【テレビ出演】本日(10月30日)夜10時〜NHKBS1「国際報道2015」で解説

特集の文字起こしへのリンクを追加しました。2016年7月3日】

出演情報です。

本日(10月30日)夜10時から、NHKBS1「国際報道2015」に出演し、特集「『IS化』する中央アジア アジア最深部で広がる脅威」で解説を行います。

国際報道2015ロゴ

NHKの番組ウェブサイトの、特集の概要は下記の通り(太字部分)。今後、分析の内容を詰めていきます。

「IS化」する中央アジア アジア最深部で広がる脅威
シリアやイラクで勢力を維持する過激派組織ISが、じわじわと中央アジアに触手を伸ばし始めている。タジキスタンでは、今年5月に治安部隊の司令官がISに寝返り衝撃が広がった。また、キルギスでは今年7月、首都ビシケク中心部で治安部隊がISを支持する過激派の拠点を急襲。メンバー4人を射殺し7人を拘束した。NHKはこのほど、このビシケクの現場を取材。市民や治安当局の話から、失業などで生活に困窮した若い世代にISの勧誘が相次いでいる実態が明らかになってきた。ISが中央アジアに浸透しようとしている意図は何なのか。周囲のロシアや中国、そして世界にどのような脅威となり得るのか。現地からの報告をもとにスタジオで専門家とともに展望する。
リポート:塚越靖一(国際部記者)
出演:池内恵(東京大学先端科学技術研究センター准教授)

「中央アジア諸国での過激派の台頭」「イスラーム国とのつながり」は、安全保障アナリストの間では、2015年の注視すべき課題の一つとして挙げられていました。各国政府も取り締まりを強めていますが、中央アジアを拠点・発信源とする過激派ネットワークの最大手「ウズベキスタン・イスラーム運動」はすでに「イスラーム国」に忠誠を誓っています。7月にはキルギスで過激派組織の摘発がなされると共に、「イスラーム国」側がキルギスの過激派を扇動するビデオ声明を出す、タジキスタンでは過激派対策の司令官が逆に「イスラーム国」に寝返ると宣言してしまうなど、注目すべき動きがあります。

安倍首相は22日−28日にかけて、モンゴルに加え中央アジア5カ国全てを歴訪するという前例のない積極的な首脳外交を繰り広げておりますが、大陸の深奥部であるこの地域に日本は足場も土地勘も乏しく、メディアの報道もどう扱っていいか測りかねているようです。その中で、NHKは現地取材も行って今回の特集を準備してきた模様です。どのようなVTRを見せてもらえるか楽しみにしています。

なお、日本での安倍中央アジア歴訪への反応は、中国のシルクロード経済圏「一帯一路」構想への対抗策、という面を捉えたものが最も有力と思われます。

遠藤誉「安倍首相中央アジア歴訪と中国の一帯一路」『ニューズウィーク』2015年10月26日

ところで、「中央アジアに過激派台頭の兆し」という話題は、日本では一般にほとんど知られていなかったのですが、安倍中央アジア歴訪だけでなく、安倍歴訪を巡って『中央公論』11月号の佐藤優・山内昌之対談で中央アジアの過激派問題が取り上げられたことが、一部での関心の高まりの原因になっているのではないかと思います。

山内昌之・佐藤優「徹底討論ラディカル・ポリティクス−−いま世界で何が起きているか3 シリア難民が成田に押し寄せる日」『中央公論』2015年11月号、150−159頁

この対談の中で、山内氏は自身のカザフスタン・ウズベキスタン訪問で、現地の政府系研究機関の所長がキルギスからの「イスラーム国」勢力の侵入を危惧していたと話すのに対し、佐藤氏はタジキスタンが「内戦の様相が強まっている」と表現しています。それに応じて山内氏は中央アジア5カ国のうちタジキスタンとキルギスは「破綻国家」で「イスラーム国」の州になりかねない、とかなり大胆な予想まで披露しており、佐藤氏も「その認識が日本では決定的に弱いのです」と応じています。佐藤氏はさらにたたみかけて、山内氏が歴訪したカザフスタンとウズベキスタンの大使館員との会話の様子を聞いて、タジキスタン、キルギスの危険性への認識が甘いと推定し、「当然、さまざまな情報を掴んでいないといけないのですが、やっぱり、大使館員の意識は、そんなに高くないのかもしれませんね」と、お家芸である外務省批判につなげていきます。現地の大使館の人員の規模は極めて小さいでしょうから、接遇などで精一杯で、十分に分析までしていられない可能性は大いにあります。

ただし、ここで取り上げられている情報自体は専門家の間では広く流通しているので、まさか大使館員が知らないということはないでしょう。しかし官邸の上の方の政策判断に現場の認識が十分に生かされていない可能性もありますし、現場そのものが兵站の制約などから、首相歴訪で急激に高まる期待に応じるほど機能できていない可能性もあります。こういった指摘は政治の側で適切に受け止めるべきでしょう。

タジキスタンとキルギスを「内戦」「破綻国家」とまで評していいのかどうかはまだ定かではありませんが、確かにそのような激変を想定外にしていてはいけないでしょう。カザフスタンやトルクメニスタンのようなそれなりに安定した資源国と、タジキスタンやキルギスのような治安に不安があり、(過大視されている可能性もありますが)テロの拠点となりかねない国では、別種の対応策が必要であることも言うまでもありません。

この対談シリーズは、ロシアやイスラエルの政府治安当局の発想が露骨に出すぎている部分も多くあり、イラン分析などは一方的なこともあるのですが、中央アジアについては実際にロシアやイスラエルの分析以外に情報が少ないことからも、そのまま事実として受け止めるかどうかは別として、貴重な知見の一端を伝えています。10月26日付の読売新聞の論壇時評にも取り上げられていたようですし、やはり影響力は大きいな、と思います。

関係があるかどうかわかりませんが、結局私などもこうして解説で駆り出されているわけですし。