秋は学会(3)アジ研のセミナー「中東域内政治の新展開」でモデレーターを

秋の学会の流れでもう一つ。

ジェトロ・アジア経済研究所の「専門講座」が赤坂アークヒルズのジェトロ本部内で開かれます。イラン、トルコ、サウジの専門家が報告し、私はモデレーターを務めさせていただきます。

アジア経済研究所専門講座「中東域内政治の新展開——イラン・トルコ・サウジの視点から」
2016年11月4日(金)14時30分~17時05分 (開場:14時00分)

参加は無料です(先着200名)。ウェブサイトから事前申し込みが必要です。

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アジア経済研究所(通称「アジ研」)は、日本でほぼ唯一の(世界でも稀な)、発展途上国全域をカバーした地域研究・開発研究の機関で、かつては独立した特殊法人でありましたが、橋本行革の際に共に経済産業省管轄の特殊法人だったジェトロ(日本貿易振興会・当時。現・日本貿易振興機構)と統合しました。以前は曙橋(防衛省の隣・現在は中央大学の市ヶ谷キャンパスの建物)にありましたが、現在は海浜幕張に移転しています。

ジェトロとの統合効果で、こういった広く関心を呼びそうな講演会・セミナーは、都心・赤坂のジェトロ本部の大きなセミナールームで開催してくれます(多くは無料。有料の場合も数千円程度です)。

私の最初の就職先もこちらで、10年・20年かけて研究者を育ててくれるこの組織の特典を利用することもなく、3年で転出してしまい、おそらく最短滞在記録のOBとなってしまいましたが、その後もなにかと研究会・講演会など、あるいは専門誌への論文の寄稿特集の企画・編集などで声をかけてくださることがあり、新たに創刊された現代中東分析の学術誌『中東レビュー』にも長い論文を寄稿させていただきました。今後も編集のお手伝いをしたり、論文を投稿するなど、関与していきたいと思っています。

今回も、シニアの研究員から、若手のすでに実績ある研究員まで、経産省傘下の機関ならではの、豊富な人的・組織的リソースを動員して、専門知識を一般に公開してくれますので、ぜひご来場ください。

詳細はこちらから

念のため、セミナーの紹介文を以下に貼り付けておきます。

9.11米国同時多発テロから15年目の今年、米国では第45代大統領を選出する選挙が大詰めを迎え、欧州を巻き込みながら激動を続ける中東情勢もまた再び新たな段階に入ろうとしています。本講演会では中東情勢を理解するための最も重要な要件でありながら日本では正面から取り上げられることの少ない中東の域内国際関係を各国の専門家が整理し、今後数年間の見取り図を得ることを目的とします。

2011年初頭からの「アラブの春」を経た現在、中東域内の主要なアクターは大きく様変わりしており、それはイラン、トルコ、サウジアラビアの三カ国であるとみられます。米国の新大統領が最初に取り組むべき最大の課題のひとつはシリア問題でありますが、この三国はシリアに関してそれぞれ異なる利害を有しています。

さらにこれら三カ国間の相互の二国間関係はそれぞれ錯綜しており、一国からのみの視点では到底バランスのとれた理解に至ることは難しいです。そこで本講演会では上記三カ国の専門家が幾つかの共通の設問についてそれぞれの国の立場からの回答を試み、最後の質疑応答および討論の時間に中東政治の今後数年間の展望に至ることができれば幸いと考えます。

皆様のご参加をお待ちしています。

開催日時
2016年11月4日 (金曜) 14時30分~17時05分 (開場:14時00分)

会場
ジェトロ本部5階 展示場 pdf
(東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビル5階)
最寄り駅:東京メトロ 南北線六本木一丁目駅・銀座線溜池山王駅・日比谷線神谷町駅

プログラム
(予定)

14:30~14:40
趣旨説明
鈴木均(新領域研究センター上席主任調査研究員)

14:40~15:10 講演1 「イランからみた中東域内政治」
鈴木均

15:10~15:40
講演2 「トルコからみた中東域内政治」
今井宏平(地域研究センター 中東研究グループ研究員)
15:40~15:55 休憩

15:55~16:25
講演3 「サウジアラビアからみた中東域内政治」
福田安志(新領域研究センター 上席主任調査研究員)

16:25~17:05
質疑応答・討議、総括
<モデレーター>
池内恵 氏(東京大学先端科学技術研究センター准教授)
<パネリスト>
鈴木均
今井宏平
福田安志

使用言語
日本語

主催
ジェトロ・アジア経済研究所

参加費
無料

定員
200名 ※定員になり次第、締め切ります。

お申し込み締切
2016年11月1日(火曜)17時00分 (ただし、定員に達した場合、事前に締め切らせていただきます。)

※ 取材のため会場内にメディアのカメラや撮影チームが入る可能性もありますのでご了承ください。

【今日の一枚】(33)トルコ侵攻後のシリア・イラク地図2016年9月

シリア内戦の最新の地図です。BBCが、IHS Conflict Monitorの情報に基づいて作成したもの。同様の地図をISWに基づいて出している報道機関も多くあります。

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“Islamic State group: Crisis in seven charts,” BBC, 7 September 2016.

