それにしても

 先日の朱建栄先生の件も、今回の王柯先生の件も(もし政治的事案なのであれば)、中国共産党の見解もかなり取り入れて日本社会に説明するような姿勢をもった人の方が、中国に戻った時に問題にされているというのはどういうことなんでしょうね。

 朱建栄先生などは明確に中国政府の日本向けの弁護士のようで、まさにdevil’s advocateという言葉の好例だなあと思うのですが。

 中国政府の見解と全面的に対立している人はそもそも中国に入国しない/できないのかもしれません。

 あるいは、もはやウイグル族の民族問題が存在すると言及すること自体が「アウト」になっているのか。そうだとすると事態はかなり緊迫しているのかもしれません。

 また、日本社会に説得力のありそうな人を引き締めにかかって「再教育」するプログラムがあるのかも、などと想像しますが、よくわかりません。

 でも帰ってきて人が変わったようになっていたら誰も信用しませんよねえ。

王柯先生の著作


王柯『東トルキスタン共和国研究―中国のイスラムと民族問題』東京大学出版会、1995年

今日は東大出版会の本の紹介が重なりました。

無事のご帰還を祈ります。

先日は、楊海英『モンゴルとイスラーム的中国』(文春学藝ライブラリー)、2014年2月刊、をご紹介しましたが(「モンゴルとイスラーム的中国」2月19日)、いずれも日本留学で学者となった先生方です。

日本の学界は、適切に運営・支援が行われれば(←ここ重要)、中国に極めて近くに位置して情報を密接に取り込みながら、自由に議論し、客観視できるという強みがあり、欧米へのアドバンテージを得られます。

中国に最も近いところにいる自由世界の橋頭保として日本は輝いていたいものです。

【緊急】神戸大の王柯先生が中国で拘束か?

 これは心配です。中国ムスリム、特にウイグル問題で有名な王柯(おう・か)先生が中国に行ったきり連絡が取れないようです。

「神戸大教授:中国で不明に ウイグル族を研究」『毎日新聞』2014年3月22日 
 
 中国の内政全体の中でも、特に新疆ウイグル情勢は、かなり緊迫化しているのではないかと思います。

 マレーシア航空機の失踪でも即座にウイグル系あるいはトルキスタン系ムスリムによるジハードではないかという噂がネット上で中国語で飛び交ったようです。それぐらい不安視されているということでしょうし、「あるだろうな」と多くが思っているのでしょう。

 新疆ウイグルの統治がうまくいっていない、そのことを見せたくない、というのは基本的な事実でしょう。

 私は、そもそも「王柯先生はもう中国には入れないんだろうな」と思い込んでいましたが。

 たとえ何でもなかったとしても、数日連絡を絶てば「拘束されたのでは」と誰もが思う社会、というものの怖さを、われわれは忘れているのではないかと思います。

【友情出演】『デザインする思考力』東大EMP

 刊行されました。
デザインする思考力
 
池内恵「現象全体の仕組みを捉える分析力」東大EMP・横山禎徳編『東大エグゼクティブ・マネジメント デザインする思考力』東京大学出版会、83-123頁

 東大EMP(エグゼクティブ・マネッジメント・プログラム)という、大学と経済社会をつなげる特設プログラムが東大の赤門のそばの新しいきれいな建物の中で行われております。EMPで半年に1回、講師をしている関係で、ご指名を受け、プログラム・ディレクターの横山さんからインタビューを受けたものです。

 厳密には私の著作というよりは横山さんとEMPによる著作ということになるのでしょうが、テープ起こしをして提案されたテキストに私が抜本的に手を入れて書き直しています。けっこうな長さになりました。

 「私に対するよくある質問」にすべて答えた形になっています。

 もちろん私としては(今回のインタビューに限らず)、「もっとほかの事も聞いてくれ」と言いたい面はありますが、世の中の関心とはこういうものなのだ、という意味では私にとってもきちんと答える意欲を持たせてくれるものでした。書き直すの大変でしたけれども。

 「EMP」ということで企業人を読者に念頭にしていますが、新入学の学生が、大学で何をやっているのかを知り、自分が何をやるべきか考えるためのヒントにもなるでしょう。私としてはどちらかというと今からゼロの地点から考える人向けに話しています。

 内容は、「なぜイスラーム研究をするようになったのですか?」というあらゆる場所で聞かれる質問に対する答えが半分程度を占めます。

 この質問には過去にも応えており、『イスラーム世界の論じ方』中央公論新社、2008年に収録されていますが、それをさらに敷衍したのが今回のものです。

 私にとってイスラーム世界やイスラーム教への興味は、「冷戦後の国際秩序、特にその根底を方向づける理念はどうなっていくのか」という関心の延長線上にあります。

 最近の中東情勢を「米国の覇権の希薄化」との関係で論じていることも、ウクライナ情勢について狭い意味では「専門分野」ではないにもかかわらず熱心にこのブログで考えているのも、「冷戦後の国際秩序」に大きな変更を及ぼす可能性のある事象として共通しているからです。

 以下、今回の本で語ったことの項目の一部。

*イスラーム×政治というテーマの「戦略的選択」

*フクヤマとハンチントンが基調となる冷戦後の国際秩序理念(に関する議論)

*コーランは問題集ではなく「解答集」の形式を取っている

*中世の合理主義と啓示の永遠の対立は現在も続く問題であること

*イスラーム教はなぜ近代科学と衝突しないのか

*アラブの春は冷戦後の国際秩序という問題にどのようなインパクトを与えたのか

・・・