【コメント】『産経新聞』(11月17日)へのコメント「過剰反応こそテロの狙い」

今日の産経新聞朝刊に掲載されたコメントがウェブにも掲載されています。

「『過剰反応こそテロの狙い』池内恵・東京大学准教授」『産経新聞』2015年11月17日朝刊

テロをめぐって今、「拡大」と「拡散」が起きている。中東では政治的な無秩序状態がいくつも生じ、「イスラム国」をはじめ、ジハード(聖戦)勢力が領域支配を拡大している。そして、そこを拠点にして世界に発信されるイデオロギーに感化され、テロを起こす人々が拡散していくメカニズムができてしまった。

自発的なテロに加わる人物の戦闘能力も上がっている。勧誘されるわけではなく、勝手に中東に赴き、実戦の中で学ぶ者が増えている。中東地域はその軍事訓練の場を提供している。(国際社会は)この混乱を治めなければならない。

ただ、軍事的に対処したり、政治的に追い詰めたりすると、短期的には、ジハード勢力が、自らを圧迫してくる勢力の社会を狙ってテロを起こす方向にいく。テロは基本的には防げないし、特に個人や小組織が自発的に行う分散型のテロは、摘発や予測が難しい。

こうした全体構造を理解し、テロが起きても騒ぎすぎないのが最も重要な対応だろう。動揺して過剰に反応し、各国の社会に不満を持つ勢力がテロを利用すれば、社会的な対立が生じていく。それがテロの効果であり、狙いであるからだ。

日本もテロの対象となり得るが、歴史的に欧米のキリスト教徒、ユダヤ教徒を敵だと認識しているジハード勢力にとって、優先順位は低い。しかし、欧米を中心としたサミットやオリンピックが開かれる際は、一時的に日本も危険になると考えた方がよい。(談)

【テレビ出演】「クローズアップ現代」(11月16日)での発言がNHKウェブサイトに

昨日出演した「NHKクローズアップ現代」の内容が、活字と静止画像でNHKのウェブサイトに掲載されました。

「NHKクローズアップ現代 No. 3733 緊急報告 パリ“同時テロ”の衝撃」2015年11月16日

私の発言も、詳細に確認してはいませんが、スタジオで生で発言した通りに文字起こしされているはずです。一部、「領域支配」と言ったはずが「領地支配」に変換されていたりします。そう聞こえるのかもしれませんが、そうは意図して発言していません。若干精度の荒い記録とお考えください。

いずれにせよ、このような文字起こしを公開し残しておくことは、信頼性のある報道番組であろうとするならば必須の条件と言っていいと思います。

発言時間は国やキャスターとのやりとりを含めて8分程度しかありませんので、事前の打ち合わせではもっと多くの論点を入れようと準備しましたが、実際にやってみると入らない部分もありました。

ただ、組織原理や戦略目標が変わったのではなく、従来のグローバル・ジハードの各地の分散型・自発的テロの多くの種類を組み合わせ、「冷酷さ」と手際良さにおいて「進化」したという論点はじっくり議論できたように思います。

何がこの「冷酷さ」をもたらしたかは、今後検討しなければなりませんが、渡航してイラクやシリアでの戦闘に関わったり、あるいはそこからもたらされる残酷な情報に触れることで、麻痺してしまったのかもしれません。

【寄稿】『毎日新聞』にパリ同時多発テロ事件に関して(11月15日)

『毎日新聞』の昨日(11月15日)の朝刊に寄稿しました。

現地時間13日深夜に起きたパリ同時多発テロ事件についての、新聞に載る最初のコメントの一つだったのと、この日出た各種の有識者のコメントで、イスラーム教の規範そのものへの言及やジハード主義によるテロの正当化についてはほとんど触れられていなかったことから、メディア関係者が解説を求めてコンタクトを取ってくることが多くありました。