ジュネーブで2016年9月9日深夜から10日未明にかけて、ロシアと米国の間で、シリア内戦の戦闘の緩和を目指すある種の合意が結ばれ9月22日にまず48時間の停戦が発効しました。しかし数日間・数週間程度は表面上戦闘の規模が収まっても(あるいは単に戦闘の報道が収まっても)現地の情勢が大きく変わるとは思えません。アサド政権とロシアは、反体制派を「テロリスト」と任意に指定して攻撃を続けることを認めるという、従来からの実効性のなかった停戦合意と構造は変わらないからです。

おそらく現地でもっと重要なのは、トルコ軍のアレッポ北方への侵攻と、トルコ軍に支援されたシリア反政府勢力による、シリア・トルコ国境地帯での支配領域確保でしょう。この地図では紫色で示されている部分です。シリアのトルコとの国境地帯の細い範囲が、過去の地図と比較すると新たに塗られています。2016年8月末から9月前半にかけての動きです。

この付近一帯への、トルコが設定を主張するがアメリカが認めていない「飛行禁止区域」がどの程度現実化するか。それが当面の鍵となりそうです。

そして、シリアからイラクを一体のものとして描き、アサド政権の支配領域、シリアからイラクにかけてのクルド人の支配地、トルコに支援されたシリア反体制派の支配地、シリアからイラクにかけての「イスラーム国」の支配地に描き分ける地図の描き方、その認識の視座が定着することこそが、今後のシリア内戦の終結に向けての国際合意や、イラクを含めた

シリアの反体制派の支配地がトルコと隣接した地域に集約されていく様子も、この地図から見えてきます。

さらに数年以内には、トルコの国内の、シリアに隣接したクルド人領域もこの地図に加えて描かれるなどということがあるのでしょうか。全くないとは言えません。

【今日の一枚】(32)中東の国境線を引き直すなら(6)「イスラーム復興」の野望

中東再分割の地図をいろいろ紹介してきましたが、最も話題になった、印象に残っているのはこれかもしれません。

イスラーム国黒地図2世界
出典:“The ISIS map of the world: Militants outline chilling five-year plan for global domination as they declare formation of caliphate – and change their name to the Islamic State,” Daily Mail, 30 June 2014.

「イスラーム国」が目指すカリフ制の支配領域は、ここまでなのだ、と真偽は不明ですがウェブ上で出回っているものを、いろいろな新聞が転載して、よく知られるようになったものです。

日本の世界史の教科書に載っているような、イスラーム世界の栄光の時代に征服して支配していた土地は全部取り戻すというのですね。「イスラーム国」あるいはそれを支持する勢力がこのような世界観と地理感覚・地理概念を持っていることは確かです。

【今日の一枚】(31)中東の国境線を引き直すなら(5)イスラーム国の黒地図

中東再分割の地図でもっとも有名といえば、「イスラーム国」による中東、そして世界の再分割の野望を示したものとして出回っている、黒地図でしょう。真偽のほどは分かりません。このような発想は広くアラブ世界の民族主義的な界隈に広がっていることは確かですが。

イスラーム国の黒地図1
出典:“The Fall of Mosul to the Islamic State of Iraq and al-Sham,” Institute for the Study of War, June 10, 2014.

「イスラーム国」がモースルを占拠して大きな話題になってすぐに、ISWがブリーフィングのプレゼンテーションのスライドを公開して、その中に、どこからか入手した、「イスラーム国」側がもくろむイラクとシリアの新たな「州(wilaya)」への分割計画を示したものとみられる、このおどろおどろしい黒く塗られた地図が入っていました。これがその後の「イスラーム国」に関する議論でも使われ続けています。実際、その後の「イスラーム国」はおおむねこの地図に基づいた統治・行政区画を主張しています。

これまでに示したように、欧米の言論の場で中東再分割とその地図についての議論が盛り上がっていたところに、「イスラーム国」が出てきて、どことなく符合する独自の案を出してきた(ように見えた)ことが、様々な想像力を刺激したのでしょう。

【今日の一枚】(30)中東の国境線を引き直すなら(4)2007年末のゴールドバーグの記事

ロビン・ライトの中東再分割地図の記事がニューヨーク・タイムズ紙に出て議論の軸になると(この人は英語圏で中東に関していつもそのような役割を負うようですが)、例のArmed Forces Journalはじめ、「うちがこの件では元祖だよ」と言い出すようになったのですが、その中で話題なったのは、オバマ大統領とも近く、中東やイスラエルに強いジャーナリストのジェフリー・ゴールドバーグが2014年6月に出した論稿。「イスラーム国」がイラクのモースルを陥落させ、「中東の地図を塗り替える」と息巻いたところで、「うちは2007年にはこのことを予期していました」と「ドヤ顔」です。まあこういうのも「だからアメリカの陰謀だ」という話のネタになってしまうのですが。

中東分割案アトランティック2007
出典:Jeffrey Goldberg, “The New Map of the Middle East:  Why should we fight the inevitable break-up of Iraq?,” The Atlantic,  June 19, 2014.

