チュニジアの風景(6)イブン・ハルドゥーン像

チュニジア生まれのイブン・ハルドゥーン。

言わずと知れた、不朽の名著『歴史序説』の著者。

ブルギバ広場の、時計塔とは逆の端に、銅像が建っています。

イブン・ハルドゥーン像1

『歴史序説』は歴史学者(東大寺管長でもあった)の森本公誠氏による名訳が岩波文庫に入っている・・・・

と書いたところで調べたら、なんと、品切れ・・・・

いくらなんでもひどいんじゃないかと思いますよ。

アマゾンで品切れになっているだけでなく、岩波ブックサーチャーでもはっきり品切れと出ています。絶版かどうかはっきりさせていませんが、入手不能ということです。

最近、まともな本、今読むべき本が、ことごとく品切れあるいは絶版であることに気づき、本当に日本の出版界はダメになったな、と痛感するのだが、イブン・ハルドゥーン『歴史序説』なんて、「日本人はイスラームを知らない」とか説教する意識高い系出版人たちなら、当然品切れなんてさせちゃいけないはずの本ですが。適当な本を乱造する前に、すでにあるまともな本を流通させなさい。

もちろん、『歴史序説』の英訳本は、常に、英語圏で簡単に手に入ります。本屋にも売っているし、アマゾンですぐに買える。

ということは、これからは日本人は『歴史序説』を読みたければアラビア語で読めなければ英語で読むしかなくなるのか。途上国ではそれが当たり前です。自国語ではまともな本が手に入らないから、知識人・エリートは英語で読むようになる。一般人向けとされる低劣な書物が現地語では行き渡る。陰謀論とかそういう類の本ばかりになる。

もうなってるか日本でも。

日本語の言論空間は、出版社が低レベルの本を短期間に売る競争を繰り返すうちに、先進国とは言えないものになってきたことを痛感しました。

おしまい。

チュニジアの風景(5)ブルギバ通りの内務省ビル向かいにてお茶

チュニス・ブルギバ通りのランドマークの時計塔が見えるカフェに座って新聞でも読んでみようか。

朝ごはんの直後ですので、長い影が差しています。

チュニジア内務省前3

ん?

チュニジア内務省前1

なんだかいかつい黒服の人が多いような。

実はここは内務省ビルの向かいなのです。右手に黒い門があって、金色で内務省と書いてありました。

チュニジア内務省前2

内務省ビル前は有刺鉄線が張ってあって通行人が近づきにくくしてある。

チュニジア内務省前4

新聞の一面トップは、

「内務省爆破を計画した32名の過激派を拘束」

でした。

早々に退散。

(まあこういうおふざけはしないほうがいい。その後、バルドー博物館のテロがあり、そしてその後、さらなるテロを予告する「イスラーム国」賛同者あるいは愉快犯が、まさにこの場所で撮影した映像をネット上に公開し、「ターゲットの前に潜入」したことを誇示して当局を嘲笑し、話題になった。チュニジアがある程度自由だからこそそういうこともできてしまうのだが、これがブルギバ広場での本当のテロに結びつくかどうか注視しないといけない。というか今こんな記事をわざわざ持って写真を撮っていたら「御用」となるかもしれない)

チュニジアの風景(4)ブルギバ通りの眺望

チュニスといえばブルギバ通り(広場)。2011年1月14日にベン・アリー政権を崩壊させた大規模デモも、ここに集まりました。「アラブの春」の導火線となった事件です。

ブルギバ通りの端にある、ランドマークの時計塔。

ブルギバ通り時計塔

上から見るとこんな感じ。写真の中央部に写っているの無表情なビルが内務省。大規模デモはここを目指した。向かいは与党立憲民主連合(RCD)の本部でした。

ブルギバ通り見下ろす1

この大通り・広場を群衆が埋め尽くしたのですね。それがアラブ世界の動乱の全ての始まりだった・・・

ブルギバ通りとホテルアフリカ

高いビルはホテル・アフリカ。

チュニジアの風景(3)スィーディー・ブーサイードはこんなところ

昨日は、チュニス近郊スィーディー・ブーサイードへの行き帰りの電車の中の親子の写真だけを紹介しましたが、スィーディー・ブーサイードそのものの写真を載せていませんでしたね。

日曜日に、ふと思い立って、チュニジアの一般人の休日の過ごし方を写真に撮りに行ったのでした。昼前に出かけて昼過ぎには帰ってきました。たいして時間はかかりません。

チュニスのど真ん中のブルギバ広場の端から少し行ったところにあるチュニス・マリン駅から近郊電車に乗って、20分から30分ぐらい揺られていくと、スィーディー・ブーサイード駅に着く。