ここに本文テキストを掲載しておいます。毎日新聞のウェブ版に掲載されています。

池内恵「個人が連携、『聖戦』拡散」『毎日新聞』朝刊、2015年11月15日

自爆を多用する手法や同時に多くの場所で作戦を実行する能力から、過激派組織「イスラム国」(IS)などグローバルなジハード(聖戦)のイデオロギーに感化された集団によるものである可能性が高い。ジハードはイスラム教への挑戦者を制圧する戦いとして尊ばれる理念である。イスラム教徒の全員が行っているわけではないが、否定することの難しい重要な教義だ。
ジハードを掲げる勢力はイスラム教の支配に挑戦する「西洋」を敵と捉えるが、政教分離を明確にするフランスは、宗教への挑戦のシンボルと認識されやすい。
また、フランスにはアラブ系のイスラム教徒が多いうえ、シリアやイラクへの空爆にも参加している。彼らが過激化する可能性があり、そのためフランスが標的になりやすくなる。
米軍がISへの攻勢を強める中で、現地に義勇兵として行くよりも、欧米社会を攻撃して対抗する方が有効と考える者が出てきてもおかしくない。今回の犯行は少なくとも六つの場所でほぼ同時に行われており、作戦能力の高まりが危惧される。
グローバル・ジハードの広がりには二つのメカニズムがある。地理的な拡大と理念への感化による拡散だ。イラクやシリアでは、ISなどが中央政府と特定の地域や宗派コミュニティーとの関係悪化につけ込む形で組織的に領域支配を拡大した。
しかし、領域支配ができない西欧諸国や比較的安定した中東諸国では、イデオロギーに感化された個人や小集団によるテロを拡散させて、社会に恐怖を与え、存在感を示そうとする。
地理的な拡大がうまくいかなくなると、理念を拡散させて広く支援者を募り状況を打開しようとするため、イラクやシリアの組織が軍事的に劣勢に立たされると、欧米などでテロによる支援の動きが出てきやすい。拡大と拡散をいわば振り子のように繰り返しながら広がっていく。
信仰心に基づいて個人が自発的に参加することが基本であるため、ISに共鳴する者たちは臨機応変にネットワークを作って作戦を実行する。組織的なつながりを事前に捉え、取り締まるのは難しい。
中東やアフリカから西欧への難民・移民が急増しているが、その中にISへの同調者などがテロを起こすことを目的に紛れ込んでいる可能性がある。もしそのような人物が犯人に含まれていた場合、西欧の難民・移民政策に決定的な影響を及ぼすかもしれない。

『イスラーム国の衝撃』がKindleで静かに売れている

『イスラーム国の衝撃』が再び売れだしているようです。アマゾンを見ると、紙のものは売り切れてしまっていて入荷待ち。順位は本全体で150位台で頭打ちに。文藝春秋にはあると思うけどどうなんだろう。

今度はKindle版が売れ始めている。17日午後5時半現在、現在、全体で15位に上がっている。電子書籍は在庫が切れないというのがいいね。

新たに増刷したわけでもないし、全体としてそんなに売れているわけでもないだろう。書店は新刊でなければ新書もほとんど置いていない。本を出しすぎているので書店の棚に本が置かれず、必要だと読者が思った時は一部のインターネット書店とKindleに注文が集中するのだろう。

今後は、積極的に特定の書店に置いてもらってSNSで通知するとか、これまでのシステムでうまくいっていない部分を補う、迂回するような方策を考えていこうと思う。


イスラーム国の衝撃 (文春新書)

「拡大」と「拡散」については第8章の217−219頁あたりをご覧になるといいかな。

「拡散」については2013年に一連の論文で詳細に書いた。この辺りのエントリにリストアップしてあります。

「2013年に書いた論文(イスラーム政治思想)」(2014年1月19日)
「【論文】「指導者なきジハード」の戦略と組織『戦略研究』14号」(2014年3月31日)

拡散の背後の思想・組織論については以下の二つの論文を。

池内恵「グローバル・ジハードの変容」『年報政治学』2013年第Ⅰ号、2013年6月、189-214頁
池内恵「一匹狼(ローン・ウルフ)型ジハードの思想・理論的背景」『警察学論集』第66巻第12号、2013年12月、88-115頁

早期に想定されていた「拡大」については、次の論文を。

池内恵「アル=カーイダの夢──2020年、世界カリフ国家構想」『外交』第23号、2014年1月、32-37頁

拡散を当面の最適な組織論と考えたスーリーなどの2000年台半ばの思想・理論では近い将来には無理と考えられていた地理的・面的な領域支配と聖域の獲得を、2014年に思いがけずも達成してしまい、「拡大」の方向に一時振れたが、2015年には再び拡散の方向に進んでいる。拡大と拡散の「振り子」的動きについては、今年の半ば以降の研究会・学会報告や講演でいつも話してきたことだが、論文を今まとめているところだ。もっと早く出したかったのだが、目の前に事例が増えていくので書き終えられなかった。アイデアだけさらっとどこかに出しておけばよかった。しかし到底時間がなかった。

「拡散」の際の分散型組織・自発的参加と動員のメカニズムは、以前の論文で書いたことから、それほど変わっていないと思う。しかし、イラクやシリアに聖域があり戦闘の場があることで、「拡散」も様相が変わってきているとは言える。武器の使用法や戦術、そして昨日の「クローズアップ現代」でもちょっと話した「冷酷さ」「手際良さ」の面でも、でも格段に進歩してしまっている。