この地図はアトランティック誌の2008年1・2月号に最初に載ったものでした。

Jeffrey Goldberg, “After Iraq: A report from the new Middle East—and a glimpse of its possible future,” The Atlantic, January/February 2008.

 

【今日の一枚】(29)中東の国境線を引き直すなら(3)米退役軍人作家の奇想

中東再分割の地図としてもっとも有名で、物議を醸したものが、これ。2006年に、米国の退役軍人の作家が、米軍人さん向けの雑誌Armed Forces Journalに載せたもの。民族や宗派に合致するように国境線を引いたら、こうなるよ、と大胆に引き直してみせた。

中東分割案2006Armed Forces Journal出典: Ralph Peters, “Blood borders,” Armed Forces Journal, June 1, 2006.

これは別に米国の政策でもなんでもなくて、ただ仮説として面白半分に書いただけなようだが、軍人さん向けの雑誌に載ったために、「米国の陰謀!」として中東及び世界の陰謀論で使いまわされる結果となった。

ウェブ版の記事には地図が載っていないのだが、話題になりすぎたから隠したというわけでもなく、単に紙媒体からウェブにデータを移行するときに載らなかったみたい。

2013年9月にロビン・ライトがNYTで中東再分割地図を、ネタとはいえ多少本気な感じで提案して話題になった時に、AFJの編集部も、「弊誌ではずっと先にやっていました」と、改めてウェブサイトに地図を載せている。悪びれた様子はない。「米政府の見解とは無関係、言論の自由です」ということなのだろうが、米国がやることはいちいち注目されるので、もう少し配慮がないものか。「イスラーム国は中東分割をたくらむ米国の陰謀」といった議論をする論者には、軍人さん向けの一般誌のお楽しみの記事でも「動かぬ証拠」になってしまいます。

“Peters’ “Blood borders” map,” Armed Forces Journal, October 2, 2013.

【今日の一枚】(28)中東の国境を引き直すなら(2)キング・クレーン報告書

中東を再分割するなら?という思考実験で用いられる地図のその2。1919年のキング・クレーン委員会の報告書で行われた提案。2013年にアトランティック誌が引っ張り出して来て、ちょっと話題になりました。

キングクレーン委員会

出典:“The Middle East That Might Have Been: Nearly a century ago, two Americans led a quixotic mission to get the region’s borders right,” The Atlantic, February 13, 2015.

1916年のサイクス=ピコ協定での植民地分割密約に固執する英仏に対して、民族自決を掲げたキング・クレーン委員会はキングとクレーンの二名を団長とするアメリカ人主体の調査団を送り込みました。

『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』(新潮選書)でも書いたように、実際には1920年のセーブル条約でいったん極端に分割されたオスマン帝国領土を、1923年までに新生トルコ共和国が一定程度奪い返して決着します。

しかし、より現地の民族・宗教・宗派を考慮して線引きすればこうなったかもしれない、というのがキング・クレーン報告書です。

その後人口構成が変わっているので、アルメニアのところなどは現在は全く現実味がありませんが。イスタンブルの国際管理など、現代には考えられないことですが。

【今日の一枚】(27)中東の国境を引き直すなら(1)ロビン・ライトが書いたもの

シリアの分割を考えるときに参照される歴史地図を先日示しましたが、中東全体に国境線を引き直すなら、という思考実験は多く行われています。いくつか紹介しましょう。

一つはこれ。

中東分割地図1(NYT)
出典:Robin Wright, “Imagining a Remapped Middle East,” The New York Times, September 28, 2013.

この地図に付された記事はこれ。筆者は中東ジャーナリストのロビン・ライト。ワシントンの政治家にも近い有力・有名な人なので、アドバルーンか?と噂されたものです。

Robin Wright, “How 5 Countries Could Become 14: Slowly, the map of the Middle East could be redrawn,” The New York Times, September 28, 2013.

【今日の一枚】(26)シリア内戦の地図と言えばInstitute of the Study of War

地図をいろいろ紹介していますが、これらはみな、英語圏の有力メディアやシンクタンクが上手にcartographyを駆使して作ってくれたものを借用しています(出典とURLは明記してあります)。

New York TimesとかEconomistとか、そういった地図を作るのが上手な人を囲い込んで投資しているから上手なのですが、地図を作る人自体は中東については専門ではないので、中東の情報はシンクタンクなどから仕入れてきています。最も多く参照されるのがInstitute of the Study of Warです。

Institute of the Study of Warのウェブサイトを見ると、逐一レポートが公開されていて、その目玉は戦況を描いた地図です。最近のものだと、
“RUSSIAN AIRSTRIKES IN SYRIA: JULY 28 – AUGUST 29 2016,” Aug 30, 2016.
でしょうか。このような地図が掲載されています(地図PDFへのダイレクトリンク)。

シリア内戦地図2016年8月ISW

トルコの支援で国境地帯に辛うじてへばりついている反体制派が黄色いエリアで塗られていたり、ロシアの空爆が、アラド政権が奪還を目指すアレッポに集中的に行われていたり、といったことが分かります。

【今日の一枚】(24)シリア北部「回廊」地帯の詳細

昨日の日経新聞の「経済教室」や、先日の『フォーサイト』への寄稿を読んでいただいた人には、分かりやすいかもしれない。

シリア北部回廊地帯詳細2015年12月

出典:Fabrice Balanche, “The Die Is Cast: The Kurds Cross the Euphrates,” The Policy Watch 2542, The Washington Institute, January 5, 2016.