スィーディー・ブーサイード1

みんな降りますから降りましょう。降りるとみな一方向に、ざっくざっくと歩く。カップルたちに遅れないように必死で歩きましょう。

街路樹に柑橘類が実っています。ちなみにこれ2月です。日本並みに寒いのでみな着込んでいますね。

スィーディー・ブーサイード2

坂道をざっくざっくと歩く。土産物屋などが見えてきました。京都の清水寺へ向かう参道の坂道みたいな感じですね。

スィーディー・ブーサイード4

道すがらに

スィーディー・ブーサイード8

こういうカフェなどが立ち並んでいるわけです。

スィーディー・ブーサイード5

中に入るとこんな風景が一望できたりするわけです。

スィーディー・ブーサイード9

記念撮影とかしているわけです。

スィーディー・ブーサイード7

テラスに出るとこれがまたいいんです。

それはともかくみなさん脇目も振らずざっくざっく歩くわけです。そして岬の突端まで行くと、絶景なんです。

スィーディー・ブーサイード3

そこで記念撮影するんです。

マリーナ・スィーディー・ブーサイード1

眼下にはこじんまりとしたマリーナが。

マリーナ・スィーディー・ブーサイード3

いろんなポーズ取るんです。

スィーディー・ブーサイード11

男の友情なんです。

ではまた。

チュニジアの風景(2)スィーディー・ブーサイードの休日

チュニジアの休日。チュニスの休日の過ごし方の定番は、近郊の景勝地スィーディー・ブーサイードへの遠足。

地元の人たちと一緒に電車に揺られて行ってみた。混んでます。

チュニジア・スィーディー・ブーサイード1

ユースフ君(3歳)

チュニジア・スィーディー・ブーサイード5

くれました〜。

チュニジア・スィーディー・ブーサイード8

もうあげないよ。

チュニジア・スィーディー・ブーサイード12

あー全部取られるところだった。もう降りる。

チュニジア・スィーディー・ブーサイード13

帰路は、ヌールちゃん(1歳)と。まだしゃべれません。

チュニジアの風景(1)ザイトゥーナ・モスク

〜原稿が佳境に入っているため、ブログ更新は風景画像に切り替わりました〜

チュニジア・ザイトゥーナ・モスク1

チュニジア、チュニスのザイトゥーナ・モスク

チュニジア・ザイトゥーナ・モスクから見下ろす

ザイトゥーナ・モスクから見下ろす

『中東戦記』が少部数のみ増刷に

ほぼ品切れで、店頭に残ったもののみになっていた、ジル・ケペル著『中東戦記  ポスト9・11時代への政治的ガイドブック』(池内恵訳、講談社選書メチエ)が、600部という少部数で増刷が決まりました。4月27日には店頭に出回る予定です。

ケペル『中東戦記』

邦訳で副題につけたように、中東の政治・社会を読み解くための、最高度の専門家の目を通した不滅の「ガイドブック」です。

「ジル・ケペル『中東戦記』を、市場からなくなる前にどうぞ」(2015/04/04)と書いておきましたが、もともと出版社の元にはほとんど残っておらず、書店の棚にあったものが売れて、入手が難しくなっているようです。

少部数のみの増刷で、もう増刷されない可能性もあるので、ご要望の方は今のうちにアマゾン書店でご予約を。予約していただければ27日頃に届くと思います。

イメージは「名著復刻」の企画みたいな感じですね。

しかし600部というと、講談社のような大きな出版社にとっては、増刷にかかる労力と売り上げ(もし売れたとして)を比較考量すれば、持ち出しみたいなものだ。よく増刷してくれた、と思うとともに、そこから翻訳者に回ってくる印税など微々たるものなので、ここまでの小規模ロットで出荷できるようになると、末端の書き手にとってビジネスとして成り立つのか?という疑問は沸きます。私は今のところ原稿料収入で生活しているわけではないので、公共の情報提供として採算を考えずにやっているが、将来はどうなるかわからないので、水準を保った文章を書く職業が存在し続けられる経済環境が維持されるか、発展するかは気になります。

しかしともあれ、こうして本が生き続けることはうれしい。

今年の桜

休日の先端研。

うららかな陽気。

先端研2015_0418

気がついたら桜は散っていた。緑の枝が風にそよいでいる。気持ちがいい。実は動画も撮ってみました。鳥の鳴き声が入っています。

先端研2015年4月

大正時代からの建物と、現代建築が並存する先端研・生産研。

左側は原広司設計。生産研の先生でもあったんですね。

何か見覚えがあると思う人がいるかもしれません。原広司は京都駅ビルの設計者。時期もほぼ同じです。

今年は3・4月に何をしていたのか思い出せない。おそらくひたすら講演や研究会報告のために移動しながら、分秒を争って部屋の中でずっと原稿を書く作業をしていた。気づいたら先端研の満開の桜を見逃してしまった。

去年のをどうぞ

去年も忙しかったが、4月はちょうど桜の季節に、一瞬だけ時間が空いて、これを撮ったのだった。

昨年は3月末にかけてばたばたっと論文が出たのでした。それまでが大変だった。しかしそれがあったので、2014年の暮れには今度はすごい速さで『イスラーム国の衝撃』を書くことができた。

今年は苦しい積み上げをもう一度、やり直さないといけない。できるのか。

生産研下2015_04_18

駒場の教養学部のキャンパスに本を買いに行った。八重桜はまだ咲き誇っており、深まる緑とのコントラストが目に優しかった。

駒場I_八重桜_2015-0418

駒場I_八重桜2_2015_0418

駒場_日本民藝館2015_0418

中東政策の「オバマ・ドクトリン」が詳細に明かされる

週末の視聴。今週はこれを推奨。先週に出ていましたが、忙しいのでじっくり検討する時間がなかった。聞いてみると、やはり色々考えさせられた。

Thomas L. Friedman, “Iran and the Obama Doctrine,” The New York Tims, APRIL 5, 2015.

