エジプトのおバカ・ニュース(とロシアへの接近)

今のエジプトの世相を示す、オバカ・ニュース。

Egypt_Obama_Game Over_Feb19_2014_elwatan

エジプトの民間の新聞ワタン(el-Watan)が2月19日にウェブに載せた「商人がスィースィーのロシア訪問に寄せて、ナイル河の上に、オバマはゲーム・オーバーだと書いた」という記事。

マンスーラという、上エジプト(エジプト北部・ナイル河下流のデルタ地帯)の主要都市で、アニース・サイード・アズィーズィーとかいう鉄商人がスィースィーのロシア訪問を祝ってナイル河に錫と発泡スチロール製の艀(はしけ)を浮かべた。長さ65メートルで「オバマはゲームオーバー」と書いてある。

最近のエジプトのアラビア語紙はこんな記事ばかり。

エジプトの新聞は、昨年7月のクーデタ以来、軍礼賛・スィースィー推戴で、おかしくなっている。ずっとエジプトのメディアを見てきましたが、行き詰るとだいたいこうなる。放っておきましょう。

企業家層は軍を支持しているから、派手にキャンペーンをやる。そのキャンペーンが、軍翼賛と、お気楽な反米。「アラブの民衆は反米だ」というイデオロギーがかつてあったが、少なくとも今の現実は、アメリカに依存してきた金持ちが反米っぽいことを言って子供っぽく喜んでいる。

当分この国ダメですね。

スィースィー国防相のロシア訪問で喜んでいるわけです。それでオバマがゲーム・オーバーだと言っているのですが、世界の中心はエジプトだと思っているのですね。

おバカなメッセージを浮かべたこの商人は、「スィースィーのロシア訪問で、エジプトの自由への希求を感じた。アメリカの中東支配の終わりを感じた。そしてエジプトが高貴なる息子たちの手で歴史を書き始めたことを感じた」と大喜びしているのですが、単に「宗主国様」をロシアに乗り換えただけでしょう。

クーデタ直後から、まあそうなるだろうなと思っていましたが(「ロシアへの接近をほのめかして牽制するエジプト首相」『フォーサイト』2013年8月22日)。

しかしここまで臆面もなくやるとは。

2月12日・13日に、スィースィー国防相とファハミー外相がモスクワを訪問。いわゆる2+2というやつだが、別にエジプトがロシアを助けられるわけではない。ロシアは軍用ヘリや対空防衛システムを売り込もうとしている。エジプトは、ぎくしゃくしているアメリカに当てつけをして、無邪気に喜んでいる。昨年11月にロシアの外相・国防相がカイロに来て2+2をやったが、今回はその話の続き。

スィースィー国防相は初の外遊で、大統領選挙に出るという件で盛り上げている最中なので、プーチンもサービスして、スィースィーの立候補を支持すると発言

でもこれでは新しい宗主国様にお墨付きをもらっているだけ、ということが、エジプト人にはわからないのである。世界はエジプト中心に回っていると思っているので。

しかしロシアは冷戦期と違ってタダでくれるわけではない。リップサービスをしながら「ちゃんと払うなら売ってやるよ」という線を崩さない。それで、30億ドル分の兵器を買って、勘定はサウジとUAEに回せないかな、と交渉しているという。誇りも何もない。ピラミッドのラクダ引きみたいに、湾岸の金持ちからチップ恵んでもらって生活する、ということ。

これではかつてのエジプトの外交的影響力など見る影もない。当分エジプトは重視しなくていい、ということでしょう。

しかしアメリカも腰が据わっていないので、ロシアが出てくるならとちょぼちょぼ援助を戻したりして、甘やかしを続けるのではないかと思う。アメリカにとってそれほどの負担ではないし、軍需産業は困っている。エジプトは結局両方からちょっとずつチップをもらえて得した、と言っているうちに、国内問題がもっと悪化する。アメリカもサウジも、もちろんロシアも、エジプト社会が豊かになるほどにはくれるはずがない。

軍政はポピュリズムに走るしかないが、エジプトにはその財源がない。特に積年の課題の食料補助金と燃料補助金は絶対に削れなくなったから、軍事援助をいくらかもらったぐらいではまったく足りない。早晩財政は行き詰ります。

でも「そこで日本には民生支援を~」なんて都合の良い話に載っちゃダメです。一度この国は突き放さないと。でも日本は日本でおだてられるとお金出してしまうんだろうな。で、感謝されない。

エジプトの覚醒は遠そうです。