【地図で読む】グローバル化すると壁が増える逆説

「日めくり古典」は少しお休みしてまた再開するとして、「地図」を、もっと連載化したいところ。

難民問題についてはいくつか取り上げてきたのだが【】【】、その続き。

シリア難民(を偽装するその他の国からの難民・移民も含めて)の殺到に対して、EUの外縁に位置する東欧・中欧諸国がフェンス構築を進める。例えばこの地図。

シリア移民と防護フェンス構築

出典:“Closing the Back Door to Europe,” The New York Times, September 18, 2015.

ブルガリアからギリシアの東の国境では、EU外のトルコとの間にフェンスを設置。そしてハンガリーはルーマニアやセルビアとの間に設置を検討。この記事では一つ一つの事例について詳細な地図と簡単な経緯を記してくれています。

ハンガリーの動きは批判されていますが、ヨーロッパの「防人」の役割を負わされているのに、と不満でありましょう。

EU内に一旦入れば、人間の移動は原則自由なはずだが、問題が生じれば国境管理が最強化される。シェンゲン協定の原則とその運用が今問題の焦点となっている。

シェンゲン協定はEUの理念を現実化する重要な制度だが、協定国はEU加盟国と完全には重なっていないので若干ややこしく、また、一時的に停止あるいは離脱して国境管理を強化する権限も各国にはある。そのあたりも含めてこの地図は解説してくれている。

(1)EU加盟してシェンゲン協定に参加(←これが標準)

(2)EU非加盟だがシェンゲン協定には参加(ノルウェー、スイス、アイスランド)

(3)EU加盟だがシェンゲン協定には不参加(英国、ブルガリア、ルーマニア、クロアチア)

と3種類の組み合わせがあり、それぞれのカテゴリーの境界に、場合によってはEU内にも、「フェンス」あるいはそれに近い国境管理強化地点が出来てくる。

シェンゲン協定とフェンス

出典:“Map: The walls Europe is building to keep people out,” Washington Post, August 28, 2015.

一番有名なものは、シェンゲン協定に参加していない英国とフランスの間。英国の方が仕事が多くすでに移民している親族などもいるので多くの中東・アフリカ系難民・移民が行きたがる。両国はドーバー海峡で隔てられているのでそう簡単に越境できないが、ユーロトンネルのフランス側まで来てそこで滞留し、 あわよくばトンネルを通るトラックにしがみついて英国入りしようとする。フランス側のカレーに一大「移民村」が出現して緊張が高まっている(地図の4です)。

一旦ギリシアなどEU圏内に入った後、難民受け入れ条件や雇用などが良いドイツなどを目指して再び移動して、バルカンの非EU圏を通って、再びEU圏に入ろうとする箇所にもフェンスが出来かけている。それが例えばハンガリーとセルビアの間(地図の5)。

ところでこの地図を見ていると、ウクライナはロシアとの間に新たな「鉄のカーテン」を引こうとしているのか(6)。

フェンスの先駆例はやはり、モロッコのスペイン飛び地のセウタとメリリャなんですね。2005年にはもう出来ている(1)。セウタとメリリャの高いフェンスを乗り越えるアフリカ系移民と警官隊の攻防戦はもはや風物詩と化している。

セウタ・メリリャ防護壁

こういう「突端」には早くに問題が現実化していることがあるので、やはり世界の端っこに行って見てくることは重要だな。

しかしグローバル化すると人の動きが自由になるはずだったのですが、そして確実に自由にはなっているのですが、同時にこのようなフェンスとか壁を各地に設けなければならなくもなるのですね。グローバル化の逆説。

続く。