秋は学会(3)アジ研のセミナー「中東域内政治の新展開」でモデレーターを

秋の学会の流れでもう一つ。

ジェトロ・アジア経済研究所の「専門講座」が赤坂アークヒルズのジェトロ本部内で開かれます。イラン、トルコ、サウジの専門家が報告し、私はモデレーターを務めさせていただきます。

アジア経済研究所専門講座「中東域内政治の新展開——イラン・トルコ・サウジの視点から」
2016年11月4日(金)14時30分~17時05分 (開場:14時00分)

参加は無料です(先着200名)。ウェブサイトから事前申し込みが必要です。

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アジア経済研究所(通称「アジ研」)は、日本でほぼ唯一の(世界でも稀な)、発展途上国全域をカバーした地域研究・開発研究の機関で、かつては独立した特殊法人でありましたが、橋本行革の際に共に経済産業省管轄の特殊法人だったジェトロ(日本貿易振興会・当時。現・日本貿易振興機構)と統合しました。以前は曙橋(防衛省の隣・現在は中央大学の市ヶ谷キャンパスの建物)にありましたが、現在は海浜幕張に移転しています。

ジェトロとの統合効果で、こういった広く関心を呼びそうな講演会・セミナーは、都心・赤坂のジェトロ本部の大きなセミナールームで開催してくれます(多くは無料。有料の場合も数千円程度です)。

私の最初の就職先もこちらで、10年・20年かけて研究者を育ててくれるこの組織の特典を利用することもなく、3年で転出してしまい、おそらく最短滞在記録のOBとなってしまいましたが、その後もなにかと研究会・講演会など、あるいは専門誌への論文の寄稿特集の企画・編集などで声をかけてくださることがあり、新たに創刊された現代中東分析の学術誌『中東レビュー』にも長い論文を寄稿させていただきました。今後も編集のお手伝いをしたり、論文を投稿するなど、関与していきたいと思っています。

今回も、シニアの研究員から、若手のすでに実績ある研究員まで、経産省傘下の機関ならではの、豊富な人的・組織的リソースを動員して、専門知識を一般に公開してくれますので、ぜひご来場ください。

詳細はこちらから

念のため、セミナーの紹介文を以下に貼り付けておきます。

9.11米国同時多発テロから15年目の今年、米国では第45代大統領を選出する選挙が大詰めを迎え、欧州を巻き込みながら激動を続ける中東情勢もまた再び新たな段階に入ろうとしています。本講演会では中東情勢を理解するための最も重要な要件でありながら日本では正面から取り上げられることの少ない中東の域内国際関係を各国の専門家が整理し、今後数年間の見取り図を得ることを目的とします。

2011年初頭からの「アラブの春」を経た現在、中東域内の主要なアクターは大きく様変わりしており、それはイラン、トルコ、サウジアラビアの三カ国であるとみられます。米国の新大統領が最初に取り組むべき最大の課題のひとつはシリア問題でありますが、この三国はシリアに関してそれぞれ異なる利害を有しています。

さらにこれら三カ国間の相互の二国間関係はそれぞれ錯綜しており、一国からのみの視点では到底バランスのとれた理解に至ることは難しいです。そこで本講演会では上記三カ国の専門家が幾つかの共通の設問についてそれぞれの国の立場からの回答を試み、最後の質疑応答および討論の時間に中東政治の今後数年間の展望に至ることができれば幸いと考えます。

皆様のご参加をお待ちしています。

開催日時
2016年11月4日 (金曜) 14時30分~17時05分 (開場:14時00分)

会場
ジェトロ本部5階 展示場 pdf
(東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビル5階)
最寄り駅:東京メトロ 南北線六本木一丁目駅・銀座線溜池山王駅・日比谷線神谷町駅

プログラム
(予定)

14:30~14:40
趣旨説明
鈴木均(新領域研究センター上席主任調査研究員)

14:40~15:10 講演1 「イランからみた中東域内政治」
鈴木均

15:10~15:40
講演2 「トルコからみた中東域内政治」
今井宏平(地域研究センター 中東研究グループ研究員)
15:40~15:55 休憩

15:55~16:25
講演3 「サウジアラビアからみた中東域内政治」
福田安志(新領域研究センター 上席主任調査研究員)

16:25~17:05
質疑応答・討議、総括
<モデレーター>
池内恵 氏(東京大学先端科学技術研究センター准教授)
<パネリスト>
鈴木均
今井宏平
福田安志

使用言語
日本語

主催
ジェトロ・アジア経済研究所

参加費
無料

定員
200名 ※定員になり次第、締め切ります。

お申し込み締切
2016年11月1日(火曜)17時00分 (ただし、定員に達した場合、事前に締め切らせていただきます。)

