先ほどのエントリで概要を記したが、6月19日の米NSC会合後のオバマ会見で示された対イラク政策の中核的部分のうち、今後の現地イラクでの政治の展開に関わって重要なのは、マーリキー政権への最後通牒あるいは「見放した」とすら聞こえる点だ。
イラク側にスンナ派を取り込んだ挙国一致政府の設立を求め、マーリキー政権には根本的に態度・政策を改めるか、本当は辞めてほしいんだがそうは言えない、ということとかなり露骨に表している。
該当するのは例えばこんな部分だ。【オバマ会見での演説原文】
Above all, Iraqi leaders must rise above their differences and come together around a political plan for Iraq’s future. Shia, Sunni, Kurds, all Iraqis must have confidence that they can advance their interests and aspirations through the political process rather than through violence. National unity meetings have to go forward to build consensus across Iraq’s different communities.
【意訳】シーア派を含むすべての勢力に暴力ではなく政治過程の制度内で利益を追求するよう求める。そのために挙国一致的な協議をし、宗派を横断したコンセンサスを形成してほしい。
で、そのようなコンセンサスを形成するためにはマーリキー首相のままでは難しい、と米政権は判断しているようなんだが、それについてこのように言う。
Now, it’s not the place for the United States to choose Iraq’s leaders.
【意訳】米国はマーリキー首相に辞めろと言うような立場にはない(本当は辞めてほしいんだけどね)。
the United States will not pursue military actions that support one sect inside of Iraq at the expense of another.
【意訳】しかし辞めないのなら、あるいは抜本的に態度を改めないなら、米国が軍事支援してもそれは特定の宗派(シーア派)を支援することになってしまうからできないかもしれないよ。
「問題は今のイラクには米国にとって同盟国として頼れる存在がいないこと。そもそもISISはマーリキー政権の政策が原因で米軍撤退後に再度出現し、一時はサウジなどの政府が、そして今でもサウジなどの国民の支持に押されることで、伸張している。マーリキー政権を支援すればかえってテロを増やしかねないし、同盟国であるはずのサウジに取り締まってくれと要請しても無理そう。」
と書いておいたが、マーリキー首相が同盟者としておぼつかないどころか、問題の解決策ではなく問題の一部なのではないか、というのがオバマ政権の認識だろう。
マーリキー政権の要請に応えて空爆などしようものなら、「米国はシーア派に加担してスンナ派のムスリムを殺した」とスンナ派諸国から火のついたように怒った義勇兵が押し寄せるのではないか・・・というのがオバマ大統領の見る悪夢でしょう。しかも介入がうまくいかないと結局はシーア派も含んでアメリカのせいにする・・・
シーア派(マーリキー政権が独裁化と汚職、イランの革命防衛隊・クドゥス部隊など過激な武装組織が介入)
スンナ派(ISISを支援・加担)
クルド勢力(この機に領土拡大して返さない、新たな紛争の火種)
のいずれも信用できない、みな都合のいいところだけアメリカの力を使い、少しずつ嘘をついている・・・というのがオバマ大統領から見た中東でしょう。
この政治情勢の中でISISを空爆しても、マーリキー政権に加担したと見られるだけ。マーリキー首相に解決能力がないことが一つの大きな問題で、それを変えさせるためのレバレッジとして使えるなら軍事攻撃も可、とオバマ政権は見ているのでしょう。
それを察知して、イラク側でもマーリキー追い落としの動きが進んでいるという。
Iraqi Factions Jockey to Oust Maliki, Citing U.S. Support, The New York Times, June 19, 2014.
イラク情勢は「(アメリカを巻き込む)戦争か」という関心から見るのではなく、米の政策とも関連して進む現地の動きを見ていかないといけない。