お知らせ。当面無料公開になりました。
池内恵「リビア東部の「自治」勢力から石油を船積みした「北朝鮮船籍」タンカーの行方は」『フォーサイト』2014年3月12日
池内恵(いけうち さとし)が、中東情勢とイスラーム教やその思想について、日々少しずつ解説します。有用な情報源や、助けになる解説を見つけたらリンクを張って案内したり、これまでに書いてきた論文や著書の「さわり」の部分なども紹介したりしていきます。予想外に評判となってしまったFC2ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝(http://chutoislam.blog.fc2.com/)」からすべての項目を移行しました。過去の項目もここから全て読めます。経歴・所属等は本ブログのプロフィール(http://ikeuchisatoshi.com/profile/)からご覧ください。
お知らせ。当面無料公開になりました。
池内恵「リビア東部の「自治」勢力から石油を船積みした「北朝鮮船籍」タンカーの行方は」『フォーサイト』2014年3月12日
ウクライナ危機について、素人の私をかなり納得させてくれているのが、ジャーナリストの国末憲人さんが『フォーサイト』に書いている一連の分析。
国末憲人「軍事介入はロシアにとって「得」か「損」か」『フォーサイト』2014年3月4日ではかなり見通しがすっきりした(読者コメントのThe Sovereignさんの分析も非常に納得がいった)。でも有料か。
もしロシアが現実的・合理的に行動していると仮定するならば、クリミアはしっかり押さえて、自治を拡大させてロシアの支配下に引き入れながら、ウクライナ東部には脅すだけで侵攻せず、ウクライナ政府に圧力をかけ続けて利益を得続ける、という戦略を採るだろう、という見通しを示してくれていた。現状はその方向に進んでいるのではないか。
この方、確かフランスを中心に、西欧のアル=カーイダなどについても書いていたような記憶があるけど、今は東欧にも強いのかな?
おそらく西欧では、昨年の早い時期からウクライナについてのロシアとの対立を非常に深刻に受け止めているという事情があって、それで東欧に目を向けていたのではないかと想像する。
最新版は無料公開のようです。
国末憲人「バルト諸国が抱く「ロシア系住民保護」への懸念」『フォーサイト』2014年3月10日
日本で考えるべき重要な論点を出してくれている。
ウクライナ危機は、日本にとっても深刻な問題。直接的に戦火が及ぶということはなさそうだからといって、他人事でいるのは、ものすごく見当はずれ。
クリミアでの状況は、「昔ロシア領だった」「ロシア人が住んでいる」「ロシア人がロシアへの帰属を望んでいる」「住民投票をしたらロシア領への編入を求める投票が多数だった(実質上の占領下の威圧の元で)」といった理由で、ある地域の帰属を変更していいのであれば、同じことが東アジアで起っても止められないということになる。
日本は近い将来も中長期的にもどう見ても、謎の武装集団を送り込む側ではなく、どちらかといえば送り込まれる側なのだから、こういった行為に対する国際法秩序の厳正化に、極めて高い国益を有するはずだ。
日本が「北方領土が帰ってくるかもしれないから」という甘い期待や下心によって、現在のロシアの行動を、明確な国際法秩序の侵害であると、原則論として非難しないのであれば、東アジアで同様なことが起こった時に、欧米は日本を支持してくれないだろう。
もちろん一方で、プーチン・ロシアを悪魔化せず、プーチンの死活的な国益への認識を理解し、プーチンの合理的判断・戦略性を分析して対処する必要はある。プーチンはウクライナ東部にむやみに軍事侵攻をしようとはしていないだろう。その意味で「世界大戦」に突入か、といった方向でむやみに騒ぐ必要はない。
だからといって冷静に黙っていればいいということではない。原則論で「ロシアが取った行動は国際法と秩序の原則から許されるものではない」という日本の意思・認識を示しておかなければならない。
「西欧はしょっちゅうダブルスタンダードを使う」「オバマ政権は掛け声だけ高くて実際には何もしない」といった不満や疑念は日本側にあるかもしれない。日本が理念を行ったところで誰が聞くのか、将来に役に立つのか、という限界は当然ある。
しかし何も言わなければ、日本はどちらかといえばロシア側の、欧米諸国とは価値観を共有しない国だと、実質的に依然として国際社会で最も有力な欧米諸国から、みなされてしまう可能性がある。日本はもともとハンディを負っているのだから、原則論はしつこいほどはっきりさせておく必要がある。
日本はかなり遠い将来まで、どちらかといえば、実力行使やその威嚇よりも理念で、自らを守らなければならない立場の国であるはずだ。
直接ロシアに喧嘩を売らなくてもいいが、理念だけは言っておかないといけないのだが、時機を逸してしまっているのではないかと危惧する。ロシアに説教する必要はないが、お題目はお題目として言う必要はあるだろう。
こういった時に「欧米はダブルスタンダードだ」と言ってシニカルな態度を取る人が必ず出てくるのだが、ダブルスタンダード論の大部分は、自らがダブルスタンダードに陥っている。
ロシア・プーチン政権は、エジプトでは軍事クーデタを支持しながらウクライナでは暫定政権は「クーデタだから認めない」とまるっきりのダブルスタンダードだが、「プーチンはダブルスタンダードだ」と批判する人はほとんどいない。これこそダブルスタンダードだろう。
なぜかというと、第一に、「ダブルスタンダード」を声高に叫ぶ人たちは単にアメリカや西欧にそれを言うことにしか興味がない人たちだからだ。
本当に的確な時に的確な相手に的確な方法で「ダブルスタンダード」を指摘してくれればいいのだが、実際には日本にとって不利になるような状況下で、的確に不利になるようなやり方でそれを言ってくれる人たちが、有力な人たちの中にすらいるので、本当に困る。
見当はずれの野党が言っている分には害はないのですがね。
第二に、プーチンがダブルスタンダードなことは「当たり前」であって、それをあえて言ってもウケないから、あまり言う人がいないのだろう。しかしウケることだけ言っていれば、言論はおかしくなり、変な政治判断を国民が行うことになりかねない。
現在の状況下で、日本がロシアと欧米とどちらに近いか、というと、やはり、人によっては悔しいのかもしれないが、欧米ですよね。
それともワッペン外した武装集団を送り込んで隣国を占領して銃を突き付けて国民投票をやらせる国の方に近いとでも?