※ 取材のため会場内にメディアのカメラや撮影チームが入る可能性もありますのでご了承ください。

秋は学会(2)戦略研究学会のシンポジウム(10月29日)

秋の学会シーズンの「お世話」仕事の紹介その2。戦略研究学会では理事に任命された上、大会・企画委員会にも入れていただいたので、企画をしてみました(私一人で企画したのではありませんが)。

こちらは一般聴衆向けもある程度意識しています(事前申し込み不要、参加費2000円)。

戦略研究学会シンポジウム「エネルギー市場の未来と日本の技術戦略」
日時 2016年10月29日(土) 14:00~17:00
会場 明治大学駿河台キャンパス リバティタワー12階1123教室
※東京都千代田区神田駿河台 JR・地下鉄お茶の水駅下車

【講演①】「LNG市場戦略」は成功するか?
岩瀬 昇氏(エネルギー・アナリスト、元三井石油開発常務執行役員)

【講演②】「製造産業の技術戦略とイノベーションについて」
宮崎貴哉氏(経済産業省製造産業局製造産業技術戦略室長)

【ラウンドテーブル】
岩瀬 昇氏(エネルギー・アナリスト、元三井石油開発常務執行役員)
宮崎貴哉氏(経済産業省製造産業局製造産業技術戦略室長)
奥山真司氏(コメンテーター、国際地政学研究所上席研究員)
岩瀧敏昭氏(コメンテーター、明治大学社会連携機構客員准教授)
池内 恵氏(司会、東京大学先端科学技術研究センター准教授)今回の企画は、エネルギー市場の、技術的変化を踏まえた最新の動向の分析と、それを前提にした技術戦略・イノベーション戦略の政策論とをつなげるという趣旨のものになりました。

私も、ラウンドテーブルでの議論にモデレーターとして登壇しますが、もっぱら聞き手です。

秋は学会(1)日本国際政治学会(10月14日〜16日)

秋は特に学会が多いですね。週末がほとんど潰れてしまいます。今時の大学教員は事務作業が多く、平日は研究をほとんどできませんので、週末の学会のための準備を別の週末や深夜にやるということが多くなります。

今年の秋の学会は、自分で報告するよりも、「お世話する」ことが多くなりました。いくつか挙げておきます。一般聴衆向けの公開講演会も含まれますので、ご関心のある方はぜひ。

日本国際政治学会・2016年度研究大会(10月14日〜16日・幕張メッセ国際会議場)

日本国際政治学会では、任期2年間の企画・研究委員会という役を2015年から引き受けていましたが、昨年あまりに忙しくて企画を出せなかったので今年は部会企画を三つ出したところ全部通ってしまいました。そのうち二つは直接運営のお世話をしますので、作業で目が回っています(なお、内規により企画委員はパネル報告やコメントをしないのが原則なので、あくまで裏方です)。2年分のお仕事をして、無事放免される予定です。当分こういったお世話の仕事はやらないのではないかと思います。

10月14日(金) 13:00-15:30 部会2「多元的政軍関係」
司会・討論
宮本悟(聖学院大学)

報告
佐野秀太郎(防衛大学校)「21世紀における軍事組織の在り方~民間軍事警備会社(PMSC)が提起する課題」
山尾大(九州大学)「分断社会の多元的な政軍関係――戦後イラクを事例に」
吉岡明子(日本エネルギー経済研究所中東研究センター)「未承認国家の「国軍」形成における課題:イラク・クルディスタンの事例から」

討論
池田明史(東洋英和女学院大学)

 

10月15日(土) 9:30-12:00 部会7「インサージェンシーの地域比較」
討論・司会
中西嘉宏(京都大学)

報告
山根健至(福岡女子大学)「フィリピンにおけるカウンター・インサージェンシーと非国家主体の役割」
髙岡豊(公益財団法人中東調査会)「シリア紛争に伴う非国家主体の台頭:シリア北東部の事例から」
馬場香織(アジア経済研究所)「近年のメキシコにみる麻薬紛争と自警団の台頭」

討論
本名純(立命館大学)
小泉悠(公益財団法人 未来工学研究所)

 

10月16日(日) 9:30-12:00 部会8「帝国の解体と再生(サイクス=ピコ協定100周年)」
司会
浅野豊美(早稲田大学)

報告
坂元一哉(大阪大学)
「戦後日本と『帝国』再生の条件:憲法、平和条約、安保条約」
廣瀬陽子(慶應義塾大学)
「未承認国家の誕生と存続:帝国・連邦の遺産」
赤川尚平(慶應義塾大学)
「オスマン帝国の解体とイギリス外交」

