「イスラーム国」問題コメント4本(昨年の積み残し)

昨年の仕事をまだやっている仕事初めかな。

間に合いません。

しかし昨年のものを積み残しを残しておくと気になるから早く終わらせたい。

このブログで通例のメディア掲載情報も同じく、積み残しがあります。

一瞬の隙をついて4つ記録しておきましょう。昨年10月6日に明らかになった「イスラーム国に日本人学生が!」問題で急激に高まった(もう引いた)メディア対応の記録。もうすぐ終わるからね、と自分に言い聞かせながら日々を過ごしてきた。本当にも少しだ。あと『読売クオータリー』が今月出ればそれで終わりかな、たぶん。

(1)『プレジデント』2015年1月12日号(2014年12月22日(月)発売)、特集「先が読める! 迷いが晴れる!ビジネスマンが学ぶべき『近現代史』入門」

この特集の中で、下記のインタビューが掲載されています。

池内恵「[4]イスラム国▼タリバンやアルカイダとは何が決定的に違うのか」48−49頁

『プレジデント』は隔週刊なのでまだ売っているかな。「新春開運号」だそうです・・・表紙に金色の羊が。

「イスラーム国」が必ずしもターリバーンやアル=カーイダと「決定的に違う」とは思いませんが、ここが違う、と示さないと読者には頭に入らないのかもしれませんね。タイトルは編集部がつけたものです。私としては「イスラーム国」とアル=カーイダが共通して属すグローバル・ジハードの運動について、それがローカル化する場面、またグローバル化する局面、といった動学が伝えられればいいなと思いましたが、インタビューなので、そもそも質問を編集部が行ってそれに答えたものを編集部が大幅に再構成し、それを私が最低限これはまずいだろうという部分を直すという形で作られているので、私が著者とは言えない面があります。編集部が何を読者が知りたがるだろうと考えているのか、一般読者やそもそも編集者はどこが「わからない」と感じるのか、といった点について、少し勉強になりました。

最初から最初まで私の視点で語ればどうなるかを知りたければ『イスラーム国の衝撃』を読んでみてください。

(2)『日本経済新聞』2014年12月13日朝刊(国際面)、「中東 解けないパズル−3回−イスラム社会、近代化に悩む 自由と保守2つの圧力」という記事の中に短いコメントが掲載。

取材にした記者にはこの全4回の「中東 解けないパズル」の特集の全般に関わるコメントをしたような記憶がありますが、使われていたのは社会秩序・規範についての部分でした。

具体的には、

「国際メディアの影響、国境を越えるヒトの移動などで外の世界を知る機会が増えると、既存の規範が損なわれて社会の秩序が揺らぐ」

という部分が使われていました。

中東の社会のぼやっとした雰囲気の変化をどうつかむか模索していて、好感の持てる特集でした。

(3)『読売新聞』2014年12月21日朝刊(社会面)、「『イスラム国』渡航計画の北大生 刺激が欲しかった 戦闘参加 深く考えず 『軽はずみだった』反省」、という記事にコメント。

この部分です。

「イスラム教の理念に感化されて渡航する欧米の若者とは全く違い、日本特有のケース。日本で同様の動きが続くとは考えにくいが、捜査機関は人権に配慮しつつ、過激思想の広がりを注視する必要がある。」

「北大の学生」(実名は明かされていません)に直接話を聞いて記事にした新聞は多分これが初めてではないでしょうか。軽率だったね、もし行っていたら大変なことになっていたよ、と告げて、それ以上は問わずに水に流して忘れるのが近代社会の対応でしょう。「都市は自由にする」。

背後で煽った人や手引きしようと頑張ってしまった人々の件も含めて、これで幕引きというのが正解でしょう。

基本的にこの事件は昨年10月6日に終わっている話だと私は理解しています。ウェブ情報で頭がいっぱいになって、リアル小集団で煽り・煽られ引っ込みがつかなくなった。

転がり込んできた明らかに言動が変な人の渡航を警察が止めたのは正解でしょう。「飛んで火に入る群れからはぐれた夏の虫」という状況なので「お手柄」と宣伝できるような事案ではないのだろうが、だからといって戦線拡大していろいろ逮捕して公判維持できません、ということになったら逆効果である。そもそも捜査対象を拡大しようにも日本には過激化して武装化しようというイスラーム教徒がほとんどいない。「過激な説教師」と言い得るひとなんて後にも先にもあの人だけだろう。そもそも「説教師」と言える人がほとんどいなくて増える気配もない。

軽率な若い人のうっかり・脱線・暴走・倒壊というのはいつの時代にも常にあって、それが大集団になれば社会現象と言えるが、現状では日本においては現象と言える規模には到底なっていない。

それにもかかわらず、変に「イスラーム国に行く若者」を祭り上げ(というか幻視して、と言うべきだ。「イスラーム国」に行こうとしている「若者」なんて日本中探しても5人もいないだろ)、これを「若者の雇用問題」「アベノミクスのしわ寄せ」などに結び付けて政権批判に転じようとしたり、「特定秘密保護法」「集団的自衛権」に関わっているのだ、そしてアベの「憲法改正」の野望が背後にあるのだあーっなどと言いたくて寄ってくる大人たちの方がずっと問題です。こっちは数も多いし発言する場も多く確保している。彼らにとっての問題は「タマ」となる「若者」があまりに少ないことだが。若い人を鉄砲玉にしないで自分の顔と名前を出して発言してください。

若い人たちは「イスラーム国」よりもそっちの方にそそのかされてある意味もっと危ないところに行かされる可能性があるのでくれぐれもご注意。人数少ないのに鉄砲玉にされたらかなわん。オッさんたちの「若者萌え」にはお気をつけあれ。

(4)あと、こんなのも出ていました。

『ダイヤモンド』2014年11月15日号 特集「ビジネスマンの必須教養 『宗教』を学ぶ 【Part1】宗教が分かれば世界が分かる」

その中の、

「【イスラム教】池内 恵(東京大学准教授)インタビュー世界から自発的に集合し聖戦 「イスラム国」台頭の背景思想」

という部分です。

私の視点については、1頁で短くうまくまとめてくれていると思いますが、特集全体についてはノーコメント。