【日めくり古典】まだまだ、モーゲンソーの見る政治イデオロギー


モーゲンソー『国際政治(上)――権力と平和』(岩波文庫)

「政治の基本的な発現形態、すなわち権力闘争は、しばしばありのままにはあらわれない。このことは、国内政治にせよ国際政治にせよ、あらゆる政治に特有なことである。むしろ、追求されている政策の直接目標としての権力の要素は、倫理的、法的あるいは生物学的な用語で説明されたり正当化されたりするものである。いってみれば、政策の真の性格は、イデオロギー的正当化や合理化によって隠されるのである。」(高柳先男翻訳分担、原彬久監訳、上巻、222頁)

モーゲンソーは法と道義、理想主義の価値を否定するものではない。そもそもリアリズムの祖とされる『国際政治』を紐解いてみると、勢力均衡とか国力の話はほんの少しで、大部分が様々な理念の話である。ただし、人間は理念を掲げて政治を行うが、それが権力政治を覆い隠してしまう。それによって実際の政治は見えにくくなるとともに、理念に覆われた権力政治は人間により大きな災厄をもたらすことがある。人間が理念を掲げ、イデオロギーに覆い隠して権力政治を行う存在であることから、それらを剥ぎ取ったリアリズムの視点が必要とされる。そこにこそ政治についての学の存在意義がある。