討論
岡本隆司(京都府立大学)
佐藤尚平(金沢大学)

このうち上二つは「政軍関係」について、特に中東で非国家主体が大きく関わってきていることをどう捉えるか、という問題関心から企画したもので、連続性・一貫性があります。二つの部会で出てくる多くの事例から、新たな状況を踏まえた政軍関係論が立ち上がってくることを期待しています。

私自身がこのテーマを含む課題に取り組んでいるところでもありまして、企画をして様々な研究者に知見を報告してもらうことは、私個人に取っても有益であり、楽しみにしています。

また、部会8「帝国の解体と再生」も、タイトルと、括弧の中の添え書きを見れば、やはり私の最近の仕事と直接に関わっています。

これと・・・

これですね。

裏方をやって何が楽しいかというと、自分の興味のある対象について、自分ではできないことを他の人にやってもらうことができることです。

日本国際政治学会の研究大会の多くは、研究者向けですね。ただし一般向けを意識した「市民公開講座」もあります。

今年は60周年記念大会なのでひときわ規模も大きく、海外から招聘して英語パネルも多くなっています。

非会員でも登録して参加費を払えば聴くことができますが、専門的にその分野に取り組む訓練を受けたことがない人には、それほど強くお勧めしません。

専門家の間の議論の積み重ねの成果が、将来なんらかの形で一般読者の目に触れるところに来ると思いますので、その時までお待ちください。

【講演】7月12日に北星学園大学の公開講座でジハード思想について

明日7月12日の午後4時20分から、札幌の北星学園大学で公開講座を行います。

学生のみが対象かと思っていたのでブログで通知しておりませんでしたが、一般公開とのことなので、お近くの方はどうぞ。

題目:「現代イスラームにおける「聖戦(ジハード)」の観念とテロリズム」(北星学園大学・共通科目部門公開講座)
日 時:2016年7月12日(火)16時20分~17時50分
会 場:北星学園大学 A403教室(A館4階)
講 師:池内 恵 氏(東京大学先端科学技術研究センター 准教授)

【テレビ出演】本日夜8時から、ニコニコ生放送・モーリー・ロバートソン・チャンネルで『サイクス・ピコ協定 百年の呪縛』について

テレビ出演の情報です。

本日夜8時から、ニコニコ生放送のモーリー・ロバートソン・チャンネルで「池内恵×モーリー 諸悪の根源!?サイクス=ピコ協定」をテーマに出演します

モーリー・ロバートソン・チャンネル2016年7月8日

こんな感じの案内をしてもらっています。

【*先日発売されたばかり、『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛(新潮選書)』を参考テキストとし進行していきます。

*百年前の「秘密協定」は、本当に諸悪の根源なのか? “わかりやすくスッキリする歴史観”では絶対悪とされるこの協定。しかし、中東の歴史と現実、複雑な国家間の関係を深く知らなければ、決して正解には至れない。 “わかりにくく複雑な現実”についてディープな議論を行っていきます。】

私はニコニコ生放送というものを視聴したことがないので、どうやったら見られるか分かりません。無料か有料かも存じ上げておりません。

なお、全く関係ないですが、以前に、とあるインターネットテレビ局から、日本人が絡むあるテロ事件の只中の喧騒の中で、電話で執拗に出演の依頼を受けた際、なぜ出られないのか、出る意志がないのかを懇切に申し上げて謝絶したのですが、先方は社会常識を逸脱するほどの長時間食い下がった挙句、電話を切って数分の後、当時は存在していたブログのコメント欄に、極めて口汚ない表現で、「ゴタゴタ言わずに出やがれ!」といった調子のコメントが書き込まれていたことがあり、堅気の世界ではないものを強く感じましたので、それからいっそうインターネット・テレビには関わらないようにしています。

しかし今回出る気になったのは、テロ問題ではなく、『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)を題材にしたい、と先方が最初から提案してきたことと、モーリーさんと一度お会いしてみたいなと思ったことが理由です(その前の回のゲストが井上達夫先生だということもお伝えいただいたので、それも一つの後押し要因だったかもしれませんが)。

というのは、以前、BSスカパーの「ニュースザップ」のモーリーさん司会の日に出演を了承したことがあったのですが、モーリーさん担当の曜日は私が授業のために出演できないことを失念しておりました。その結果、詩人のアーサー・ビナードさんの司会の曜日に振替となって出演したことがありました。

