2013年に書いた論文(イスラーム政治思想)

昨年末はイスラエルへ、一月早々にはアメリカへ出張したため、仕事関係へのお年賀のあいさつすら欠かすことになってしまいました。

せめて昨年の主要な仕事についてご報告。

昨年も中東についての比較政治学的な分析や情勢分析、論壇向けエッセーなどは数多く書きましたが、同時に、メインのテーマとして取り組み続けているのは、イスラーム政治思想。特に現代のジハード論が、近代史上のどのような条件と経緯を背景にいかに展開してたのか、についてなんとか形になる成果を出そうと苦労しています。

違う言い方をすれば、2001年の9・11事件や、「アラブの春」後のアラブ諸国やアフリカに拡散する武装組織の展開など、さまざまに生じてくる現代の「ジハード」をめぐる事象は、どのような長期的な思想的トレンドを背景にしているのかという問題に、ずっと取り組んできました。

このテーマについて、昨年書いて、出版されたのが次の三本。

池内恵「グローバル・ジハードの変容」『年報政治学』2013年第Ⅰ号、2013年6月、189-214頁
日本政治学会年報nenpo-top-2013-1

池内恵「一匹狼(ローン・ウルフ)型ジハードの思想・理論的背景」『警察学論集』第66巻第12号、2013年12月、88-115頁
警察学論集2014年12月号

池内恵「『だから言っただろう!』──ジハード主義者のムスリム同胞団批判」『アステイオン』第79号、2013年11月、196-202頁
アステイオン第79号

昨年書いて、近く出版される予定なのが次の二本です。

池内恵「アル=カーイダの夢──2020年、世界カリフ国家構想」『外交』第23号、2014年1月(刊行予定)
池内恵「『指導者なきジハード』の戦略と組織」『戦略研究』第14号、2014年3月(刊行予定)

しかしこの背後には、書けなかった論文、初稿・第二稿・第三稿・・・と書きながらも完成させられなかった論文、期待していただいて編者に無理を言って待っていただいて、なおかつ書き終えられなかった論文が、いくつもあります。

成果が出たという感慨はあまりなく、2013年はただ苦しかった、というのが正直なところです。

陸上競技で、越えられると思っているハードルを次々倒してしまうような、野球で、当然ヒットにできると思った球を打ち損じるような、自分が信じられなくなる「誤算」がたび重なっておきた年でした。

ジハードをめぐる思想史で、本格的な学術書を一冊書き通したい、というのが数年来取り組んできた最も大きく困難な目標です。この本の各章の基礎になる文章を、あちこちの学会誌や専門誌に寄稿していった結果が上記の、何はともあれ完成させた5つの論文と、そして、苦悶して改稿を繰り返しながら、結局最後まで書き通せず、苦い思いと共に、懸案として目の前にぶら下がり続けている、まだ名前を挙げることはできない未完成の論文(複数)です。

中東政治分析についてはいろいろなお仕事の依頼を頂きますし、中東情勢のたびたびの劇的展開に後押しされ、編集者・記者の催促(ご慫慂)を受けて書きますので、コンスタントに出版されていきますが、イスラーム政治思想の長期的な仕事については、自分で締め切りを設定して追い込まないとつい後回しにしてしまいます。そうならないように、とあえて重い課題を数多く自分に課したのですが、それをこなせなかったことは事実としてあります。その原因は何か、を深く考えざるを得ません。

しかしその過程で、期待して待って下さった編者の方々の多くに、ご迷惑をおかけしました。2013年は殊更に苦い思いが残る年でした。

2014年には、昨年に書き通せなかった論文たちを完成させて、できれば一冊の本にして、期待していただき、失望させてしまった皆様にお見せしたいな、と思っています。