9月23日に開始された米国のシリア空爆についての続報などを急ぎとりまとめ。時間がたつと忘れてしまうと思うので、タイムカプセルのようにリンクを張っておこう。
空爆はすでに二日目に入っているが、それほど特筆すべき事実は出てきていない。むしろ初日に一斉に出てきた各種論評で出てきた論点を消化する必要がある。
初日の空爆の詳細についての記事をいくつか挙げておこう。初日の空爆についての米軍や大統領の発表で、(1)湾岸産油国+ヨルダンの計5か国と一緒に行ったので米単独ではないよ、というところと、(2)ついでにホラサーン・グループもあんまり危険だから攻撃しといたよ、という内容が、事前に予想されていた中でやや意外、あるいはかなり意外だったところだ。
CNNはこの二つの種類の攻撃について、時間帯と攻撃対象と参加者を整理している。
“Arab nations join U.S., expand fight against terror to Syria,” CNN, Updated September 23, 2014.
The operation began Tuesday, September 23 around 3:30 a.m. local time (8:30 p.m. ET Monday) with a series of Tomahawk missiles launched from U.S. Navy ships, followed by attacks from bomber and fighter aircraft. The first strikes, conducted independently by the United States, hit targets west of Aleppo against the Khorasan Group. Khorasan is a splinter al Qaeda group actively plotting against a U.S. homeland target and Western targets, a senior U.S. official told CNN on Tuesday.
・・・とあるように、朝3時30分にまずホラサーン・グループを、米が単独で攻撃した。
続いて、シリア東部のラッカや、デリゾール県、ハサケ県への攻撃を行い、こちらには湾岸諸国とヨルダンも参加した、ということです。
Arab partners then joined U.S. forces to conduct two waves of airstrikes against ISIS targets, focusing on the city of Raqqa, the declared capital of ISIS’ self-proclaimed Islamic State. Areas to the east were also hit.
地図にすると、このような感じ。青色が米単独のホラサーン・グループへの空爆で、赤色は「連合国」の空爆。
連合国といっても大部分は米軍による攻撃だと早速認めている。まあ、湾岸産油国やヨルダンにトマホークを撃たせたりしないだろう(そんなの持っていたらイスラエルが許さない)。
空爆初日に行われた米メディアの議論や報道はやはり当事者で批判の自由がある国だけに参考になる。
政治的な中立性がわりに高いのは米公共放送PBSだ。番組で取り上げた専門家の討論や報道のほとんどすべてが、ウェブ上で無料で映像で見られるだけでなく、トランスクリプトも公開されている(日本でもNHKBS1で9月24日の午後4時からやっていた)。三部構成で、簡潔になかなかいいポイントをついている。代表的な論客も網羅している。
まあこれらの国はいずれも米国の基地を置いているから、その基地から米艦船が発進するだけで、ミサイルが上空を通過するだけで、「攻撃に参加した」と言ってしまう可能性すらある。この記事では「少なくともほんのちょっとは参加したよ。重要じゃないけどね」程度の話になっている。
Part 1での事実関係と主要映像のまとめも簡潔で、Part 3でシリア専門家のジョシュア・ランディスやイスラーム過激派組織が専門のアンドリュー・テイブラーといった、この問題でおなじみの論者が出てくるのもいいが、より面白いと思ったのはPart 2でレポートしている、同盟国の微妙な反応、というところ。
MARGARET WARNERが各国の政権に近い人たちに聞いてきてレポートしているのだが、空爆に参加した国にしても、一つとしておおっぴらに「参加した」とは宣伝していないことに注目している。
これは面白い点で、アメリカが「彼らも参加した」と大々的に発表して、それらの国が否定していない、というような具合なのだ。特にアラビア語の媒体では、「米国が同盟国と一緒に」としか書かれず、具体的に参加した各国政府の主体的な姿勢は何ら報じられていない。外電を引き写すのみ。沈黙しているわけです。
さて、ウォーナーさんは攻撃に直接参加した5か国に当たってみて、次のような反応を得たという。
I thought the most interesting reaction, Judy, was from the five Gulf states, or Jordan and the four Gulf states that did participate. None of them boasted about it. And I saw one of them late this afternoon. And, unfortunately, I cannot name who he was, who said, this is very sensitive for us. We’re now partnering with the United States. But we have got a reputation on the line, and what we keep asking the Americans is, what comes the day after?
