リビアの石油のゆくえ

 リビアの民兵集団が占拠した石油生産施設から船積みした謎の「北朝鮮船籍」タンカーが外洋に出たという話を書いたが(無料で読めます⇒池内恵「リビア東部の「自治」勢力から石油を船積みした「北朝鮮船籍」タンカーの行方は」『フォーサイト』2014年3月12日)、その続き。

 まず、タンカーはどこに行ったか。上の記事では「炎上」説を紹介しておいたが、その後の報道では、タンカーがエジプト領海に入った後に、リビア海軍は見失った、といった点が報じられるのみ。現在のところ「行方不明」となっております。

 ちょうどマレーシア航空機の消失が話題になっているが、タンカーは衛星などで把捉できるから、主要国の政府などにとっては、本当に行方知れずになってしまうことはないだろう。

 重要なのは、実際にどこかの港に積み下ろされ、買い手がついて、代金が東部キレナイカの自治を主張する民兵集団に渡るかどうか。もし恒常的に地方の勢力が油田を押さえて石油を生産し買い手を見つけて代金を回収するサイクルが確立されれば、リビアに限らず、世界各地の資源国で混乱が生じかねない。
 
 依然として、タンカーの持ち主が誰なのかは明らかにされていない。各国の諜報機関は知っているのかもしれない。
 
 リビアの石油は軽質油と言って、硫黄分が少なく精製にコストがかからないので、世界の石油の買い手からは垂涎の的。ニューヨーク・タイムズ紙は世界の多国籍石油企業の本拠地であるヒューストン発でタンカーの行方について論じている。

 “Dispute Over Fate of Mysterious Tanker With Oil From Libya,” The New York Times, March 10, 2014.

 この記事では、以前にナイジェリアで同様に反政府勢力が油井を掌握して裏マーケットに流した際の話が出てくる。おそらく今回の謎のタンカーの背後にいる者たちは、ナイジェリアの例に倣って、地中海沿岸やアフリカ大陸沿岸の製油所に持ち込もうとしたのだろう、という。買った側は正規ルートの石油に混ぜて売る、ということになるという。

 とはいえ、今回のように、「いわくつき」と世界中に知られてしまった以上、衛星などで把捉されており、実際にどこかで荷揚げして買い取ってもらえる可能性は極めて低い、とこの記事は結論づけている。

 同様に、フィナンシャル・タイムズ紙の記事でも、これは「toxic cargo」だ、と記し、「港であえて船竿で触ってみようという奴もいないんじゃないかな」と結んでいる。

“Libyan troops attack oil rebels,” Financial Times, March 11, 2014.

 迷走タンカーはどこへ行く。名義を貸したと思われる北朝鮮も含め、謎が多いですね。