モーリー→ビナードへの振替というのは、これはどう形容したらいいんでしょうか。今ちょっと頭が回らないので大喜利は他の人にお任せするといたしまして、とにかく、経験なので一度は行ってみて、それなりに楽しかったのですが、何しろ時間も長いしということで、それ以来行っていません。とにかくいい経験になりました。

で、その時はモーリーさんとお会いできなかったので、この機会に一度会ってみようかと思ってお引き受けした次第です。

この番組もやはり長時間のようで、今から先が思いやられます。

【講演】7月の予定(2)大阪経済大学「黒正塾」の寺子屋シリーズで講演

関西方面の方へ。

大阪経済大学で、公開講演を行います。

日時:7月2日(土)
演題:イスラーム教とグローバル社会

大阪経済大学日本経済史研究所が主催している「黒正塾」の一環の「第18回寺子屋」シリーズの一つの回です。今年は「イスラームの過去・現在・これから」と銘打って、イスラーム教やイスラーム世界を共通テーマとするようです。

大阪経済大学黒正塾2016

歴代、立派な歴史学者の先生方が講演しているシリーズですので、心して臨みます。

参加は無料ですが、「e-mail、FAX、ハガキのいずれか」で6月15日までに申し込む必要があります。詳しくはホームページをご覧ください。

普段はクローズドな研究会や学会でしか話をしないのだけれども、ここのところ一般にも公開された講演会の予定が相次いだので、ブログで連続して通知してきた。

昨日告知した戦略研究学会・定例研究会と、今回の大阪経済大学での講演以外は、当分一般公開の講演の予定はなさそう。本の執筆に集中しないといけません。

【講演】7月の予定(1)戦略研究学会の公開講演会

5月末から6月にかけての一般向けの公開講演について以前に続けて告知をしました。先月末の新潮社ラカグでの講演、先週末にかけての駒場での講演二つで、それらがほぼ終わりかけておりますが(慶應でまだ一つ大きなものが残っている)、今度は7月の一般向け講演の告知を二つほど続けます。

まず一つ。

戦略研究学会の第47回定例研究会で公開講演をします。

演題 「イスラーム国の衝撃―国際テロの組織原理」
日時 平成28年7月9日(土)14:00~16:00
会場 明治大学リバティタワー 9階 1096教室
(東京都千代田区神田駿河台)

『イスラーム国の衝撃』(文春新書)の刊行から一年半がたって、その後の展開を視野に入れ、自説の再検証も含め、準備して臨みます。

定例研究会は会場費や資料などの実費程度の負担(非会員は1000円)で、一般に公開されています(過去の定例研究会のリストはこちら)。

「サイクス=ピコ協定から百年」は日本で「ニュース」になりうるのか

5月16日(月)のNHKBS1「国際報道2016」の特集「サイクス=ピコ協定締結から100年」(特集がほぼそのままウェブサイトの「特集ダイジェスト」コーナーで活字になっています)で、サイクス=ピコ協定をどう適切に理解して、中東の現在の理解につなげていくか、について解説しました。

国際報道2016特集コメント

その冒頭では、近刊の新潮選書『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』の表紙が映し出されました。

国際報道2016新潮選書写真
(「本を映し出したテレビ画面を撮影した写真」という若干珍しい構図)

公共放送NHKとしては珍しいことなのではないかと思います。

関西方面の放送局の政治社会バラエティ番組では(旧「たかじん」系をはじめとして)何かとゲストが最近出した本、はたまた司会者までが最近出した本を、やおら懐から取り出して宣伝するのがお約束になっていますが、NHKではあまりそういうことは目にしません。また、今回も、あくまでも本の宣伝ではなく「このテーマで本が出る」ことがあたかも「ニュース」の一部であるかのような形式での言及でした。「新潮社」と言った企業名への言及もありませんでした。

何でこのようなことになったのか、打ち合わせなどから私が推測したところを書いてみます。

まず、「池内がゴリ押しして近刊の広告をさせた」ということは全くありません。私としては、印刷・製本中でまだ見本も手元に来ていない段階ですので、番組中に本が紹介されることなど想像もしておりませんでした。打ち合わせで何回もやり取りをして番組構成・議論内容が固まった後で、先方から「本を番組で映させて欲しい」との依頼があって、慌てて表紙と造本見本を手配しました。表紙カバーは出来上がっていますが、本体は印刷中のものを抜いてくるわけにはいかず、本の型と厚みだけを示した白紙のものです。当日、担当の編集者Tさんが届けに来てくれました。

ましてや「池内が番組の特集自体を企画して放送させた」などということはありえません。私の本は、ある遠大な意図があって、願わくばシリーズ化しようと考えている企画の第一弾として、ちょうどサイクス=ピコ協定から百周年が来る月ということもあるし、ということでこのテーマに設定しました。

