【寄稿】週刊エコノミストの読書日記(第4回)学術出版の論理は欧米と日本でこんなに違う

イスタンブールで会議中。講演を終えて一瞬中座して書きかけの論文を送信。完全に日本時間・仕事とこちらの時間・仕事を同時に並行してこなしています。内容は重なっているが。

まだ現物を手にしていないが、『週刊エコノミスト』の読書日記の連載第4回が、8月25日(月)発売の最新号に掲載されているはず。

池内恵「学術出版の「需要牽引型と供給推進型」」『週刊エコノミスト』2014年9月2日号、69頁

こんなに忙しくしているのも、日本の場合、学術的知見を、商業出版社・一般雑誌を通じて世に出す経路が豊富にあるから。

編集者は読者の需要に応えて、それに適合した書き手と内容とパッケージで提供しようとする。日本では編集者が媒介して、「需要牽引型」で学術書が作られている面がある。

これはアメリカとは対照的。

アメリカでは一般向け雑誌や商業出版社から声がかかる学者なんて、日本でも広く知られているようなごくごく少数の人に限られると言っていい。

ではアメリカのその他の学者はヒマかというとそんなことはない。大学と専門学会・学術書を出す大学出版会・学術書を一定部数買い上げる大学図書館の三角形が存在して、コンスタントに、手堅い学術書を世に送り続ける。その工程に載せてなんとか本を出すために、アメリカの研究者は、特に若手・中堅は、すごく忙しくしている。

アメリカでは一冊の本を出すののに、着想して調べ始めてから10年かかるのはざらだが、予算を取って調査をして資料を集めて学会発表を繰り返して各地を転々とし、論文にして査読を通して出版したうえでそれを書籍の出版社を見つけて書いて査読を通して・・・といった作業を考えると、ものすごく忙しくして競争にさらされていないと、10年にたった一冊の本でさえも、出ない。

日本でもそれはやるのだが、それと並行して様々な商業出版の可能性が出てくる場合があり、何らかの拍子にその需要が高まると、だんだんそちらが忙しくなる。商業出版社から出るものでも、ものによっては非常に学術的にできる。また、大学出版会から出るからと言って必ずしも常に学術的な基準を満たしていると限らないのも日本の事情。

アメリカでは「一般読者が知りたがっているから」という要因は、大学出版会にほぼ限定された学術出版の工程において、全く考慮されわけではないようだが、原則としては二の次・三の次であり、作り手であり品質評価の排他的な担い手である大学・専門学会の都合が最優先され、そこでは大学出版会と大学図書館が不可分のステークホルダーになっている。つまり「供給推進型」で学術出版が行われている。

まあどっちにも利点とデメリットがある・・・・てな話を中心に書きました。

週刊エコノミスト2014年9月2日号