メッカ巡礼とパンデミックの関係

先日、サウジを中心に広がっているMERS(中東呼吸器症候群)について紹介したけれども、エジプトでも初めての死者が出た。
“First Egyptian dies from MERS in Aswan: Al-Ahram,” Ahram Online, Friday 28 Feb 2014

記事によると・・・
A woman in Upper Egypt’s Aswan has reportedly died Friday from Middle East Respiratory Syndrome (MERS), a deadly respiratory virus that appeared in Saudi Arabia in 2012.

Gamila Ibrahim, who just came back from Saudi Arab after performing the Ummra pilgrimage, is the first Egyptian to die from the MERS, reported Al-Ahram Arabic news website.

上エジプトのアスワン(アスワン・ハイダムで有名)で亡くなった女性(ガミーラ・イブラーヒームさん)はサウジアラビアのメッカへの巡礼から帰ったところだったようだ。メッカ巡礼には二種類ある。一つは、年一度の決められた日に世界中から集まる「大巡礼(ハッジ)」。

もう一つは、ムスリムが各自、行ける時にメッカに詣でることで、これを「小巡礼(ウムラ)」という。こちらは日本ではあまり知られていないかもしれない。日時が決められていないから、大巡礼より気軽に巡礼できる。大巡礼は「ハイシーズン」なので旅費も滞在費も高くなるし。

イスラーム圏の旅行代理店の看板を見れば、必ず「Hajj & Umra」と大きく書いてあります。

サウジアラビアというと閉ざされた国というイメージがある。実際に、確かに女性を隔離して行動の自由を制限したり、外国人と自国民をなるべく接触しないようにしたり、ビザの要件がひどく厳しかったりする。そんなサウジアラビアで広がる伝染病など、辺境に封じ込められた風土病に過ぎない、と思ってしまってはいけない。

巡礼のために世界中からムスリムが集まり、また戻っていく。これは政治的・文化的なハブとして重大なパワーを秘めているが、同時に、パンデミックを世界に拡散させる場所として、大きな危険性を秘めている。

大巡礼の時期に何らかの伝染病がサウジアラビアに広まったら・・・・一気に世界に広がります。そういったわけで、MERSは日本にとってまったく他人事ではないのです。

ぎりぎりの入稿を繰り返す

昨日、四ヶ月ぐらいかけて、しばしば夜を徹してでも書いてきた、アラブ諸国の移行期政治を比較する論文を、どうにか入稿。まだ若干注の表記が一貫しなかったりするので、最終段階で直さなければいけないところもあるが。

完成版が刊行されたら、また通知します。今回のものは事実を整理しただけ、とはいえ整理するのが大変面倒で手のかかるものなので、意義はあったかなと思います。ウェブ媒体の分析・論文誌なので63000字以上といった尋常ではない量を書いてしまいました。

移行期のアラブ諸国政治を、一国だけでなく国を横断して比較して、最初から最後まで(終わってはいませんが)順を追って解説してくれる論文や本は世界的にもほとんど出ていない。もちろん英語圏では各国の現状を克明に見ていくレポートや論文は多く出ているのだけれども、それらを横断的に把握する概念を誰もがつかみかねている。

現地の対象自体が落ち着かないということもある。ある時点での「結果」をもとに因果関係を論じると、説明した「結果」そのものが現地の政治情勢・政局の変化で容易に覆されてしまうので、セオリーが長続きしない。研究者としては、うっかり議論ができない、という状態になっている。

しかしだからと言って様子見をしていると、現状を見る手がかりが失われてしまう。

次はこういった論文をもとに、「アラブの春」の各国の社会の変化、政権の動揺から、移行期の体制変動の行く末までを一冊の本にする作業が待っています。

なお、先週は、別の、イスラーム思想史についての論文をぎりぎりで入稿していました。こちらは半年以上かけています。アイデア自体は5年以上前に発想したもの。こちらも、大きな本の一章ずつを論文として書いているものの一つ。刊行されたらまたお知らせします。

ここ数か月、不眠不休の入稿を繰り返してきましたが、少し落ち着いてきました。とはいえ週明けにももう一本、中程度の射程距離の論文を出さねばなりません・・・

それでもこの欄での中東情勢分析などを、時間を見つけてまた増やしていきたいと思います。