【寄稿】日経新聞「経済教室」への今朝の寄稿と、過去の寄稿のリスト

昨日お知らせしていましたが、今朝の日本経済新聞朝刊の「経済教室」欄に論稿が掲載されています。

池内恵「流動化する中東(下)シリアの混乱、収束みえず  トルコへ波及懸念高まる」『日本経済新聞』2016年9月1日朝刊

「経済教室」からは時々依頼を受けて書いています。書き手としては、新聞の寄稿としては例外的に長い字数を書くことができることや、しばしば新聞社ではありがちな、旧弊なイデオロギーに合致した記事を求める編集部からの横槍がなく、全般にストレスの少ない媒体です。企業・官庁勤めの人たちの共通認識を形成するということもあり、意識して総合的な見地を出そうと試みています。

経済学の人たちとは違ってめったに依頼は来ませんが、節目には書いてきた記憶があります。あらためて並べてみますと7本ありました。

外部寄稿は権利問題が曖昧だったこともあるのか、日経電子版の検索だけでは出てこないものがあるようなので、日経テレコンの検索で検索して、出てくる情報をそのままリストアップしました。

リンクは日経電子版にあるもののみ貼っておきます。日経テレコンなら全部読めるかというと、そう単純ではなく、古いものは外部執筆者の寄稿は本文が収録されていなかったりします。

(1)日経電子版でも日経テレコンでもタイトルも本文も出てくる。(2)日経電子版ではタイトルも本文も出てこないが、日経テレコンではタイトルも本文も出てくる。(3)日経テレコンでのみタイトルは出てくるが、本文は出てこない、といったさまざまな場合があるようです。

新聞の寄稿はタイトルやサブタイトルがどれなのか明瞭でないので、日経テレコンの見出し情報を張り付けておきます。その当時の所属などが含まれているので、今となってはそれも情報です。

最初は2003年5月に書いているんですね。まだ20代で、若かったなあ・・・「イラク侵攻で早期にサダム・フセイン政権が崩壊し、ブッシュ大統領が勝利宣言をしたものの、問題は国家再建ではないか」という出だしを記憶しています。あれから幾星霜、中東は大きく変わり続けています。

(2004年のものまでは、日経テレコンでもタイトルのみで、本文が出てきません。これらは『アラブ政治の今を読む』『イスラーム世界の論じ方』に採録されています)

エジプトのムバーラク政権直後に各国に波及する最中に書いた「中東民主化(下)ドミノの行方」では「変化の方向性は一様ではない。一連の変化が「民主化ドミノ」として作用し、公正で安定した中東が出現する可能性はないわけではないし、それを日本も支援すべきだが、当面は「変動ドミノ」として、各国の抱える固有の政治・経済・社会問題が噴出する混乱期を見越して対策を取っておかねばならない」と書いていました。

その後、固有の政治・経済・社会問題が噴出し過ぎて、もう何が、なんだか。

リストに「さわり」のところをいくつか抜き書きしておきます。詳しくは日経電子版で。日経テレコンを契約している大学や官庁・企業の人はそちらで。

(1)「イラク復興と世界経済(中) アジア経済研究所研究員池内恵氏(経済教室)」2003/05/08  日本経済新聞 朝刊

(2)「イラク暫定政権へ主権移譲 国際日本文化研究センター助教授池内恵氏(経済教室)」2004/07/01  日本経済新聞 朝刊

(3)「中東民主化(下)ドミノの行方 東京大学准教授池内恵氏(経済教室)」2011/02/25  日本経済新聞 朝刊
「中間層の厚みが成否左右 受け皿なく混乱も」
「これらの体制構造疲労と社会内の根深い対立を強権によっておさえ込んできた国々では、体制批判を口にすることの恐怖心をかなぐり捨てた民衆による、大規模デモによって政権に強い圧力がかかる。政権の大幅な譲歩から政権崩壊まで、さまざまな変動を、もはや与件としてとらえなければならない。政権と軍部とイスラム組織に加えて、「大規模デモ」を重要な政治的行動主体として、当面のアラブ政治は進んでいくだろう。」
「変化の方向性は一様ではない。一連の変化が「民主化ドミノ」として作用し、公正で安定した中東が出現する可能性はないわけではないし、それを日本も支援すべきだが、当面は「変動ドミノ」として、各国の抱える固有の政治・経済・社会問題が噴出する混乱期を見越して対策を取っておかねばならない。」