詳細な地図のPDFファイルはこちらから

8月24日のトルコによるシリア北部・アレッポ北方のシリア・トルコ「回廊」地帯への地上部隊侵攻で、いっそう明白になったこの地域の性質と重要性。アレッポ北方の、ジャラーブルスやマンビジュ、アル・バーブやアーザーズなどの位置関係や、アラブ人、クルド人、そしてトルコが同族とみなすトルクメン人などの混住状況もこの地図には描かれています。

この地図から、トルコ側のガズィアンテプで、8月20日に、クルド人の結婚式に対してテロが行われた(「イスラーム国」側がやったとされるが、詳細は不明)ことも納得がいくでしょう。

この地図は昨年12月段階のもので、その後クルド人勢力はマンビジュ方向に延伸したり、アル・バーブの方向への進出を窺ったりして、色分けは変化しています。この地図を基礎に変化を見ていくと、何が起こっているかが見えてきます。

アサド政権はこの地図で描かれているアレッポ北方で回廊を断ち切ろうとする。逆にアレッポの西のイドリブ県を制圧している反体制勢力は南方のアサド政権のアレッポへの補給路を断とうとする。これらが、この地図替えかがれた以降の展開です。

この状況下で、トルコはもっぱら対YPGで介入してくるだろう、ということが誰の目にも明らかで、「いつ」が問題になっていました。ロシアとの緊張の激化や、国内でのテロの続発、クーデタ未遂や大規模粛清といった目を奪う事象が繰り返されてきたため気が逸らされがちですが、シリア内戦の構図と、それに関与するトルコの姿勢は、基礎的条件が変わらないので、それほど変わっていないのです。

「ユーフラテスの盾」という作戦名が明らかにしているように、「回廊」地帯の東端を画すユーフラテス河を、クルドYPG勢力に越えさせない、というのが、今回のトルコの作戦の目的。

クルド人勢力が、2014年には「イスラーム国」の伸長で、コバネなどで追い詰められていたところから挽回して、それによって欧米の支持も高め、領域支配を広め、ついに2015年12月にはユーフラテス河以西に勢力を伸ばし始めた、という時点で、現在のトルコのシリア北方への軍事介入は必然視されていました。

こういった詳細な地図は、日本語のメディアでは作ってくれるところがない。やはり需要がないということなのだろう。

 

【寄稿】日経新聞「経済教室」への今朝の寄稿と、過去の寄稿のリスト

昨日お知らせしていましたが、今朝の日本経済新聞朝刊の「経済教室」欄に論稿が掲載されています。

池内恵「流動化する中東(下)シリアの混乱、収束みえず  トルコへ波及懸念高まる」『日本経済新聞』2016年9月1日朝刊

「経済教室」からは時々依頼を受けて書いています。書き手としては、新聞の寄稿としては例外的に長い字数を書くことができることや、しばしば新聞社ではありがちな、旧弊なイデオロギーに合致した記事を求める編集部からの横槍がなく、全般にストレスの少ない媒体です。企業・官庁勤めの人たちの共通認識を形成するということもあり、意識して総合的な見地を出そうと試みています。

経済学の人たちとは違ってめったに依頼は来ませんが、節目には書いてきた記憶があります。あらためて並べてみますと7本ありました。

外部寄稿は権利問題が曖昧だったこともあるのか、日経電子版の検索だけでは出てこないものがあるようなので、日経テレコンの検索で検索して、出てくる情報をそのままリストアップしました。

リンクは日経電子版にあるもののみ貼っておきます。日経テレコンなら全部読めるかというと、そう単純ではなく、古いものは外部執筆者の寄稿は本文が収録されていなかったりします。

(1)日経電子版でも日経テレコンでもタイトルも本文も出てくる。(2)日経電子版ではタイトルも本文も出てこないが、日経テレコンではタイトルも本文も出てくる。(3)日経テレコンでのみタイトルは出てくるが、本文は出てこない、といったさまざまな場合があるようです。

新聞の寄稿はタイトルやサブタイトルがどれなのか明瞭でないので、日経テレコンの見出し情報を張り付けておきます。その当時の所属などが含まれているので、今となってはそれも情報です。

最初は2003年5月に書いているんですね。まだ20代で、若かったなあ・・・「イラク侵攻で早期にサダム・フセイン政権が崩壊し、ブッシュ大統領が勝利宣言をしたものの、問題は国家再建ではないか」という出だしを記憶しています。あれから幾星霜、中東は大きく変わり続けています。

(2004年のものまでは、日経テレコンでもタイトルのみで、本文が出てきません。これらは『アラブ政治の今を読む』『イスラーム世界の論じ方』に採録されています)