4月5日にニューヨーク・タイムズのウェブサイトで公開された、オバマ大統領の中東政策をめぐる詳細なインタビュー。聞き手はトマス・フリードマン。46分もある。

4月2日のイラン核開発問題での暫定合意を受けたもの。

イランをどう評価するか。合意によってイランの行動や性質をどう変えられるのか。合意がイスラエルや湾岸産油国との関係をどう変えるか。非常に論理的に、理知的に、解き明かしています。

外交に関する「レガシー」構築を狙うオバマ大統領の、後々まで参照され検証されることになるインタビューでしょう。

言っていることは、分析としては、かなり納得がいく。問題のとらえ方、概念の使い方などが非常に正確で、また実態に即したニュアンスが込められている。

ただし、中東の現地に及ぼす強大な権力を持つ米大統領がこれを語ることが、中東諸国・中東国際政治に与える影響は、また別だろう。

これまで敵対してきたイランを、中東の地域大国として認める表現が繰り返される。慎重に留保をつけながらも明らかに大統領の本心は、かなり信頼できる地域大国としてイランを評価していることが分かるようになっている。それに対して、これまで同盟国として扱ってきた国に対する姿勢は厳しい、あるいは冷淡だ。

フリードマンの要約文から引用すると、
“The conversations I want to have with the Gulf countries is, first and foremost, how do they build more effective defense capabilities,” the president said. “I think when you look at what happens in Syria, for example, there’s been a great desire for the United States to get in there and do something. But the question is: Why is it that we can’t have Arabs fighting [against] the terrible human rights abuses that have been perpetrated, or fighting against what Assad has done? I also think that I can send a message to them about the U.S.’s commitments to work with them and ensure that they are not invaded from the outside, and that perhaps will ease some of their concerns and allow them to have a more fruitful conversation with the Iranians. What I can’t do, though, is commit to dealing with some of these internal issues that they have without them making some changes that are more responsive to their people.”

同様の問題意識は繰り返して念を押される。
As for protecting our Sunni Arab allies, like Saudi Arabia, the president said, they have some very real external threats, but they also have some internal threats — “populations that, in some cases, are alienated, youth that are underemployed, an ideology that is destructive and nihilistic, and in some cases, just a belief that there are no legitimate political outlets for grievances. And so part of our job is to work with these states and say, ‘How can we build your defense capabilities against external threats, but also, how can we strengthen the body politic in these countries, so that Sunni youth feel that they’ve got something other than [the Islamic State, or ISIS] to choose from. … I think the biggest threats that they face may not be coming from Iran invading. It’s going to be from dissatisfaction inside their own countries. … That’s a tough conversation to have, but it’s one that we have to have.”

さらにフレーズを抜き書きすると、

・・・the question is: Why is it that we can’t have Arabs fighting [against] the terrible human rights abuses that have been perpetrated, or fighting against what Assad has done?

・・・how can we strengthen the body politic in these countries, so that Sunni youth feel that they’ve got something other than [the Islamic State, or ISIS] to choose from. … I think the biggest threats that they face may not be coming from Iran invading. It’s going to be from dissatisfaction inside their own countries.

といった形の非常に痛烈な改革要求です。これを安全保障支援と引き換えに要請された湾岸産油国がどう反応するか。すでにちらほら反応が伝えられていますが・・・

今年春にキャンプデービッドで開かれるとされる、湾岸安全保障をめぐる会議に注目しましょう。ここでイランを含む湾岸安全保障枠組みができるのであれば、まさにレガシーでしょう。

単にGCCを集めて説教して武器を(有料で)つけてあげるだけでは、たぶん実効性は乏しいでしょう。

カーターの人権外交のように、善意は分かるが現地の社会や政治指導部の反応は全く意図に反するもので、結果的に混乱と紛争をもたらすことにならないか、不安である。

なお、米国が湾岸産油国に核の傘を差し伸べるという形での安全保障は与えられるのか、という点について、米国の元クウェート大使は「国益と価値を共有していないので、やめておいたほうがいい」とのこと

Some have suggested extending a nuclear umbrella over the GCC states and other regional allies as a confidence-building measure and to convince them not to develop their own nuclear weapons capacity. However, Richard LeBaron, a former US ambassador to Kuwait, said at a recent Washington event that that would be a “bad idea” because such guarantees should go only to “people who share very closely our interests and values.”

My lecture on the spontanuous mechanism of participation-mobilization of global jihadists

A short lecture given to Yomiufi Shimbun last month was translated on The Japan News. The comment revolves around the mechanism behind the spontaneous proliferation of global jihadists in dis-contiguous pockets of disturbances.

“Radicals spontaneously join ISIL network.” The Japan News, April 12, 2015.