NHKの方でも、当然ですが中東に関与したことがある記者やディレクターはサイクス=ピコ協定というネタがいわば「鉄板」であることは理解しており、百周年の当日が放送日なのだから特集をやりたいという案は以前からあったようです。しかし、「歴史」なのであまり動く映像がない。また、海外放送局からニュースを抜粋してきて編集するというNHKBS1の得意のやり方も、「百周年」となると、当日のBBCとかアル・ジャジーラとかが何を報じるかは事前に分からないから、特集として事前に準備できない。外国の放送局が大々的に報じた後なら、それらをザッピングして報じるという手が使えるのですが、今回はやりにくいのです。

そして何よりも、日本の視聴者がこのテーマを重要であると受け止めるかどうかが分からない。世界史の教科書には載っているけれども、多くの人は忘れてしまっているだろう。また、それが百周年だからといって、例えばその日に無効になるとかそういった変化はないわけだし、セレモニーなどが行われるわけでもない。新資料が発掘されたわけでもない。これが特集に値するニュースなのだ、ということを視聴者に、そしてそのような視聴者の反応を気にする局内を説得することが、意外に困難であったと思われます。

政治学的には「官僚制意思決定モデル」みたいなものを想定すると分かりやすい。

テレビ番組というものはものすごい沢山の人間が関わって作っています。現場にいる人だけでもすごい数です。それだけでなく「ある番組であるテーマで特集をやって何を伝える」ことを決定して実行して、さらにそれを評価して次に繋げるまでには、現場にいない人も含めて、非常に多くの人が関与し、何層にもわたる組織的意思決定過程を介します。

おそらく「サイクス=ピコ協定締結百周年」という特集テーマは、局内の、番組の関係者の一部で温められていたけれども、本当にこの日の特集にしていいかどうか組織的意思決定の材料の決定打を欠いていたのではないでしょうか。そこに「池内の本が(というよりも正確には「このテーマで本が」)出る」という「事実」が判明したことで、前に進んだ、少なくとも進むきっかけを私の本が与えたのではないか、と私は想像します。それもあって、冒頭でなぜか私の本が「ニュース」のように紹介されたのでしょう。「耳慣れない話題かもしれないけれど、この話題について一冊本が書かれるぐらいのテーマなんですよ」ということを示すためにですね。

私としては、このような動きは望むところでもあります。というのは、そもそも、この本を出版する意図、あるいはこの本を第一弾とする新潮選書の「中東ブックレット」(と私が勝手に名付けている)シリーズを発足させる意図の一つは、メディア向けに、中東に関する話題のテーマについて、知っておくべきこと、筋の通った論理、適切な論点を、若干込み入っていて今時の分かりやすい入門書では省かれるかより分かりやすくまとめられてしまうところまで立ち入りつつ、薄めの一冊にまとめておく、というものであったからです。

要するに、ある問題が話題になった時に、個別に一から説明している時間がとても取れないので、話題になりそうなテーマについてはあらかじめブックレット程度の規模で一冊まとめておいて「これを読んでください」と言えるようにしておきたかったのです。

そうしたら早速そういう需要があった、というかむしろ、本を出したことでそのような需要の創出に多少力を貸したことになったような雰囲気でした。

ただし英語圏では、この話題は鉄板ネタであって、5月16日に多くの特集番組や記事が公開されています。

また、昨年あたりからこの話題については本屋に平積みになる本が何冊も出ていますし、そもそも2014年6月の「イスラーム国」の台頭以来、幾度となく「サイクス=ピコ協定」と結びつけた議論・論争が、いろいろな立場から提起されています。

そういった記事をまたこの欄で紹介していくことにしましょう。

【講演予定】(4)新潮社「la kagu(ラカグ)」でブックトークを

一般向け講演の通知その4。

5月30日(月)に新潮社でブックトークを行います。5月27日に刊行予定の『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』について。

表紙ができていました。

新潮選書「サイクスピコ協定」表紙
『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書、2016年5月27日刊行予定)

新潮社が社屋の隣の旧倉庫を改装してla kagu(ラカグ)というモールを作ったのですね。その2階のイベントスペースsokoで、連日のようにブックトークが行われています

日時:2016年5月30日19:00~
場所:la kagu(ラカグ)2F レクチャースペースsoko
東京都新宿区矢来町67
テーマ:「中東問題の“難所”『サイクス=ピコ協定』の正しい理解のために」
料金:2000円(ホームページからチケットを申し込めます)