エジプトのムバーラク政権直後に各国に波及する最中に書いた「中東民主化(下)ドミノの行方」では「変化の方向性は一様ではない。一連の変化が「民主化ドミノ」として作用し、公正で安定した中東が出現する可能性はないわけではないし、それを日本も支援すべきだが、当面は「変動ドミノ」として、各国の抱える固有の政治・経済・社会問題が噴出する混乱期を見越して対策を取っておかねばならない」と書いていました。

その後、固有の政治・経済・社会問題が噴出し過ぎて、もう何が、なんだか。

リストに「さわり」のところをいくつか抜き書きしておきます。詳しくは日経電子版で。日経テレコンを契約している大学や官庁・企業の人はそちらで。

(1)「イラク復興と世界経済(中) アジア経済研究所研究員池内恵氏(経済教室)」2003/05/08  日本経済新聞 朝刊

(2)「イラク暫定政権へ主権移譲 国際日本文化研究センター助教授池内恵氏(経済教室)」2004/07/01  日本経済新聞 朝刊

(3)「中東民主化(下)ドミノの行方 東京大学准教授池内恵氏(経済教室)」2011/02/25  日本経済新聞 朝刊
「中間層の厚みが成否左右 受け皿なく混乱も」
「これらの体制構造疲労と社会内の根深い対立を強権によっておさえ込んできた国々では、体制批判を口にすることの恐怖心をかなぐり捨てた民衆による、大規模デモによって政権に強い圧力がかかる。政権の大幅な譲歩から政権崩壊まで、さまざまな変動を、もはや与件としてとらえなければならない。政権と軍部とイスラム組織に加えて、「大規模デモ」を重要な政治的行動主体として、当面のアラブ政治は進んでいくだろう。」
「変化の方向性は一様ではない。一連の変化が「民主化ドミノ」として作用し、公正で安定した中東が出現する可能性はないわけではないし、それを日本も支援すべきだが、当面は「変動ドミノ」として、各国の抱える固有の政治・経済・社会問題が噴出する混乱期を見越して対策を取っておかねばならない。」

(4)「シリア内戦と国際秩序(上) 東京大学准教授池内恵氏(経済教室)」2013/09/26 日本経済新聞 朝刊
「米軍のシリア攻撃にオバマ政権の姿勢は揺れ動き、9月14日にロシア主導で「シリアの化学兵器の廃棄」をめぐる米ロの合意が結ばれた。しかし、これをあたかも「幕引き」のように受け止めるならば、問題の性質と意味を根本的に取り違えることになる。」
「シリア内戦は幾重にも行き詰まり、膠着状態にある。2011年3月の大規模反政府デモ発生から2年半を経たシリアの状況には、次の4点が顕著になっている。(1)対立の構図は地域間・階級間闘争の様相を強め(2)闘争の軍事化が進み(3)宗派紛争への転化が見られ(4)グローバル・ジハード勢力の侵入が進む。」
「内戦の泥沼化によって危惧されるのは、シリアがグローバルなジハード主義者たちの新たな聖域となることである。ジハード主義勢力の伸長は、欧米の支持と支援を阻害するとともに、反政府勢力間の足並みの乱れや分裂の要因にもなっている。
反政府勢力の多数がグローバルなジハード主義者とはいえず、アルカイダとつながる組織も主流ではない。しかし「圧政者に対するジハードは義務である」という規範は多くのイスラム教徒に共有されており、シリア内外の一般ムスリムが、反アサドで武器を取って戦うことを宗教的義務と感じる状況になっている。」
「シリアをめぐって明らかになったのは、米国の中東へのコミットメントの意志と能力の低下であり、関与を減らそうとする国民的意思を反映したオバマ大統領の消極性である。投資や技術や教育といった分野も含めれば、米国に取って代わる超大国は現れていないが、同盟国の政権が米国に寄せる信頼や、反米諸国が米国の意向を恐れる度合いという意味では、米国の覇権が希薄化しているといえよう。
これがオバマ政権期の一時的な現象ではなく、より長期間持続する趨勢であるならば、今後は、米国の抑止力の下で安全保障を確保してきた中東の同盟国は、独自の行動を取りかねない。」

(5)「強まる地政学リスク(下)東京大学准教授池内恵氏――民主化挫折、過激派に勢い、中東全域、不安定化も(経済教室)」 2014/09/12 日本経済新聞 朝刊
「では中東の地政学的リスクとはいかなるものなのだろうか。日本にとって不可欠である、中東産原油・天然ガスの国際市場への安定供給についていえば、これほどの混乱にもかかわらず、むしろ原油は値引きした密輸を含んだ自生的なルートで市場に流れ続けており、原油価格の急騰や供給・運搬ルートの途絶といった事態が近く生じるとの観測は、むしろ沈静化している。
また、イランの核問題での対立によるホルムズ海峡の閉鎖や、パレスチナ問題をめぐる地域規模の動乱といった、周期的に危機意識があおられるものの現実化しなかった致命的な一撃の可能性も低い。
問題はむしろ、中東全域で治安や政治の安定度がおしなべて低下することで、中東地域に対する政治的・経済的な関与への自由で安全なアクセスが制約されることである。域外の政府や企業は、地域大国の代理戦争や宗派間対立、問題ごとに組み替えられる流動的な同盟・敵対の関係、それによって性質や場所を変えて勃発する紛争といった「複雑怪奇」な中東情勢がもたらす多種多様な地政学的リスクの回避に、多大な労力を払わなければならなくなる。」
「しかし、世界のムスリムの一部を過激な行動に駆り立ててきたのは、アラブ諸国の政治体制が「不正義」であり、それを倒すためには背後で支援する外国勢力にも打撃を加えなければならないという認識と思想である。これが払拭されなければ、事態の根本的な解決には至らないだろう。紛争と対策の長期化を予想すべきである。」

