宗教法学会の学会誌『宗教法』に論文を寄稿しました。
池内恵「何が宗教過激主義をもたらすのか––––イスラーム法学の権威的解釈主体にメディアの変化が及ぼす影響」『宗教法』第37号(2018年11月10日発行), 51–60頁
この論文は昨年6月に宗教法学会で共通論題に依頼されて行なった講演(池内恵「何が宗教過激主義をもたらすのか――イスラーム法学解釈の権威の構造とその近現代における変化」第35回宗教法制研究会・第74回宗教法学会、青山学院大学、2017年6月10日開催)を活字化したものです。見たところはアイデアのみをさらっと書いたような文章ですが、実際には、論理的に詰めてみるとかなり厄介な作業でした。
送られてきた学会誌で真っ先に目を通したのは、西澤宗英先生の「ルクセンブルク大公国における政教関係」でした。学会の場で(あと確か私が会場に忘れ物をして、開催校の西澤先生のところに取りに伺った際に長時間立ち話した際にも)この論文とその基礎となる学会報告について詳細にお話を伺うことができましたので、それが論文になるのを待ち遠しく過ごしておりました。
この論文が詳細にまとめているのは、ルクセンブルクで各宗教の「教会」を団体として認定し、それぞれの団体が代表者を選出して国と協議する、国は各「教会」に対して財政支援を行うと共に、一定の規制の対象ともする一連の法制の歴史的、そして最新の展開です。
この法制の中で、ルクセンブルクでは近年にイスラーム教もまた、あたかも「教会」があってその信徒団体があるかのように認知され、代表者を選出するようになったという点が、大変興味深いものでした。もちろんこれはフランスのような共和制・政教分離原則があるところでは難しく、ルクセンブルクのような小国の伝統の延長線上でこそ可能になったこととは思います。ルクセンブルクのムスリムの出身国や構成要素なども、西欧の教会と同様の組織形成・代表者選定を可能にした条件として、詳しく見てみないといけません。いろいろとヒントになる論文でした。
こういった学会に呼ばれて、講演を聞き、自分も講演をし、懇親会やその後まで議論をしなければ決して知ることがなかった研究に触れることは、何よりの喜びです。