ここでのイベントは評判がよく、結構早くチケットが売り切れてしまうそうです。

先日は八重洲ブックセンターで『コーランの読み方』についてのトークをしましたが、日本でもブックトークが行われる場所が増えてきたのはいいことですね(英語圏ではBook Launchと呼ぶようで、私もワシントンDCやロンドンに立ち寄った時に、書店やシンクタンクなどのウェブサイトをチェックして、時間が合ったら覗いています)。

【講演予定】(3)先端研のオープン・キャンパス(6月4日)

一般公開の講演予定その3。

6月3日・4日に先端研・生産研のオープン・キャンパス「東大駒場リサーチキャンパス公開2016」が行われますが、2日目にその一環として公開講演を行います。

日時:6月4日(土)13:00~14:40
場所:東京大学先端科学技術研究センター 3号館南棟1階ENEOSホール
演題:「中東国際政治の動揺とグローバル・ジハード」(前日の高校生向け講演とは内容を変えようと思っています。こちらは国際政治と思想史について)

この講演は録画されて東大TV(http://todai.tv/)で後日に公開される予定です。

【テレビ出演】NHKBS1「国際報道2016」でサイクス=ピコ協定から百年の節目に

自分が出す本で書いたことでもあるんですが、5月16日で、1916年のサイクス=ピコ協定から100年の節目になるんですね。

この日、5月16日(月)の夜10時から、NHKBS1「国際報道2016」に出演して、サイクス=ピコ協定が現代に持つ意味について解説することになりました。

NHKBS1サイクスピコ協定100年特集

特集の概要(NHKが作ったもの)は次のようになっています。

「サイクス・ピコ協定」締結から100年
第1次大戦によってオスマントルコ帝国が解体したあと、イギリスとフランスがその広大な領域を分割する根拠となった密約「サイクス・ピコ協定」。その締結からこの日、100年の節目を迎える。ヨーロッパ列強による一方的な分割は、いまもイスラム過激派組織などの反発の根柢に横たわっているといわれる。いっこうに理解の溝が埋まらない欧米と中東地域。混乱の淵源となった「サイクス・ピコ協定」から読み解いていく。
出演:池内恵(東京大学准教授)

本は予約ができるようになっていました。5月25日ごろには出回る予定です。一つずつ成果を出していきます。

『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)

【講演予定】(2)駒場で「高校生のための金曜特別講座」に(6月3日)

一般公開の講演の予定その2。

6月3日に、駒場の東大教養学部で、「高校生のための金曜特別講座」の2016年度前期プログラムの第4回を受け持ちます。

日時:6月3日17時30分~
場所:東京大学教養学部18号館ホール
演題:「中東政治の変動とグローバル・ジハードの行方」(高校生向けを考えて、世界史と政治経済・倫理に関わるものにしようと思っています)

「高校生のための」と銘打っていますが、誰でも聞きに来て良いそうです。遠隔の高校にインターネットで配信されたりするようです。いろんなことをやっているんですね。

依頼されるまで、私はこの講座の存在を全く知らなかったのですが、これまでの回から抜粋して何冊も本が出ているようです

これとか。

これとか。

これも。

「熱血編」と「情熱編」もあるそうです。

【講演予定】(1)SMU/慶應シンポジウム(6月11日)で日米関係と国際テロリズムについて

公開の講演やシンポジウムでの登壇の予定をいくつか。

その1。日米関係と安全保障に関するシンポジウムで、グローバル・テロリズムについて、イスラーム思想・運動組織論の観点から報告します。

サザン・メソジスト大学(SMU)のTower Centerと慶應義塾大学グローバル・セキュリティ研究所が共催する「日米関係とアジア太平洋の安全保障」に関するシンポジウムが、6月10日(金)と11日(土)に慶應義塾大学三田キャンパスで開催されますが、この二日目のパネル3「安全保障の新しい課題と日米同盟」のパネリストの一人としての登壇です。

シンポジウム全体のお知らせへのリンクと、出席するパネルの他の報告者と報告タイトル、コメンテーターを記しておきます。

参加は無料で、特に資格は必要ありませんが、ウェブサイトから英語で登録が必要です。

大学のシンポジウムですので若干硬めの議論になりますが、米国側に対しては単刀直入にかつ面白く話さないといけません。

英語でやるか日本語でやるかはまだ決めていません。米国からの参加者には直接英語で話した方が通じやすいでしょうが、聴衆の多くは日本人なので、日本語の方がいいかもしれません。かなり優秀な同時通訳がつくと思います。

Sun & Star Symposium in Japan | U.S.-Japan Relations and Security in the Asia-Pacific: Challenges and Hopes
「日米関係とアジア太平洋の安全保障 課題と展望」

