科学と政治とナショナリズム──あるいはエジプト化する日本

 いろいろとやることが多くてブログに時間が割けないのですが、なんだか世間は無用に騒がしいらしい。だがテレビを見ていないのでよく分からない。何となく関係しているかなーと思う過去のエントリを二本再掲します。皆さん、頭を冷やしましょう。そうすると、背筋も寒くなってきます。

エイズとC型肝炎にも勝利したエジプト軍(2014年2月26日)

 エジプトの軍医学研究所が「C型肝炎もエイズも探知して治癒する装置を開発」と発表⇒実績を出したい政府がこれを礼賛⇒ナショナリズム・軍礼賛に燃えたエジプト・メディアがこれを絶賛して加熱報道⇒国際的に「明らかに変だろそれ」と批判続出⇒政府は一転して否定⇒開発者本人は記者会見で「実際に何人も治した」とか、「某国の諜報機関の陰謀でもみ消されそうになった」とか怪気炎、もう誰にも止められない⇒今でも支持者がネット上に多数。途上国では科学がナショナリズムと化している⇒外から見ると国家と社会のそれぞれの威信・信頼性ガタ落ち(今ココ)。

続いて翌日の続報。

在米エジプト人研究者の苦衷(2014年2月27日)

 在外エジプト人科学者にエジプト・メディアが突撃取材。大変困惑していらっしゃいます。核心部分を再録。とある新聞記事の抄訳です。

 エジプトの『ワタン』紙の記者が在米のエジプト人科学者に突撃取材してこの「大発見」へのお墨付きを得ようとするところ。

質問「エジプトの新発見をどう見ていますか?」
答え「メディアを通じて知っただけなので、この問題についての私の発言は記者会見とテレビの情報にしか基づかず、国際的な科学研究には基づいていない。科学研究ではこの装置についても実験についても何も知見がないんだ」

質問「どう違うんですか?」
答え「これは科学研究の分野ではすごく重要なことだ。何かを科学上の新発見というためにはね、その発見は定められた発表の仕方とか典拠への参照の仕方とかを備えていないといけない。例えばこのような治療法についてはね、それぞれの病気についての専門の科学研究の分野で受け入れられて発展していかないといけない。まあ一般的に言って、軍が科学研究を奨励してくれることを祝福しますよ。軍と工兵部門が真剣にC型肝炎の治療を支援してくれていることを祝福しますよ。エジプトでは非常に多くの人がこの病気に罹患しているのですから。でも私がいつも望んでいるのは、研究が国際的に認められたやり方に則って行われることなんだ」

質問「どういう意味ですか?」
答え「世界全体で、科学研究はある特定の方法に則らないといけないと合意しているんだ。誰かが理論やアイデアを提示するには、発表して弁護しないといけない。この治療法をどのように適用したかを明らかにしたり、この分野の専門家の典拠を参照したりして、この発見を受け入れてもらえるようにしないといけない。治験者にも典拠を明らかにして、権利を守らないといけない・・・・」〔以下略〕「ターレク・ハサナイン博士『科学の発見について記者会見からは判断できない』」El-Watan紙2月26日より。