元になる日本語のインタビューはこれ。
「【インタビュー】読売新聞3月25日付「解説スペシャル」欄でイスラーム国とチュニジアについて」(2015/03/26)

これを英語向けに表現を改め、論理を明確にしています。日本語の新聞は非常に曖昧な表現が多用される。そのまま英語に訳されると、私が朦朧とした論理の人だと思われて致命的ですので、ぴしぴしと書き改めました。

ちなみに日本語版のこのインタビューを拡大して、この本の日本の出版・文化現象としての意味を縦横に語ったのが、有料版の別立てインタビュー。

「「読売プレミアム」で長尺インタビューが公開」(2015/03/28)

実はこれはもっと読んでほしいなあ。よそでは言わないことを言っています。お試し版でも登録してみてください。

サウジの石油価格下落放置の究極の狙いは「需要の維持」とする説

石油価格が低下傾向に入ってから10ヶ月ほど。米国のシェールオイルの生産の落ち込みが始まり、今年1月にはブレント指標で50ドル/1バレルを割り込んだが、サウジのイエメン介入が地政学リスクの認識を高めたせいなのか、4月14日には58ドルまで上がっている

しかし、昨年後半以来の石油価格低下を、サウジが止めようとしなかったこと、特に、OPECでの価格引き上げ策を積極的に拒否して下落を加速させたことについては、透明性のないサウジの意思決定メカニズムも絡んで、盛大な憶測を呼んできた。

例えば、

(1)市場コモディティ化や非OPEC産油国の増大から下落を止める能力がない以上、シェアの確保を優先して価格低下は見逃している、という経済学的説明。

まあこれはそうでしょう。もっと攻撃的な意図を推測すると、

(2)米国のシェール・オイル潰し。

という、まあありそうな政治的な経営戦略の推測、

さらには検証のしようのない、

(3)実は裏で米国と結託して原油価格低下を推進しウクライナ問題で対立するロシア・プーチンを追い詰める策謀を行っている。

という話も飛び交い、さらに、その動機は

(4)老舗産油国のプライド(?)

等々といろいろな説明もなされていた。

しかし非常にわかりやすい、筋のとおった説明の記事が出た。

上記の戦略・戦術・策謀がないとは言えないが、もっと長期的に、需要の維持こそが大局的にサウジの国益となるのであって、そのためには石油価格は安くないといけないという判断がある、という説である。石油価格が高止まりしていると、代替エネルギーの開発が進んでしまうことは確かだ。

Peter Waldman, “Saudi Arabia’s Plan to Extend the Age of Oil,” Bloomberg, April 13, 2015.

Supply was only half the calculus, though. While the new Saudi stance was being trumpeted as a war on shale, Naimi’s not-so-invisible hand pushing prices lower also addressed an even deeper Saudi fear: flagging long-term demand.

ここでナイーミ石油相を大きく取り上げています。叩き上げで石油産業と市場の生き字引のようなナイーミ石油相に、深い叡智と先を見通す目が備わっているとみなすこの記事自体が、サウジの安定性を宣伝するサウジの広報戦略の一環である可能性はありますが、確かにサウジの指導部にはこの方面では非常に深い知見が蓄積されているでしょう。

「石器時代は石が枯渇したから終わったわけではない」というのはサウジのヤマニー元石油大臣の有名な台詞ですが、供給が問題なのではなく、需要がなくなることこそが恐怖、というのが、枯渇を考えなくていいほどの埋蔵量を誇るサウジの、他の産油国より一歩先を行った視点と言えるでしょう。

こういった記事が出ることも織り込んでいるのか、サウジ政府は、他の輸出国が協力しないなら生産調整しないよ、という価格低下構わずの姿勢を維持し、さらに「シェールも代替資源も歓迎してるよ」と余裕の構え

石油超大国としてこういうところはさすがに深いですが、アキレス腱は社会内部の過激な宗教勢力とか、寄せ集め地上軍の信頼性とかなのであろう。

「イスラーム国」とフセイン政権残党のつながり『ワシントン・ポスト』紙

「イスラーム国」のイラクの指導部にフセイン政権の関係者が入っているという『ワシントン・ポスト』紙の報道。

よく言われている話で、『イスラーム国の衝撃』でも言及しておいたが、特に決定的な目新しい情報があるわけでもない。しかしアラビア語紙でもそのまま転載されていることが多い。話題になっているので、参考読み物としてポストしておきます。写真も付いているし。

“The hidden hand behind the Islamic State militants? Saddam Hussein’s,” The Washington Post, April 4, 2015.

ジョナサン・リテルの『ホムスのノートブック』

シリア内戦や「イスラーム国」、ジハード主義の運動についていい記事をよく載せている『ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス』のブログをたまに見ているが、ジョナサン・リテルの『ホムスのノートブック(Carnets de Homs)』が英訳されることを知った。

英語版の序文が転載されている。

Jonathan Littell, “What Happened in Homs,” The New York Review of Books, March 18, 2015.

フランス語版は2012年に出ている。

Jonathan Littell, Carnets de Homs, Gallimard, 2012.

