このブログは、ときどきBLOGOSというところに転載されることがあります。
前回の「disappointedいっぱい言ってるよ」も転載されて、いろいろと「支持」や「コメント」がついているようです。
BLOGOSに転載するようになったきっかけは、BLOGOSの編集部が転載させてくれと言ってきたからです。毎回自動的に転載されるわけではなく、編集部が「今回のこれを転載させてください」とメールで連絡してきて、「了承します」と私が返事するとほどなくBLOGOSに設定された私のページにアップされます。
転載にあたっての原稿料・使用料などは受け取っておらず、まったく金銭的な見返りはありません。他の転載者にもたぶん支払われていないと思います。その意味でBLOGOSは「原稿料」すなわち「仕入れ代金」がゼロで営業しているということになります。読者からも料金を取っている様子はないので、各種の広告(的)収入で運営されているのでしょう。
それほど深い気持ちや思い入れで転載を始めたわけではないのですが、「やってもいいな」と思った理由のうち消極的ながら重要だった項目の一つは、もし私が転載を止めたいという気になったときは、通知すれば、過去に転載されたものをすべてサーバーから削除する、という条件を編集部が提示したことです。
転載してもいいんだけど、そのサイトが今後どんなものになるかもわからず、私の文章だってどういう風に使われるか分からないのでは、躊躇します。撤回したくてもずっと使われ続ける・・・というのでは転載する気になりません。しかし明示的に「要求があれば削除します」と言っているのであれば、まあリスクは少ないかな、と安心して了承しました。
出版社はここのところ以前よりも強く、紙媒体に書いたものにかんしても、電子出版やデータベース配信をする権利を、排他的に、かつ事実上無期限に(著作権が存続する期間)認めよ、と著者にさりげなくどさくさまぎれに突き付けてきます。これは感心しません。まず、その分の対価を支払うというところはほとんどありません。タダで商品を得て、無期限で使おうというのは虫のいい話でしょう。もっと問題なのは、権利ばかり押さえようとしていながら、きちんとそれを流通させて読者に届け、代金を回収して商売にするモデルを示さないことです。電子データは「在庫」を抱えるコストがほとんどないので、ただ抱え込んで終わり、ということになりかねません。紙媒体は売れなくなれば絶版にして文字通り裁断しなければならないので、だからこそ作品に二次使用の市場が生まれて流通して生きていくのです。売る当てがないのにタダだからと抱え込んでいく(しかも恒久的・排他的に)出版社には電子出版の許可を出さないことにしています。
もちろん、転載を承諾するにあたっては、まあこのブログに新しい読者がちょっとでも来ればいいな、と思いましたが、そんなに期待はしていません。そもそも中東・イスラーム学というテーマは娯楽的に消費するようなものではありません。本当に必要となった時には雪崩的に関心が集まりますが、ピークが過ぎればみなさんまた日常に戻っていって興味を示さない、というのが、遠い日本においてはごく正常な流れではないでしょうか。このブログは、それでも恒常的にこの分野に関心があるか、職業上関心を持たざるを得ない人がチェックしてアップデートする助けになればいいな、という程度の機能を意識して作っています。
BLOGOSに転載することによって、ちょっとした「市場調査」「世論動向調査」という見返りがあるかもしれない、ともちょっぴりだけ期待しています。あまり正確な調査にはなりえませんが、「無料で非専門的な媒体を読む一般読者の目に触れる場所に記事を置いた場合」という条件のもとで、「どのようなテーマだとこれぐらい読む人がいる」「このテーマだとこのような反応がある」といった、世論・議論の市場動向を、バイアスや誤差はかなり大きいにしても、得る手がかりになるかなと思っています。
そもそも「編集部がどのようなテーマだと転載を依頼してくるのか」という点だけでも、こういった無料のネットのニュース・議論のサイトでの需要という意味での市場調査になります。ただし私はこの種の市場をいかなる意味でもターゲットにはしていないので、単に余暇に興味本位で疑似マーケティングを楽しんでいるだけです。
いくつか転載されたものについたコメントとか、テーマによる反応の多寡とかを見ていると、まあ予想通りではありますが、実際にデータが取れたことは意味があったかなと思います。
私自身が最近積極的に用いているウェブ上の媒体は、一方で「中東・イスラーム学の風姿花伝」(個人・無料・ひたすらモノローグ)があり、他方で、『フォーサイト』(新潮社が発行する雑誌・有料・コメントや読者評価で一定の双方向性がある)があります。BLOGOSはその中間ぐらいでしょうか。
それにしても・・・