And he left the suggestion that they really don’t have an answer yet.
キャスターのJudy Woodruffとのやり取りなので分かりにくいところがあるかもしれないが、面白いのは攻撃に参加した国の匿名の高官の発言だ。”what we keep asking the Americans is, what comes the day after?”
「攻撃の後はどうするんだ?」と米政府に来ても、答えをもらえていない、ということ。
これにキャスターが食いついて、米の同盟国は米主導の空爆についてトーンが異なるのかい?と聞く。
JUDY WOODRUFF: Well, so, Margaret, it’s interesting because a number of these countries have been critical of the U.S.’s uncertain leadership. Are they taking a different tone about that today because of the U.S. leading these strikes?
再びウォーナーさんが「そうだそうだ」と答える。
MARGARET WARNER: You know, Judy, you put your finger right on it.
そして、次のように同盟国の心の内を読み解く。
That is — the concern is the constancy of U.S. leadership. I mean, from President Obama saying he would strike Syria last year over chemical weapons and then backing off or announcing he’s going to Afghanistan, but announcing an end date, even countries that didn’t want the U.S. to do those things were shaken or rattled by that.
(意訳)同盟国が心配しているのは、アメリカのリーダーシップが貫徹できるかということ。つまり、オバマは去年、化学兵器をめぐってシリアを空爆すると言ってから引き下がった。あるいはアフガニスタンに増派すると言いながら同時に撤退の期限を切った。米国の政策に反対する国ですら、そんなことをされると動揺し慌てたのだ。
And so these countries do feel they could be out on a limb. They have joined this public coalition now with the United States. So that is the — I would say that is the number one concern. And I still think the United States has a long way to go to persuade them that they’re in it, that this president is in it for the long haul.
(意訳)同盟国は、苦しい立場に追い込まれないかと心配している。今や公に米国との連合に加わった。そのことが、ええ、そのことが彼らにとってまず不安なんです。米国は同盟国に、一緒にきてくれ、米大統領もずっと一緒にいるから、と説得し切れていないと私は思うのです。
・・・つまり同盟国の不安というのは、「米国と一緒に行動して、後ではしごを外されないか」ということだというのですね。
今回米国のシリア空爆に参加した国は、米国が基地を置いて、安全保障を全面的に担っている、湾岸産油国や君主国(ヨルダン)だった。
シリアと国境を接しているのはヨルダンだけである。それ以外の国は、サウジアラビアなど、まだ直接の脅威は感じていないけれども、米国との関係上付き合いで参加している、というような具合である。
これらの国にとっては、もし参加しなければ、「スンナ派の過激派テロを生んだ張本人だ!」などと名指しされて敵国扱いされかねない。そもそも米国がシリアの反体制派を支援してやれ、と言ってきたから武器や資金を供与してきたのに・・・という言い分がある(それが全面的に正しいとは言えないにしても)。
問題なのは、米国・オバマ政権が本当のところ何を考えているか分からない、あるいは将来にわたって同じ姿勢でいるか分からない、という印象が非常に高まっていて、同盟国の政権が米国に全面的にコミットできる状況にないことだろう。
そして、シリアとイラクの問題を解決するのに不可欠なトルコが参加していない。トルコはシリアとイラクに長い国境線で接し、国境地帯を経済圏に収め、展開できる軍事力が周辺諸国の中で群を抜いて大きい。
トルコの思惑が何なのか、今後どのような形で参加するのか、その条件は、となるとかなり重要で複雑な問題なので、別の機会に考えてみるが、次の記事がちらっと雰囲気の一部を伝えていると思う。
Ankara wants to hear US scenario on Syria, Hurriyet Daily News, Sep 24, 2014.