(6)「イスラム過激派の脅威 「テロ思想」強まる拡散懸念 池内恵 東京大学准教授」2015/1/27付日本経済新聞 朝刊
「全世界のイスラム教徒の大多数は、平和を望み法を順守する市民である点で他の宗教や無宗教の人々と変わらない。問題は教義に含まれる政治・軍事的な規範であり、その特定の解釈を強制力(ジハード=聖戦)で実践しようとするイデオロギーである。」
「事件後、米国は全力を挙げて対テロ戦争に取り組み、世界各地のアルカイダの拠点を破壊し活動家を摘発した。潜伏下に置かれたアルカイダは「組織からイデオロギーへ」の変貌を遂げた。ビンラディンやザワヒリら中枢組織の指導者は音声や映像メッセージをインターネットを通じ配信することで、世界各地の共鳴者を感化させ、扇動した。
イデオロギーとしてのアルカイダは各地に独立した支部や関連組織を生み出していった。「フランチャイズ化」や「ブランド化」と呼ばれる。」
「先進国の移民イスラム教徒の間には、大規模な武装組織化は摘発を招くため、小規模な組織を多数、相互に連絡なく形成し、それぞれが自発的に象徴的な標的に向けてテロを行う、ローンウルフ(一匹おおかみ)型のジハード実践の扇動がなされた。
このようにして、アルカイダの中枢の直接の指揮命令系統にはつながっていない、非集権的で分散型のネットワークに、グローバル・ジハードは担われるようになった。変貌した組織の原理を理論化した思想家アブー・ムスアブ・アッ・スーリーは、先進国で小規模の組織が自発的に行うテロを「個別ジハード」とし、世界各国からジハード戦士が結集して大規模に武装化・組織化することを「開放された戦線」と定義した。」

(7)「流動化する中東(下)池内恵東京大学准教授――シリアの混乱、収束みえず、トルコへ波及、懸念高まる(経済教室)」2016/09/01 日本経済新聞

【寄稿】明日(9月1日)日経新聞「経済教室」に

明日、9月1日の日経新聞「経済教室」に寄稿しています。3回シリーズ「流動化する中東」の第3回(下)です。体調を崩していたので間に合うかおぼつかなかったのですが、最終回にどうにか間に合いました。

シリーズのこれまでのところを見てみました。上は、間寧さん(日本貿易振興機構アジア経済研究所中東研究グループ長)、中は田中浩一郎さん(日本エネルギー経済研究所中東研究センター長)です。

間さんはトルコのエルドアン政権とギュレン派の対立など内政を中心に、それに絡んだ欧米との関係の冷却化に言及しつつ、トルコはロシアと欧米と両方との関係をもって梃子にしてきたことから、軋轢の高まる欧米との関係も、決定的に悪くはならないのでは、という見通しも示唆していらっしゃいます。

田中さんは、米国のエネルギー資源の中東依存度の低下、原油価格の低迷などを背景に、米イラン核合意で高まったサウジアラビアの危機感が、イランとサウジの対立を激化させ、地政学リスクを高める要因となっているといった点を含め(雑なまとめですみません)、トルコの「イスラーム国」や他のシリアのイスラーム主義民兵への支援などについて、ニュアンスに満ちた解釈を示しておられます。

それに対して私の方は、「アラブの春」以後のアラブ諸国の国家と社会の崩壊が、民兵集団の跋扈する武力の多元化状況をもたらし、トルコやロシアなど地域大国・域外大国の介入が加わって流動化する流れを主に議論しています。

「経済教室」はシリーズの他の回が誰になるか、どんなテーマと内容かを教えてくれないのですが、結果的に相互補完的になるのが不思議です。

また、単争点的な議論をしない人が主に執筆依頼を受けるためか、総合的な部分では重なるところが多いようです。トルコから、イランから、アラブから見たとしても、いずれも米国やロシアとの関係が及ぼす影響を考慮しますし、非国家主体の台頭にも着目します。また、アラブの問題にイランやトルコが介入することが当たり前になってきたため、切り分けて論じることに、またどれか一つの視点を絶対視して議論することに、意味があまりない時代になってきました。

そのため、どの視点からも、結論に違いはないのではないでしょうか。

【今日の一枚】(23)シリア内戦の相関図(2016年8月現在)

「シリア内戦の諸当事者の数と相関関係はこんなに複雑!」という図は、英語圏の主要メディアが何度となく、手を替え品を替え、グラフィックの能力を競うかのように、出してきました。若干面白半分というか、呆れ半分にいろいろな描き方が過去に提起されてきました。シリアだけでなくイエメンやリビアなどアラブ世界で並行して進む内戦・国家崩壊への、各勢力の関係を含めるともっとややこしくなります

8月24日以降のトルコ軍部隊のシリア北部侵攻を受けて、CNNが最新の図を出してくれました。

シリア内戦相関図CNN20160825
“The free-for-all in Syria will make your head spin,” CNN, August 25, 2016.