(4)「シリア内戦と国際秩序(上) 東京大学准教授池内恵氏(経済教室)」2013/09/26 日本経済新聞 朝刊
「米軍のシリア攻撃にオバマ政権の姿勢は揺れ動き、9月14日にロシア主導で「シリアの化学兵器の廃棄」をめぐる米ロの合意が結ばれた。しかし、これをあたかも「幕引き」のように受け止めるならば、問題の性質と意味を根本的に取り違えることになる。」
「シリア内戦は幾重にも行き詰まり、膠着状態にある。2011年3月の大規模反政府デモ発生から2年半を経たシリアの状況には、次の4点が顕著になっている。(1)対立の構図は地域間・階級間闘争の様相を強め(2)闘争の軍事化が進み(3)宗派紛争への転化が見られ(4)グローバル・ジハード勢力の侵入が進む。」
「内戦の泥沼化によって危惧されるのは、シリアがグローバルなジハード主義者たちの新たな聖域となることである。ジハード主義勢力の伸長は、欧米の支持と支援を阻害するとともに、反政府勢力間の足並みの乱れや分裂の要因にもなっている。
反政府勢力の多数がグローバルなジハード主義者とはいえず、アルカイダとつながる組織も主流ではない。しかし「圧政者に対するジハードは義務である」という規範は多くのイスラム教徒に共有されており、シリア内外の一般ムスリムが、反アサドで武器を取って戦うことを宗教的義務と感じる状況になっている。」
「シリアをめぐって明らかになったのは、米国の中東へのコミットメントの意志と能力の低下であり、関与を減らそうとする国民的意思を反映したオバマ大統領の消極性である。投資や技術や教育といった分野も含めれば、米国に取って代わる超大国は現れていないが、同盟国の政権が米国に寄せる信頼や、反米諸国が米国の意向を恐れる度合いという意味では、米国の覇権が希薄化しているといえよう。
これがオバマ政権期の一時的な現象ではなく、より長期間持続する趨勢であるならば、今後は、米国の抑止力の下で安全保障を確保してきた中東の同盟国は、独自の行動を取りかねない。」

(5)「強まる地政学リスク(下)東京大学准教授池内恵氏――民主化挫折、過激派に勢い、中東全域、不安定化も(経済教室)」 2014/09/12 日本経済新聞 朝刊
「では中東の地政学的リスクとはいかなるものなのだろうか。日本にとって不可欠である、中東産原油・天然ガスの国際市場への安定供給についていえば、これほどの混乱にもかかわらず、むしろ原油は値引きした密輸を含んだ自生的なルートで市場に流れ続けており、原油価格の急騰や供給・運搬ルートの途絶といった事態が近く生じるとの観測は、むしろ沈静化している。
また、イランの核問題での対立によるホルムズ海峡の閉鎖や、パレスチナ問題をめぐる地域規模の動乱といった、周期的に危機意識があおられるものの現実化しなかった致命的な一撃の可能性も低い。
問題はむしろ、中東全域で治安や政治の安定度がおしなべて低下することで、中東地域に対する政治的・経済的な関与への自由で安全なアクセスが制約されることである。域外の政府や企業は、地域大国の代理戦争や宗派間対立、問題ごとに組み替えられる流動的な同盟・敵対の関係、それによって性質や場所を変えて勃発する紛争といった「複雑怪奇」な中東情勢がもたらす多種多様な地政学的リスクの回避に、多大な労力を払わなければならなくなる。」
「しかし、世界のムスリムの一部を過激な行動に駆り立ててきたのは、アラブ諸国の政治体制が「不正義」であり、それを倒すためには背後で支援する外国勢力にも打撃を加えなければならないという認識と思想である。これが払拭されなければ、事態の根本的な解決には至らないだろう。紛争と対策の長期化を予想すべきである。」

(6)「イスラム過激派の脅威 「テロ思想」強まる拡散懸念 池内恵 東京大学准教授」2015/1/27付日本経済新聞 朝刊
「全世界のイスラム教徒の大多数は、平和を望み法を順守する市民である点で他の宗教や無宗教の人々と変わらない。問題は教義に含まれる政治・軍事的な規範であり、その特定の解釈を強制力(ジハード=聖戦)で実践しようとするイデオロギーである。」
「事件後、米国は全力を挙げて対テロ戦争に取り組み、世界各地のアルカイダの拠点を破壊し活動家を摘発した。潜伏下に置かれたアルカイダは「組織からイデオロギーへ」の変貌を遂げた。ビンラディンやザワヒリら中枢組織の指導者は音声や映像メッセージをインターネットを通じ配信することで、世界各地の共鳴者を感化させ、扇動した。
イデオロギーとしてのアルカイダは各地に独立した支部や関連組織を生み出していった。「フランチャイズ化」や「ブランド化」と呼ばれる。」
「先進国の移民イスラム教徒の間には、大規模な武装組織化は摘発を招くため、小規模な組織を多数、相互に連絡なく形成し、それぞれが自発的に象徴的な標的に向けてテロを行う、ローンウルフ(一匹おおかみ)型のジハード実践の扇動がなされた。
このようにして、アルカイダの中枢の直接の指揮命令系統にはつながっていない、非集権的で分散型のネットワークに、グローバル・ジハードは担われるようになった。変貌した組織の原理を理論化した思想家アブー・ムスアブ・アッ・スーリーは、先進国で小規模の組織が自発的に行うテロを「個別ジハード」とし、世界各国からジハード戦士が結集して大規模に武装化・組織化することを「開放された戦線」と定義した。」

(7)「流動化する中東(下)池内恵東京大学准教授――シリアの混乱、収束みえず、トルコへ波及、懸念高まる(経済教室)」2016/09/01 日本経済新聞