昨日の日経新聞の「経済教室」や、先日の『フォーサイト』への寄稿を読んでいただいた人には、分かりやすいかもしれない。
8月24日のトルコによるシリア北部・アレッポ北方のシリア・トルコ「回廊」地帯への地上部隊侵攻で、いっそう明白になったこの地域の性質と重要性。アレッポ北方の、ジャラーブルスやマンビジュ、アル・バーブやアーザーズなどの位置関係や、アラブ人、クルド人、そしてトルコが同族とみなすトルクメン人などの混住状況もこの地図には描かれています。
この地図から、トルコ側のガズィアンテプで、8月20日に、クルド人の結婚式に対してテロが行われた(「イスラーム国」側がやったとされるが、詳細は不明)ことも納得がいくでしょう。
この地図は昨年12月段階のもので、その後クルド人勢力はマンビジュ方向に延伸したり、アル・バーブの方向への進出を窺ったりして、色分けは変化しています。この地図を基礎に変化を見ていくと、何が起こっているかが見えてきます。
アサド政権はこの地図で描かれているアレッポ北方で回廊を断ち切ろうとする。逆にアレッポの西のイドリブ県を制圧している反体制勢力は南方のアサド政権のアレッポへの補給路を断とうとする。これらが、この地図替えかがれた以降の展開です。
この状況下で、トルコはもっぱら対YPGで介入してくるだろう、ということが誰の目にも明らかで、「いつ」が問題になっていました。ロシアとの緊張の激化や、国内でのテロの続発、クーデタ未遂や大規模粛清といった目を奪う事象が繰り返されてきたため気が逸らされがちですが、シリア内戦の構図と、それに関与するトルコの姿勢は、基礎的条件が変わらないので、それほど変わっていないのです。
「ユーフラテスの盾」という作戦名が明らかにしているように、「回廊」地帯の東端を画すユーフラテス河を、クルドYPG勢力に越えさせない、というのが、今回のトルコの作戦の目的。
クルド人勢力が、2014年には「イスラーム国」の伸長で、コバネなどで追い詰められていたところから挽回して、それによって欧米の支持も高め、領域支配を広め、ついに2015年12月にはユーフラテス河以西に勢力を伸ばし始めた、という時点で、現在のトルコのシリア北方への軍事介入は必然視されていました。
こういった詳細な地図は、日本語のメディアでは作ってくれるところがない。やはり需要がないということなのだろう。