超大国の店じまい? オバマ大統領の一般教書演説2014

今年のオバマ大統領の一般教書演説(1月28日)、録画しておいて見ました。

全文ももう出ている。

一般教書演説は、アメリカらしく空元気かと疑うほどに大統領の口調も会場の反応もハイなことが多いのだが、今回はこれまでになく淋しい心象風景が伝わってきた。黄昏の超大国。

予想通り、ひたすら内政問題に終始した。

外交は最後の方にちょっとだけおざなりに。アジア・太平洋地域については特に少なく、具体的なことは何もなし。アジアへの「ピボット」「リバランス」という話はもうどこか遠くに忘れ去られている。

外交については中東・南アジア、対テロリズム関係が大部分だが、いずれもブッシュ政権時代に始まったことを「どう終わらせたか、終わらせつつあるか」という話。

オバマ政権の6年目に入って、外交面では「覇権」の負担の縮小を図り、負の遺産を整理していく「コストカッター」型の、オバマ政権の性質が明らかになってきている。

昨年は「損切り」を派手にやりましたからね。

アフガニスタン撤退後の治安悪化は確実視されるが、とにかく撤退を決定。

さらに、シリア問題では、「オバマ・ショック」の急展開。すっかり足元を見られました。
間髪入れずイランへ怒涛の歩み寄り。
エジプトではクーデタを非難したあげく、打つ手なくまた歩み寄る。もう抑えが利きません。

エジプト、サウジ、イスラエル、トルコなど同盟国は一斉に自活の道へ。命かかっていますから。

今年の一般教書の「1行」を選ぶなら、これ。

I will not send our troops into harm’s way unless it is truly necessary, nor will I allow our sons and daughters to be mired in open-ended conflicts.

「本当に必要でない限り、われわれの部隊を危険な場所に送りません。われわれの息子や娘たちを、果てしない紛争の泥沼へと送ることはしません。」

こう明言している以上、ペルシア湾岸の第5艦隊は水上に浮かぶ張子の虎、と受け止められるだろう。

演説の締めくくりに、非常に長い時間をかけて、議場に招かれた一人の傷痍軍人を紹介した。重い障害を負った、元陸軍特殊部隊のCory Remsburgさん。彼との出会い、アフガニスタンでの路上の爆弾による負傷の経緯。意識不明となり長期間死線をさまよい、奇跡的に蘇生しつらいリハビリの過程にある。

オバマはCoryさんの言葉を引くが、これはアメリカ社会の現在の心境を表現しているのだろう。

“My recovery has not been easy,” he says. “Nothing in life that’s worth anything is easy.”

また、

Our freedom, our democracy, has never been easy. Sometimes we stumble; we make mistakes; we get frustrated or discouraged.

という。

「超大国であることはたやすいことではないよ」と実感したアメリカ。重い負の遺産を背負い、傷の治癒に専念するアメリカは、当分の間、中東に強い影響力を行使することはできないだろう。そうなると、地域大国と域外大国の思惑が入り乱れる、予測しにくい時代が続きそうだ。

レクサスと日本外交

苦し紛れに即興的に作った造語「LEXUS-A」が、一人歩き、とまではいかないが、おそるおそるお散歩中、ぐらいか。

1月26日の『東京新聞』で、木村太郎さんが連載「太郎の国際通信」に寄稿した「元米同盟国連盟が拡大中」というコラムで引用してくださいました。冒頭の部分をご紹介します。

「LEXUS-A(レクサスーA)という言葉に出合った。といってもトヨタ製の乗用車のことではない。League of EX US Alliesの頭文字をとったもので「元米同盟国連盟」とでも訳すか。池内恵東大准教授の造語で、英国の国際問題誌モノクルの記事の中で紹介されていた。この「連盟」に属するのはサウジアラビア、イスラエル、トルコなどで、米国が中東政策を転換してシリアのアサド政権を延命させ、イランとの核交渉で妥協したことで外交的に「はしごを外された」面々だ。」