SMU慶應シンポ

3:45 – 5:15 p.m.
Panel III: New Security Issues and the U.S.-Japan Alliance
第3部:安全保障の新しい課題と日米同盟

Cyber Security and the New U.S.-Japan Defense Guidelines
サイバー・セキュリティと「新日米防衛ガイドライン」
Motohiro Tsuchiya, Keio University, Japan
土屋大洋(慶應義塾大学)

Security Measures against Jihadist Terrorism
ジハード主義テロに向き合う安全保障
Satoshi Ikeuchi, University of Tokyo, Japan
池内恵(東京大学)

Food Security after the 3.11 East Japan Earthquake
東日本大震災後の「食」の安全保障
Nicolas Sternsdorff-Cisterna, Assistant Professor of Anthropology, SMU
ニコラス・スターンズドーフ・シスターナ(サザンメソジスト大学)

Discussant: James Hollifield, Director of the Tower Center, SMU
討論者:ジェームズ・ホリフィールド(サザンメソジスト大学)

【テレビ出演】本日の「NHKクローズアップ現代」でグローバル・ジハードの拡散について

本日3月16日午後7時30分からNHKクローズアップ現代「テロ“拡散”時代 世界はどう向き合うか」に出演し、グローバル・ジハードの拡散と拡大のメカニズムについて解説します。(再放送は日付変わって17日の午前1時3分〜)

番組予告はここから

クローズアップ現代

番組予告ではテロの「標的」がソフトターゲットになっていることを強調しているようですが、私自身の解説は、テロの「主体」の側が拡散し分散型・自発的呼応型になっていること、さらにそれがイラクやシリアなどで領域支配を「拡大」することによって、聖域・拠点を得て、拡散にもさらに強度を増したハイブリッド型になっているといった基本ラインを説明しようと思っています。

また、クローズアップ現代のリニューアルも近づいている間近ですので、2001年の9・11事件以来の世界の変動についても振り返ってみたいですね。長かったような、短かったような。

【テレビ出演】1月1日放送の「ニッポンのジレンマ」が1月30日0時30分から再放送へ

米国出張で、米自治領プエルトリコ(学会)→テキサス州ダラス(サザンメソジスト大学)→同カレッジステーション(テキサスA&M大学)等を周って最後の用務をすませ帰国便に乗るはずだったニューヨークで、米東海岸を北上する暴風雪(Winter Storm Jonas→Blizzard 2016)に捕まり、足止めを食っております。SnowstormとBlizzardの定義を勉強いたしました。

20インチ以上、もしかすると24〜28インチ近くにもなろうかと予想されている、ニューヨークの観測史上(1869年以降)5指に入るとも喧伝される大雪のため、車両通行止めとなってマンハッタン島は「歩行者天国」状態になって静まり返っており、駸々と雪のみが降り続いておりまして、ホテルで缶詰になって遅れた原稿を進めています。

米国のもっと北、五大湖のあたりなどは気温もはるかに低く、ずっとBlizzardが吹いていると言っていいぐらい降雪・積雪もすごいので、雪国の人は大騒ぎを見て笑っているとは思いますが・・・「ニューヨーク雪まつり」のような雰囲気ですね。もっとも関連した死者も出ているのであまり興味本位ではいられませんが。

この機会に、1月初頭から滞っていた、刊行・テレビ出演情報の更新をいたします。

まず、元旦に放送されていた討論番組へのビデオ出演について。近く再放送されるようですので、今のうちにおしらせしておきます。

「ニッポンのジレンマ元日SP「 ”競争”と”共生”のジレンマ」NHK・Eテレ、2016年1月1日午後11時〜(150分)

ニッポンのジレンマ・ロゴ

これが、2016年1月30日(土)深夜0時30分〜3時(どうやら1月31日の0時30分〜3時ということらしいです。公式ウェブサイトの表記は紛らわしいというか、言語として間違っているのではないかと思います。1月30日24時30分〜と書くべきでしょう)に再放送される模様です

この番組の中で、スタジオの討論者ではなく、収録ビデオで出演しています。事前収録のVTRがスタジオで映し出される3人の「上の世代」(と言ってもあまり年齢が違わない人たちがスタジオに混じっていますが・・・)の一人として、間接的に参加しています。他の二人は堀江貴文氏、川上量生氏です

なぜかホームページにもこの3人の名前が載っておらず、事前にウェブで公開されていたらしいVTR(もしかすると放送されたものよりも長め)も視聴不能になっているなど、番組・ウェブサイトのいずれも全般に分かりにくい立て付けになっていますが、まあいいでしょう。番組にはフェイスブックのアカウントも存在しているようです。