この記事ではシリア空爆に対するトルコの最初の公式の反応として、アクドアン副首相の発言を引いている。
“[The U.S-led coalition] should openly disclose their scenarios about the future of Syria and the al-Assad regime. We’ll evaluate our position only after hearing these scenarios from them,” Deputy Prime Minister Yalçın Akdoğan told the Hürriyet Daily News yesterday.
要するに、空爆をして、その後シリアをどうしたいのか、アサド政権をどうするのか、オバマ政権が率直に開示してくれないと、協力できないよ、ということ。
ここにも同盟国の米政権の本音や決意に対する不信感がある。状況が悪いと感じたら、世論や議会の風向きが変わったら、オバマ政権は突然はしごを外してしまうんじゃないの?そういったときは、米国のメディアや議会も、「トルコが悪い」「そもそもトルコのせいでこんな問題が起きた」とかあることないこと言って、それを言い訳に大統領も足抜けしてしまうんじゃないの?ということ。
トルコにしてみれば、オバマ大統領がかっこよく「アサドは去らなければならない」と語り、対策を取ると言いながら自国では何もやりたがらずトルコに丸投げした挙句、イスラーム過激派が台頭したところ「責任とれ」と言わんばかりに非難されたことでかなり懲りており、米国に対して極めて冷淡になっている。トルコの施策とその精度に問題がないとは言えないが、丸投げしておいて出来ばえに文句付けた上に、そもそもの原因まで押し付けられてはたまらない、というのはそれなりに筋が通っている。
トルコは政争が激しいから、しばしば現政権への悪口をアメリカやらイスラエルやらに売り込んで揺さぶろうとする元気な人も多い。しかしここでは普段は政権批判が激しい世俗主義系のヒュッリイエト英語版も、トルコの基本姿勢として中道のラインを示している。それは次のようなところだ。
The deputy prime minister’s statement is a clear reflection of Ankara’s stance on the international coalition against the growing threat of ISIL. Ankara believes that ISIL is a product of the Syrian regime’s oppression and destroying ISIL will have not much meaning as long as the al-Assad regime stays in power.
“Today it’s ISIL, tomorrow something else. As long as you have the al-Assad regime there, you will continue to deal with radical and jihadist groups,” a Turkish official had said earlier.
トルコの状況認識:「イスラーム国」はシリアのアサド政権の弾圧がもたらした産物だ。イスラーム国を破壊してもアサド政権が権力を握り続ければ意味がない。
Turkey said it would reconsider its position toward joining the anti-coalition forces after it safely rescued 46 of its citizens from ISIL, but has strongly underlined that its participation will be limited to providing humanitarian assistance to Syrians fleeing from ISIL’s violence. Turkey is already hosting around 1.5 million Syrian refugees, with 200,000 of them having crossed into Turkey in less than 48 hours.
トルコの有志連合への参加の条件:難民への人道援助に限定する。
・・・といったところですね。トルコは裏交渉でもっといろいろなことを言っている可能性があり、交渉の結果次第では立場を大きく変えるかもしれない。しかし現状ではこの原則論から表面上は一歩も出ていない。
トルコとしては、参加の条件として、シリアがどうなろうとそれがトルコ国内の治安の動揺、国家の崩壊に結びつくことがないような方策を伴うことを、アメリカに要求しているのだろう。そこで出てくるのが「緩衝地帯(buffer zone)」あるいは「安全地帯(safe haven)」の議論。
トルコ・シリア国境地帯のシリア側に、反体制派が政権から空爆を受けずに展開できる領域を設ける。そのためには上空を「飛行禁止空域」と設定して米国などがシリア政府の空爆を阻止する必要がある、という話。
緩衝地帯の設定は、シリアの分割につながりかねない。
しかし湾岸戦争後に米国はイラク北部のクルド人地域で同様のことをやった。なぜシリアでそれができないの?というのがトルコの立場だろう。それが反体制派に対する人道支援としてももっとも抜本的である、と主張するのだろう。
これを米国が呑んで、本気で実施する姿勢を見せなければ、トルコは大きな協力をしないのかもしれない。こういった交渉に対して、ロシアはどう出るのか?
このあたりは流動的なのでまだ決定的なことは言えない。