『モノクル』(Monocle)というのはイギリスの雑誌で、最先端のデザインやライフスタイルやファッションと、グローバルな政治経済情報が心地よく混在した、日本にはない形態。

なぜだか知らないが原稿やコメントの依頼が来た。調べてみると表参道にショップを構えていて、特派員までおいている。かなり頻繁に日本の最先端科学技術や、食文化、伝統工芸などを取り上げている。

この雑誌に寄稿した文章(Satoshi Ikeuchi, “Bloc Building,” Monocle, Issue 69, Vol.7, December2013/January2014, p.124)の末尾の部分、

But why not strengthen ties with other abandoned or burned ex-US allies, such as Saudi Arabia, Israel and Turkey? Someone might want to come up with a name for this new bloc. I have a suggestion: the League of ex-U.S. Allies, or LEXUS-A.

というところが該当箇所です。

ま、軽い冗談ですよ。でもちょっとは日本でそういう風に考え始めているんじゃないかな、アメリカさん。

流麗な英語になっていますが、私一人ではこんなに上手に書けません。内容は完全に私が考えたものですが、英語表現・文体はかなり編集側に手を入れてもらっています。忙しくてまったく時間が取れなくて辛うじて夜中に数時間の時間を作って、眠いところを必死に書いて送ったところ、オックスフォード出の切れのいい女性の日本特派員が、”You’ve done a great job.”とか言いながら手際よくピーッと全部上書きして直してくれました。

「お前は良い仕事をしたよ」と言われて、「上手に書けてたんだ」とは思わない方がいいようですね。特にイギリスの英語。

よっぽど無骨な英語だったんだろうなあ。

英語の婉曲表現が実際には何を意味するか、それを知らない人はどう誤解するかを面白おかしく対照表にしたものがインターネットに出回っていた。

探してみると・・・

“Translation table explaining the truth behind British politeness becomes internet hit,” The Telegraph, 02 Sep 2013.

例えば

Very interesting とイギリス英語で言うと、実際には That is clearly nonsense を意味していて、しかし聞いた方は They are impressed だと思って満足してしまう、とな。幸せでいいじゃないですか。

With the greatest respect…なんて丁寧に言われていると実際には You are an idiot と言われているんだと言われても、分かりかねます。

Quite good は本当は A bit disappointing なんだそうです。これはよく言われてきた気がする・・・

I only have a few minor comments は、実際には Please rewrite completely と言われているんだそうです。うひゃー。

それはともかく、Lexus-Aを最初に引用してくれたのは、日経新聞特別編集委員の伊奈久喜さんの「倍返しできぬ甘ちゃん米大統領(風見鶏)」『日本経済新聞』2013年12月22日

「中東専門家の池内恵東大准教授が「Lexus-A」という新語を造った。レクサスAと発音する。新車の話ではない。「League of Ex US Allies(元米国同盟国連盟)」の略語だ。サウジアラビア、トルコ、イスラエル、日本、さらに英国がメンバーらしい。」

もちろん問題となっている対象は私が見つけ出したことではない。ユーラシア・グループのイアン・ブレマー氏が2013年にJIBs(Japan, Israel, Britain)を、米国の後退によって困った立場に立たされる同盟国としてひとくくりにした。さらに今年は年頭の「世界の10大リスク」の筆頭に「困らされた米同盟国」の問題を挙げている。

しかしむやみに悲観的になることもない。米国の同盟国は、たいていは技術があったりお金があったり生活水準が高かったりするのだから、米国抜きで(元)米同盟国連盟を組んで豊かに暮らせばいいんじゃないの?という意味を込めて作ってみました。こちらの方が明るくていいと思います。

「【日米中混沌 安倍外交が挑む】同盟国との関係を悪化させたオバマ外交と安倍首相の地球儀外交」でも引用されているようです。