12月15日朝から、オーストラリア・シドニー中心部のリンツ・ショコラ・カフェでの立て籠もり事件は、つい先ほど、現地時間16日午前2時ごろ(日本時間午前1時頃)までに、治安部隊が突入して鎮圧したようで、事件そのものは終結に向かっている。
犯人はイランからの難民として渡航したMan Haron Monisと特定されている。
オーストラリアは中東からの移民社会の規模が大きくなり、統合の不全や一部の過激化により社会不安と摩擦を引き起こすようになっている。過激化した説教師とその信奉者が問題視される事例が、特にシリア内戦への義勇兵を輩出し始めてから、増えている。
今年9月には、「イスラーム国」に共鳴して、オーストラリアで人質を取り、公開斬首を行ないビデオ撮影をして流通させる計画が発覚し、大規模摘発が行われ、有罪判決も出ている。
“Terror raids: 800 police and two men charged,” The Sydney Morning Herald, September 18, 2014.
今回の事件の真相は現段階では分かりようがないが、「追いつめられた」と意識した、従来から破壊衝動や反社会的行動を抱えていた個人が暴発した可能性がある。
昨日深夜に帰宅して民放ニュースを確認した限りでは、日本の報道では「黒旗」に注目が集まり、「イスラーム国」との関連は?といった切り口で報じられていたが、おそらく「イスラーム国」との直接的な関連はない。
むしろ、この旗を見る限り、直接の関係はない、呼応犯・模倣犯ではないかと推測される。
だから重要ではないかというと、そうではなく、むしろ、現在のグローバル・ジハードは、直接の関係がない組織や単独犯が勝手に、自発的に、「個別ジハード」を行なって社会に脅威認識を与えるところを重要な要素としている、という点は口を酸っぱくして説明してきた。
今回の黒旗を見て「イスラーム国」か?関連は?という議論は的外れで、むしろ正反対にこの種の黒旗しか持ち出していないということは、直接シリアやイラクから指令されたとは考えにくい、と即座に判断できる。
黒旗の種類と由来については、下記エントリを見ていただきたい。
今回の事件で犯人が人質らに掲げさせた黒旗に白く染め抜かれているのは「シャハーダ」と呼ばれるイスラーム教の信仰告白。「アッラー以外に神はなし、ムハンマドはアッラーの使徒なり」という定型の文言を良く知られた書体で記してある。
イスラーム国だとその下にムハンマドの印章をあしらったシンボルマークが記されるが、今回の旗にはない。脱出した人質によると、犯人の交渉条件の一つが「イスラーム国の旗を持ってこい」だったという情報もあるが、これが本当であれば、かなり間抜けな話だ。
印章なしの黒旗は、国際的なイスラーム主義組織「イスラーム解放党(ヒズブ・タハリール)」が用いてきたことで知られますが、ビン・ラーディンが主導したアル=カーイダも用いてきました。しかし近年、アル=カーイダの「再ブランド化」の試みが進む中で、アル=カーイダとの関係を有する組織の旗でも、印章が付いたものが増えています。「イスラーム国」に参加していない組織でも、この印章付きの黒旗を掲げることはよくあります。
逆に、イスラーム国と組織的つながりがあれば、印章なしの黒旗をあえて掲げることはないでしょう。
この記事では、各種のイスラーム組織で使われる黒旗を、比較対照した写真を載せてくれています。
この記事では、専門家の端的な発言が引用されています。
“If this was centrally organised from Syria or Iraq they would not be using that flag.”
(シリアかイラクの中枢から組織されたのだったら、この旗は使わないだろう)
私もそう思いますが、「イスラーム国」に勝手に共鳴してやった、正確な旗すら用意していなかった、という犯人が出てくることは、それはそれで危険です。
印章なしの「旧バージョン」の旗はオーストラリアの過激化した若者の間に広まる兆しがある。例えば、9月23日に警官二人を刺して射殺された犯人アブドルヌウマーン・ハイダル(Abdul Numan Haider)は、フェイスブックに黒旗を掲げた写真を投稿していたことが分かった。
最新の流行のムハンマド印章付きの旗を手に入れたかったができなかった、という程度の犯人であれば組織的な背景はなさそうだが、暴発する「ローン・ウルフ(一匹狼)」型テロの脅威を再確認した形だ。