記者クラブ講演の概要と映像──「セキュリティ政権」とジハード主義の「開放された空間」

日本記者クラブでの講義シリーズ、先日のエントリではこれまでの回をまとめてみましたが、6月27日の回も概要と映像がアップされましたので再掲します。

池内恵「エジプト・シリア・大統領選後の中東」日本記者クラブ、2014年6月27日

ここでの主要な概念は(1)「セキュリティ化する各国政権」と、(2)それによっても掃討されず、紛争を繰り広げながら各国の政権と共存するジハード主義勢力の伸張、部分的な「開放された戦線」の成立。

アラブの春の衝撃で軍・治安機構が割れた国は政権が倒れたが、それが再結合をした(エジプト)か、再結合を目指しているがうまくいっていない(リビア、チュニジア)かに関わらず、政権側には軍・治安機構の再結合が進み、「セキュリティ確保」を存在意義として国内外に承認を求める傾向に進んでいる。イラクのマーリキー政権もそのようなセキュリティ政権として米国やイランなどに存在を認めさせようとしているが、実際に領域を掌握できるかどうか米国も懐疑的で様子見。

政権の崩壊によって政治的自由化が一定程度行われた国(エジプトやチュニジアなど)では、制度内政治参加路線のムスリム同胞団などが選挙を通じて台頭したが、上述のセキュリティ部門の再結合によって制度外の強制力によって覆された(チュニジアでは政権は退陣させられたが、民主化プロセスは辛うじて残った)。その際には司法も大きく介在した。

ムスリム同胞団などの制度内政治参加路線が無益であるとかねてから主張してきたジハード主義者は、制度外・超法規的・強制的手段(軍・警察公認の大規模デモ・司法の妨害・軍クーデタ)によるムスリム同胞団の排除を受けて、その主張の妥当性が一定程度、一定数の国民から認められ、多数派ではないが、一部の強い支持を得るようになり台頭。グローバル・ジハード思想の「開放された戦線」が局地的に現実化した。

セキュリティ政権はジハード主義勢力の台頭と「開放された戦線」を脅威とするが、それへの対処を正統性の根拠とする。シリアは最初からセキュリティ諸組織の結束で政権を維持し、国土の4割を放置したまま巡回弾圧で持続している。エジプトではシナイ半島でのジハード主義の台頭を正統化根拠として軍政が強化されている。同じことをリビアのハフタル将軍も狙い、もしかするとチュニジアでもやがてはジハード主義に対抗すると称するセキュリティ諸部門結合がなされて政権獲得を目指す動きがあるかもしれない。

両者の対立しながらの共存が当分続くだろう、というのが現時点での分析。

来月にはテープ起こしが活字になって出る予定です。そうこうしているうちにも現実は進んでいく。