【論文】アラブの春後の移行期政治

 年度末のためか成果が多く出てきています。

 原稿用紙(←もう使わないか)で165枚以上、の大論文が刊行されました。

中東レビューVol1

池内恵「『アラブの春』後の移行期過程」『中東レビュー』Volume 1、アジア経済研究所、2014年2月、92-128頁

 無料でダウンロードできます。(今見てみたら、93頁のフッター・ページ番号が欠けているようで、言って直してもらいます。内容は、ところどころ冗長なのを除けば大丈夫と思います)
 
 「アラブの春」で政権が倒れた国の、その後の移行期政治の事実を、ひたすら列挙して、それなりにまとめたものです。暫定的なものですが、事実関係を現時点で押さえておきたいという人向け。

 これで頭を整理して、各国や、比較論で論文を書くような人がいるといいのですが。その意味では、インフラ整備のための公共工事のような論文と考えていただけるといいかなと。

 対象国はチュニジア、エジプト、リビア、イエメン。

 だいたい皆さんもう、「アラブの春」後の各国の動きを理解できなくなっているのではないか。

 エジプト一国でも、専門にしている人以外にはもはや展開は意味不明だろう。いや、専門の人でも投げ出してしまっているかもしれない。

 ましてやリビアやイエメンなんて、ある程度中東に興味を持っている人にしても、「まったく何が起きているのかわからない」というのが正直なところではないだろうか。

 各国それぞれの前提や動きが異なっていて、かつ複雑で、また日本のメディアで報じられることがほとんどないので、訳が分からなくなってしまっても当然です。

 「革命」と比べて、国造り・体制づくりは地味ですし、法的な問題とかややこしいですから。

 「そもそもリビアでの今回の選挙は何回目で何のためのものなの?」「イエメンでは誰が何を話し合っている間に何が起こっているの?」

 といった当たり前のことだがややこしいことを、整理してくれる人がいないんですよね。

 本当はリビア研究者、イエメン研究者がやってくれないといけないんだが、日本にはほとんどいないか、あるいはいてもタイムリーに発信してくれていない。

 錯綜した移行期政治を、下記の三つの切り口から、各国ごとに時間軸で並べ直してみました。

(1)初期条件(旧政権の倒れ方)
(2)暫定政権のタイプ
(3)移行期の「ゲームのルール」

 何かセオリーを出したり結論づけたりする以前の覚書のようなものですが、事実関係を網羅して整理するための準備作業です。

 これを書いたところで「頭がいい」とか褒められたりしないようなものですが、ものすごい時間と労力がかかりました。この4ヵ国比較をまじめにやろうとしている人は世界中にほとんどいません。

 ひとまず事実関係を論文でまとめておかないと、アラブの移行期政治について何を議論しても、読んだ人には前後関係や事実関係が分からないので意味不明、ということになるというボトルネックがあって議論が進まない、広がらないため、ここで突貫工事で道路を作ったような、そういった趣旨です。

 意図して冗長ですが、経緯のうち必要なところは全部載っているはずです。

 論文では、英語のニュースへのリンクを大量に体系的につけてあります。中東専門ではない人へのアウトリーチを意識しています。

 掲載誌『中東レビュー』はアジア経済研究所がウェブ雑誌として創刊したもの(今号の目次)。中東の現代を扱った論文が載る論文誌は貴重なので、ぜひ発展していってほしいですね。私も論文を寄稿するという形で貢献していきたいです。

【寄稿】(高木徹氏と)「『日中関係の悪化』から考える国際世論を味方に付ける方法」

気が付いたらプロ野球が始まっており、桜が咲きかけていました。今日の風でもまだ大丈夫そうですね。

先日書いた(「日本と国際メディア情報戦」3月1日)、高木徹さんとの対談が『クーリエ・ジャポン』に掲載されました。

特集「世界が見たNippon Special 日本はなぜ「誤解」されるのか」の中での「特別対談」という枠です。

池内恵×高木徹「『日中関係の悪化』から考える国際世論を味方につける方法」『Courrier Japon クーリエ・ジャポン』Vol. 114, 2014年5月号、86-89頁

高木徹さんとは三度目の対談になります。

二人とも2002年に最初の本を講談社から出した、というところがたぶん一つの原因で最初の対談は講談社のPR誌『本』で2003年に行いました。

その時と比べると、国際情勢も、日本の立場も変わりましたね…

高木徹さんが最初の本から一貫して議論してきた「国際メディア情報戦」の重要性・必要性が、やっと国政レベルで議論されるようになりました。

数年に一度、高木さんとの対談や、文庫版解説、新刊書評などのご依頼を受け、「定点観測」をしているような具合です。

2003年の対談のファイルをもらってきたので、今度ブログに載せようかと思います(許可もらっています)。