Littel Carnet de Homs

2012年の1月から2月に反アサドの反政府抗議行動の中心都市ホムスに入ったリテルのルポである。ホムスは長期間包囲され、執拗な砲撃を受けた上で陥落した。シリア内戦の酷薄さを代表する象徴的な街だ。

リテルは作家なので、政治分析は全く期待していないのだが、西欧の、特にフランスのインテリの頭の中にシリアなどレバント地域はどのように映っているのか、シリア内戦や「アラブの春」がどのような想像を掻き立てているのか、うっかり、あからさまに示しているのではないかと思ってフランス語のこの本には注目していたが、じっくり読むというような余裕がなかった。英語になってくれるとさっさと読めていい。

ジョナサン・リテルといえば、ナチス親衛隊将校の視点で描いた『慈しみの女神たち 上』(上下、集英社、2011年3月)が翻訳された時にずいぶん話題になった。原題はLes Bienveillantes、英訳はThe Kindly Ones。この本でゴンクール賞受賞。

『慈しみの女神たち』はフランス育ちのアメリカ人がホロコーストをやる側の視点で書くというところが倒錯的で、多分いろいろなものに取り憑かれた人なのだろうけど(フランスの文筆家その他の言い草一般に言えることですか・・・・偏見ですみません。好感を示しているつもりなのですが)。

この人が抑圧のシリアの蜂起と包囲下の都市にわざわざ出向いて、自由への希望と欠乏と暴力と死を描く。自分の妄想のみを見てくるのだとしても、フランス文化として面白い。(ついでに、ジル・ケペルの『中東戦記 ポスト9.11時代への政治的ガイド』の面白さも、フランス文化としての面白さという側面があります。わかる人にだけわかる本なので、あまり宣伝していませんが・・・)

イエメン情勢を読み解く

イエメンの問題についてここのところ詳細に紹介しているけれども、それはローカルな興味からだけでなく、サウジの動揺と湾岸産油国全体の動揺につながりかねないがゆえに日本にとって重要性を持つからだ。

ワシントン・ポスト紙は、サウジの対イエメン空爆は3月26日の開始以来2週間で、見たところはかばかしい成果を上げておらず、人道問題や、過激派の活動する権力の空白が広がっていると、早速警鐘を乱打。

“Yemen conflict’s risk for Saudis: ‘Their Vietnam’,” The Washington Post, April 9, 2015.

「イエメンはサウジにとってのヴェトナムとなるか?」というのはアメリカ人向けに最も分かりやすいフレーズなのだろうが、まさにこれこそがイエメン情勢が注目される所以だ。

この地図でも示されるように、3月26日のサウジ主導のイエメン空爆開始後も、フーシー派の勢力範囲はむしろ広がっています。
イエメン情勢サウジ空爆2週間
【出典】 “Yemen’s Despair on Full Display in ‘Ruined’ City,” The New York Times, April 10, 2015.

イエメンの紛争の諸勢力についてのPBSの解説で主要な登場人物とそれらの間の関係を理解しましょう。

“Who’s Who in the Fight for Yemen,” Frontline, PBS, April 6, 2015.

サウジの軍事介入開始直後に、International Crisis Groupの情勢分析レポートが出ている。仕事早いな。

“Yemen at War,” Middle East Breifing No. 45, International Crisis Group, 27 Mar 2015.

中東が荒れるとニューヨーク・タイムズが必ず頑張って詳細な地図をウェブに上げてくる。いい編集者・グラフィックデザイナーがいるんですな。これは他紙の追随を許さない。唯一、英エコノミストが、もっとシンプルな「ここだけ知っていればいい」という要点をついた地図を出してくるので、併せて見ておくと整理される。

SARAH ALMUKHTAR, JOE BURGESS, K.K. REBECCA LAI, SERGIO PEÇANHA and JEREMY WHITE, “Mapping Chaos in Yemen,” The New York Times (←順次アップデートされていく)

イエメンを巡って、サウジとイランの地域大国間の覇権競争が激化するのではないのか、というところが関心の的です。

“Tensions Between Iran and Saudi Arabia Deepen Over Conflict in Yemen,” The New York Times, April 9, 2015.

イランは効果的にスンナ派連合の外縁(非アラブのパキスタンとトルコ)を切り崩し。

トルコは3月26日の空爆開始の際に、サウジが明示的にあげた有志連合国の中には名前が入っていませんでしたが、エルドアン大統領が支持を表明しており、軍を派遣するのではないかと見られている。

“Turkey, Egypt join military operation against Houthis in Yemen.” DW, March 26, 2015.

トルコのエルドアン大統領の判断については、その苦衷が推測された。
Aaron Stein, “Turkey’s Yemen Dilemma: Why Ankara Joined the Saudi Campaign Against the Houthis,” Foreign Affairs, April 8, 2015.

サウジ側につく判断への批判もトルコ国内からすぐに出た。要するにエルドアンの開発独裁を支える湾岸のスポンサーの意向に逆らえないんだろ、という話。

Fehim Taştekin, “Turkey’s misguided Yemen move,” Al-Monitor, March 31, 2015.

エルドアンは4月7日のイラン訪問で、バランスを取ろうとした。経済問題ではイランと合意しつつ、イエメン問題にはエルドアンは触れない。しかしイランのロウハーニー大統領はイエメン問題に触れまくる。

“Iran and Turkey back political solution to Yemen crisis: Iranian president tells his visiting Turkish counterpart,” Aljazeera English, 08 Apr 2015 05:40 GMT.

