【日めくり古典】国際政治の比較と予測

モーゲンソー『国際政治』(上巻、岩波文庫)からのメモの続き。

国際政治の研究には「比較」は欠かせない。しかし、国際政治学が扱う対象はあまりに曖昧だ。モーゲンソーはモンテーニュを引用して、事物と事物の「経験から引きだされる相対関係はつねに不備、不完全である。しかし人は、どこかの点で比較をしてお互いを結びつける。そんなわけで法則もまた重宝なものになる。法則は、幾分歪曲された、こじつけの、偏ぱな解釈によってわれわれの出来事のひとつひとつに適合するのである」(75頁)という。よって「偏ぱな」解釈につねに気をつけなければならないが、それでもわれわれは比較せざるを得ない。

そして、曖昧な対象を扱う以上、どこかに直感に頼らなければならないところが出てくるし、その直感を経験によって確かめられることもあれば、確かめられないこともある、という(83頁)。

「国際政治の研究者が学ばなければならない、そして決して忘れてはならない第一の教訓は、国際事象が複雑なために、単純な解決や信頼出来る予言が不可能になる、ということである。ここにおいて学者といかさま師とは袂を分かつのである。国家間の政治を決定する諸力を知ることによって、そしてこれら国家間の政治関係がどのように展開するかを理解することによって、国際政治の諸事実がいかに曖昧であるかが明らかになる。政治状況においてはすべて相矛盾する傾向が作用している。これらの傾向のうちひとつは、ある条件の下では比較的優位になりやすい。しかし、どの傾向が実際に優勢になるかは予測しがたい問題である。したがって、研究者にせいぜいできることは、ある国際状況のなかに潜在力として内在するいろいろな傾向を突きとめることである。彼は、ある傾向を別の傾向よりも広がりやすくしている諸条件をいろいろ指摘することができるし、また最終的には、いろいろな条件や傾向が実際に広がるその可能性を評価することができるのである。」(原彬久訳、上巻、83−84頁)