タバの観光バス爆破:続報

昨日のエジプト・タバでの観光バス爆破、
(1)「アンサール・バイトル・マクディス(エルサレムの支援者たち)」が犯行声明を出した。観光客に退去を勧告。
(2)内務省が、死者数を、当初の4人から3人(韓国人観光客2名とエジプト人ガイド1名)に修正

とのこと。ネットで見る限り産経新聞はこのニュースをそれなりにおさえていますね。

エジプトの英語紙では、シナイ半島での大規模な観光客を狙ったテロとしては2006年のダハブでの事件以来として「転換点か」とも分析しています

エジプトのアラビア語紙はクーデタ以来ヒステリックですので分析は存在しませんが。

アラブで安全な国がなくなりますね。

取り急ぎ。

エジプト・シナイ半島タバで観光バス爆破

2月16日、エジプトの東部シナイ半島のタバで観光バスが爆破され、少なくとも4人が死亡。

爆破の映像(34秒ぐらいから)

エジプトはシナイ半島を中心に、これまでとは違って、イラクやシリアと(程度の差はあるが)同様の、武装反乱(insurgency)が続く、ある種の内戦状態になっている、という話はしてきたが、今回また一歩進んだ。

これまでの経緯はとりあえずこのあたりから。

「エジプト軍ヘリ撃墜で「地対空ミサイル使用」の恐怖」(1月27日)

「エジプト情勢の今後の見通し」(1月25日)

タバというのはシナイ半島の南部の東端にある町で、イスラエルとの国境のすぐ手前。国境を超えるとイスラエルのエイラート、そしてすぐにヨルダンのアカバがある。

タバは1967年の第3次中東でイスラエルが占領して、1979年のイスラエル・エジプト和平条約の後も最後までイスラエルが保持し続けた町で、1989年に返還された。イスラエルが観光開発したのでホテルなども整っている。

今回のバスは韓国人旅行客の一行のようだ。

モーセがさまよったシナイ半島はキリスト教徒にとっての聖地で、特に韓国人のキリスト教徒の団体旅行はおなじみの光景だ。

エルサレムやベツレヘムなど、イスラエル・パレスチナのキリスト教関連の聖地を巡りながら、エジプトに足を延ばしてシナイ山に登ったり、ふもとの聖カタリナ修道院などを訪れるというのがお決まりのコース。シナイ半島で観光バスを狙ったテロがあったらかなりの確率で韓国人が犠牲になるだろう。

なお、タバでは2004年10月にはタバのヒルトン・リゾート・ホテルが大規模な爆破に遭っている。写真を見ると、今回の爆破の場所も建て直したヒルトン・ホテルのすぐそばのようだ。

シナイ半島は部族問題や低開発や差別など、中央政府の無策がたたって無法地帯化しており、イスラーム主義過激派が勢力を伸ばしている。

現在はシナイ半島のイスラーム主義過激派とエジプト政府がかなりの規模で戦闘中。

今回の事件の新しいところは、これまでは軍や警察の車両や治安部隊の施設などを狙っていたのが、今回は一般人の観光バスが爆破されたこと。意図的に観光バスを狙ったのか、軍の車両などを狙った爆発物に観光バスが触れてしまったのかはまだ断定できない。

エジプトについては、日本では事態の深刻さにピンと来ていない関係者が多いので困る。

シナイ半島は、荒れたカイロを通らずにロシアや西欧から直行便でシャルムシェイクなどの空港に観光客を飛ばせるので、観光客誘致には命綱。

すでに軍用ヘリを落とした地対空ミサイルは導入されてしまっているので飛行機も全く安全とは言えなくなってきた。ここで観光バスがあぶないとなると、いっそう観光収入は望めなくなる。

警察と軍はもっぱら丸腰のムスリム同胞団の弾圧に一生懸命で、その間に、ムスリム同胞団と競合していた過激派組織が急速に活動を活発化している。どう考えても政府は不正なんだから、イスラーム主義過激派に一定の支持が集まるのは誰でも予想できる。

問題は、エジプトの警察にそれを抑え込める能力がないこと。最大の原因は、地元民が、低開発だけでなく、警察の横暴なやり方に怒っていて協力しないから。このあたりはエジプトのメディアはあまり書かないが、誰でも知っていること。

抑え込むどころか、本土に越境攻撃をかけられたり、スエズ運河の重要地帯にしょっちゅう襲撃があったりで、insurgencyの度合いと頻度は日に日に高まっている。

反乱勢力がいるという家を空爆して皆殺しにしたりしているので、おそらくいっそう反発は強まる。

* * *

日本も、ファハミー外相とか、英語を上手にしゃべる渉外担当の人にコロッと騙されて援助を出したりしてはダメですよ。国民の税金です。彼らはお金を取ってくるのが仕事で、どう使うかについては、何を約束しようが、まったく守れません。なぜかというと、お金の使い道に権限など持っていないからです。

こんなこと当たり前だと思っていたのだけど、本当に日本の外交・援助関係者ってそのことを知らないみたいだ。欧米と仲が悪くなったエジプト政府が、日本をちょっとおだてるだけで、舞い上がってしまってカモにされないでね。

あと、現地在住の日本人。彼らが「軍が出てきたら安定する」という話をして、それを信じてしまう程度の報道関係者が多い。現地在住の日本人というのは実際にはほとんどエジプト社会とのつながりがない。たまに接触するエジプト社会というのはそれはもう厳しいから、強権支配でエジプト人を黙らせてほしいと思っている。「軍が出てきて、嫌なエジプト人をぶん殴って黙らせてくれればすっきりする」といった会話で憂さ晴らししているのですね。

ブログなどで「エジ」という呼び方を使っている人には、現地の一般エジプト人に対する差別心・優越意識が強いのでご注意。差別心を持つのは勝手だが、日本のメディアも政府機関も、そういう人たちをけっこう情報源にしている。そこで判断を誤る。「あなた方がエジプトに行き暮れてしまったことは、エジプト人の責任ではありません」と言ってしまいたいんだが、そうするとものすごく悪口言われます。