そこでアラビーヤの報道ではタイトルで、エルドアンはイランでいろいろ合意したけれども、イラン側ではなくサウジ側についているという姿勢を変えていない、と強調しているのですね。しかしこれはかなり苦しい。

“Turkey, Iran agree on trade but steer clear of Yemen disagreements,” Al-Arbiya News, April 7, 2015.

同様に、パキスタンも、3月26日の空爆開始の際にサウジが有志連合の中の唯一の非アラブの国として名前を挙げたけれども、態度ははっきりしていない。そこでサウジはパキスタンに明示的に軍事的な貢献を求めた。パキスタンの外相の議会への説明では、いつ、どのようにとは明かされていないが、サウジの要請があったことを認めた。

“Saudis Ask Pakistan to Join the Fight in Yemen,” The New York Times, April 6, 2015.

しかしイランの外交攻勢はここでも優勢。4月8日にザリーフ外相がパキスタンに飛んで、パキスタンに、サウジとイランの仲介役を果たせるよと甘い囁き。

“Iran foreign minister: Pakistan, Iran must work together on Yemen,” Reuters, April 8, 2015.

翌日、ザリーフはパキスタンの参謀総長とも会談。

“Iran minister meets Pakistan military chief amid Yemen dilemma” Reuters, April 9, 2015.

4月10日、パキスタンの国会は全会一致で中立を決議。あちゃー、ですね。サウジにとっては。パキスタンにもナショナリズムがありますから、サウジに使用人のように、傭兵のように使われるのは認めがたいわけです。といっても現実に傭兵のようなことをしているわけですが。

“Pakistan Votes to Stay Out of Yemen Conflict,” The New York Times, April 10, 2015,

“Pakistani Lawmakers Pass Resolution Urging Neutrality in Yemen Conflict,” The New York Times, April 10, 2015.

これに対して、UAEの外務担当相が、パキスタンに「高い代償を払うことになるぞ」と警告する発言が報じられています。

“UAE condemns Pakistan’s vote on Yemen” Khaleej Times, 11 April 2015.

「本当の同盟国」か「メディアと声明の中だけの同盟国」かはっきりせよ、だそうです。
“The Arabian Gulf is in a dangerous confrontation, its strategic security is on the edge, and the moment of truth distinguishes between the real ally and the ally of media and statements,” Minister of State for Foreign Affairs Dr Anwar Mohammed Gargash tweeted after a unanimous resolution passed by a special session of Pakistan’s parliament.

「高い代償を払うことになるぞ」だそうです。パキスタンで反発を招きそうですね。ただでさえ、膨大な出稼ぎ労働者がこき使われていい感情を抱いていないのですから。
Gargash said Pakistan is required to show a clear stand in favour of its strategic relations with the six-nation Arab Gulf cooperation Council, as contradictory and ambiguous views on this serious matter will have a heavy price to pay.

「トルコとパキスタンにとっては、イランの方が重要なんだな。俺たちの金は必要としているが」(趣旨)。
Tehran seems to be more important to Islamabad and Ankara than the Gulf countries, Gargash added. “Though our economic and investment assets are inevitable, political support is missing at critical moments,” Gargash said.

“The vague and contradictory stands of Pakistan and Turkey are an absolute proof that Arab security — from Libya to Yemen — is the responsibility of none but Arab countries, and the crisis is a real test for neighbouring countries.”

引用の最後の部分のように、「本当に大変な時には誰も助けてくれない、自分の身は自分で守るしかない」という、遅まきながらの自覚につながっているようで、この記事にくっついている関連記事では、サウジの最高ムフティーのアール・シャイフ師の「国民皆兵にすべきだ」という発言が伝えられています。イエメンの紛争が早期に集結すれば、一時的なごたごたとして忘れられるでしょうが、なんだかそうなる雰囲気ではありません。

税金すらほとんど払わず、むしろ政府が国民に石油収入からふんだんに配分するということで、権利の制限もやむなしとして出来上がっている湾岸産油国の秩序です。ここに国民皆兵などを導入すれば、秩序が根本から崩れます。何か非常に大きな変化の兆しを目の当たりにしているのかもしれません。

なお、パキスタンの『ドーン』紙が同じ発言を報じる際には、パキスタンのシャリーフ首相とトルコのエルドアン大統領が電話会談をしていることも報じられています。サウジ・GCCからイエメンへの軍事介入を迫られ、対イラン対決姿勢を迫られて困っている両国の協議、というところが面白いところです。

“UAE minister warns Pakistan of ‘heavy price for ambiguous stand’ on Yemen,” Dawn, 11 April 2015.

Turkey’s President Recep Tayyip Erdogan telephoned Prime Minister Nawaz Sharif to discuss the crisis situation in Middle East and agreed that both the countries would accelerate efforts to resolve the deteriorating situation through peaceful means, said a statement issued by PM House on Saturday.

During the conversation that lasted for about 45 minutes, both the leaders stressed that Houthis didn’t have any right to overthrow a legitimate government in Yemen and affirmed that any violation of the territorial integrity of Saudi Arabia would evoke a strong reaction from both the countries.