研究室でディレクターとカメラに向かって長くしゃべった中のごく一部を切り取って編集されてVTRにされ、それを見せられたスタジオの論者があまり準備もせずに反応して、それがまた編集されているようですので、噛み合っていません。

キャッチフレーズのようにして言っておいたため、おそらく番組で必ず使うだろうな、と予想していた部分への反応がなかったのが(少なくとも編集後の放送されたものには)、残念でした。

その部分は、だいたい覚えている範囲では「2015年は西欧・欧米の普遍主義が実はそれほど普遍ではないことを様々な形で気づかされた年だった。2016年はそのことをもっとあからさまに認めてしまう年になるだろう」と、かなりアイロニーやニュアンスを載せて話したので、もう少し良く考えて欲しかったのですが、これについて誰も反応せず、学者の世界では良くある反応、つまり「文明の衝突」という言葉をあえて私が使ったところ「使っちゃいかん」と反応するという形の議論が行われ、それに反論する議論も出ましたが、煮えきらないまま終わったようです。

単に「文明の衝突」と言っていいのかいかんのか、という話ではなく(それは定義や目的次第で様々に議論できますが)、それとグローバル化が進む中で「普遍主義」が今後も理念的にそして実際的に可能なのかどうか、という話を加えて、思想的あるいは歴史的な状況認識を再検討したり、現状と将来を見通すための分析概念の再構成をしたりすれば面白かったと思いますが、考えてみたらそんな議論は既存の学問の枠組みの中で誰もやっていないのだから、突然テレビで行われるはずもないのかもしれません。しかしテレビは学会発表でも研究者の研究会でもないので、出る人はもっと「片鱗」を見せればいいんじゃないかと思いますが。

再放送で、この噛み合わない感じをぜひご覧ください。

【テレビ出演】明日(11月22日)のNHK「日曜討論」に出演:パリ同時テロについて

明日、11月22日のNHK「日曜討論(朝9:00〜10:00)」に出演します(ラジオ第一でもやっています)。

テーマはパリ同時テロ事件です。テロ事件そのものの分析と、政治・外交・安全保障上の影響・波及など。

実質的な議論ができそうで楽しみにしています。

日曜討論2015年11月22日

日曜討論には過去、思い出せるだけでも3回ほど出演の打診がありましたが(最近ではシリア日本人人質事件など)、毎回海外出張と重なっていて出演できませんでした。出張費用節約のため、自分で計画する調査では変更不能のチケットを買っていますので、直前に言われても変えられなかったからです。現地からスカイプで参加したっていいと思うんですが、同じ時間に東京のスタジオにいられる人だけで話し合わないといけないんですね。国際問題を論じるための出演者を集めるには現実的ではない条件だと思うのですが。

今回も実は、日曜朝にインドネシアに向けて出発する予定だったのですが、今回は招聘元の財団のご厚意により、チケットを変更していただくことができました。関係者の皆様に御礼申し上げます。

その代わり、私は出演の後、乗り継ぎ深夜便で行って朝に現地に到着してそのまま会議で英語で発表、という未知のゾーンに入りますが。私は帰国子女ではないので、英語発表への準備と労力は数十倍かかります。そういった代償を払っての出演であるということはここに記しておきたい。

ご一緒するのは西欧育ちのEU研究者の吉田徹さん(北海道大学教授)など。

吉田さんとは最近北大のシンポジウムでお会いすることができましたが、考えてみると、私が文章を書き始めた最初の頃に寄稿した『日本はどう報じられているか』(新潮新書、2004年)でご一緒していました(当時は顔合わせすることはありませんでした)。編者の石澤靖治先生、ありがとうございました。

この本は、地域研究者が各国の日本報道について記したもので、かなり評判が良く、隠れたロングセラーでした。

この頃、私はアジア経済研究所、吉田さんは日本貿易振興機構に勤めていました(この二つは当時すでに特殊法人統合で一つの組織になっていましたが、実態としては所在地も遠く、机を並べていたわけではありません)。二人ともまもなく大学に出てしまいましたが。

(あんまりこういうことを書くべきではないのでしょうが、もう中堅以上の研究者になっている吉田さんですからもういいと思いますが、吉田さんのご尊父は、かつて、某深夜討論番組華やかなりし頃の、常連出演者だった方なんですよね。結構印象深い論客として、名前を出せば覚えている方もいるのではないでしょうか。私はご尊父の書いた国連と広報に関する中公新書も読んでいました。「討論番組」となると血が騒いで普段の洗練された政治学者の仮面をかなぐり捨てて論破してきたりしたらどうしよう)