衡が平和をもたらしていた時期があることを、モーゲンソーはさまざまな例を挙げて論じています。まとめれば「われわれは、一七、一八、および一九世紀におけるバランス・オブ・パワーの全盛期をつうじて、バランス・オブ・パワーが、近代国際システムの安定とそのメンバーの独立の保持に実際に貢献したことをみてきた」(許世楷翻訳分担、原彬久監訳、中巻、116頁)ということになるようです。

重要なのは、勢力均衡が機能するときには、ある条件が整っていたということです。その条件とは何か。簡単に言いますと、それは知的・道義的コンセンサスであるとモーゲンソーは指摘します。ギボンやトインビーなど歴史家の著作から引用して、モーゲンソーは、次のように記します。

「その時代の偉大な政治著述家たちは、バランス・オブ・パワーが、以上のような知的、道義的まとまりをその基盤とし、しかもこのまとまりがバランス・オブ・パワーの有益な働きを可能ならしめる、ということを知っていた。」(同、119頁)

さらに、フェヌロン、ルソー、ヴァッテルといった思想家や政治家の記述を引用し、次のように述べます。

「これらすべての宣言および行動から生まれる近代国際システムの安定に対する信頼は、バランス・オブ・パワーによってもたらされるのではなくて、バランス・オブ・パワーおよび近代国際システムの双方が拠って立つ、現実の知的、道義的な多くの要素によってもたらされるのである。」(同、125頁)

これについて次回もう少し見てみましょう。

【日めくり古典】勢力均衡の逆説

中巻に入ったモーゲンソー『国際政治』ですが、現状維持国とそれに挑戦する国(ここでは「帝国主義国」)との間に走る緊張と、その結果としての戦争の危険性の高まり、という話題になりましたので、俄然、現代の問題に近くなりましたね。なりませんか。


『モーゲンソー 国際政治(中)――権力と平和』(岩波文庫)

モーゲンソーは米国の戦略家として(ただしドイツ生まれでナチスの迫害を恐れて移住しています)、「現状維持国」にいる人間として論じているのですが、帝国主義国(「現状変更勢力」とも呼べるでしょう)の軍備増強に対して、現状維持国が戦争によってこれを抑制することに利益を見出す場面が出てくることを認めます。

「国際政治のダイナミクスーーこれが現状維持国と帝国主義国との間に作用しているのだがーーがバランス・オブ・パワーを必然的に阻害するがゆえに、戦争は、少なくともバランス・オブ・パワーを矯正する機会を現状維持国に有利な形で与える唯一の政策として立ちあらわれるのである。」(許世楷翻訳分担、原彬久監訳、中巻、109頁)

しかし関係は固定的ではない。そもそも勢力を計ることが困難なのだから、現状維持国のつもりで新興勢力に挑むことで、実際には帝国主義国になっていることもあるという。

「昨日の現状擁護者は、勝利によって今日の帝国主義者に転化し、これに対抗して、昨日の敗北者が明日には復讐の機会をさがし求めるであろう。バランスを転覆できなかった敗北者の遺恨に加えて、バランスを回復するために武器をとった勝利者の野心によって、新しいバランスは、次から次へと起こるバランスの阻害現象に動かされた、実際上目に見えない移行点となるのである。」(同頁)

ややこしいですね。

かなりややこしいヨーロッパの合従連衡の話は置いておいて、一般論として、現状維持国と帝国主義国(現状変更勢力)が時代とともに入れ替わることがあるだけでなく、そのいずれもが勢力均衡の維持や確立を掲げて戦争に踏み切ることがある、と言うことができます。そのことをモーゲンソーは次のようにまとめている。

「帝国を求めている国家は、自国が望むものは均衡に他ならないとしばしば主張してきた。現状を維持しようとしているだけの国家は、ときおり、現状の変化をバランス・オブ・パワーに対する攻撃に見せかけようとした。」(同、111頁)

それによって、

「諸国家の力の相対的地位を正確に評価することが困難であるがゆえに、バランス・オブ・パワーの呪文を唱えることは国際政治の有利なイデオロギーのひとつとなってしまった。」(同、113頁)

バランス・オブ・パワーもまたイデオロギーなんだって。どうすればいいんだ。

続く。