「トルコと旧ヌスラ戦線の関係はどうなの?」とか、いろいろ突っ込みたい人はいるでしょうが、すべての当事者が出揃った感があります。

【今日の一枚】(22)英エコノミストのDaily Chartはやはり秀逸

昨日、英Economistのシリア内戦勢力図が、4月段階のものと8月段階のものを比べてみると、やはり簡にして要を得た、優れたものであることを見てきました。

日々の記事に添えられた地図やグラフがすばらしいのですが、こういったグラフィックを集めたDaily Chartというカテゴリのコーナーはお勧めですね。

拙著『サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』は今年5月の100周年に合わせて出し、地図を多く作成して添えておきましたが、Economistも記念日に合わせてDaily Chartに地図を配信していました。

英エコノミストDaily Chart_May_16_2016
“Daily chart: Sykes-Picot 100 years on,” The Economist, 16 May 2016.

英仏だけでなく、より中東に密着したロシアが、この協定に加わっていたことを描いていますね。帝政ロシアはトルコ南東部の、当時アルメニア人やクルド人が多く住んでいた地域に、南コーカサスの勢力範囲を延伸して介入してきた。そして、イスタンブル周辺の戦略的要衝のボスフォラス・ダーダネルス海峡の支配圏も、英仏に対して認めさせた。結局帝政ロシアが翌年の革命で崩壊したので夢と終わったのですが。そうでなければ世界地図は大きく変わっていたでしょう。

サイクス=ピコ協定は、それが何かの原因というよりは、露土戦争と東方問題の「結果」であるという認識があると、現代の中東情勢を見る際にも、現地の地政学的環境を踏まえた視点が定まります。

【今日の一枚】(21)シリア北部ジャラーブルスへのトルコ軍部隊の侵攻の背景は

少しお休みしていた「今日の一枚」を再開してみましょう。「続き物」として道筋を通そうとすると、事態が発展していくうちに追い抜かれたりしてややこしくなって結局更新が滞るので、気楽に「一枚」をぺらっとアップする初歩に立ち戻ります。

ただでさえややこしいシリア内戦ですが、8月24日に、トルコ軍戦車部隊がシリア北部のジャラーブルスへ侵攻し(よりによって米バイデン副大統領のトルコ訪問の最中に!)、いっそう関与・介入する当事者が増えました。

ここでシリア情勢の現状を再確認しましょう。かなり重要な転換点です。

やはり英Economistは地図が的確ですね。

シリア情勢地図20160811_Economist20160827
“Smoke and chaos:The war in Syria,” The Economist, 27 August 2016.

ポイントはアレッポの北方、シリア・トルコの国境地帯の諸都市、ジャラーブルス、マンビジュ、アル・バーブ、およびユーフラテス河です。

トルコのジャラーブルス侵攻の背景と目的を推測してみましょう。

表向きトルコは米国と共に、侵攻作戦を「イスラーム国の排除」としていますが、長期間放置してきた「イスラーム国」のこの地域での活動を今になって急に地上部隊を展開して対処するには、異なる要因が絡んでいるはずです。米国二とってはこの侵攻作戦は対「イスラーム国」と受け止めることが可能ですが、トルコにとっては対クルド人勢力としての意味合いが濃いのではないか、と推測できます。

6月21日頃からマンビジュに対してクルド人部隊YPGが主導するSDFが攻勢をかけ、8月半ばまでにほぼ制圧しました。それによって「ユーフラテス河以東にクルド人勢力の伸長を許さず」というトルコの「レッドライン」を超えました。

8月11日時点とされるこの地図を見ますと、緑に塗られた部分が、クルド人勢力の勢力範囲がユーフラテス河を超えマンビジュを含んだ上で、さらに北方の国境の町ジャラーブルスと、西方のアル・バーブに及びかけている様子が示されています。アル・バーブを制圧すると、クルド人勢力の支配領域が西の飛び地のアフリーンと一体化する方向に進みますし、アサド政権とクルド人勢力が連携すれば、黄色く塗られた、アレッポ西郊からイドリブにかけての反体制派(トルコとの関係が深い)の支配領域とトルコとの輸送ルートを切断することが可能になります。

この状況に追い込まれたトルコが、一転してロシアに擦り寄ったり(8月9日のエルドアンのサンクトペテルブルク訪問、プーチンとの会談)、イランと調整したりして(8月12日のイラン・ザリーフ外相のアンカラ訪問)、クルド人勢力の外堀を埋め、米国に対するカウンターバランスを確保した上で、8月22日からジャラーブルスへの砲撃を強め、8月24日から地上部隊をシリア領土に侵攻させました。これによって、クルド人勢力のユーフラテス河以西への展開を阻止し、クルド人勢力の支配領域の一体化(緑で塗られた範囲の一体化)を阻止することが、重要な戦略目的と考えられます。

【追記】
ブログ復帰に際して過重労働回避のために「一枚だけ」と戒めたにもかかわらず、地図シリーズの下書きを見ていたら比較するとわかりやすい地図があったので、早くも禁を破って二枚目の地図を。。。

同じ英Economistのウェブサイトに5月9日に載っていた、4月現在のシリア内戦の勢力図。比べてみましょう。

Syria_May_9_2016_Economist

“Daily chart: Syria’s war, violence beyond control,” The Economist, 9 May 2016.

