【地図】シリア北部にはトルクメン人もいる

前項の続き・・・

「シリア北部にクルド人が多く住んでいるなら、独立させてやればいいじゃないか」とか「欧米がサイクス・ピコ協定で勝手に国境線を引いたから」云々の、一知半解の「解決策」を語ってはいけません。

シリア北部には、クルド人と同じエリアに、トルクメン人が住んでいます。この地図では、トルクメン人が住む場所を示しています。

シリア北部トルクメン人
出典:dtj-online.de/syrien-turkmenen-befurchten-vertreibung-2771

シリア北部には、トルクメン人以外に、アラブ人も住んでいますし、さらに他の少数民族も住んでいます。クルド勢力が実効支配することによって、今度はその中での「少数民族」問題が発生しかねません。

トルクメン人は、名前からも類推できるように、トルコ人と互いに「同族」意識を持つ民族で、トルコは心情的に、あるいは政治的な方便から、トルクメン人の「保護」をしばしば持ち出します。介入、代理戦争も始まりかねないのです。

このあたりにそう簡単に国境線を引くことはできないので、サイクス・ピコ協定は、相対的には「いい線いってた」方策とも言えるのです。

【地図】トルコはシリア北部の「安全地帯」でクルド勢力分断を図る

「地図で見る中東情勢」のシリーズが長らくお休みしていました。忙しかったからね・・・

久しぶりに一つ。

トルコはシリア北部に「安全保障」地帯を設ける、というのを対「イスラーム国」での介入と協力の条件としてきましたが、7月22日のオバマ・エルドアン電話会談の前後に、米国がトルコに「安全保障」構想に同意を与えたと報じられています。

「安全地帯」の範囲についてはトルコの『ヒュッリイエト』紙などが伝えていましたが、『ワシントン・ポスト』紙が地図にしてくれましたので、ここで拝借してご紹介。

トルコのシリア北部安全地帯ワシントンポスト7月26日

“U.S.-Turkey deal aims to create de facto ‘safe zone’ in northwest Syria,” The Washington Post, July 26, 2015.

黒白点線(というのでしょうか)で囲ってあるあたりに、トルコが米国と協力して「安全地帯」を設けるというのです。

ここから「イスラーム国」を排除するというのが「安全地帯」の表向きの意味ですが、トルコは今のところ、地上部隊は投入しないと表明しています軍が消極的なのではないかと思います。

もっぱら空軍戦力で「安全地帯」を設定するということは、実態はこのエリアに「飛行禁止エリア」を設けるということが主体のオペレーションとなります。「イスラーム国」は空軍を持っていないので、実際には「安全地帯」の設定によって、アサド政権がこのエリアから排除されることになります。アサド大統領の退陣を解決策の必須要件とするトルコにとって、「安全地帯」の設定は、「イスラーム国」対策だけでなく、アサド政権対策という意味があります。

さらに、地図を見ていただくと、「安全地帯」の黒い部分、白点線の枠で囲まれたところの左右を見ますと、緑色に塗られています。ここにシリアのクルド人が多く居住しています。

シリアのクルド人は、東側の、ハサカより北のエリアと、西側の、アアザーズの北西とに分かれて飛び地のようになっています。

なんでこうなっているかというと、クルド人はシリア北部とトルコ南東部の一帯(それ以外にイラク北部・イラン北部などにも)に住んでいまして、本来は連続的な土地に住んでいますが、これがトルコ・シリアの国境線によって分断されたので、主従エリアがシリアでは飛び地になってしまっているのです。

シリアのクルド人は、オスマン帝国の崩壊の際、トルコ共和国が独立戦争で自力で領土を確保して国境線を引いたときに、シリア側に取り残された形です。

ですので、状況が許せばトルコ南東部のクルド人と一体化して独立を要求しかねない、とトルコは警戒しています。

シリア北部クルド人
出典:http://www.geocurrents.info/geopolitics/state-failure/isis-advances-kurds-retreat-northern-syria

クルド人が多数派を占める土地は、この地図では薄紫で塗られています。ハサカ北方のカーミシュリーを中心とした地帯と、コバニ周辺と、アフリーンを中心とした地域です。シリアが内戦でアサド政権の統治が弛緩する中で、これらの三箇所でクルド勢力が実質上の自治を確保しかけています。

別の地図でも。

シリア北部クルド人飛び地地図
出典:http://www.geocurrents.info/geopolitics/state-failure/isis-advances-kurds-retreat-northern-syria

