先端研の春

 新学期ですね。いろいろ棚卸し、在庫整理的なことをして終日研究室にて過ごす。

 桜も満開。まだつぼみばかりの枝もあり、とうぶん目を休めてくれそう。

 教養学部の生協の書店まで歩く。先端研のある代々木上原(番地は駒場だが)と、東大教養学部がある駒場にかけての一円にこんなに桜の木が多いなんて、学生の時にも、先端研に就職してからも、気にしたことがなかった。
 
 おそらく学生時代はそんなことにかまっている心の余裕がなく、あまりキャンパスにも来なかった。そもそも中東をぶらぶらしていて日本にいなかった。

 先端研に就職したのが2008年10月、年度の半ばに来たので、桜の季節に新らしい職場に入るという気分を味わうことがなかった。先端研は大きな部屋を渡されて、備品から何から、ゼロから設営するという、ITヴェンチャー企業のインキュベーション・センターのようなところ。

 私に割り当てられた部屋はだだっ広く、ちょっとした図書室が作れる面積。日本語・欧米語・アラビア語で集めてきた書物を、はじめて棚に並べて一覧することができる。

 それまでは箱に詰めてあちこちに収納しておき、あるテーマについて論文を書くとなると出してくる、というふうにするしかなかった。これではどうしても視野が狭く、まとまった仕事ができそうになかった。これまでに集めた本を並べる広さの研究室がもらえる、というのが先端研に来た最大の理由の一つだった。

 しかしそうはいっても、並べるための本棚は自分で予算を見つけてきて発注して設営しないといけない。それだけではなく、それ以前の段階の大問題が発生。私が割り当てられた部屋は、昔使っていた研究室が行った工事の施工が悪かったのか、あるいは重すぎる機器を置いたのか、床が波打ち、へこんでいた。これでは本棚を置けない。まず床下の修理と床の張替の予算を見つけてこなければならなかった。

 そんなこんなで、丸一年はばたばたしていたでしょうか。その間も仮設備で研究はしていたが。

 やっと落ち着いた、という気分になったのが昨年の半ばごろ。先端研に移って来て5年を過ぎ、これまでに務めた職場のいずれよりも長く在職したことになったころから。ジェトロ・アジア経済研究所が3年、国際日本文化研究センター(日文研)が4年半でしたから。

 先端研の中庭グラウンドの桜に目がゆくようになったのは、2年ほど前からでしょうか。ここは近隣の方々が足を延ばして見に来る、ちょっとした桜の名所。今ちょうど満開です。

 本郷キャンパスの安田講堂のような威容ではないけれども、先端研にも時計塔があります。桜吹雪が舞うグラウンドを前景に、レンガ造りの時計塔を後景に入れて撮るのが、先端研のベスト・ショットでしょうか。

 先端研の今のポストは、いつまでいられるか分からない不安定な雇用条件の代わりに、破格の研究環境を(お金ではなく使用面積ですが)与えてくれるという究極の交換で成り立っています。

 この季節が巡ってくるたびに、「あと何回、ここで桜を見られるだろうか」との思いが胸に去来し、散る花がひときわ美しく胸に迫ってきます。

 いい写真が取れたらこのブログにアップしましょうかね。