ガザ紛争で再び72時間停戦──収束に向かう遅々とした歩み

イスラエル・ガザ紛争については、空爆開始から数えて29日目の8月5日朝に発効した一時停戦(72時間)を画期として、一時的な揺り戻しはあれども、収束に向かっているものと考えています。

エジプトは8月10日(日)に、この日の夜9時からの再度の一時停戦(72時間)を双方に呼びかけイスラエルと、ハマースおよびイスラーム・ジハード団がこれを受け入れ、現在のところ双方の攻撃が止んでいます。

8日の一時停戦期限切れの後もカイロに残っていたパレスチナ側の交渉団が、「10日までにイスラエル側が停戦延長のための条件を呑まないなら代表団は帰国するぞ」と、中東のスーク(バザール)の交渉のように迫ったところで、深夜の停戦提案・受け入れとなったようです。

8日の一時停戦期限切れを前に帰国していたイスラエル側の交渉代表団も、早速翌11日(月)に戻ってきて、エジプト軍諜報部長(Mohammed Ahmed Fareed al-Tohami)の仲介で間接対話が続いている模様です。

今回の一時停戦の期限切れは13日夜(日本時間14日未明)ですが、そのぎりぎりまで交渉が続き、またも「停戦延長か否か」を議論することになりそうです。

イスラーム・ジハード団は交渉妥結近いという見通しを発表していますが、隔たりが大きい紛争再会必至とする説まで各種が交渉当事者周辺や援助関係者から、様々な思惑で発信されています。

エジプトの仲介姿勢にも、パレスチナ・イスラエル双方の立場や意思決定主体にも、不透明なところが多いのですが、基本的には収束モードに入っているといえます。

今回の一時停戦もまた期限切れとなるかもしれませんが、断続的に攻撃と交渉を続けていき、徐々に攻撃の規模が小さくなっていったところで何らかの国際的枠組みを導入して恒久的停戦にもっていく、という形での収束が考えられます。

8月8日朝に一回目の一時停戦が切れた際には、予告通りガザからロケット弾攻撃が再開され、停戦延長を宣言していたイスラエルも予告通り報復攻撃を行いました。ただし双方ともに一時停戦以前と比べると限定的で(死者は出ていますが)、政治的メッセージとしての軍事行動の色彩が濃く、カイロでの交渉も断続的に続いてきました。

イスラエル側は、すでに軍事的には主要な目標を達成しているため、「一方的停戦」を続けることに異存はなく、ハマースあるいはイスラーム・ジハード団が攻撃してきたときのみ報復する、という形で当分対処するのではないかと思われます。

イスラエルの閣内強硬派や、言論人には、一定期間ガザを占領してハマースを根絶せよと主張する者もいますが、ネタニヤフ首相としては、地上部隊の駐留ではイスラエル兵に多くの死者が出る可能性が高いため、支持率低下や掃討作戦失敗の責任を取らされることを恐れて、自重するのではないかと思います。国際世論対策としても、「イスラエル側は停戦延長を認めているのに、ガザからロケット弾が発射される」という形を作ることが当面は有利と考えているでしょう。

ハマースとしては、単に一時停戦が延長されるだけでは、ガザの封鎖解除という最低限の目標も達成できないため、苦しい立場に立たされています。かといって自ら主導で停戦延長を拒否、攻撃再開、を繰り返していては、国際的な孤立を深めると共に、ガザの市民の民心の離反も招きかねません。

イスラエル側の立場にエジプト政府が全面的に同調して、むしろスィースィー政権が敵とみなすハマースのガザ支配を打倒する絶好の機会と考えている様子であることが、いっそうハマースの立場を弱めています。

ヨルダン川西岸を支配するパレスチナ自治政府のファタハ(アッバース大統領率いる)も、これを機会にガザへの支配を取り戻そうと試みています

どのような形での停戦の恒久化が可能か。

以前に掲げた複数のありうるシナリオのどのあたりが今議論の俎上に上っているのかを,、もう一度見てみましょう。

(1)停戦 ハマースの抑制・安全保障措置なし
  →数年に一度同様の紛争を繰り返す
(2)停戦 ハマースの抑制・安全保障措置あり
  →(2)-1 ファタハ(ヨルダン川西岸を支配、アッバース大統領)の部隊がガザに部分的に展開
  →(2)-2 国際部隊(国連部隊、地域大国、域外大国等)がガザに展開、停戦監視
(3)衝突再燃、イスラエルがハマースを全面的に掃討
  →(3)-1 ガザ再占領(ほぼあり得ない)
  →(3)-2 ハマースの壊滅後にイスラエル軍撤退、ファタハ部隊が展開
  →(3)-3 ハマースの壊滅後にイスラエル軍撤退、治安の悪化、民兵集団跋扈
         →ISISなどのイスラーム主義過激派が伸長

現状では、(2)-1と(2)-2を折衷する方向で議論がなされているようです。

主導権を握っているのはイスラエルで、交渉がうまくいかなければ一方的に停戦を続けて(1)の既定路線に戻ればいい。また、ハマース側の攻撃が予想以上に大規模で、持続的な脅威とイスラエル国内で認識されるほどになれば、(3)の方向に向かっていく可能性もないわけではありません。

イスラエルとしては、現在のところ、ファタハを強めてガザを支配させ、ハマースを武装解除する枠組みを作ることを、ガザ封鎖解除の前提条件として譲るつもりはないのでしょう。しかしハマースとしては「武装抵抗で封鎖解除をもたらした」と勝利を宣言できる形でなければ武装解除には応じないでしょう。

ファタハ系の治安部隊のガザへの導入をハマースが認めるか、どの時点で認めるかが、恒久停戦をもたらす際の一つのハードルとなります。そう簡単にハマースは武装解除を呑めないと思うので、一時停戦の終了、散発的攻撃再開、報復攻撃、という一連の動きが繰り返される可能性があります。

ガザ全域をファタハが支配するというよりは、ファタハの部隊がエジプトおよびイスラエルとの間の国境検問所に配備されて、その監視下でハマースの武装強化を制約しつつ、限定的に封鎖解除を行っていく、という手順が考えられます。

その場合、放っておけば、2007年と同様の、ファタハ対ハマースの治安部隊同士の衝突となりかねないので、ファタハとハマースの分離、および国境検問所の監視のために、国連の枠組みの下でEUなどの国際部隊を導入する案などが各種提案されています。こういった国際社会からの提案・助け舟を引き出すためのアドバルーン・指針と見られるのが、イスラエルのモファズ元防衛大臣による、ハマースの武装解除・ガザ非武装化とガザの再建を国際部隊の導入や国際社会の資金援助で行うするう包括的プランです

ガザ紛争については今後時間をかけて、何らかの国際的枠組みの下で解決を図っていくことになりますが、関心を低めないでいたいものです。

下記にこれまでの解説を一覧にしておきます。

【寄稿】ガザ紛争激化の背景、一方的停戦の怪、来るなと言われたケリー等々(2014/07/16)

ガザ紛争をめぐる中東国際政治(2014/07/26)

【地図と解説】イスラエル・ガザ紛争の3週間と、今後の見通し(2014/07/28)

イスラエル・ガザの紛争に収束の兆し(2014/08/07)

ガザの一時停戦が延長合意ないまま期限切れ──ハマース軍事部門は挑発に出るか(2014/08/08)

ガザ情勢のライブ・アップデートはこちらから(2014/08/08)