オランダのハーグで行われる第3回核安全保障サミットに注目が集まる。ロシアのプーチン大統領が欠席するので、ウクライナ危機について西側諸国が一致してどのような対応を取れるのかが問われる。
日本にとっては、日米韓の首脳会談が行われるかどうか、そこで韓国の朴大統領がどのような態度に出て、オバマがどう反応するかが、今後の日本の外交の方向性あるいは少なくとも「雰囲気」をかなり強く規定するだろう。
というわけで結局、米国オバマ大統領の動向が軸になる。オバマ大統領/政権の外交に関しては世界的に期待値がかなり下がっているけれども(そもそも期待値を下げることがミッションだと心得ている大統領なのかもしれない)、いっそうその期待値が下がりそうな欧州歴訪であり、それによって生じる余波が各地・各方面で心配である。
「どれだけ米国の大統領が影響を与えたか」よりも「どれだけ米国の影響力が下がったか」が注目され確認される歴訪となるかもしれない。
新聞記事などによると、たぶんこういう日程。
3月24-25日 オランダ・ハーグ 核安全保障サミット
3月26日 ベルギー・ブリュッセル EUと会議
3月27日 イタリア・ローマ バチカン訪問、イタリア首相と会談
3月28日 サウジ・リヤード アブドッラー国王と首脳会談
あんまり知られていないかもしれないけれども、オバマは欧州歴訪後にサウジの首都リヤードに立ち寄る。
これは中東専門家にとってはかなり感慨深い訪問。
前回のオバマのサウジ訪問は、2009年6月3日。あまり記憶している人はいないと思う。
翌6月4日に、エジプト・カイロで、いわゆる「カイロ演説」を行った。こちらはずいぶん話題になった。
しかし、幾億光年遠ざかったか、と思えるほどの、その後の状況変化。中東も、アメリカの立場も。
私も当時オバマ演説について解説を書いたけれども、
池内恵「洗練の度を深めるオバマの対イスラーム言説」『フォーサイト』2009年7月号
その後、オバマ大統領の言説の華やかさ、洗練の度合いの高さと、政権が実際に行うこととの落差の激しさを幾度となく味わうことになった。
今回のサウジ訪問では、当然サウジアラビア発のニュースでは、「米・サ関係維持・強化」を謳い上げるだろうが、実態はそのようなものではなく、白けた空気が現地でも世界全体でも漂うだろう。
「アラブの春」でムバーラク政権を早期に見捨て、ムスリム同胞団の政権に期待をかけたオバマ政権にサウジは大きく失望している。シリア問題では理念を高く掲げながら何もしない口先介入を繰り返し、そしてイランとの取引にのめり込むオバマ政権とサウジとの関係悪化は周知の事実。
そこでサウジは中国に秋波を送ったりしている。
しかしサウジにとってアメリカ以外に頼れる安全保障の保証人がいないことも事実。
そして、サウジを筆頭にしたGCC(湾岸協力会議)諸国の結束が今、大きく揺らいでいる。中核はサウジとカタールの間の対立。欧米的な民主化・市民社会勢力の一部を支援し、ムスリム同胞団に強く肩入れするカタールと、ムスリム同胞団を「テロ組織」に指定(3月7日)して、エジプトのクーデタで生まれた政権を全面的に支援するサウジとの対立が抜き差しならなくなった。
3月5日にはサウジが属国のようなバーレーンに加えUAE(アラブ首長国連邦)と共に、カタールから大使を引き揚げた。
大使を引き揚げるだけならよくある揉め事のようにもみえるが、どうももっと深刻な話らしい。政策が王族・首長の内輪で決まる、透明性がない国々だから、詳細はもっとじっくり分析してみないといけないが、短期間に収まる話ではないようだ。
カタールはサウジアラビアから突き出した小さな半島なのだが、サウジはカタールへの制裁で物資や人の流れを止めることまでちらつかせている。
本来は、今回のオバマ大統領のサウジ訪問では、GCC諸国の首脳が一堂に会して米・湾岸首脳会議を行う予定だったが、GCCの首脳同士が相互の激しい対立で同席できる状態ではなく、サウジ国王だけがオバマと会うことになった。
GCC諸国とは米国は個別に安全保障協定を結んで、それぞれが実質上の米の同盟国である。
米国の覇権の希薄化が、米同盟国同士の対立を抑制する力を弱めていると考えてよいだろう。
GCCの結束の乱れは、ペルシア湾岸産油国の政治的脆弱さにつながりかねない。それは日本のエネルギー安全保障に大きな影響を及ぼす。
今回のオバマのサウジ訪問を通じて、「米国にとってはもうペルシア湾岸産油国はそれほど重要ではない」という印象が広まると、各国の内政や、地域国際政治に不透明性が増す。日本にとっては依然として重要な地域なので、気になるところである。