それはそうと、これらの記事を書いている国末記者は、ウクライナ問題が急変するまさにその最中の2月20日からちょうど、ウクライナに隣接するモルドバの東部にある、ロシア系住民が分離とロシアへの編入を求めて中央政府の統治が及ばなくなっている「非承認国家」である「沿ドニエストル」に来ていたという。「「モザイク国家」ウクライナ「劇変」の深層」『フォーサイト』2014年2月25日
クリミアもまさに、ロシアの圧力の下で、沿ドニエストル的な「非承認国家」的な存在になることは確実だ。すごく的確な場所からレポートしている。
どこまでウクライナでの事態の展開を想定していたのかは知らないが、ボールが転がってきた時に(偶然)ゴール前にいることもジャーナリストの才能の一つなのだろう。
昨夜・今朝方、夜更かしして書いてしまいました。書き終わった後に東京地方はぐらっと揺れました。
池内恵「リビア東部の「自治」勢力から石油を船積みした「北朝鮮船籍」タンカーの行方は」『フォーサイト』2014年3月12日
リビアというと「混乱」という印象があるのでしょうが、それに「北朝鮮」が絡んで、しかも「タンカー炎上」などとも報じられているので、日本でも関心があるかと思いまして・・・
しかし人目を引くはずの「タンカー炎上」についての続報がないので、偽情報だったか、そもそもリビア内政がもっと混乱していてそんなことにだれも興味を持っていないのか、とかいろいろ考えますが分かりません。少なくとも11日にザイダーン首相は解任されてしまったし。朝、アル=ジャジーラのホームページをちょっと見たら、議会で不信任されて解任されたザイダーン(前)首相は出国するとか書いてあるので、かなり緊迫しているのかもしれません。まあ、首相が、ほとぼりが冷めるまで逃げる、というだけかもしれませんが。
もしかすると、増強し始めたリビアの国軍が、国民全体会議(議会)も、そこから選ばれた内閣もあまりにふがいない、「決められない」と苛立って権限掌握に出たのかもしれません。
問題はリビアの国軍に並び立つ規模の民兵集団が無数にいることなので、単純に軍が権限掌握、とは言えない。最近も軍の将校が「クーデタ」宣言をして、誰もついてこなかった、などという事態もありましたし、リビアの場合、エジプトなどとは異なり、決定的に強い勢力がいないために、だらだらと混乱が続いています。
しかし国軍の増強のために支援をすると、今度は軍が独裁化するかもしれないし、難しいところです。
私の印象では、「リビアは意外にうまくやっている」のですが(大規模な内戦にもなっていないし、分離独立する地域もない、「自治」だけ)、現在の状況はそれよりも流動化しているのかもしれない、と思って注目しています(が、他にもやることが多くあるのでずっと見ていられません)。
以下、本文の一部を・・・
まだ未確認情報だが、リビア東部シドラ港で、リビア政府の意向に反して石油を積み出して公海上に出たタンカーが、ミサイル攻撃を受けて炎上している、という。
ただし、これは今のところ『リビア・ヘラルド』というカダフィ政権崩壊後にリビアで創刊されたもっとも水準の高い新聞(ただしすべての記事に信憑性が高いとは言い切れない)が速報で報じただけであり、アル=ジャジーラなど速報性の高いアラビア語メディアのホームページでも報じられていない(日本時間3月12日午前3時現 在)。【 “Oil tanker allegedly on fire in international waters,” Libya Herald, March 3, 2014】
もしこれが事実なら、リビアの暫定政権にとって、国家財政と国民経済の根幹をなす石油産業を掌握できないという印象を決定的にし、大きな打撃となる。
2011年の『アラブの春」で、内戦の末に最高指導者カダフィとその一族を打倒したリビアだが、新体制への道のりは険しい。
反カダフィで立ち上がって、内戦で功績を挙げた各地の民兵集団が武器を手放さず、選挙で選ばれた国民全体会議(GNC)による暫定政権の指令に従わないどころか、しばしば武力で意志を押し通そうとし、移行期の政治プロセスの基本的な制度や工程表の次元で改変を迫るため、新体制設立への道のりはなかなか前進しない。
・・・
以下は池内恵「リビア東部の「自治」勢力から石油を船積みした「北朝鮮船籍」タンカーの行方は」『フォーサイト』2014年3月12日で・・・