このブログで紹介しようと思いつつ、自著(翻訳ですが)なので後回しにしてきたこの本。
ジル・ケペル著(池内恵訳注・解説)『中東戦記 ポスト9.11時代への政治的ガイド』(講談社選書メチエ、2011年)
どうやら在庫僅少らしい。もし重版されないと、手に入らなくなりますので、お求めの場合はお早めに。最近売れているので店頭では品薄になって、出版社の在庫もほとんどないらしい。
アマゾンの在庫は切れているようだし、ジュンク堂を検索してみると、見事にほぼ全ての店舗で在庫僅少の△になっている。
この本は、編集者との会話の中で、私が提案して私が訳して、詳細な訳注をつけて出したもの。
副題の「政治的ガイドブック」というのは私がつけたもので、原著のフランス語版に、英訳版でついた論考も加えて、さらに訳注を全ページの下に詳細につけて、どこにもない決定版にした。
9・11以後の時代のイスラーム世界の基調となるトレンドを、皮膚感覚でとらえた「フィールド記録文学」とも言える名著です。哲学と社会科学と文学が連続しており、知識人が社会的発言をすることが原則という、アメリカとは異なるフランスからでこそ生まれる作品でしょう。実証性がない!とアメリカの学会では怒られそうですが。
著者はイスラーム主義過激派の研究の先駆者のジル・ケペル。フランスのパリ政治学院の先生です。1981年にエジプトでジハード団がサダト大統領暗殺事件を起こしたその時にまさにエジプトでイスラーム主義過激派の研究をまとめようとしていた。
その後、フランスの郊外問題としてのイスラーム主義の台頭を先駆的に問題視した。世界的なジハードの広がりにも早くから注目して大著を現していた。典型的なヴィジョナリーです。
そのまま訳すと、中東の社会に触れたことのない日本の読者にはわからない部分が多いかと思って、訳注それ自体を、中東の政治・社会・文化のガイドブックのつもりで詳細に書いておきました。あと、文中の地図はすべて私が講談社の編集者を泣かせながら作ったものです。
この本の価値は時間が経っても変わらないと思うけど、今時の出版社がちょっとずつしか売れない本を持ちこたえられるかわからないから、市場からなくなる前にどうぞ。