オバマのイラク問題への対策が明らかに

オバマが議会指導者との会合を行い、NSC会合を開いた後に、イラク政策をめぐって会見するというので待っていたが、GMT19日16時30分からのはずが遅れて17時30分ぐらいに開始された。要点だけ見て後は仕事に戻った。

会見での演説と質疑応答の内容は思った通り。

*当面の米の軍事的関与は「300人の軍事顧問団の派遣」にとどめ、イラク政府の特殊部隊の訓練に従事させる。
*偵察・インテリジェンスなど情報収集に時間を取る。早急な直接的攻撃には消極的。
*「数万人」といった規模の部隊の再投入は明確に否定。
*マーリキー政権にスンナ派を取り込んだ挙国一致政府の結成を求める。できないなら、「退陣しろ」とは名言しないが、支援を控える考えを濃厚に示唆。

オバマは米による直接的な軍事行動の可能性を否定したわけではないが、たとえあったとしてもそれは極めて小規模なもので、可能なら行わない。むしろ隠密裏での特殊部隊による急襲作戦で直接的に米国市民や重要な米国同盟者を救出するといったものになるだろうと予想できる。なにしろ冒頭の最重要項目が、「イラクの米大使館・人員を守る」なのである。

これらはオバマ政権のこれまでの対中東政策の理念と行動を丹念に分析していれば事前に容易に予想がついたことだ。別に米NSCの中に情報源などいらない。

官僚も含めて、そんな情報源を持っている日本人は「一人もいない」と断言していい。あるふりをしている方は怪しい。なくたって大丈夫なんです。ちゃんと公開情報を元に自分の頭で考えられれば。政治家やマスコミへの迎合とかを抜きにして、自分で調べて考えられる頭があれば、そしてそれを評価できる指導層がいれば、大丈夫です。そうやって知恵を絞れる知識層がいるか、指導層がいるかかどうかが、一級の国とそうでない国を悲しいほど厳然と分けます。

まだ分からない人がいるといけないので、以前にこのブログのエントリで書いておいたことを再掲してみよう(缶詰2日目~APUでイラクを想う)。

「現状のイラク情勢では米国が軍事行動に出るかどうかは主要な論点ではない。なぜか?オバマ政権が大規模な軍事行動をとらないだろうから。

オバマが先月の演説ではっきりさせたドクトリンだと、「テロは最大の脅威」としつつ、直接米国民に危害が及ぶようなテロの脅威がある場合以外は、対処は「同盟国にやらせる」ものとみられる。また、テロを産む政治環境の方を何とかしないとテロは終わらない、という認識。

アメリカ自身の軍事攻撃があったとしてもすごく限定的なものになるでしょう。邦人保護・救援に限定。それが「直接の脅威」への対処だ、というのがオバマ政権の立場でしょう。

日本での報道・論調は、いいかげん「こぶしを振り上げるアメリカ」を軸に報道するのをやめた方がいい。

現在の国際政治の焦点は「こぶしを振り上げないアメリカ」「振り上げても実は振り下ろさないアメリカ」を各地で各国がどう受け止めて、その結果何が起こるか、というものだ。」

ISISの伸張を受けて、またも「米がこぶしを振り上げた」「戦争になるぞー」という煽り報道をしようという動きが日本に出てきたのには驚いた。

確かにブッシュ政権時代の感覚からいえば、

中東で何か動きがある→米国が攻撃するという機運が高まる→その時だけ日本のマスコミ騒ぐ→米大統領が威勢よく会見→巡航ミサイルがドカーン

というバカバカしいほど分かりやすいパターンがあったので、それに慣れてしまっている人たちがいるのかもしれないが、オバマ政権ももう5年半過ぎた。

国際政治のパワーバランスも、米内政構造も米世論の機運も、政権の性質やスタイルも変わった。もうそのような単純な構図で準備して「祭り」のように中東国際政治を見世物的に報じることができる時代は終わっている。

普通に英語の新聞などを読んでいるだけで全く違う構図があり、論点があり、注目点があることがわかります。しかしそれと全く異なる言説が日本の新聞・テレビには溢れる。BBCをつけて見ているだけでも、実態は全く異なることが簡単にわかるのに、なぜ日本の視聴者に思い込みを押し付けるのか。

問題なのは、そういったメディアの要望に迎合し同調する専門家がいること。

そういえば、イランについても、「すぐにもイスラエルの攻撃がある」「イスラエルが攻撃すれば米も攻撃に参加する」「中東大動乱」といったマスコミ・ネタに同調する方々がいましたが、「アメリカはイランの核問題に関して異なる姿勢を取っている」「アメリカは冷淡」「アメリカの支援がない限りイスラエルが攻撃することはない」という点は明らかでした

オオカミ少年がいっぱいいたわけですね。

「大変だ~」「戦争になるぞ~」と騒いでメディアの片棒を担いだ方が、講演の話とかいっぱいくるし、政治家のアドバイザーになんて話にもなる。「学者」「専門家」にはそういった負のインセンティブがあるのです。一定程度オオカミ少年が出てくるのは不可避です。

重要なのは、誰がオオカミ少年かをきちんと判定して、そういう人がメディアの論調や、そして政策決定に(←ここ重要)影響を与えないようにすることです。言うだけなら言論の自由の範囲内ですが、悪影響を社会と政治に与えないようにすればいいのです。

日本もNSCを作って首相が機動的に外交・安全保障政策を策定していけるように制度を整えようとしていますが、それ自体はいいことですが、まだ旧時代に育った人材しかいませんので、器に見合った人員を揃えられるかは極めて不安。内外の変動期に「生兵法」で重大な過誤を犯してはなりません。