この段階では、2月にアサド政権がアレッポ北方で、イドリブの反体制派がアアザーズを経てトルコのキリシュまで確保してきた補給路を切断する攻勢をかけたことや、クルド人勢力YPG/PYDが西クルディスターン(ロジャヴァ)の自治政府樹立への意志を明確にしたこと(斜線を被せている)などが主要なポイントでした。

緑色で塗られたクルド人勢力の支配領域をみると、4月の段階では、まだユーフラテス河の東側に止まってはいるものの、一部河を越えて越えてマンビジュ方面に向かっていることが、ちょこっとした筆先で示してありますね。8月段階の新しい地図ではユーフラテス河以西にクルド人勢力が大きく伸張していることを描いてあります。

前の地図が掲載されたのが5月で、そこで暗示されていたクルド人勢力のユーフラテス河以西への展開が、翌6月後半に、YPGおよびSDFによるマンビジュへの本格的な掃討作戦という形で現実となる。

そしてそれに対してトルコがロシアやイランとの関係を調整し直し、米国への圧力を高めた上でジャラーブルスに侵攻し、外交的・軍事的な反転攻勢に出たというのが、8月の段階の展開です。地図をみてこういったストーリーが浮かぶようになると、中東のニュースが必ずしも「複雑怪奇」に感じられなくなります。

よく見ると、4月段階の地図では、北東部のクルド人勢力の支配領域の中にアサド政権がかろうじて飛び地のように部隊を残してきたカーミシュリーとハサケが水色の斑点や染みのようですが、はっきり塗ってあります。先に挙げた8月段階の地図ではクルド人勢力の伸張でカーミシュリーの水色が消え、ハサケも非常に小さくなっています。またハサケの地名が記載されるようになりました。

これも前線の最近の変化を反映しています。アレッポ北方へのトルコ軍の侵攻に少し先立つ8月17日頃から、ハサケをめぐってクルド人部隊とアサド政権の部隊との衝突が生じ、18日には、アサド政権がこの近辺のクルド人組織に対して初めての空爆を行った模様です。

クルド人勢力とアサド政権とはこれまで直接の対立を避け共存する傾向が見られたのですが、ここでも衝突が起きたのは、もしかすると背後でトルコとアサド政権が反クルドで密約を結んだのか?などという憶測も掻き立てました。

衝突の結果、クルド人勢力がハサケの掌握を強めたと見られるので、Economistの最新の地図ではハサケの都市名を特に示しつつ、アサド政権の部隊の支配領域を極小に描いています。

(なお、8月段階の地図では、「その他の反体制派」の黄色が、シリア南部のヨルダン・イラクとの国境地帯のタニフにもきちんと塗られていて、抜かりがないですね。南部のタニフ(タンフ)近辺でのヨルダンを通した米英仏による反体制派支援や、それに対するロシアの牽制なども近年の注目すべき展開でした)

これらの展開に対するさらなる反応の結果、近い将来の地図もまた塗り替えられていくでしょう。目が離せません。

【寄稿】ラマダーン月のテロについて、宗教的背景と論点整理を『中東協力センターニュース』に

2週間ほどブログの更新を休んでおりました。ドイツから南仏にかけて、じっくり考えながら動いておりましたので、ネットの繋がりも悪く、時間もなく。地図シリーズ、毎日更新していたのが途絶えてしまいましたが、そのうち再開します。まずは論文を優先ですね。

その間に出版されていた成果を順次アップしていきます。まずはこの一本。

池内恵「ラマダーン月のテロ続発の思想・戦術的背景」(連載「中東 混沌の中の秩序」第6回)『中東協力センターニュース』2016年7月号、14−22頁

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イスラーム教の断食月であるラマダーン月は、今年は7月5日に終わりましたが、この時期にテロへの扇動がなされ、実際にテロが相次ぎました。日本での一般的な印象や言説として、「敬虔さが増す断食月になぜテロをやるのか」という議論がありますが、異なる宗教規範の元では、断食が課されているということと異教徒・背教者との戦闘行為への熱が一部で高まることとは矛盾しない場合があります。事件に関する基礎的事実関係を整理しつつ、そのあたりの議論の混乱の解消を試みたもので、ぜひ読んでみてください。

ラマダーン月の終わりとともにテロの連鎖が終わるのではなく、むしろラマダーン月のテロ続発に触発されたのか、7月後半には特にドイツやフランスでテロが続きました。私の西欧滞在中にローン・ウルフ型のテロが西欧でピークに達した感がありました。