モンゴルとイスラーム的中国

見本が届いたばかりの、最新の寄稿です。


楊海英『モンゴルとイスラーム的中国』(文春学藝ライブラリー)、2014年2月20日刊(単行本は2007年、風響社より刊行)

ここに「解説」を寄せました(425-430頁)。

イスラーム世界を専門にしているといっても、中国ムスリムは私にとって最も未知の世界。勉強させてもらいました。

中国西北部、モンゴル系やウイグル系のムスリム諸民族を訪ね歩く。「民族」が縦糸、スーフィー教団の系譜が横糸か。

全体を通して導き手となるのは、回族出身で、文革期に内モンゴルで遊牧生活を送った作家・歴史家の張承志。

独特の文体。オリジナルな研究というのは通り一遍の解釈を拒むもので、解説を書くのは大変でした。

アンワル・イブラヒム元マレーシア副首相の入国拒否

この件、政策として、まったく意味が分かりません。

「マレーシア元副首相、成田で入国拒否される」(AFP=時事 1月20日(月)18時19分配信)

「マレーシア元副首相の入国拒否 東京入管」(朝日新聞デジタル版2014年1月20日21時44分)

アンワル元副首相は、アジア通貨危機の波及で政治・経済的に動揺した1998年、当時のマハティール首相と袂を分かって解任され、汚職や同性愛の罪を着せられて投獄。嫌疑は濡れ衣というのがほぼ世界中で一致した見解。しかももう復権していて、最大野党の指導者で、そのうち政権を取る可能性もある。

権威主義体制の独裁者に弾圧された民主派として米国で高く評価されているだけでなく、井筒俊彦のイスラーム解釈を愛読するモダンな穏健イスラム主義者として世界的に知られる人物です。

アンワル氏入国拒否が、安倍政権の外交政策の発動なのだとすれば、「価値外交」を志向して米国との同盟強化を進める路線とも、トルコへの強力な梃入れでエルドアン政権の穏健・近代化イスラム路線を支持する路線とも合致しません。

要するに安倍政権はマハティール的な開発独裁・反米ナショナリスト路線を支持しているの?という印象を米国に与えかねませんし、アンワルのモダン(あるいはポストモダンとも言える)なイスラム解釈を「カッコいい」と感じる世界のムスリム新中間層の失望を招きかねません。

アンワル氏は笹川平和財団の設定した「笹川中東イスラム基金」の事業のための招聘で、非公開のセミナーでの講演も予定されていました。

日本政府は現政権と関係を深めればいい。同時に、野党・在野のエリートや知識人と、財団や大学などを通じて関係を保っておけば、政治変動の際に対応できます。

米国の中東政策を見れば、国務省や国防省・軍を通じてエジプトやサウジアラビアの権力中枢と深い関係を結びつつ、同時に民主化・人権活動家・イスラーム主義穏健派などの対抗エリート・NGOとはカーネギー平和財団などが緊密に交流している。だから相次ぐ政変で相手側の政権が頻繁に入れ替わっても、辛うじて対応できているのです。

「アラブの春」の際に、「米国は後手に回った」などと揶揄する日本の新聞もありましたが、天に唾する話です。そもそも日本は社会として何も手を打ってこなかった。

そして、このような場合、在野・野党勢力に「手を打って」おくべきは、政府よりも民間です。そこには新聞などメディアも含まれます。ジャーナリストを招聘したり雇ったりして、在野の独立メディアを育てるというのは、慈善事業でもなんでもなく、国として(民間主導であっても)、将来の選択肢を増やしておくためです。「日本は立ち遅れた」という場合は、政府だけでなく民間も立ち遅れているということをメディアも自覚すべきでしたが、そうではなかったですね・・・

しかしもちろん、政府は民-民の関係を邪魔しないというのが大前提です。相手の国の政府に何か言われたら「日本は自由で民主的な国ですから止められないのです・・・」といって取り合わないこと。

アンワル氏訪問・講演の話を事前に聞いた時、同じようなことを日本もやるようになっているんだなあ・・・と思ったのですが、そううまくはいかないようです。お役所仕事の問題か、あるいは何らかの高次の政治判断が働いたのか、これから事実が出てくるでしょうが、注目しましょう。