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さて、これらはほとんどすべて欧米の主要メディアだったり、アル=ジャジーラやアル=モニターのような中東と関係の深い英語メディアなのだが、中東の現地語のメディアはどうなの?と知りたい人もいるだろう。

まず、事実関係について、基本的な政治的争点や論点について、現地メディアと英語メディアであまり違いはありません。

ただしアラビア語メディアは党派性が強いので、客観性で英語メディアに劣ります。アラビア語メディアの多くには、サウジ資本の影響力が及んでいるのと、今回はカタールがサウジに追随しているので、両者で有力メディアの多くを支配しており、議論に多様性が乏しくなっています。

分かりやすくサウジ資本の衛星放送アラビーヤの英語版のホームページの一例を挙げておきますが、イランとヒズブッラーがイエメンのフーシー派を訓練してイエメンを壊そうとしているんだ、と断定しています。

“Iran and Hezbollah trained Houthis to ‘harm Yemenis’,” Al-Arabiya News, 7 April 2015.

このような真偽の定かではない記事が、一応「政府系」ではないはずの民間資本のアラビーヤの画面とホームページには溢れています。

現地語の新聞を各国読み比べると時々面白い情報が推測されるのは、もっと微妙な社会的な部分、サウジの軍に傭兵やコントラクターとして入っているエジプト人やパキスタン人(さらにはイエメン人)などの動向ですね。政府間の関係とは別に、経済の論理で動いている個人と社会の関係。そのような情報は深いところで将来を見通すために有効な情報になりえます。

イエメン情勢の「最悪の最悪の」シナリオは

サファー・アハマドのイエメンについてのドキュメンタリーについて昨日紹介したけれども、これを4月7日に放送した米公共放送局PBSは、イエメン情勢についての基礎情報や最新の分析を次々と放送したりウェブに上げている。

元FBI捜査員で、9・11事件以前にイエメンでのアル=カーイダの活動を追いかけていたアリー・ソウファーンのコメント。ソウファーン・グループは、アル=カーイダとその関連組織や、「イスラーム国」への義勇兵の渡航や帰還兵の問題についての、国際的なメディアの主要な情報源の一つです。

“Yemen is Becoming an Extremist’s Dream. Was it Predictable?,” Frontline, PBS, April 7, 2015.

ユーチューブではここ

コメンテーターとはどういうことをどういう風に言うべきか、ということを勉強させられます。

例えば、本来はイエメン内部の権力闘争なのだが、各勢力がサウジを筆頭に外部の地域大国を引き込む。そうするとその後は地域大国間の代理戦争になり、地域大国間で解決するしかなくなるという問題について。

Every entity in places like Yemen or in places like Syria or places like Iraq reports to a regional power. Unfortunately, [Yemen] became a proxy war. There were local wars, local conflicts. Regional powers used them and injected sectarianism in them a little bit and made it regional and sectarian conflicts.

そして宗派紛争化させられるともう止められなくなる、という話。統治や改革について語れなくなり、内戦の経済要因や部族要因や政治要因について語れなくなり、宗教と宗派問題の話ばかりになり、人々は内戦の真の原因を忘れてしまう。

The moment you inject sectarianism to it, you have a similar situation to what we have in Syria or similar situation to what we have in Iraq … So the moment that sectarianism becomes a problem, then you’re not talking about governments; you’re not talking about political reform; you’re not talking about economic factors or tribal factors or political factors that led to the problem at hand. You start talking about issues that have to do with religion and sectarianism, and people are really blinded to the real reasons that they started this war in the first place.

最悪の場合どうなるのですか?という質問が常にあるが、これに対しては、

One of the things about the Middle East, especially recently, there is always a worst case scenario and a worst worst case scenario. Unfortunately, today the [situation in] Yemen is in its worst case scenario, but I am not convinced that this is the worst …

だって。

中東については、特に最近は、最悪のシナリオと、最悪の最悪のシナリオが常にあるのだが、残念だが、現在のイエメンが最悪のシナリオだと(もっと悪いシナリオがない)とは言い切れない・・・という趣旨でしょうか。

「成り行きに注目」と言うにしても、センスの良い言い方というものはあるのですね。

イエメンのドキュメンタリーの行方

おはようございます。本日も論文準備のため出勤です。寒いです。平日は大学事務やら、いろいろな依頼に応えたり断ったり引き受けると事務作業とか面会して打ち合わせとかこないだの講演の文字起こしを直せとかものすごい大量の雑務が積もっているのでほとんど仕事にならない。皆さん、何が重要なことか、ちょっと考えてください。

それはともかく、先日、イエメン問題についていいドキュメンタリーがある、という紹介をしたところ、

「イエメン情勢を現場から解読するドキュメンタリー」(2015/03/31)