読むのも無料、書く側だって原稿料なんかもらっていやしない、そもそも個人ブログで知り合いに向けて書いているものが転載されているだけでBLOGOSのために書いたものではない、という媒体のコメント欄につけてくるコメントが、妙に上から目線なのはなんでなんでしょうね。
「長すぎる。飽きたよ」
「話があっちこっち飛ぶので論説とは言えない」
「三回ぐらいに分けたらいいのでは」
「こんな長いと読者が減る」
「何々が書いていないので不親切」
といった感じのコメントが付くのですが、まあ全く参考にはならないわけではないですが、うーん根本的に勘違いしているな、無料媒体の読者は。
あのね、これ無料なんですよ。読者が購読料を払っているわけでもなく、執筆者が原稿料をもらっているわけでもない。BLOGOSのために書いたわけでもない。個人ブログで自分が書きたい時に、書きたいように、好きなだけの分量を書けるからこそ書いてるんで、ページビューを増やすために細切れにしろとか論旨を単純にしろとか一つのテーマだけにして態度を鮮明にしろとか、全て余計なお世話です。無料で読めているだけでありがたいと思いなさい・・・といったコメントをつけたくなりますが、そう暇ではなく、付き合ってあげる義理もないので、つけません。
まあ無数にある無料のウェブのニュースやら論説はたいていすごく短い。長かったら読まない読者がほとんどというのも確かだろう。ですから、私はそういう読者に読んでもらおうとは最初から思っちゃおらんのだよ。
そういうウェブの文章に慣れている読者のごく一部が、「こういう書き方もあるのか」「そもそもこういう人がいるのか」「こんなテーマがあったのか」とふと気づいてこれまでとは別世界に入るきっかけが生じたりすればそれもいいな、という程度にしか期待していない。
私の仕事の大部分は依然として、有料(あるいは会員制=学会誌だってそうですね)の本や雑誌や新聞の紙媒体に書くことです。それらの仕事を十分すぎるほどいただいているので、ウェブ関連は、極言すれば、どうでもいいと言ってしまっていいようなものです。
『フォーサイト』はウェブになりましたが、ちょうど2011年の中東大変動の際に、有料で限られた読者に向けて、タイムラグなしに書けるという利点を享受しました。書き手として、「後知恵」ではなく、事態が動いていくその瞬間に情報を集めて枠組みを作って見通しを示して、かつそれを発表・記録していくという作業は、得難い体験・訓練となりました。
こういった私の本来の発表媒体との関係からいうと、無料でここにいろいろ書いてしまっていること自体、私に仕事を依頼してくださる人たちにとっては、私がある種の利益相反行為をしているとすら見えてきかねないものです。
基本的には中東・イスラーム学というのは、限られた数の、しかし本当に知見を必要としている人に向かって、対面リアルでやり取りするだけで十分成立します。「イスラーム思想」「中東政治」に関する学術的知見には供給に比較して高い需要がありますし、関連する「カントリー・リスク分析」「エネルギー」「テロ対策」といった「実需」にも支えられています。私の場合はそれを「文芸」方面に一定程度つなげるという仕事も、求められればやっています。
そのため、講演会で講演したり、少人数へブリーフィングしたり、専門家の会合に出てやり取りしたり、といった形で、十分に有益で効率的に発表の場を得て、ささやかながら代償も得ていますので、それに加えてウェブでやっていることというのは、ほんの息抜きなんです。
息抜きだからこそ楽しくやりたいし、質の高いものをやりたい、と思ってはいるが。
定量的にトラッキングしているわけではないが、リアルなやり取りから想像する限り、おそらくこのブログを読んでいる人は実際に仕事上で私と会ったことがあったり今後も会うことがある人たちが多いのではないかと思う。また、実際に本屋で本や雑誌を買って私の文章を読んだり、講演会などに来てやり取りする可能性も高い人たちが多いと思う。そうではない人たちにも一定程度届いている様子があるのはうれしいけれども。
本当に必要な情報というものは、定義上「希少」です。希少な情報は、無料のウェブ媒体でページビューを競ったりはしないものです。たいていはあまり積極的には世の中に向けて広められてはいません。私だって本当は一部の限られた人にだけ発信している方が多く利益を得るのかもしれない。
それでもなおこのブログを書くことの利点があるとすれば、「私が前提としているような認識、中東・イスラーム世界を見るために最低限知っておくべき常識、見ておくべきニュースなどを、なるべく多くの人が知っていてくれれば、私がものを書いたり話したりしたときにより誤解なく受け止められる」ということでしょう。
これはあくまでも推測あるいは期待なので、「広く一般に知ってもらう必要はないのだな」と感じた場合、ブログを止めるか、あるいは有料で情報提供をするといった方向に行くかもしれませんね。