【寄稿】イラク情勢12のポイント『中東協力センターニュース』

『中東協力センターニュース』6/7月号に分析コラムを寄稿しました。

池内恵「急転するイラク情勢において留意すべき12のポイント」『中東協力センターニュース』2014年6/7月号(第39巻第2号)、67-75頁

近いうちに、ウェブ上でPDFで公開されます。
【追記7月4日:公開されました。ダイレクトリンク

連載「「アラブの春」後の中東政治」の第7回。

連載のこれまでの回についてはをココを参照してください。

「アラブの春」についての政治学的・国際関係論的な分析なら、論理的にそんなに長くは連載は続けられないと思っていたのだが、現実がどんどん先へ進むので終わらないでいる。すでに現地は「ポスト・ポスト・アラブの春」ぐらいになってしまっているが。政治学や現状分析では極力扱わない(我田引水になるので)でいた、私のもう一つのテーマ「グローバル・ジハード」関連の論文をそのままコピペしてきても中東政治の現状分析になるという状況に至っております。政治学と思想史の二刀流でやっていれば常にどちらかが社会的に求められる、という漠然とした読みから専門分野を構築してきたので、予想通りと言えばそうなのですが、実際にこんな状況になるとは当然予測しておりませんでした。予想していたら株とか買って儲けられそうだ。

しかしカリフ制関連株ってなんだろう。きっとあると思う。

今回の内容は、このブログで書いた「イラク情勢を見るために~20項目走り書き」(2014年6月19日)、と同時期に書いたもので重なる部分もあるが、12項目に絞って、それぞれをより入念に書き込みました。

①テロを多用する過激な集団がこれまでになく大規模に武装・組織化した。
②「国際テロ集団」にとどまらない幅広い領域支配を行おうとしている。
③アル=カーイダと組織は決別・自立化したが思想は継承・発展させた。
④スンニ派主体の北部・中部4県の統合の不全が背景にある(2005年憲法体制の不全)。
⑤イラクに各国から過激派集団を呼び込む聖域となる可能性がある。
⑥事実上の国境の引き直しとなりかねない。
⑦クルド問題が連鎖して紛糾しかねない。
⑧イランの勢力伸張と宗派間対立の中東地域への拡散。
⑨米国の威信・実効性の低下。
⑩「米・イラン同盟」が事実上成立すれば他の同盟国の反発必至。
⑪GCC諸国の苦境と反発と動揺を注視。
⑫中東国際秩序の再編か。

といった点に絞って、急ぎ考えをまとめておいたものです。

井筒俊彦論がアンソロジーに再録されました

国際日本文化研究センターに勤務していた時代にカイロで開催した研究大会で発表し、『日本研究』に掲載した井筒俊彦論が、井筒をめぐるアンソロジーに再録されました。

池内恵「井筒俊彦の主要著作に見る日本的イスラーム理解」『井筒俊彦』(KAWADE 道の手帖)2014年6月、162-171頁(初出は『日本研究』第36集、2007年9月)


『井筒俊彦: 言語の根源と哲学の発生』(KAWADE道の手帖)

なかなか多面的な仕上がり。今度じっくり読んでみよう。

【寄稿】『週刊東洋経済』に寄稿──米側の限定介入の原則、ISIS側の分裂要因

出ました。昨日発売の『週刊東洋経済』にイラク情勢について解説。

池内恵「ISISがイラク侵攻 中東全体の秩序脅かす」『週刊東洋経済』2014年7月5日号(6月30日発売)、22-23頁

週刊東洋経済2014年7月5日号

その後ISISは、地域的限定を取って「イスラーム国家」となったと主張しているので「IS」と略してもいいのだろうが、実効支配の範囲があまりに狭いので、現実的にはあたかも全世界を覆うカリフ制国家であるかのようにISと呼ぶのは政治・国際関係分析上は憚られる。そもそも「イスラーム国家」なら「イスラーム国家」と言えばよくてISと略す必要もないのではないかとすら思う。それに「イスラーム国家」は一般概念なので、ISISだけがこの呼称の独占権があると主張するにはいくらなんでも勢力範囲が狭すぎるだろう。分析上は当分ISISと呼び続けておく。

少し紙幅に余裕があったので、オバマ政権のテロ対策の原則論から見れば、米国のイラクへの介入は限定的なものとなるだろうという点をやや詳述しておいた。

5月28日のウエストポイント陸軍士官学校での演説では米国内向けの議論としてテロを主要な脅威と位置づけて見せたが、同時に、直接的に対処するのはあくまでもテロが「米国に対する直接的な脅威」となった場合だけであることをはっきりさせていた。

テロが最大の脅威だ、というのは、中国とかロシアとか台頭する修正主義国家が多々あるのを考えるとなんだか安全保障演説としては軽量すぎる感じだ。外交関係を考えなくていい相手として「テロ」を便利な仮想敵「国」にしているようだ。

6月19日のイラク対策指針は明らかにこの演説での原則を踏まえており、予想通り限定的なものとなった。

さらに、6月22日の米CBSニュースでISISのイデオロギーから彼らが「中・長期的な脅威である」と評価していると明言した。オバマ政権が示してきた理論的指針と施策からは、米国が脅威認識を抱いて対テロ戦争に力を入れてくる」のではなく、「米国にとっての短期的な脅威ではない」と認識しているということが重要。つまり、バグダードを制圧されてイラク全土がISISの国になってしまう、といった耐え難い状況以外では大規模な介入はしない、ということ。直接的な介入は、「実際に米国人が人質に取られたから奪還作戦を行う」といった単刀直入なものが多くなるだろう。情報収集ミッションは盛んにやるだろうけど。マーリキー政権に出て行けと言われたのでできていなかった情報収集活動を、今度は帰ってきてくれと頼まれたので盛大にやって観察・蓄積しておく、ということになるのだろう。

また、ISISの急激な支配領域拡大は、思想・統治手法あるいは長期的な戦略目的を異にする連合するスンナ派諸勢力と相いれなくなって仲間割れする可能性を抱え込んだのではないか、という点も指摘しておいた。ISISを一時的に受け入れてマーリキー政権の支配を跳ね除けようとする諸勢力が、今すぐ仲間割れしていくとは限らないが、中央政府からより大きな権限配分を勝ち取っていけば、逆に「ISISを掃討する側」に転じる可能性はかなりある。

これらはそれほど際立った論点ではないが、現時点で欠かせない、と思ったがすでに掲載紙が届いたころには時間が過ぎているな。とはいえこういう雑誌は着実に一般読者に広めるには有益。

そもそも際立ったことを言うことが執筆の目的ではありませんので。中東論を突飛なことを言って自己主張・アイデンティティのよりどころにする議論が、中東研究を「こじらせ」てきました。淡々と生きましょう。