ジョージ・フリードマン『続・100年予測』に文庫版解説を寄稿

以前にこのブログで紹介した(「マキャベリスト・オバマ」の誕生──イラク北部情勢への対応は「帝国」統治を学び始めた米国の今後を指し示すのか(2014/08/21))、地政学論者のジョージ・フリードマンの著作『続・100年予測』(早川文庫)に解説を寄稿しました。帯にもキャッチフレーズが引用されているようです。


ジョージ・フリードマン『続・100年予測』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

単行本では邦訳タイトルが『激動予測』だったものが、文庫版では著者の前作『100年予測』に合わせて、まるで「続編」のようになっている。


ジョージ・フリードマン『100年予測』(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

確かに、『激動予測』ではありふれていてインパクトに欠けるので、文庫では変えるというのは良いが、かといって『続~』だと『100年~』を買ってくれた人が買ってくれる可能性は高まるかもしれないが、内容との兼ね合いではどうなんだろう。

英語原著タイトルはThe Next Decadeで、ずばり『10年予測』だろう。100年先の予測と違って、10年先の予測では個々の指導者(特に超大国の最高権力者)の地政学的認識と判断が現実を左右する、だから指導者はこのように世界情勢を読み解いて判断しなさい、というのが基本的な筋立てなのだから、内容的には「100年」と呼んでしまっては誤解を招く。

こういった「営業判断」が、日本の出版文化への制約要因だが、雇われで解説を書いているだけだから、邦訳タイトルにまで責任は負えません。

本の内容自体は、興味深い本です。それについては以前のブログを読んでください。

ただし、鵜呑みにして振りかざすとそれはそれでかっこ悪いというタイプの本なので、「参考にした」「踏まえた」とは外で言わないようにしましょうね。あくまでも「秘伝虎の巻・・・うっしっし」という気分を楽しむエンターテインメントの本です。

まかり間違っても、「世界の首脳はフリードマンらフリーメーソン/ユダヤ秘密結社の指令に従って動いている~」とかいったネット上にありがちな陰謀論で騒がんように。子供じゃないんだから。

フリードマンのような地政学論の興味深いところ(=魔力)は、各国の政治指導者の頭の中を知ったような気分になれてしまうこと。政治指導者が実際に何を考えているかは、盗聴でもしない限り分からないのだから、ごく少数の人以外には誰にも分からない。しかし「地政学的に考えている」と仮定して見ていると、実際にそのように考えて判断し行動しているかのように見えてくる。

今のオバマ大統領の対中東政策や対ウクライナ・ロシア政策でも、見方によっては、フリードマンの指南するような勢力均衡策の深謀遠慮があるかのように見えてくる。

しかし実際にはそんなものはないのかもしれない。単に行き当たりばったりに、アメリカの狭い国益と、刹那的な世論と、議会の政争とに煽られて、右に行ったり左に行ったり拳を振り上げたり下げたりしているだけなのかもしれない。あるいは米国のリベラル派の理念に従って判断しつつ保守派にも気を利かせてどっちつかずになっているのかもしれない。

でも、行き当たりばったり/どっちつかずにやっていると、各地域の諸勢力が米側の意図を読み取れなくなって、米の同盟国同士の関係が齟齬をきたしたり、あるいは敵国が米国の行きあたりばったりを見切って利用したり、同盟国が米国に長期的には頼れないと見通して独自の行動をとったりして、結局混乱する。しかしどの勢力も決定的に状況を支配できないので、勢力均衡的な状況が結果として生まれることも多い。

で、その状況を米国の大統領が追認してしまったりすると(まあするしかないんだけど)、あたかも最初からそれを狙っていた高等戦術のようにも見えてくる、あるいはそう正当化して見せたりもする。

そうするとなんだか、世界はフリードマン的地政学論者が言ったように動いているかのようにも見えてくるし、ひどい場合は、米国大統領がフリードマンに指南されて動いているとか、さらに妄想をたくましくしてフリードマンそのものが背後の闇の勢力に動かされていて、この本も世界を方向付ける情報戦の一環だとか、妄想陰謀論に支配される人も出てくる。

本って怖いですね。いえ、だから素晴らしい。

でもまあ結局この本で書いてあることは、常にではないが、当たることが多い。商売だから、「外れた」とは言われないように仕掛けもトリックも埋め込んで書いている。「止まった時計は、一日に二回正しい時を刻む」的な議論もあるわけですね。その辺も読み取った上で、「やっぱり読みが深いなあ」という部分を感じられるようになればいいと思う。

改めて、決して、外で、「読んだ」っていわないように。