昨日は日本記者クラブでの講演や会合複数でその合間に豪雨にやられたりといろいろ多難な一日でした。(今日は今から学会発表に行きます)
記者クラブでの講演は会員のみとなっていますが、すぐに会見のビデオが公式ユーチューブ・チャンネルで公開され、概要や、テープ起こしをもとにした詳録も(これは毎回ではないが)、ホームページにアップされます。
近く下記のページに順次内容がアップされていきますので、ご関心のある方はどうぞ。今回は詳録も作ってくださる予定です。
池内恵「エジプト・シリア・大統領選後の中東」日本記者クラブ、2014年6月27日
記者クラブでの講演はすべて「会見」ということになっているのですが、もちろん私が新党を結成したり臨時政府を設立したり破局を発表したりはしないので、実態は記者向けの勉強会の講師です。日本記者クラブでは外国から大臣とかが来たときとかに講演をして、そちらは正真正銘の「会見」なのですが、そういった本当の会見ではしゃべる人は海千山千で本当のことは言わないし情報操作するしで、聞く方はちゃんと突っ込みを入れないといけないのですが、遠い国から来たよく知らない要人に突然べらべら勝手な話をされてもそう簡単に突っ込めないので、日々講師を読んで勉強しておこうというような意味で研究会を多数開催しているようです。
そういうわけで、記者さんたちに知恵をつけに行くようなことを定期的にやっています。もちろん中東を長く報道している人たちの中には私などよりもずっと実態をよく知っていて、各国政治指導者の人となりやら政局の裏事情などに通じている人もたくさんいるので、そういう記者とのやり取りから私も学ばせてもらっています。
「アラブの春」以後の、有為転変の節目節目で講演させてもらっているので、いつの間にか回を重ねました。だんだん前回どこまで話したか分からなくなってきたりします。
毎回、その時点での最新の事象・状況について、その時点での考えを述べることにしているので、毎回この講演のための準備はそれほどせず、必死になって考えていることの一端をそのまま話してしまいます。その意味では各時点での生の声が出てしまっていると思います。
なお、参加者が聞きに来ていそうな別の財団等の講演会で話してしまったことは話さない(同じことは二度話さない)傾向があるので、一連の記者クラブ講演ですべてを話しているわけではありません。
時には現地で撮影してきた画像を使ってみたり、いろいろ工夫はしていますが、中心はそれらの事実に基づいた「概念化」の作業。
日本の記者は「事実そのもの」を探そうとする姿勢はいいのですが、それを概念化していくという作業に慣れていない傾向があるので、その方面を補うことが、私の役割かなとなんとなく思っています。そのため、その時点での最新の事象について簡単にまとめたうえで、どの事象をどのような立場からどのように概念化すると、現状を理解したり将来を見通すために役立つか、という観点で議論することが多くなっています。
あと、質疑応答で「やはり私はすべての根源はパレスチナ問題と思うんですよ~」的な昔の通念を無自覚に垂れ流す記者OBなどには露骨に嫌な顔をしたり、「日本政府の対応は立ち遅れた」といったありがちな批判を述べる記者には、「今起こっていることはグローバルな市民社会での大変動だ。市民社会は誰が構成するのか。各国では記者、すなわちジャーナリストはその筆頭なんですよ。日本の対応が立ち遅れているとしたら、日本の市民社会、つまりあなた方立ち遅れているんだ」などと私が突然キレて、一同シーンとなったりする場面もあったりします(しかしこの場面をユーチューブで探すには全部で10時間ぐらい見ないといけないので誰も探せないと思いますよ。私はつっかえながら毎回1時間以上、時には1時間半も話しますので)。
今回の講演で司会の脇祐三さん(日経新聞社)が、「池内さんはもう7回目」と仰っていたので、もうそんなになるのか、と思いつつ「あれ?一回多いんじゃない?」と思いました。自分の記憶する大体のイメージでは5回か6回だったのです。調べてみました。
そうすると「アラブの春」後では、今回が6回目。しかしはるか昔、2005年に一度話をさせてもらっていたのでした。脇さんが正解。しかし「アラブの春」後になんとなくシリーズ化したものとしては6回目(と自分の感覚を正当化)。
はるか昔の、番外編的1回目は、私の京都勤務時代で、わざわざ東京に呼んでくれていたのでした。内容は中東分析・イスラーム解釈と、それにまつわる日本の思想状況。ある意味私の原点であります。私が説得的に議論したというよりも、現地の現実が私がぼんやりと描いていたものを、いちいちはるかに鮮明に現実化してくれたので「まあ池内が正しかったんじゃないの。彼のものの言い方が適切だったかは別として」と、業界のしがらみがない人には思っていただけるようになったかな、という感じの時代の流れだと思います。
機会を与えていただいてありがとうございます。
下記に、これまでの日本記者クラブでの講演の基本データや概要、詳録、ユーチューブ画像などのURLを張り付けておきます。革命の高揚感、忍び寄る暗い影、巨大な壁の各地での出現、移行期の分かれ道、大きな脱線、さらなる混迷といった行ったり来たりするアラブ政治・イスラーム主義の展開と、それをその時々に必死に追いかけて把握しようとしてきた、結構恥ずかしい軌跡が浮かび上がります。いつかすべてが美しい思い出になる。きっとなる。
(番外編)池内恵「アラブの政治と思想」日本記者クラブ、2005年4月18日
概要(脇祐三氏)
(1)池内恵「エジプト移行期政治プロセスの進展と中東政治の再編」2011年5月11日
会見レポート(久保健一氏)『日本記者クラブ会報』第496号(2011年6月号)25頁
(2)池内恵「一年後のタハリール」日本記者クラブ、2012年2月16日
会見レポート(福島良典氏)『日本記者クラブ会報』第505号(2012年3月号)12頁
(3)池内恵「エジプト大統領選挙と民主化の行方」日本記者クラブ、2012年6月29日
会見レポート(松尾博文氏)『日本記者クラブ会報』第509号(2012年7月号)16頁
(4)池内恵「革命から2年を過ぎたエジプト政治の行く末」日本記者クラブ、2013年4月15日
会見レポート(出川展恒氏)『日本記者クラブ会報』第519号(2013年5月号)7頁
(5)高橋和夫・池内恵「アラブの春から3年:米・中東関係」日本記者クラブ、2013年12月13日