さらに、クルド民兵組織YPGが勢力を強めて、テッル・アブヤドやアイン・イーサーといった「イスラーム国」が占拠していた地域を制圧することで、三つの飛び地のうち、東の二つがすでに繋がりかけているのです。そうなると、クルド人が必ずしも多数でないエリアまで、将来のクルド自治区→独立クルド国家に含まれてしまいかねません。

例えばこの地図。

シリア北部クルド人最大地図
出典:http://www.geocurrents.info/geopolitics/state-failure/isis-advances-kurds-retreat-northern-syria

シリアのクルド人が求めるシリアでの最大版図はこのようなものだそうです。三つの飛び地が結合していますね。これを「Rojava(西クルディスターン)」とクルド人側は呼んでいます。

トルコが設定するシリア北部への「安全地帯」は、このようなシリアでのクルド人の主張する最大の勢力範囲を、分断するような形になっています。

クルド人がいるのはシリアだけではないので、周辺諸国の地図の上にクルド人の居住するエリアを塗った地図を見てみましょう。

シリア・トルコ・イラク・イランのクルド人地図
出典:http://www.geocurrents.info/geopolitics/state-failure/isis-advances-kurds-retreat-northern-syria

一般に「クルド人」と呼ばれる人たちの間にも、細かな系統の違いがあり、一枚岩ではありません。しかし赤っぽい色で塗られているところには、その中でもクルド人意識が強い人たちが住んでいます。シリアを超えてトルコ南東部やイラク北部やイラン北西部、遠く離れたイラン北東部やアゼルバイジャンにも住んでいます。

この中で、シリア北部とトルコ南東部は、地理的にも最も容易に結合してしまいそうです。

そこでトルコは「安全地帯」の設定で、シリア北部でのクルド人の支配地域の間に楔を打ち込み、一体化を阻止しようとしているように見えます。

リアルタイムの解説は『フォーサイト』の「中東通信」で

7月9日から、『フォーサイト』で「中東通信」を開始していました。どうにか軌道に乗って、ほぼ毎日、ニュースの取捨選択と抜粋要約の記事をアップしています。今日は手が空かないのと、一般紙でも主要な中東ニュースがカバーされていたので、一休み。

記念すべき立ち上げ初日のニュースは下のような感じでした。

中東通信

やはり今月はトルコが岐路に立つ瞬間でしたね。「クルド勢力の台頭」(7月9日)、「『シリアにクルド国家を作らせない』(エルドアン)」(7月9日)、「トルコのクルド人がシリアで『イスラーム国』と戦っている』」(7月9日)、「シリアのクルド民兵勢力はトルコ介入を牽制」(7月9日)、「米国とトルコがシリア介入策をめぐって協議中」(7月9日)「トルコのシリア介入はクルド独立阻止のためなんでしょ?」(7月10日)といった具合でした。

その後・・・

7月20日のトルコ南東部スルチュ(シリア側のコバニと接する町)での、クルド支援団体の集会を狙った自爆テロをきっかけに、トルコが米国への基地使用許可を出しシリア北部への「安全地帯」設定での合意、トルコによるイラク北部のクルド反政府組織PKK拠点の攻撃と進む一方、PKKはトルコ政府に責を帰し、トルコの警察と「イスラーム国」両方への攻撃を行い、トルコはシリア北部で「イスラーム国」との交戦を行いトルコ国内での「イスラーム国」とPKK他の非合法組織の大規模摘発に踏み切り、PKKによるトルコ軍部隊への襲撃を行う、2013年以来のトルコとクルドPKKとの和平交渉が崩壊の危機に瀕する、といった形で、一気に状況が次の段階に進んでいます。

ニュース速報画面のようになった「中東通信」、今日はこんな具合です。

中東通信7月26日

『フォーサイト』の画面の右の「中東通信」の窓をクリックすると、ブログのように、巻物のように、クロノロジー的に時系列でこれまでの記事が一続きに表示されます

このような時は、ミクロの一つ一つの事象の経緯と意味を読み取って、マクロな全体状況の変化との関係を記録しておかないと、何がどう変わったかわかりにくくなりますので、このような形態の媒体を開発しておいて良かったと思います。

「中東通信」は立ち上げ直後ですのでまだ無料にしてありますが、そろそろ有料エリアに入れようかという話になっております。

明日朝まで、自分の論文のために東京を離れて籠っているので、テレビの解説などには出られませんが、隠れ家から時々分析をぽろっと出したりするので、気が向いたら見てください。時間がないときは「@chutoislam」で英語のニュースを解説なしでリツイートしていますので、パソコンの方はこのブログの右側に表示される英語ニュースを読んでおけば、何が起こっているかわかると思います。