「もう見られなくなっています」という声が読者からちらほら。

サファー・アハマドのThe Rise of the Houthisですね。

時間がなくてコメント欄にはほとんど反応できない(大部分スパム&思い込みコメントだしねえ・・・「コメントの墓標」)が、このドキュメンタリーについては私ももう一度見たかったので、残念で、何度かBBCのページを見直して、どこかに映像がないか検索してみた。記事の中の映像画面は、まず「表示できません」のようなものに代わり、ついで予告編のような2分程度の短いものに差し替えられてしまった。確かに、かなり価値の高いコンテンツだからねえ・・・NHKBS1の「BS世界のドキュメンタリー」で放送権を買って見せてくれるのを待つしかないかな、と思っていた。

そうこうしているうちに、米公共放送PBSも、看板番組のFrontlineでサファー・アハマドのドキュメンタリーの放送を盛んに宣伝し始めた。BBC/Frontlineの共同制作と謳うようになってきた。4月7日に、おそらくBBC放送のとほぼ同じものを、PBSで大々的に放送したようだ。“The Fight for Yemen,” Frontline, PBS, April 7, 2015.

しかしPBSのホームページでドキュメンタリーの本編を見ようとしても、「権利の関係であなたの地域では見られません」といった画面が出る。BBCの方は、たぶん、PBSが放送する関係で、全編無料公開を引っ込めたのだろうと想像する。

PBSはサファー本人の見解を詳細に聞いたインタビュー“On the Ground in Yemen: Six Questions with Safa Al Ahmad,” Frontline, PBS, April 7, 2015Youtubeではここ】の方は現在全世界向けに公開している。これも傾聴に値する。異論はあると思うけれども。例えば、現地の権力闘争に、深い利害関係と影響力があるサウジが介入しているだけで、イランの介入は具体的ではなく、宗派紛争でもない、という議論には、立場によっては異論があるだろう。しかし欧米とアラブ世界の知識層にまたがるグローバルな市民社会の主流の「啓蒙された」議論はサファーのものに近いだろう。現在のイエメンについて、現地の実態に触れながら、一定の距離をとって議論する際の基本的な論点や立場が示されているのではないかな。

ジャーナリストとかコメンテーターっているのは、こういう水準のものなの。そういう人は日本には、ほとんど全く、いません。それはつまり、市民社会の質が低いということなのです。取材によって現象の中から支配的な論理を抽象化できないジャーナリストは、ジャーナリストではありません。「俺は誰々に直接インタビューしたことがあるんだ」といった自慢話はいらん。そこで何をあなたが見出したか、それを的確に言葉と映像で伝えられるか否かが、ジャーナリストの評価基準である。この評価基準そのものをわかっていないで番組を作る人たちは、ジャーナリストではない。

もちろんデマに踊り踊らされるコメンテーターとかも、いりません。もっと能力がある人を探してくるのがテレビ局の義務ですし、能力のない人は能力のある人に追い落とされることが、競争社会の必要なメカニズムです。

こういうことを書くと、最近は「政府の息のかかった文化人から圧力がかかった」とか言い出す人がいるんだよな、ジャーナリストを称する人たちの中に。「声が大きい一部の学者」とかね。そんなことを、政府の権力で電波を割り当ててもらったテレビ局の、何千万人に向けて発信される画面で特権的に言える立場に立っている人たちが、「声が大きい」人の全くの個人のブログでの発言に「圧力」を感じる、感じてそれを(これをまた特権的に確保したメディアの場とか、業界人のしょうもない会話の中で)クレームするというのは、言論人が内面化して備えるべき基本的な前提を身につけていないということを意味します。近代社会の言論人として成立する以前の、子供の議論。しかしこれが多いんだな。

言論とは、「弱者」の立場になりすまして他人を黙らせる競争をするものではありません。なお、「弱者」の立場に立てば相手が仕方がなく黙る、という手法が通用するのは、弱者を尊重するという規範が何はともあれ通用しているからです。

その規範を実質上の強者が乱用し始めれば、本当の弱者の権利は消滅します。権利というものは、市民社会が質を保つことを一つの重要な条件として守られているのです。気をつけましょう。

さて、サファーのイエメン情勢のドキュメンタリーについては、イエメンでも非常に注目されたようで、BBCでインターネット上で公開された時は現地でもかなり視聴されたようである。

探してみると、ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックスのブログでは3月30日に、このドキュメンタリーに関するプレビューが掲載され、的確な批評・紹介がなされていた。これもなかなか興味深いコラムだ。

Robert F. Worth, “Yemen: The Houthi Enigma”

PBSは上にあげた「サファーへの6問6答」以外に、ニュース番組Newshourでもドキュメンタリーの一部の映像を紹介し、サファーにインタビューしている。こちらはトランスクリプトも付いている。NHKBS1のワールドニュース・アメリカでも多分やっていたのではないかと思う。

BBCでもドキュメンタリーのメイキング的なことをサファーが寄稿している。

こういった関連記事、周辺情報、反響・批評などを読んで、あとはNHKBSで放送してくれるのを待つしかないのか・・・と思っていたところ、、、

今朝BBCの記事をもう一度見てみたところ、いつの間にか末尾にTo watch the full Documentary click here の一文が付け加えられており(多分数日前はなかった)、hereのところをクリックするとこのユーチューブ画面に飛んで、全編見られるようになっていました。めでたし。
https://www.youtube.com/watch?v=Y7HQRyJDTPo