【寄稿】『中東協力センターニュース』10月号にロシアとイスラエルの関係について

『中東協力センターニュース』10月号に寄稿しました。

池内恵「ロシアのシリアへの浸透とイスラエルの安全保障」『中東協力センターニュース』2018年10月号, 9-14頁

今回の論考は、前回に続き「中東国際秩序の新展開」に取り組んでおり、特にその中で「地域大国間の関係の重要性の高まり」を扱っています。そこで従来はアラブ諸国が主導する中東政治においてその存在の正当性を完全には認められてこなかったイスラエルがこれまでになく存在感を高めていること、そして冷戦後は中東国際政治からほぼ姿を消していたロシアが事実上の域内の大国、あるいは隣接地域から大きな影響を及ぼす超大国に準ずる存在として台頭している点に着目し、両国間の関係の最新の動向を分析しています。

この論考では、9月17日に起きたロシア空軍イリューシン20型機がシリア軍の防空システムS-200によって撃墜された事件を契機に、ロシアがS-300をシリア軍に供与すると発表し、実際に配備したと公表したことを取り上げ、それがイスラエルの安全保障の制約になる可能性、それが今後のイスラエルの行動に及ぼしうる影響について考察しています。

末尾では、このロシア機撃墜事件とシリア軍への防空システム供与をレバレッジとして用いたロシアが、イスラエルに対してイランへの歩み寄りを促す仲介を試みている点を指摘しておきました。

10月19日にはイスラエルの『タイムス・オブ・イスラエル』紙がロシアがシリア軍に改良型のS-300を供与しており、イスラエル軍のシリアにおける制空権に制約が課されている可能性を報じています。10月24日に同紙はロシアがイスラエルにシリアへの攻撃に際して一掃の情報共有を行うよう要求していると伝え、翌日にはイスラエルのアヴィグドール・リーベルマン防衛相がロシアの圧力を拒否する旨を発言したと報じるなど、ロシア・イスラエル関係は注目の度を増しています。

10月24日にはイスラエルの『ハアレツ』紙が、衛星情報分析企業の分析を元に、ロシアによるシリア軍へのS-300配備の状況を伝えています。

10月26日にイスラエルのネタニヤフ首相は、国交のないオマーンに電撃訪問を行いましたが、これがロシアのシリアでの軍事プレゼンスの拡大や、イランのシリアへの拠点形成がもたらすイスラエルの安全保障環境の悪化という条件の変化、そしてそれを前提にロシアがイスラエルに促しているとされるイランとの接近と、どのように関係するのかが興味深いところです。

【寄稿】『中東協力センターニュース』7月号に中東国際秩序の新展開について

ブログでの報告が遅れていました。『中東協力センターニュース』への寄稿について2回分続けて掲載します。

『中東協力センターニュース』7月号に、中東国際秩序の再編に関する理論的な考察を寄稿しました。

池内恵「『中東』概念の変容  中国・インドの台頭と『西アジア』の復活?」『中東協力センターニュース』2018年7月号, 13-20頁

『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』『シーア派とスンニ派』(いずれも新潮選書)で過去100年の中東秩序を振り返りその再編過程について議論していますが、それらに続く最新の議論の進展を、『中東協力センターニュース』への連載寄稿ではリアルタイムにお見せしています。

この連載寄稿は、本や論文になる前の予備的考察という性質があり、ある意味でもっとも最先端の部分の模索の一部分をお見せしていることがあります。

前回4月号の寄稿「ムハンマド皇太子と『1979年以前のサウジアラビア』」では、ムハンマド皇太子による「改革」の根拠の不確かさ、それを欧米向けにPRする動き、中でもニューヨーク・タイムズ紙のコラムニストトマス・フリードマン氏が果たす役割、そしてそれを批判する、サウジ人ジャーナリストで事実上亡命しワシントン・ポスト紙のコラムニストになっていたジャマール・ハーショクジー(カショギ)氏による批判を紹介しました。10月2日に発生したイスタンブールのサウジ総領事館でのハーショクジー氏の殺害事件は、まさにここから重大な政治問題が生じ、中東国際政治の新展開のきっかけとなりました。

【出演】BS-TBS「報道1930」でハーショクジー氏殺害事件について解説

BS-TBS「報道1930」に出演しました。

10月18日午後7時30分〜8時30分ごろにかけて、BS-TBSのニュース番組「報道1930」の特集コーナー「サウジアラビア人記者 殺害疑惑 検証!皇太子の動静と事件発生のタイミング」に出演しました。

イスタンブールのサウジアラビア総領事館でサウジ人記者ハーショクジー氏が殺害された疑惑について、サウジの王位継承問題や中東国際政治との関連を含めて、1時間ほどかけて、包括的に解説しました。

元フォーサイト編集長の堤伸輔さんがゲストコメンテーターとして出演しているご縁から、この番組は前身の複数の同趣旨のニュース番組の時代から、大きな節目ごとに、私自身による番組スタッフへの背景情報の提供や、事前の番組構成過程への一定の参加を条件に、出演しています。今回も、テレビの解説としては格段の質と量になったと思います。私が最終的に確認できなかったフリップに関しては一部ミスもありましたが、可能な限り放送中に訂正することもできました。

【出演】BBC World Newsでハーショクジー氏殺害疑惑について解説

BBC World Newsに出演しました。

10月17日朝7時30分から、BBC World News の番組Asia Business Reportに、東京のスタジオからシンガポールに中継で繋いで出演しました

イスタンブール総領事館での記者殺害疑惑がサウジアラビアの政治・経済に与える影響、サウジアラビアのムハンマド皇太子との深い関係が知られるソフトバンク・孫正義氏に与える影響などについてコメントしました。

【寄稿】『国際問題』巻頭に「宗教と国際政治」について

『国際問題』に、巻頭エッセイを寄稿しました。今号の特集は「宗教と国際政治」で、エッセイのタイトルもそのまま「宗教と国際政治」として、研究動向の大きな流れを描きました。

池内恵「宗教と国際政治『国際問題』第675号, 日本国際問題研究所, 2018年10月, pp. 1-5.

論文へのダイレクトリンク
来月に次号が出るまでは、日本国際問題研究所の非会員でも無料でダウンロードと印刷が可能です。その後も閲覧のみは可能です。

【所属先名称・肩書きの変更】先端研に「グローバルセキュリティ・宗教分野」を立ち上げ教授に就任しました。

所属部署の名称と肩書きの変更をお知らせします。

10月1日付で、所属先と肩書きが変更になりました。今後の所属先と肩書きは、東京大学先端科学技術研究センター教授(グローバルセキュリティ・宗教分野)となります。

2008年10月に先端研に「イスラム政治思想分野」を設置していただき、10年間の任期で准教授を務めてきましたが、このたび、任期切れに伴い、様々な可能性を比較衡量しましたが、先端研に引き続き身を置き、新たに「グローバルセキュリティ・宗教分野(英語名称:Religion and Global Security)」を立ち上げ、その教授に就任することとなりました。

イスラム政治思想分野は行政上は幕を下ろしますが、今後もイスラーム政治思想研究・中東地域研究を続けて参ります。その上で、幅広く「宗教とグローバルセキュリティ」に関する研究を、企画立案し推進してゆく所存です。